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27 常識は非常識
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しおりを挟むスレクツは、意を決して口を開いた。
「服を抱きしめると、眠れるようになるのですか?」
そんな簡単な方法で、不眠を解消できるのなら、と期待したスレクツだが、アクデムの答えは非情だった。
「いいえ、ただの気休めですね」
「そうなんですか」
「問題がありましたか?」
しまったな、置いていった兵服をおかずにとか言ったら、気持ち悪いと思うよなー失敗した、とごまかすアクデム。
スレクツは、アクデムの失言に気がついていない。
心配してくれるような声音を聞いて、思わず悩みを口にしていた。
「あの、私は団長閣下に抱きしめてもらわないと、眠れないようなんです」
「……」
なぜか通信が途絶えた。
スレクツはおかしなことを言っただろうか、と不安になりながら、必死で言葉をつむいだ。
「アクデムさん」
「は、はい、なんでしょう?」
「私はおかしいのでしょうか?」
「……おかしくないと思いますよ。 ただ、そういうのは団長閣下に、直接言って頂くのが良いと思います」
ふわり、とアクデムが通信具の向こうで笑ったような気がして、スレクツは安堵の息を吐いた。
一方のアクデムは、これが演技じゃないなら、純真なんてもんじゃないだろうに、どうやって口説き落としたんですか団長!?
と、内心で絶叫した。
通信具に接続したスピーカーから聞こえた、舐められたい発言に興奮しすぎて、気持ち悪い動きで悶えているオンフェルシュロッケンを片目で見て。
内心で(なんで上司の嫁さんの惚気を聞かされてるんでしょうね、早く家に帰りたい、かあちゃんに会いたい!!)と嘆いた。
アクデムに礼を言って通信を切ってから、スレクツはふと思い立って部屋に備え付けられている衣装棚を開いた。
毛布のように大きな、オンフェルシュロッケン団長の肌着を取り出して、ぎゅっと抱きしめてみる。
「……」
これで眠れるようになれば良いのに、と眠れなくて重たい頭を押さえる。
眠るには早い。
眠りたくない。
眠ることが怖い。
けれど、休みはあと二日ある。
一人きりで二日を過ごすのだ。
胸の奥に寂しさが募る。
きっとこれは、オンフェルシュロッケン団長の温もりを知らなければ、気づかなかった寂しさだ。
ずっと、一人でいても平気だったのに。
魔術の練習をしていれば、暇も寂しさも感じなかったのに。
今は、寂しくてたまらない。
義眼を外して、全身を洗って歯を磨き、寝間着を着込む。
気休めでも良いからと、オンフェルシュロッケン団長の肌着を抱きしめて、寝台に横になる。
真っ暗で静かな部屋の中で一人きり、どこか遠くで誰かの声が聞こえるような、そんなざわめきを聞きながら、ゆっくりと意識が溶けていった。
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