【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

文字の大きさ
33 / 37

33.月明かりのダンス

しおりを挟む
会場の喧騒を遠くに聞きながら、私たちは夜の静けさが支配する近くの広場へと歩を進めていた。さっきまでの激情が嘘のように今は穏やかでいた。

広場のベンチに並んで腰掛けるとレオが感心したような声で、

「それにしても、すげえ啖呵だったな。会場の奴ら、全員ドン引きだったぜ」
「言いたいことを言っただけよ。……やりすぎたかしら」
「いいや。アイツらにはあれくらいが丁度いい。人生の汚点とまで言われた時のあの王子の間抜け面……見物だったな」

私がすました声で言うと、レオがくつくつと喉を鳴らして笑う。

「だとしてもだ。あの言葉遣いはどこで覚えたんだ?お上品なお姫様の口から出てくるとは思えねえ単語のオンパレードだったぞ」
「あなたの真似をしただけ」
「はあ!? 俺の真似ぇ?」
「そっ。普段の口ぶりを参考にさせてもらったの。あなたの毒舌っぷりには敵わないけど」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うな。俺はあそこまで下品じゃねえし口も悪くねえぞ」
「そうだったかしら?『犬みてえになんとかかんとか~』って、森の中で熱くなってたのはどこのどなただったかしらね?」
「……っ! そ、それは……不可抗力だ! あんなもん見せられて黙ってられるか!」

慌てて言い訳をするレオの姿に私は声を上げて笑った。本当に胸のつかえがすべて消え去っていくようだった。
ひとしきり笑うと空を見上げた。
月が綺麗だった。
レオは不意に立ち上がり、私の前に手を差し出した。

「最後に一つ付き合え」
「何よ、急に」
「踊るんだよ。せっかく綺麗なドレス着てんだろ? あのクソ野郎とのファーストダンスはお流れだ。だから俺と踊れ。最悪な夜の記憶を俺が上書きしてやる」
「音楽もないのに」
「文句が多いな。じゃあ、俺の心臓の音でも聞いとけ。お前のおかげでさっきからうるさいくらいに鳴ってんだから」

口ぶりこそ乱暴だったものの、その眼差しに嘘はなかった。驚きつつもすぐに嬉しさがこみ上げてきて、そっとその手を取った。

彼がぎこちなくリードし、私たちは月明かりのスポットライトの下で静かにステップを踏み始めた。

「いっつもツンツンしてるのにリードはずいぶん優しいのね。少し見直しちゃった」
「お前が俺の下手くそなステップに合わせるのが上手いんだよ。お前の手柄だ」


「……なあ、エリス」

レオが私の顔を覗き込む。

「いつまで虚勢張ってんだ。全部終わったんだろ」
「……そんなことは」
「バレバレなんだよ。本当は泣きたいくせにお姫様の鎧まとってんじゃねえ」

彼の指がそっと私の頬に触れる。

「……今日だけは特別に胸を貸してやる」
「……なに、よ……それ……」

途切れ途切れになる声。
視界が急速に滲んでいく。

「散々吠えまくったんだ。後は泣いて寝ればすっきりするだろ。……ほら、早くしろよ。俺の気が変わらないうちにな」

その言葉が引き金だった。
もう抵抗できなかった。
たまらなくなって彼の胸に顔をうずめた。

「……っ、う……ひっく……」

一度溢れ出した涙はもう止まらなかった。
声を殺そうとしても嗚咽が漏れ、子供のようにしゃくりあげる。
失った時間。
踏みにじられた信頼。
信じていた自分が馬鹿みたいで悔しくて、それでも全部終わったことに安心して……。ぐちゃぐちゃになった感情が涙になって次から次へと溢れ出した。
レオは何も言わなかった。
ただ大きな手で壊れ物を扱うように、私の背中を優しく、ゆっくりと撫で続けてくれる。

「うわ……ぁぁ……っ」

夜の広場に私の泣き声だけが響き渡る。
泣きじゃくる私を抱きしめる彼。
その大きな背中を月の光が優しく照らし続けていた。そして、本当の涙を受け止めてくれる人がすぐそばにいることにようやく気づき始めた夜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

オネエな幼馴染と男嫌いな私

麻竹
恋愛
男嫌いな侯爵家の御令嬢にはオネエの幼馴染がいました。しかし実は侯爵令嬢が男嫌いになったのは、この幼馴染のせいでした。物心つく頃から一緒にいた幼馴染は事ある毎に侯爵令嬢に嫌がらせをしてきます。その悪戯も洒落にならないような悪戯ばかりで毎日命がけ。そのせいで男嫌いになってしまった侯爵令嬢。「あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ!!」と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨する侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢に今日も幼馴染はちょっかいをかけに来るのでした。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。 「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。 公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。 そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...