【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

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36.心はずっとそばに

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「好きだ。以上」

短く無骨な愛の告白に思考は完全に停止した。遠ざかるはずだった彼の背中は今、目の前にあって、その真剣な顔から逃れることができない。

「へ……?」

やっとのことで絞り出したのはそんな間の抜けた声。
今、彼はなんて言った? 
耳がおかしくなったの?

「い、今……なんて……?」
「二度も言わせんな。耳かっぽじってよく聞け。お前のことが好きだっつったんだよ。悪いか」

嘘じゃない。
冗談でもない。
夕日を映して赤く燃えるような彼の瞳が私の心を貫いた。心臓が飛び出してしまいそうなくらい激しく脈打っている。
どうして。
いつから。
なぜ。
疑問ばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

「い……いつから……? 私たちずっと友達で……」
「はっ、いつからねえ……」


レオは遠い昔を懐かしむようにふっと目を細めた。

「お前が公園の大きな木の上で降りられなくなってワンワン泣いてた時だよ」
「え……? 公園の……木……?」
「ああ。初等部に入学する前の話だ。お前、母親とはぐれた子猫を助けるとか言って、あの馬鹿でかい樫の木の一番上まで登ってったろ」
「あの時のこと……覚えててくれたの?」
「忘れるわけねえだろ。『私は大丈夫だから先にこの子をお願い!』だぜ? 自分が一番びびって足ガクガク震わせてるくせに。……あの時からだよ。無鉄砲で、危なっかしくて、誰かがそばにいてやんねえとダメだと思った。……ずっとほっとけねえって思ってた」


そんなにも前から!?
初恋ってこと!?
私がアルバートに心を奪われ、恋に恋するお姫様を気取っていたずっとずっと前から!?
……何も知らなかった。
彼の粗暴な態度の裏にこんなにも長い時間、隠されていた想いがあったなんて。気づけなかった自分が悔しくて、申し訳なくて、たまらなかった。

「……ごめんなさい」
「なんでお前が謝んだよ」
「私……全然気づかなくて……。自分のことばかりで……あなたのこと、何も見てなかった……。あなたの優しさにもずっと甘えてばかりだった……。本当にごめんなさい」
「別に謝ることじゃねえだろ」とレオははにかみながら言った。
「俺が勝手に思ってただけだ。それにあの偽物王子のおかげで、お前の目が覚めたんなら結果オーライだろ」

彼の慰めが余計に胸に染みる。
私は滲む涙をぐっと堪えて、レオをまっすぐに見つめ返した。


「謝りたかったのは本当よ。でもそれだけじゃないの。私もね、ずっと考えてたの。アルバートのことじゃなくて……あなたのことを」
「……俺を?」
「ええ。あのパーティーの夜、私がめちゃくちゃ言いまくった時も、公園でみっともなく泣きじゃくった時も……思い返せばいつも隣にいてくれたのはあなただった。私が本当の私でいられるのはいつだってあなたの前だけだった」
「……お前、それ……」
「最初はわからなかった。あなたが遠くの大学へ行ってしまうのがただ寂しいだけだと思ってた。でも違う。あなたが私の知らない場所で、知らない誰かと親しくなるのを想像しただけで胸が苦しくなるの」


言葉が次から次へと溢れ出す。
もう止められない。

「あなたといると心が穏やかになるの。あなたの軽口を聞いているとなぜか安心するの。あなたの不器用な優しさが……私の心を何度も救ってくれた。全部……全部、好き。本当は離れたくない。都会になんて行かないでほしいって思ってるくらい……あなたのことが好きなんです」

勢いのままに告げるとレオはぐっと言葉に詰まったようだった。やがて照れを隠すようにガシガシと乱暴に頭をかく。

「……ばーか。お前、さっきと言ってることが違うじゃねえか。『立派な建築家になれ』とか偉そうに説教たれてたのはどこのどいつだよ」
「……そうよ。違うこと言ってる。わかってる。あなたの夢を応援したい気持ちと、あなたにそばにいてほしい気持ち……どっちも本当なんだもの。……これが本心だから。……ごめん……困らせるようなこと言って……」


夕日が完全に沈み、世界が青と紫のグラデーションに染まる。
街灯がぽつりと灯り、二人を照らし出した。

「私たちは離れ離れになってしまうわ。私はこの街で、あなたは都会で……」
「だからなんだよ」

レオは私の不安を吹き飛ばすようにきっぱりと言い放った。

「距離が離れたくらいで無くなるような想いじゃねえよ。俺のはな。……お前のはどうだか知らねえけど」
「私の気持ちも同じよ! あなたのこと想ってる!」
「なら問題ねえだろ」

そう言って彼は再び私の手を掴んだ。
さっきよりもずっと強く、決して離さないというように。

「約束する。休みがとれたら……いや、とれなくても無理やり時間作って必ずお前に会いに戻る。だから……」


彼は少しだけ言葉を区切り、
「待ってろ」
「ええ、待ってるわ。ずっとあなただけを」

こくりと頷くとレオは満足そうに口の端を上げた。そしてぐいっと私の腕を引き、その胸の中に閉じ込める。
ごつごつとした硬い胸板。早鐘を打つ彼の心臓の音が私の耳に直接響いてくる。

「……覚悟しとけよ、エリス」

耳元で囁かれた低い声。

「お前の全部、俺だけのものにするからな」
「……望むところよ、レオ」


私は彼の背中にそっと腕を回し顔をうずめた。偽物の王子様との恋は終わった。
それは本物の、たった一人の大切な人との恋が始まるための長い長いプロローグだったのかもしれない。
離れていても心はずっとそばにある。
私たちは確かな未来への一歩を並んで歩き始めた。
.
.
.
そして時は流れ―――――――――――――――――――。
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