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34.罪の代償
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――――後日。
生徒指導室に呼び出されたリディアとアルバートは長椅子に並んで座らされていた。向かいには学年主任と担任が腕を組み、石像のように硬い表情で二人を見据えている。張り詰めた空気がこの場を覆う。
「さて二人とも。なぜ今日ここへ呼ばれたか、言うまでもなく理解しているね?」
学年主任の静かな怒りに満ちた声。
「……パーティーでの件かと存じます」
アルバートが弱々しく口を開く。
「はい……」
隣でリディアが消え入りそうな声で呟く。
あの夜以来、やつれきった彼女の顔は青白い。
「パーティーでの君たちの醜態については、すでに多くの生徒から報告が上がっている。学園の品位を著しく傷つけた許しがたい行為だ。そして我々が問題視しているのはそこだけではない」
学年主任は机の上に置かれた一枚の書類を指でトンと叩いた。
「君たちには以前、校内での不貞行為により厳重注意を与え、二度と接触しないようにという『禁止令』を出したはずだ。誓約書にもサインをしたな」
「……っ!」
「その『禁止令』を破り、あのような破廉恥な騒ぎを起こした。これは学園の風紀を著しく乱す重大な違反行為だ」
突きつけられる不可避の宣告。
「よって学園懲罰委員会は決定した。アルバート・レヴィン、リディア・クロフォード。両名に対し留年処分を命ずる」
「りゅ……留年!?お待ちください!そんな……なぜ僕が!」
アルバートが椅子から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。
その声は完全に裏返っている。
「なぜだと? 再三にわたる我々の指導を無視し、反省の色なく同じ過ちを繰り返した。当然の処分だとは思わないかね?」
「納得できません! 僕は……僕は悪くない! こいつです! 全部、リディアが僕を誘惑したせいなんだ!」
アルバートは隣に座るリディアを憎々しげに指さした。
「担任の先生! 学年主任! 聞いてください! あの日、僕を会場から連れ出して森に誘ったのは彼女なんです! 僕がエリスとやり直そうとしているのを知っていて、『あの女といてもあなたは幸せになれない』だの『本当のあなたを受け入れられるのは私だけ』だの、甘い言葉で僕をそそのかした! 断り切れなかった僕にも非はあるでしょう! でも元凶はこの女なんです!」
「アルバート君、やめなさい! 見苦しいにも程があるぞ!」
担任の叱責ももはや彼の耳には届いていなかった。全ての罪をリディアになすりつけようと必死だった。
学年主任はため息を一つつくと、静かに俯くリディアに視線を向けた。
「……リディアさん。君の意見は?」
「………………」
リディアはしばらく黙っていたが、やがてか細い声でしゃべり始めた。
「……彼の言う通りかもしれません。私が……弱い心で彼に付け込んでしまった……。でも禁を破ったのは……二人です。どんな処分でも……謹んでお受けいたします」
その言葉はアルバートの醜さを一層際立たせた。自分の罪から逃げず、罰を受け入れようとするリディアの姿に担任は憐れみと失望が入り混じった複雑な表情を浮かべる。
「聞いたかね、アルバート君。彼女は少なくとも、自分の犯した過ちから目を逸らしてはいない。それに比べて君は……前回と全く同じだな。常に責任を他者に転嫁し、自分だけが被害者だと主張する」
学年主任の目にもはや一片の温情もなかった。
「僕の家が黙っていませんよ! こんな不当な処分……父に言いつけて撤回させてやる!」
「ああ、その件だが」
学年主任は心底うんざりしたように首を振った。
「ご家族にはこちらからすべてご報告差し上げた。君のこれまでの度重なる不品行、そして今回の顛末についても包み隠さずにな。君のお父さんは学園の決定を全面的に支持するとおっしゃっていたよ。『息子に必要なのは罰と己の愚かさを知る時間だ』と」
「そん……な……父上が……僕を……?」
最後の希望の綱が断ち切られ、アルバートの顔は瞬く間に死人のように青ざめた。絶望に押し潰されるようにうなだれ、背を丸めて動かなくなった。
「決定は覆らない。二人とも来年一年間、教室で学業に励む傍ら、人間として何が欠けていたのか頭を冷やしてじっくりと考えることだ」
学年主任はそう言い放つと立ち上がった。
「……以上だ。もう行っていい」
