呪われ眠り姫の受難

秋月乃衣

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眠り姫の考察

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何も不自由はないとはいえ、ずっと寝たきりだと流石に退屈すぎて精神的に参ってくる。

自分以外からは寝ているように見えていても、意識は起きている。こちら側からは周りの状況が、頭の中のスクリーンのような物を通して見て出来ている奇妙な状況。
しかしそれが24時間常にその状態である訳ではなく、オフィーリアは一日の大半は眠っている。本当の意味で。

寝ているのに意識が起きていたり、または寝ていたりと、刻む様に僅かな時間を過ごしている。それは部屋に訪れる人達の会話で把握する事が出来ていた。

これがもし脳の稼働時間が長いにも関わらず、今のように何も出来なかったら発狂していたかもしれない。そう思うとオフィーリアは途端に恐ろしくなった。


そしてこの生活を続けるうちに気付いたことは、お手洗いにも行ってなければ、飲食さえしていない事実。

これは本当に生きていると言うのだろうか?
眠っていても、当然人は食べたり飲んだりしないと死んでしまう。それは確実に言える事なのだが。ではもしかしたら、自分の肉体は既に死んでしまっているのではないか、という考えに一度だけ行き当たった。

しかし、レイチェル達はしきりに「目覚めたら」と、オフィーリアが目覚めた後の話題を口にする。目覚めを待たれているという事は、死人に話しかけている訳ではなく、オフィーリアは死んではいないという事だろう。

という事は、今は植物人間のような状態なのだろうか?
植物人間が意識だけ取り戻しているか、幽体離脱に近い形で、自分周りの事を見ているのか。

その前に植物人間であろうと、栄養がないと死ぬだろう。なのに腕に点滴を施されている様子もないなんて、ただひたすら自分の置かれているこの状況が、考えれば考える程奇妙で仕方がなかった。



ただ一つだけ確信している事といえば、自分がとても大事に扱われている事実。
自分はまるでお姫様なのかと、錯覚してしまうほどだった。

では記憶を失う前の自分は姫だったのかと、細かく砕かれた記憶の、ほんの一欠片を摘み上げると、絶対そんな事は無かったと断言出来る。

庶民の中の庶民。貧しくもなく、裕福すぎず普通オブ普通の生活。普通の世界しか知らない。

そもそもレイチェルやシスカと自分とは、人種からして違うような気がする。そう思うと国や時代さえも自分が知っている世界とは、違っている気がするのだ。


垂れ目の優しそうな美人、レイチェルが意思疎通の出来ない私に、庭から詰んできたという薔薇を見せてくれた。それ以外にも、今日の天気の事や些細な事、流行りの歌劇の事など色んな話題で優しく語りかけてくれる。

話題の中で、庭に薔薇が咲いてるなんて、何て贅沢な場所なんだろうと思った。だけど、いつか見てみたい。薔薇が咲き誇る庭を。歌劇だって行ってみたい。

そんなレイチェルに習って、シスカも新たに覚えた仕事や、失敗した事なども一生懸命伝えてくれた。

段々この肉体の主は、本当に自分なのかどうか分からなくなってきたけど、この身体の主はとても幸せ者だと思った。
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