【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

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35.お別れ記念デート

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あれから数ヶ月が経った。
凍えるような冬が終わりを告げ、校庭の桜の蕾がほころび始める頃、私たちは卒業を間近に控えていた。放課後のクラスメイトが去った教室。がらんとした空間に私とレオの声だけが響いていた。

「で、結局お前は実家の手伝いか。商家の切り盛りは大変だろ」
「ええ。でも、昔から見てきたことだもの、やりがいはあるわ。それにレオだって……。都会の大学なんて……」
「建築だからな。実習やら課題やらエグいらしいぜ。けどまあ、なんかワクワクするな」
「……あなたとこうして話すのもあと少しね」
「だな。つっても、別に一生会えなくなるわけじゃねえだろ」
「そうだけど……なんだか実感が湧かない」

少しだけ間が空いてレオが、
「おい」
「何よ」
「最後にどっか出かけねえか」
「……え?」
「だから、デートだよ、デート。お別れ記念っつーか、まあ、なんだ。最後くらいどっか連れてってやる」

そっぽを向きながら言う彼。
そのぎこちない誘い方に胸の奥が切なく揺れた。

「いいわ。付き合ってあげる」
「……おう」

短い返事だけを残して彼は先に立ち上がって歩き出してしまった。
その背中がなんだかとても愛おしく見えた。

「最後」という言葉が胸を打つ。
彼が遠くへ行ってしまうのが寂しい。
ただそれだけじゃない。
知らない場所で知らない誰かと、笑いあっている彼の姿を思い描くだけで心がざわめく。
ああ、そうか。私は―――。
アルバートに夢中だった頃は見えなかった。
いいえ、見ようともしていなかった。
ずっと一番近くで、私を支え、守ってくれていた存在に。
どうして今になって気づくの。
私たちはもうすぐ離れ離れになるのに。
本当に馬鹿なのはあの男じゃない。
こんなにも大切な気持ちに今まで気づけなかった私自身――――――。



***


そして約束の日。
レオはいつも通りのラフな格好で、壁に寄りかかって待っていた。

「待った?」
「別に。それよりお前……気合い入れすぎじゃねえか?」

じろじろと私を見るレオの視線にじんと顔が熱くなる。

「いいでしょ。あなたこそいつもと同じじゃない」
「デートに気合い入れるガラじゃねえんだよ。ほら行くぞ」

私たちはこれまで行ったこともないような繁華街を歩く。

「すごい人……」
「お前、あんまこういう所来ねえだろ。ほら、ぼーっとしてっと迷子になんぞ」

そう言ってレオはごく自然に私の手を掴んだ。大きくて少しごつごつした彼の手。
あの夜、私の背中を撫でてくれた温かい手。
心の動揺を悟られないように平静を装う。

「どこへ行くの?」
「んー……。あそこのカフェ、美味いって評判だぜ。行くか」

彼に導かれるままに入ったカフェは少しレトロでお洒落な雰囲気だった。向かい合って席につき、注文したケーキを前に他愛もない話をする。

「お前の啖呵は今や学園の伝説になってるぜ。『ヤリ〇ン王子に鉄槌を下した勇敢な姫君』ってな」
「何よ、その不名誉なあだ名は……」
「最高の褒め言葉だろ。スカッとしたぜ、マジで」

くつくつと喉を鳴らして笑うレオを見て私もつられて笑った。あの時のことはもう笑い話にできるくらい過去のことになっていた。

「レオには……感謝してる。あの時、一緒にいてくれなかったら、私、きっと乗り越えられなかった」
「別に。俺は面白い見世物が見たかっただけだ」
「またそんなこと言って。照れ隠しですか?」
「うるせえ」

憎まれ口を叩きながらも彼の目元は優しく細められていた。
―――――どうして。
彼といると心がこんなにも穏やかになる。

「都会に行ったら、あなた、きっとモテるわね。口は悪いけどなんだかんだ言って優しいもの」
「はっ? 俺が優しい? どこの誰の話だ」
「自覚がなかったの? 酔っ払いに絡まれた時とかさりげなく庇ってくれたじゃない」
「……あれはお前がどんくさいからだろうが。見てらんねえんだよ」
「ふふ、そういうところよ。……きっとすぐに素敵な彼女ができるわ」

わざと意地悪く言ってみた。
レオは飲んでいたコーヒーにむせそうになっている。

「……っ、できるか、そんなもん! それに……お前だって作れるだろ。商家のお嬢様なんて引く手あまただろうし」
「さあ、どうかしら。私、もう偽物の王子様はこりごりだから。見る目だけは厳しくなったわよ」
「……へえ。じゃあ、どんな男ならいいんだよ」
「そうね……。無愛想で、口が悪くて、でも本当に困っている時には何も言わずにそばにいてくれる人、かしら」

私の言葉にレオは黙り込んでしまった。
時間だけが流れる。
このままじゃいけない。
自分の気持ちに気づいたのにこんな遠回しな言い方しかできないなんて。
胸の奥がきゅうっと切なく締め付けられる。
今まで気づかなかった感情が波のように押し寄せてくる。
私、このどうしようもない皮肉屋のことが……。


あっという間に時間は過ぎて夕日が街を茜色に染めていた。家の近くまで送ってもらう道すがら、どちらともなく口数が減っていく。
この時間が終わってほしくないと強く願っていた。やがて見慣れた角までたどり着いてしまう。ここを曲がればもう私の家。

「……じゃあな。ここまででいいだろ」
「……ええ。今日はありがとう。本当に楽しかった」
「おう。……まあ、今のお前なら大丈夫だろ。なんかあったら……連絡くらいはしろよ」
「あなたもよ。ちゃんと勉強するのよ。サボってばかりいないで立派な建築家になってみなさい」
「言われなくてもな。……じゃあ元気で」
「ええ、あなたも」

お互いにありきたりな励ましの言葉をかけあって私たちは背を向けた。
今日が終われば私たちはそれぞれの道を行く。次に会えるのはいつになるか分からない。
もしかしたら、もう……。
だめだ。
彼の背中がどんどん遠ざかっていく。
このままじゃだめ。
このまま終わらせたくない。
言わなくちゃ。本当の気持ちを。
後悔だけはしたくない。

「レオッ!」

たまらず私は彼の名前を叫んだ。
レオがぴたりと足を止め、ゆっくりと振り返る。夕日を背にした彼の表情はよく見えない。

「……なんだよ」
「あ、あの……! 私……その……!」

伝えたいことは山ほどあるはずなのに、いざ彼を前にすると言葉が喉に詰まって出てこない。ありがとうも、さよならも違う。もっと、もっと大事な言葉があるはずなのに。
私が俯いて唇を噛んでいると、レオがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
そして私の目の前で止まる。
真剣な眼差しがまっすぐに私を射抜いていた。言葉を発するより先に彼が口を開いた。

「好きだ。以上」
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