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33.月明かりのダンス
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会場の喧騒を遠くに聞きながら、私たちは夜の静けさが支配する近くの広場へと歩を進めていた。さっきまでの激情が嘘のように今は穏やかでいた。
広場のベンチに並んで腰掛けるとレオが感心したような声で、
「それにしても、すげえ啖呵だったな。会場の奴ら、全員ドン引きだったぜ」
「言いたいことを言っただけよ。……やりすぎたかしら」
「いいや。アイツらにはあれくらいが丁度いい。人生の汚点とまで言われた時のあの王子の間抜け面……見物だったな」
私がすました声で言うと、レオがくつくつと喉を鳴らして笑う。
「だとしてもだ。あの言葉遣いはどこで覚えたんだ?お上品なお姫様の口から出てくるとは思えねえ単語のオンパレードだったぞ」
「あなたの真似をしただけ」
「はあ!? 俺の真似ぇ?」
「そっ。普段の口ぶりを参考にさせてもらったの。あなたの毒舌っぷりには敵わないけど」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うな。俺はあそこまで下品じゃねえし口も悪くねえぞ」
「そうだったかしら?『犬みてえになんとかかんとか~』って、森の中で熱くなってたのはどこのどなただったかしらね?」
「……っ! そ、それは……不可抗力だ! あんなもん見せられて黙ってられるか!」
慌てて言い訳をするレオの姿に私は声を上げて笑った。本当に胸のつかえがすべて消え去っていくようだった。
ひとしきり笑うと空を見上げた。
月が綺麗だった。
レオは不意に立ち上がり、私の前に手を差し出した。
「最後に一つ付き合え」
「何よ、急に」
「踊るんだよ。せっかく綺麗なドレス着てんだろ? あのクソ野郎とのファーストダンスはお流れだ。だから俺と踊れ。最悪な夜の記憶を俺が上書きしてやる」
「音楽もないのに」
「文句が多いな。じゃあ、俺の心臓の音でも聞いとけ。お前のおかげでさっきからうるさいくらいに鳴ってんだから」
口ぶりこそ乱暴だったものの、その眼差しに嘘はなかった。驚きつつもすぐに嬉しさがこみ上げてきて、そっとその手を取った。
彼がぎこちなくリードし、私たちは月明かりのスポットライトの下で静かにステップを踏み始めた。
「いっつもツンツンしてるのにリードはずいぶん優しいのね。少し見直しちゃった」
「お前が俺の下手くそなステップに合わせるのが上手いんだよ。お前の手柄だ」
「……なあ、エリス」
レオが私の顔を覗き込む。
「いつまで虚勢張ってんだ。全部終わったんだろ」
「……そんなことは」
「バレバレなんだよ。本当は泣きたいくせにお姫様の鎧まとってんじゃねえ」
彼の指がそっと私の頬に触れる。
「……今日だけは特別に胸を貸してやる」
「……なに、よ……それ……」
途切れ途切れになる声。
視界が急速に滲んでいく。
「散々吠えまくったんだ。後は泣いて寝ればすっきりするだろ。……ほら、早くしろよ。俺の気が変わらないうちにな」
その言葉が引き金だった。
もう抵抗できなかった。
たまらなくなって彼の胸に顔をうずめた。
「……っ、う……ひっく……」
一度溢れ出した涙はもう止まらなかった。
声を殺そうとしても嗚咽が漏れ、子供のようにしゃくりあげる。
失った時間。
踏みにじられた信頼。
信じていた自分が馬鹿みたいで悔しくて、それでも全部終わったことに安心して……。ぐちゃぐちゃになった感情が涙になって次から次へと溢れ出した。
レオは何も言わなかった。
ただ大きな手で壊れ物を扱うように、私の背中を優しく、ゆっくりと撫で続けてくれる。
「うわ……ぁぁ……っ」
夜の広場に私の泣き声だけが響き渡る。
泣きじゃくる私を抱きしめる彼。
