【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

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32.舞踏会の公開処刑

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華やかなホールへと戻った私とレオ。
会場は着飾った生徒たちの熱気で満ちていた。レオは「特等席で見物させてもらうぜ」と言って壁際の柱の影へと姿を消した。
私は平静を装って輪の中へと戻る。

その時、会場の入り口が僅かに騒がしくなった。息を切らした様子のアルバートが焦った顔で人混みをかき分けてこちらへ向かってくる。
髪には小さな木の葉がついており、それを無意識に払い落としながら。

「すまない、エリス! 少し野暮用で手間取ってしまって遅くなった!」

彼は優雅に片膝をつき、自分の手を差し出した。ついさっきまで他の女の肌をまさぐっていたその手を。

「さあ、お詫びと言ってはなんだが、まずは一曲、僕と踊ってくれるかい?」

私はただ冷たく、差し出された彼の手を見下ろす。

「……触らないで。汚らわしい」
「………? エリス、今、何と……」
「その汚れた手でさっきまで何を握りしめていたのかしら? 都合が悪いことは聞こえないのね。もう一度言ってあげるわ。『触らないで! このヤリ○ン王子!』」

ホールに響き渡る私の声。
優雅なワルツが止まり、会場の空気が一瞬で張りつめ、ぴたりと静まり返った。全方位から突き刺さる視線の中、アルバートは気まずそうな雰囲気で立ち尽くしている。

「エリス、何を言っているんだ……! みんなが見ている前でそんな冗談は……」
「冗談ですって? ええ、そうね。あなたの存在そのものが壮大な冗談だったわ。これから皆さんに見ていただくのよ。メッキだらけの王子様の化けの皮が無様に剥がれ落ちる瞬間をね」

言葉を失うアルバートの視線の先に、会場の入り口に佇む人影が見えた。
リディア・クロフォードだった。
私が指を差すと彼女はきょとんとした顔をする。

「あら、共犯者様のご登場ね。随分と遅かったじゃない。森の中での濃厚な『お勉強』はそんなに長引いてしまったのかしら?」
「……っ!」

リディアは真っ青な顔で立ち尽くす。
会場が「森?」「お勉強って……」という囁きで大きくどよめいた。

「エリス、やめるんだ! 君は何かとんでもない誤解をしている! 疲れているんだ!」
「誤解? 私のこの目で、この耳でしっかりと見聞きした全てを誤解だとおっしゃるの? あなたたちが近くの森で、発情期の獣みたいに交尾をしていたことも?」

ざわめきが悲鳴に近いものに変わる。

「『リディア……っ、ああ……君は本当に……最高だ』ですって? 泣かせる台詞じゃない。ついでに『エリスの前では完璧な王子様でいなきゃいけなくて窮屈だ』とも言っていたわよね? 私、あなたの正直な気持ちが聞けて、感動で涙が出そうだったわ」
「そんな……嘘だ……!」

アルバートが必死に否定する。

「嘘ですって? じゃあ、そっちの女はどうなのよ!」

私はリディアを指差した。
彼女は恐怖に引きつった顔で後ずさっている。

「男に捨てられて寂しいからって誰にでも尻尾を振る発情メスブタが! 人の恋人に色目を使って体を慰めてもらう気分はどう!? 『私にはアルバートしかいないの』って顔をして、股を開くのはさぞかし気持ちが良かったでしょうねぇ!」
「ひっ……! ちが……私は……!」
「黙れ、ヤリ○ン姫!」

場の空気は完全に凍り付いていた。
リディアはくずおれそうになるのを必死で堪えている。

「誤解だ! 全てエリスの妄想だ! 誰かが吹き込んだ悪質な嘘に違いない!」

アルバートが最後の悪あがきとばかりに叫んだ。私はその滑稽な姿を冷ややかに笑い飛ばす。

「嘘? 妄想? なら、その乱れたドレスと、あなたのズボンの腿のあたりについているその汚らわしい染みは何かしら? まさか……草木の汁なんかじゃないわよね?」

アルバートとリディアははっとしたように自分たちの服に目を落とす。シャンデリアの眩い光がそれを無慈悲に照らし出していた。リディアのスカートの裾に、そしてアルバートの黒いズボンの内腿に、白く濁った生々しいが言い逃れのできない証拠としてべったりとくっついていた。暗い森の中で気づかなかったのだろう。

「「あっ……」」

会場が絶句し、やがてあちこちから「うそ……」「最低……」「気持ち悪い……」という軽蔑の囁きと、押し殺したような悲鳴が波のように広がっていく。
アルバートは言葉を失い、茫然としている。
ゆっくりと彼に一歩近づく。

「あなたは王子様なんかじゃないわ。ただ欲望のままに動くだけの、見栄っ張りで嘘つきで、自分の過ちすら認められない陳腐な男。私、あなたと恋人だった時間、婚約の約束を交わした瞬間、そのすべてが私の人生から消し去りたい汚点よ」

次に泣き崩れる寸前のリディアに視線を移した。

「あなたもよ。『アルバートを許してあげて』? よくもまあ、どの口がそんなことを言えたものね。彼を救えるのは私だけ? ふざけるのも大概にしてちょうだい。あなたたちは二人揃って、泥沼の底にでも沈んでなさい。誰からも相手にされない、お似合いの汚物カップルよ」

リディアは「ひっ」と短い悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。最後にすっかり軽くなった心で侮蔑を込めて見据えた。

「さようなら、偽物の王子様。私の人生に金輪際関わらないで!」

私は毅然として彼らに背を向けた。
その瞬間、すっと柱の影からレオが現れる。

「最高だったぜ、お姫様。今まで見た中で一番いい顔してる」

レオは私をエスコートするように腰に手を回し、割れる人垣の中を堂々と歩いていく。
後ろからはもう誰の声も聞こえなかった。
ただ、好奇と侮蔑と嘲笑の視線に晒され続ける哀れな二つの影がシャンデリアの下で永遠に立ち尽くしているだけだった。
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