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30.消えた王子様
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郊外にある会場に到着した私はきらびやかな照明の光に目を細めた。淡いブルーのドレスの裾を気にしながら、人の波をかき分けてアルバートの姿を探す。約束の時間にはまだ少し早いが先に着いているかもしれない。
友人たちと挨拶を交わしながらも私の目は落ち着きなく会場を彷徨う。けれど、どこを見ても彼の姿は見当たらなかった。
胸の奥に小さな不安が芽生える。
その時、不意に後ろから声がかかった。
「おい。迷子の姫君みたいになってんぞ」
「レオ……?あなたどうしてこんな所にいるの?パーティーは苦手だって言ってなかった?」
実行委員の腕章をつけたレオは私を一瞥すると、お決まりの冷やかしを口にする。彼は珍しく窮屈そうな正装に身を包んでいる。
「実行委員やってるダチに泣きつかれてな。人手不足だから手伝えって。終わったらとっとと帰る。で?肝心の王子様はどうしたんだよ。こんな所で一人突っ立ってると悪い虫が寄ってくるぜ」
「それが……姿が見えなくて。どこかで待っててくれてると思うんだけど……」
私の問いにレオは少しだけ考えるように天井を仰いだ。
「ああ、そういや……。さっき見たな」
「本当!?どこにいたの?」
「会場の出口の方に向かって一人で歩いていくのをな。何か焦ってるみてえな……そんな顔してた」
「え……?出口……?」
レオの言葉に不安がさらに大きくなる。
何かあったのだろうか。
「ほっときゃいいだろ。ガキじゃあるまいしそのうち戻ってくるって」
「……心配よ。様子がおかしかったのなら尚更……。私、探してくる!」
「待てって!一人で行かせるか!」
「あなたはお手伝いが……」
「いいんだよ、ちょうどサボる口実が欲しかったところだ」
そう言ってニヤリと笑うと、レオは人混みをかき分けるように先に立って駆け出した。
華やかなホールを抜け、外へと飛び出す。
きょろきょろと見回すが彼の姿はない。
「アルバート!どこにいるの!?」
「大声出すな。誰か来たらどうすんだ」
「でも……!」
「落ち着け。こっちだ」
レオは私の視線とは違う方向―――薄暗い森へと続く入り口を指さした。
「え……?」
「よく見ろ」
彼に促されるまま、森の入り口の地面に目を凝らす。月明かりの下、そこだけ不自然に下草が踏み荒らされていた。
「これは……誰かが通った跡……?」
「ああ、出来たばかりの足跡だ。それもずいぶんと慌ててな。見ろ、こっちの小枝。急いだ拍子に足でへし折ったんだろう。新しい折り口だ」
レオの冷静な分析が私の胸のざわめきを大きくしていく。
嫌な予感が背筋を駆け上った。
「誰かが……慌てて森の中に……?」
「足跡は二つある。一つは男物の革靴、もう一つは……小せえな。女物の靴だ。王子様かあるいはそれを追う誰かか。いや、違うな」
レオはしゃがみ込み、地面の痕跡を指でなぞるとゆっくり顔を上げた。
「踏み跡の深さから見て男の方が後だ。こりゃ、女を男が追いかけて行った跡だな」
「追いかけて……行った……?」
「ああ。お前の王子様が謎の女を追ってこの森に消えたってわけだ」
鼓動は耳の奥で荒々しく鳴り、指先から熱が奪われていく。
どうして。なぜまた。
私たちはもう一度やり直そうと、友達から始めようと約束したばかりなのに。
「……行ってみる」
「おい、待てよ! そんな格好で夜の森なんて危ねえだろ!」
レオの制止も聞かずに、ドレスの裾を持ち上げ、森へと続く暗い小道へと足を踏み入れた。後ろからレオが舌打ちをしながらついてくる音が聞こえた。どうか私の考えすぎでありますように。そう祈りながら、暗闇の中をひたすらに進んだ。
友人たちと挨拶を交わしながらも私の目は落ち着きなく会場を彷徨う。けれど、どこを見ても彼の姿は見当たらなかった。
胸の奥に小さな不安が芽生える。
その時、不意に後ろから声がかかった。
「おい。迷子の姫君みたいになってんぞ」
「レオ……?あなたどうしてこんな所にいるの?パーティーは苦手だって言ってなかった?」
実行委員の腕章をつけたレオは私を一瞥すると、お決まりの冷やかしを口にする。彼は珍しく窮屈そうな正装に身を包んでいる。
「実行委員やってるダチに泣きつかれてな。人手不足だから手伝えって。終わったらとっとと帰る。で?肝心の王子様はどうしたんだよ。こんな所で一人突っ立ってると悪い虫が寄ってくるぜ」
「それが……姿が見えなくて。どこかで待っててくれてると思うんだけど……」
私の問いにレオは少しだけ考えるように天井を仰いだ。
「ああ、そういや……。さっき見たな」
「本当!?どこにいたの?」
「会場の出口の方に向かって一人で歩いていくのをな。何か焦ってるみてえな……そんな顔してた」
「え……?出口……?」
レオの言葉に不安がさらに大きくなる。
何かあったのだろうか。
「ほっときゃいいだろ。ガキじゃあるまいしそのうち戻ってくるって」
「……心配よ。様子がおかしかったのなら尚更……。私、探してくる!」
「待てって!一人で行かせるか!」
「あなたはお手伝いが……」
「いいんだよ、ちょうどサボる口実が欲しかったところだ」
そう言ってニヤリと笑うと、レオは人混みをかき分けるように先に立って駆け出した。
華やかなホールを抜け、外へと飛び出す。
きょろきょろと見回すが彼の姿はない。
「アルバート!どこにいるの!?」
「大声出すな。誰か来たらどうすんだ」
「でも……!」
「落ち着け。こっちだ」
レオは私の視線とは違う方向―――薄暗い森へと続く入り口を指さした。
「え……?」
「よく見ろ」
彼に促されるまま、森の入り口の地面に目を凝らす。月明かりの下、そこだけ不自然に下草が踏み荒らされていた。
「これは……誰かが通った跡……?」
「ああ、出来たばかりの足跡だ。それもずいぶんと慌ててな。見ろ、こっちの小枝。急いだ拍子に足でへし折ったんだろう。新しい折り口だ」
レオの冷静な分析が私の胸のざわめきを大きくしていく。
嫌な予感が背筋を駆け上った。
「誰かが……慌てて森の中に……?」
「足跡は二つある。一つは男物の革靴、もう一つは……小せえな。女物の靴だ。王子様かあるいはそれを追う誰かか。いや、違うな」
レオはしゃがみ込み、地面の痕跡を指でなぞるとゆっくり顔を上げた。
「踏み跡の深さから見て男の方が後だ。こりゃ、女を男が追いかけて行った跡だな」
「追いかけて……行った……?」
「ああ。お前の王子様が謎の女を追ってこの森に消えたってわけだ」
鼓動は耳の奥で荒々しく鳴り、指先から熱が奪われていく。
どうして。なぜまた。
私たちはもう一度やり直そうと、友達から始めようと約束したばかりなのに。
「……行ってみる」
「おい、待てよ! そんな格好で夜の森なんて危ねえだろ!」
レオの制止も聞かずに、ドレスの裾を持ち上げ、森へと続く暗い小道へと足を踏み入れた。後ろからレオが舌打ちをしながらついてくる音が聞こえた。どうか私の考えすぎでありますように。そう祈りながら、暗闇の中をひたすらに進んだ。
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