34 / 37
34.罪の代償
しおりを挟む
――――後日。
生徒指導室に呼び出されたリディアとアルバートは長椅子に並んで座らされていた。向かいには学年主任と担任が腕を組み、石像のように硬い表情で二人を見据えている。張り詰めた空気がこの場を覆う。
「さて二人とも。なぜ今日ここへ呼ばれたか、言うまでもなく理解しているね?」
学年主任の静かな怒りに満ちた声。
「……パーティーでの件かと存じます」
アルバートが弱々しく口を開く。
「はい……」
隣でリディアが消え入りそうな声で呟く。
あの夜以来、やつれきった彼女の顔は青白い。
「パーティーでの君たちの醜態については、すでに多くの生徒から報告が上がっている。学園の品位を著しく傷つけた許しがたい行為だ。そして我々が問題視しているのはそこだけではない」
学年主任は机の上に置かれた一枚の書類を指でトンと叩いた。
「君たちには以前、校内での不貞行為により厳重注意を与え、二度と接触しないようにという『禁止令』を出したはずだ。誓約書にもサインをしたな」
「……っ!」
「その『禁止令』を破り、あのような破廉恥な騒ぎを起こした。これは学園の風紀を著しく乱す重大な違反行為だ」
突きつけられる不可避の宣告。
「よって学園懲罰委員会は決定した。アルバート・レヴィン、リディア・クロフォード。両名に対し留年処分を命ずる」
「りゅ……留年!?お待ちください!そんな……なぜ僕が!」
アルバートが椅子から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。
その声は完全に裏返っている。
「なぜだと? 再三にわたる我々の指導を無視し、反省の色なく同じ過ちを繰り返した。当然の処分だとは思わないかね?」
「納得できません! 僕は……僕は悪くない! こいつです! 全部、リディアが僕を誘惑したせいなんだ!」
アルバートは隣に座るリディアを憎々しげに指さした。
「担任の先生! 学年主任! 聞いてください! あの日、僕を会場から連れ出して森に誘ったのは彼女なんです! 僕がエリスとやり直そうとしているのを知っていて、『あの女といてもあなたは幸せになれない』だの『本当のあなたを受け入れられるのは私だけ』だの、甘い言葉で僕をそそのかした! 断り切れなかった僕にも非はあるでしょう! でも元凶はこの女なんです!」
「アルバート君、やめなさい! 見苦しいにも程があるぞ!」
担任の叱責ももはや彼の耳には届いていなかった。全ての罪をリディアになすりつけようと必死だった。
学年主任はため息を一つつくと、静かに俯くリディアに視線を向けた。
「……リディアさん。君の意見は?」
「………………」
リディアはしばらく黙っていたが、やがてか細い声でしゃべり始めた。
「……彼の言う通りかもしれません。私が……弱い心で彼に付け込んでしまった……。でも禁を破ったのは……二人です。どんな処分でも……謹んでお受けいたします」
その言葉はアルバートの醜さを一層際立たせた。自分の罪から逃げず、罰を受け入れようとするリディアの姿に担任は憐れみと失望が入り混じった複雑な表情を浮かべる。
「聞いたかね、アルバート君。彼女は少なくとも、自分の犯した過ちから目を逸らしてはいない。それに比べて君は……前回と全く同じだな。常に責任を他者に転嫁し、自分だけが被害者だと主張する」
学年主任の目にもはや一片の温情もなかった。
「僕の家が黙っていませんよ! こんな不当な処分……父に言いつけて撤回させてやる!」
「ああ、その件だが」
学年主任は心底うんざりしたように首を振った。
「ご家族にはこちらからすべてご報告差し上げた。君のこれまでの度重なる不品行、そして今回の顛末についても包み隠さずにな。君のお父さんは学園の決定を全面的に支持するとおっしゃっていたよ。『息子に必要なのは罰と己の愚かさを知る時間だ』と」
「そん……な……父上が……僕を……?」
最後の希望の綱が断ち切られ、アルバートの顔は瞬く間に死人のように青ざめた。絶望に押し潰されるようにうなだれ、背を丸めて動かなくなった。
「決定は覆らない。二人とも来年一年間、教室で学業に励む傍ら、人間として何が欠けていたのか頭を冷やしてじっくりと考えることだ」
学年主任はそう言い放つと立ち上がった。
「……以上だ。もう行っていい」
リディアは静かに立ち上がり、深々と頭を下げてから指導室を後にした。残されたアルバートはまるで魂が抜けた抜け殻のように、座ったまま微動だにしなかった。その哀れな姿を二人の教師は冷え切った眼差しで見下ろしていた。
生徒指導室に呼び出されたリディアとアルバートは長椅子に並んで座らされていた。向かいには学年主任と担任が腕を組み、石像のように硬い表情で二人を見据えている。張り詰めた空気がこの場を覆う。
「さて二人とも。なぜ今日ここへ呼ばれたか、言うまでもなく理解しているね?」
学年主任の静かな怒りに満ちた声。
「……パーティーでの件かと存じます」
