【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

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31.悪夢の再来

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薄暗い森の中、私は必死に足を動かしていた。ドレスの裾が小枝に絡みつき、何度も足を取られそうになる。そのたびにすぐ後ろを歩くレオがそれを払ってくれた。

「おい、エリス! そんな急ぐと転ぶぞ!」
「わかってるわよ! でも……っ」

ひんやりとした夜の空気が肌をなぞり、湿った土の匂いが鼻腔を満たす。
その時だった。

「待って、レオ!……今の人の声じゃなかった?」
「……静かにしろ。息を殺せ」

二人で大樹の影に身を潜め、声がする方へ神経を集中させる。木々の隙間から漏れる微かな月明かりが悪夢の再来を照らし出していた。


太い幹に体を押し付けられているのはリディア。そして彼女のドレスを乱暴にまくり上げ、自身の欲望をぶつけているのは―――アルバートだった。

「んっ……ぁ……アルバート、だめ……こんな所で……!」
「リディア……っ、ああ……君は本当に……最高だ…………!」

もつれ合うように体を重ねる二つの影。
アルバートの背中が大きく波打ち、官能的に体をくねらせるリディアの恍惚とした吐息が夜の深みに吸い込まれていく。
思考は完全に停止した。
耳鳴りがして、目の前が白んでいく。

「……なんで……また……どうして……」

震え混じりに言葉をこぼすと、レオが私の視界を塞ぐように目の前に立った。

「あいつは結局変われなかった。いや、最初から変わる気なんてなかったのさ。『許されたい』って気持ちと『愛してる』って気持ちを都合よく履き違えてるだけの、どうしようもねえガキだ」
「……私、馬鹿みたい。本当に……ただの馬鹿よ。友達からならって……信じようとした私が……全部、全部、馬鹿だったんだわ……!」
「お前は馬鹿じゃねえ」

静かな怒りに満ちた声だった。

「馬鹿なのは……あそこで犬みてえに腰振ってるあのヤリ〇ン野郎だ」

「あ……ぁん……アルバート……っ」
「リディア……!ああ、やっぱり君がいい……!」

アルバートがリディアの髪をかきむしるように掴み、深く、激しく腰を打つ。
やがて獣のような喘ぎ声が止み、行為が終わったことを知った。二人はゆっくりと体を離し、衣服を整え始めた。

「はぁはぁ……さっきは控室で冷たい態度をとってすまなかった。……でも君に会うと、もうダメなんだ。自分を抑えられない」
「……」
「君の言う通りだったよ。僕は自分に嘘をついていたんだ。エリスの前では完璧な『王子様』でいなければならない。それが窮屈で息が詰まりそうだった」

アルバートはリディアの乱れた髪を優しく撫でる。その手つきはかつて私に向けられていたものとよく似ていた。

「でも、君の前では素直になれる。本当の自分でいられるんだ。ただの男の僕を……君だけは受け入れてくれる。忘れられないのは僕の方なんだ、リディア」

ひどい言葉。
私の存在そのものを否定するような。
愕然と立ち尽くす私を隣でレオが黙って支えてくれていた。
行為を終えたアルバートはまるで何事もなかったかのように素早く服を整え始めた。その変わり身の早さに私は吐き気を覚える。

「はぁ……すまない、リディア。もう行かないと。会場でエリスが待っているから」

その言葉に私は全身の血が逆流するのを感じた。
ああ、そうだっけ。
私は待っていた。
彼が私の元へ戻ってくると信じて。
こんな場所で他の女を抱いた後で、何食わぬ顔で私の前に現れるつもりのこの男を。

「……ええ、わかってるわ。大事な『お友達』なんでしょう?」

リディアの言葉にアルバートは苦笑すると名残惜しそうに彼女の腰をぐっと引き寄せた。

「……なあ、リディア。パーティーが終わったら僕のところに来てくれ。もう一度……朝まで君を感じていたい」

角度を変えながら深く舌を絡ませ、先程の行為の続きを確かめ合うような執拗な口付け。長く、濃密なキスを終え、名残惜しそうに唇を離す。満足したようにアルバートは彼女を解放する。

「とにかく僕は先に戻る。君は少し時間を置いてから来るんだ。誰かに見られたら面倒だ」

衣擦れの音がしてアルバートが一人、私たちとは違う方向から会場の方へ戻っていくのが見えた。その背中には罪悪感のかけらも窺えない。

「……最低な野郎だな。反吐が出る」

レオが吐き捨てるように言った。

「なあ、もう帰るぞ。こんなパーティー、いる価値もねえ」
「……ううん」
「は?」
「私も戻る」
「戻ってどうすんだよ。あんな奴の顔、見たくもねえだろ」
「見たいのよ」

私の声から震えはもう消えていた。
代わりに冷め切った声。

「あいつがどんな顔をして私の前に現れるのか。この目でしっかり見て、それから……けじめをつけなきゃ」
「……エリス」
「今度こそ本当に終わりにするために。私の手であの偽物の王子に終止符を打つの」

決意を込めて言い放った私をレオはただ黙って見つめていた。やがてふっと口の端を吊り上げて、いつもの不敵な笑みを浮かべた。

「……へっ。面白くなってきたじゃねえか。せいぜい派手にかましてやれ」

私たちは月明かりの下、決戦の舞台となる華やかなホールへと静かに歩き出した。
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