その大きな背中を月の光が優しく照らし続けていた。そして、本当の涙を受け止めてくれる人がすぐそばにいることにようやく気づき始めた夜だった。
広場のベンチに並んで腰掛けるとレオが感心したような声で、
「それにしても、すげえ啖呵だったな。会場の奴ら、全員ドン引きだったぜ」
「言いたいことを言っただけよ。……やりすぎたかしら」
「いいや。アイツらにはあれくらいが丁度いい。人生の汚点とまで言われた時のあの王子の間抜け面……見物だったな」
私がすました声で言うと、レオがくつくつと喉を鳴らして笑う。
「だとしてもだ。あの言葉遣いはどこで覚えたんだ?お上品なお姫様の口から出てくるとは思えねえ単語のオンパレードだったぞ」
「あなたの真似をしただけ」
「はあ!? 俺の真似ぇ?」
「そっ。普段の口ぶりを参考にさせてもらったの。あなたの毒舌っぷりには敵わないけど」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うな。俺はあそこまで下品じゃねえし口も悪くねえぞ」
「そうだったかしら?『犬みてえになんとかかんとか~』って、森の中で熱くなってたのはどこのどなただったかしらね?」
「……っ! そ、それは……不可抗力だ! あんなもん見せられて黙ってられるか!」
慌てて言い訳をするレオの姿に私は声を上げて笑った。本当に胸のつかえがすべて消え去っていくようだった。
ひとしきり笑うと空を見上げた。
月が綺麗だった。
レオは不意に立ち上がり、私の前に手を差し出した。
「最後に一つ付き合え」
「何よ、急に」
「踊るんだよ。せっかく綺麗なドレス着てんだろ? あのクソ野郎とのファーストダンスはお流れだ。だから俺と踊れ。最悪な夜の記憶を俺が上書きしてやる」
「音楽もないのに」
「文句が多いな。じゃあ、俺の心臓の音でも聞いとけ。お前のおかげでさっきからうるさいくらいに鳴ってんだから」
口ぶりこそ乱暴だったものの、その眼差しに嘘はなかった。驚きつつもすぐに嬉しさがこみ上げてきて、そっとその手を取った。
彼がぎこちなくリードし、私たちは月明かりのスポットライトの下で静かにステップを踏み始めた。
「いっつもツンツンしてるのにリードはずいぶん優しいのね。少し見直しちゃった」
「お前が俺の下手くそなステップに合わせるのが上手いんだよ。お前の手柄だ」
「……なあ、エリス」
レオが私の顔を覗き込む。
「いつまで虚勢張ってんだ。全部終わったんだろ」
「……そんなことは」
「バレバレなんだよ。本当は泣きたいくせにお姫様の鎧まとってんじゃねえ」
彼の指がそっと私の頬に触れる。
「……今日だけは特別に胸を貸してやる」
「……なに、よ……それ……」
途切れ途切れになる声。
視界が急速に滲んでいく。
「散々吠えまくったんだ。後は泣いて寝ればすっきりするだろ。……ほら、早くしろよ。俺の気が変わらないうちにな」
その言葉が引き金だった。
もう抵抗できなかった。
たまらなくなって彼の胸に顔をうずめた。
「……っ、う……ひっく……」
一度溢れ出した涙はもう止まらなかった。
声を殺そうとしても嗚咽が漏れ、子供のようにしゃくりあげる。
失った時間。
踏みにじられた信頼。
信じていた自分が馬鹿みたいで悔しくて、それでも全部終わったことに安心して……。ぐちゃぐちゃになった感情が涙になって次から次へと溢れ出した。
レオは何も言わなかった。
ただ大きな手で壊れ物を扱うように、私の背中を優しく、ゆっくりと撫で続けてくれる。
「うわ……ぁぁ……っ」
夜の広場に私の泣き声だけが響き渡る。
泣きじゃくる私を抱きしめる彼。
その大きな背中を月の光が優しく照らし続けていた。そして、本当の涙を受け止めてくれる人がすぐそばにいることにようやく気づき始めた夜だった。
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