アルバートが弱々しく口を開く。
「はい……」
隣でリディアが消え入りそうな声で呟く。
あの夜以来、やつれきった彼女の顔は青白い。
「パーティーでの君たちの醜態については、すでに多くの生徒から報告が上がっている。学園の品位を著しく傷つけた許しがたい行為だ。そして我々が問題視しているのはそこだけではない」
学年主任は机の上に置かれた一枚の書類を指でトンと叩いた。
「君たちには以前、校内での不貞行為により厳重注意を与え、二度と接触しないようにという『禁止令』を出したはずだ。誓約書にもサインをしたな」
「……っ!」
「その『禁止令』を破り、あのような破廉恥な騒ぎを起こした。これは学園の風紀を著しく乱す重大な違反行為だ」
突きつけられる不可避の宣告。
「よって学園懲罰委員会は決定した。アルバート・レヴィン、リディア・クロフォード。両名に対し留年処分を命ずる」
「りゅ……留年!?お待ちください!そんな……なぜ僕が!」
アルバートが椅子から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。
その声は完全に裏返っている。
「なぜだと? 再三にわたる我々の指導を無視し、反省の色なく同じ過ちを繰り返した。当然の処分だとは思わないかね?」
「納得できません! 僕は……僕は悪くない! こいつです! 全部、リディアが僕を誘惑したせいなんだ!」
アルバートは隣に座るリディアを憎々しげに指さした。
「担任の先生! 学年主任! 聞いてください! あの日、僕を会場から連れ出して森に誘ったのは彼女なんです! 僕がエリスとやり直そうとしているのを知っていて、『あの女といてもあなたは幸せになれない』だの『本当のあなたを受け入れられるのは私だけ』だの、甘い言葉で僕をそそのかした! 断り切れなかった僕にも非はあるでしょう! でも元凶はこの女なんです!」
「アルバート君、やめなさい! 見苦しいにも程があるぞ!」
担任の叱責ももはや彼の耳には届いていなかった。全ての罪をリディアになすりつけようと必死だった。
学年主任はため息を一つつくと、静かに俯くリディアに視線を向けた。
「……リディアさん。君の意見は?」
「………………」
リディアはしばらく黙っていたが、やがてか細い声でしゃべり始めた。
「……彼の言う通りかもしれません。私が……弱い心で彼に付け込んでしまった……。でも禁を破ったのは……二人です。どんな処分でも……謹んでお受けいたします」
その言葉はアルバートの醜さを一層際立たせた。自分の罪から逃げず、罰を受け入れようとするリディアの姿に担任は憐れみと失望が入り混じった複雑な表情を浮かべる。
「聞いたかね、アルバート君。彼女は少なくとも、自分の犯した過ちから目を逸らしてはいない。それに比べて君は……前回と全く同じだな。常に責任を他者に転嫁し、自分だけが被害者だと主張する」
学年主任の目にもはや一片の温情もなかった。
「僕の家が黙っていませんよ! こんな不当な処分……父に言いつけて撤回させてやる!」
「ああ、その件だが」
学年主任は心底うんざりしたように首を振った。
「ご家族にはこちらからすべてご報告差し上げた。君のこれまでの度重なる不品行、そして今回の顛末についても包み隠さずにな。君のお父さんは学園の決定を全面的に支持するとおっしゃっていたよ。『息子に必要なのは罰と己の愚かさを知る時間だ』と」
「そん……な……父上が……僕を……?」
最後の希望の綱が断ち切られ、アルバートの顔は瞬く間に死人のように青ざめた。絶望に押し潰されるようにうなだれ、背を丸めて動かなくなった。
「決定は覆らない。二人とも来年一年間、教室で学業に励む傍ら、人間として何が欠けていたのか頭を冷やしてじっくりと考えることだ」
学年主任はそう言い放つと立ち上がった。
「……以上だ。もう行っていい」
リディアは静かに立ち上がり、深々と頭を下げてから指導室を後にした。残されたアルバートはまるで魂が抜けた抜け殻のように、座ったまま微動だにしなかった。その哀れな姿を二人の教師は冷え切った眼差しで見下ろしていた。
149
あなたにおすすめの小説
心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。
学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。
そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。
しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。
出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する――
その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる