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第1-3章 私は聖都に行きました

審判の聖女は今一度確かめたいようです

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「聖下、キアラ嬢をお連れしました」
「入れ、と聖下は申しております」

 厳かな扉を隔てた向こうから声が聞こえてきました。扉前で警護していた神官が二人がかりで開いた扉の向こうの空間は、世俗に切り離された神聖なる雰囲気に包まれていました。空間設計から天井画やステンドグラス等、随所に神の偉大さを知らしめる壮大な演出がされていました。
 かつての私が初めて教皇の間に通された時はただ圧倒されたものですが、転生を経た今ではむしろそうした設計に感心してします。こうした創意工夫で教会は信仰を確固たるものとして広めてきたのでしょうね。

 前方にはルクレツィアの説明通り顔や手先まで法衣で覆った者が鎮座していました。法衣の豪奢さから考えて彼女が女教皇でしょう。傍らにはお付きの女神官が二名控えていました。左側には聖女フォルトゥナが待機しています。以上。広い空間には勿体ない程の少数です。

 私は女教皇から近すぎず遠すぎない距離まで進み出て、カーテシーにて頭を垂れました。かつての私なら修道服や聖女の祭服を身に纏っていましたから跪いたのですが、さすがにドレスを着る今膝をつくわけにはいきませんので、失礼を。

「面を上げよ、と聖下は仰っております」

 許しを得て私は前を向き直りました。相対した女教皇は私へと視線を降ろした……気がしました。僅かに顔を覆い隠すケープが僅かに揺れた所から判断するしかありません。顔色を窺えないと相手が何を考えているのか分かりませんね。

「遠路はるばるご苦労だった、と聖下は仰っております」
「勿体ないお言葉です」
「……。呼び出したのは神託の聖女エレオノーラの申し立てによるものだ、と聖下は申しております」
「具体的な説明を求めます。書状には召還についてしか記載がありませんでしたので」

 女教皇はわざわざ私の言葉も女神官を介していました。手間がかかる上に時間差が生じています。聴力が弱っているとか大声がもう出せないのか事情は存じません。しかし役目に支障が出るようになったら潔く後身に譲るべき、と考えるのはわたしの経験があるせいでしょうか?

 聖女からの説明は概ね私の想定通りでした。私が聖女適性検査にてエレオノーラが受けた神託に反した結果を叩き出したのが納得いかず、二度に渡る不正を暴いたうえで厳密な検査を行うよう申し立てをしたとの事です。

「大げさではありませんか? 私は聖女様に従って検査を受けたに過ぎません」
「お前の見解は聞いていない、と聖下は仰っております」

 問答無用ですかそうですか。まあ、別にいいですけど。

 女教皇はゆっくりと手を上げました。すると待機していたフォルトゥナがこちらの前へと歩み寄ります。彼女が手にしていたのは両手で抱えられる程度の大きさをした天秤でした。彼女は天秤を私の目の前で床へと静かに置きました。天秤は僅かに揺れて吊り合いました。

「私が授かっている主な奇蹟は審判です。神の名の下に全てに白黒つけ、黒に裁きを与えると言えば分かりますか?」
「検査に奇蹟を用いるのですか。贅沢なものです」
「神の意に背いているのであれば由々しき問題ですので」

 フォルトゥナはこの前お会いした時と変わらず、そしていつぞやのエレオノーラとは異なりあくまで事務業務をこなすように淡々としていました。事態を深刻に受け止めている張本人達が出張……もとい、諸国へ救済の旅に出ている為か、私を責める雰囲気ではありません。どうやら真実の確認との側面が強く出ているようです。

 フォルトゥナは私へとナイフを差し出しました。そして私に天秤の片方の皿に血を一滴落とせと指示を出しました。以前の手口と同じく浄化してから垂らそうとも思いましたが、審判の奇蹟がどれ程正確に真実を暴くのか未知数だったので、大人しく普通に赤い滴を垂らしました。

「キアラ様は私の問いに答えれば問題ありません」
「素直に答えればいいのでしょうか?」

 フォルトゥナは私から受け取ったナイフを一旦湿った布で拭ってから今度は自分の指を傷つけました。流れ出た鮮血は天秤の逆側の皿へと落ちました。互いに一滴ずつ皿に乗せたので天秤は均衡した状態となります。
 彼女は真剣な面持ちで私を見据えました。

「神は全てを見ておられます。嘘はすぐさま暴かれるでしょう」
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