リディアは静かに立ち上がり、深々と頭を下げてから指導室を後にした。残されたアルバートはまるで魂が抜けた抜け殻のように、座ったまま微動だにしなかった。その哀れな姿を二人の教師は冷え切った眼差しで見下ろしていた。
生徒指導室に呼び出されたリディアとアルバートは長椅子に並んで座らされていた。向かいには学年主任と担任が腕を組み、石像のように硬い表情で二人を見据えている。張り詰めた空気がこの場を覆う。
「さて二人とも。なぜ今日ここへ呼ばれたか、言うまでもなく理解しているね?」
学年主任の静かな怒りに満ちた声。
「……パーティーでの件かと存じます」
アルバートが弱々しく口を開く。
「はい……」
隣でリディアが消え入りそうな声で呟く。
あの夜以来、やつれきった彼女の顔は青白い。
「パーティーでの君たちの醜態については、すでに多くの生徒から報告が上がっている。学園の品位を著しく傷つけた許しがたい行為だ。そして我々が問題視しているのはそこだけではない」
学年主任は机の上に置かれた一枚の書類を指でトンと叩いた。
「君たちには以前、校内での不貞行為により厳重注意を与え、二度と接触しないようにという『禁止令』を出したはずだ。誓約書にもサインをしたな」
「……っ!」
「その『禁止令』を破り、あのような破廉恥な騒ぎを起こした。これは学園の風紀を著しく乱す重大な違反行為だ」
突きつけられる不可避の宣告。
「よって学園懲罰委員会は決定した。アルバート・レヴィン、リディア・クロフォード。両名に対し留年処分を命ずる」
「りゅ……留年!?お待ちください!そんな……なぜ僕が!」
アルバートが椅子から転げ落ちんばかりの勢いで叫んだ。
その声は完全に裏返っている。
「なぜだと? 再三にわたる我々の指導を無視し、反省の色なく同じ過ちを繰り返した。当然の処分だとは思わないかね?」
「納得できません! 僕は……僕は悪くない! こいつです! 全部、リディアが僕を誘惑したせいなんだ!」
アルバートは隣に座るリディアを憎々しげに指さした。
「担任の先生! 学年主任! 聞いてください! あの日、僕を会場から連れ出して森に誘ったのは彼女なんです! 僕がエリスとやり直そうとしているのを知っていて、『あの女といてもあなたは幸せになれない』だの『本当のあなたを受け入れられるのは私だけ』だの、甘い言葉で僕をそそのかした! 断り切れなかった僕にも非はあるでしょう! でも元凶はこの女なんです!」
「アルバート君、やめなさい! 見苦しいにも程があるぞ!」
担任の叱責ももはや彼の耳には届いていなかった。全ての罪をリディアになすりつけようと必死だった。
学年主任はため息を一つつくと、静かに俯くリディアに視線を向けた。
「……リディアさん。君の意見は?」
「………………」
リディアはしばらく黙っていたが、やがてか細い声でしゃべり始めた。
「……彼の言う通りかもしれません。私が……弱い心で彼に付け込んでしまった……。でも禁を破ったのは……二人です。どんな処分でも……謹んでお受けいたします」
その言葉はアルバートの醜さを一層際立たせた。自分の罪から逃げず、罰を受け入れようとするリディアの姿に担任は憐れみと失望が入り混じった複雑な表情を浮かべる。
「聞いたかね、アルバート君。彼女は少なくとも、自分の犯した過ちから目を逸らしてはいない。それに比べて君は……前回と全く同じだな。常に責任を他者に転嫁し、自分だけが被害者だと主張する」
学年主任の目にもはや一片の温情もなかった。
「僕の家が黙っていませんよ! こんな不当な処分……父に言いつけて撤回させてやる!」
「ああ、その件だが」
学年主任は心底うんざりしたように首を振った。
「ご家族にはこちらからすべてご報告差し上げた。君のこれまでの度重なる不品行、そして今回の顛末についても包み隠さずにな。君のお父さんは学園の決定を全面的に支持するとおっしゃっていたよ。『息子に必要なのは罰と己の愚かさを知る時間だ』と」
「そん……な……父上が……僕を……?」
最後の希望の綱が断ち切られ、アルバートの顔は瞬く間に死人のように青ざめた。絶望に押し潰されるようにうなだれ、背を丸めて動かなくなった。
「決定は覆らない。二人とも来年一年間、教室で学業に励む傍ら、人間として何が欠けていたのか頭を冷やしてじっくりと考えることだ」
学年主任はそう言い放つと立ち上がった。
「……以上だ。もう行っていい」
リディアは静かに立ち上がり、深々と頭を下げてから指導室を後にした。残されたアルバートはまるで魂が抜けた抜け殻のように、座ったまま微動だにしなかった。その哀れな姿を二人の教師は冷え切った眼差しで見下ろしていた。
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