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第2-1章 私は学院に通い始めました
私は生徒会長に呼び出されました
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「キアラさん、お喋りは構いませんが作業は順調ですか?」
「はい、問題ありません」
「手を動かしているなら結構。ただ他の方の作業の邪魔にならないようもっと声を落とすように」
「はい、申し訳ありません」
私の作業机の横を通り過ぎたのはこの手芸会の副会長を務めていますフェリーチャです。彼女は横切る間際に前髪をかき上げて、次に眼鏡をくいっと少し上げます。背筋を正しくさせ理知的な佇まいは同性の私でも惚れ惚れする程凛々しいものでした。
まさか彼女とこんな形で接点を持つ事になるとは思いませんでしたね。乙女げーむ本編上では彼女は卒業しており神官になっています。新たに聖女に就任するミネルヴァの護衛との位置付けになるのでひろいんとの接点も少なくありません。
聖女や教会との関わりは間接的になるのでそれほど気構えなくても良いでしょう。彼女自身は裏表の無い立派な方ですし。警戒するに越した事はありませんがね。立派だからこそ使命を果たせとミネルヴァと共に迫ってくる可能性も否定出来ませんので。
「フェリーチャ、ちょっといいかしら?」
不意に手芸室の扉が軽く叩かれたかと思うと、ミネルヴァの声が向こう側から聞こえてきました。ミシンが動いて静かではない空間でも透き通るような声ですね。何事かと会員の幾人かが作業の手を止めてそちらへと視線を向けました。
「ミネルヴァ、どうかしましたか?」
フェリーチャが扉を開けてミネルヴァを招き入れます。ミネルヴァは一切癖の無い長い髪をかき上げながら室内を見渡し、あろう事か私へと視線を固定させました。今更気づかないふりをしても無駄でしょうね。ため息したくなります。
「そちらのキアラさんを少しの間お借りしたいのだけれど」
「それは構いませんが我々は奉仕活動中です。妨げるに値する理由がありますか?」
「ええ。生徒会長としてでも貴女の友人としてでもなく、ね」
「……成程。それなら」
その時点で嫌な予感はしましたが、逃れる術はありません。いえ物理的には勿論可能なのでしょうが今後の学院生活を考えれば悪手でしょうね。私は観念しつつフェリーチャが視線を送ってきたと同時に作業の手を止めました。
「キアラさん。こちらへいらっしゃい」
私は重くなる足に鞭打つ気持ちでミネルヴァの前に立ちます。彼女は微笑みながら私に部屋の外に出るよう促しました。フェリーチャが止めてくれる気配は微塵もありませんので私は気が重くなりながらもミネルヴァに従いました。
ミネルヴァは廊下に私達二人しかいない事を確認した後、私の瞳を見据えてきました。その眼は宝玉のように美しく、睫毛も長くてとても綺麗です。これ程容姿端麗なのに神に仕えるべく身も心も捧げるのは少し勿体ない気もしますね。
「キアラさんならご存知かもしれないけれど、基本的に聖女候補者は世俗から離れて修行する毎日を送っているの。学院に通うのはあくまで例外ね」
「私には関係ありません」
存じています。外部との連絡は可能ですが手紙は残らず前もって神官が確認しますし両親が娘に何かを送りたくても届く事はありません。会いたくても教会からの許可が下りない限りは認められませんし、教会の敷地外に出るなど年に何度あるか。
「それでね、セラフィナが今度の安息日に貴重な外出許可日を使って貴女に会いたいって言っています」
まさか、と驚きを隠せませんでした。
妹と再会するのは彼女が学院に通うようになる来年だとばかり思っていたので、不意打ちに近いものがあります。
「勿論キアラさんの都合もあるでしょうから強要はしないけれど、今度を逃すと次は大分先になってしまいます。姉妹水入らずで休日を送ってくれない?」
断りたくてもそんな選択肢は私には許されていませんでした。疑念を抱かれないよう自然に振舞うなら実の妹との久しぶりの再会には喜ぶしかありませんから。
「勿論です。私も楽しみにしますとお伝えください」
なので私は本心ではない歓迎を口に出来た自分を褒めてあげたいぐらいです。
「はい、問題ありません」
「手を動かしているなら結構。ただ他の方の作業の邪魔にならないようもっと声を落とすように」
「はい、申し訳ありません」
私の作業机の横を通り過ぎたのはこの手芸会の副会長を務めていますフェリーチャです。彼女は横切る間際に前髪をかき上げて、次に眼鏡をくいっと少し上げます。背筋を正しくさせ理知的な佇まいは同性の私でも惚れ惚れする程凛々しいものでした。
まさか彼女とこんな形で接点を持つ事になるとは思いませんでしたね。乙女げーむ本編上では彼女は卒業しており神官になっています。新たに聖女に就任するミネルヴァの護衛との位置付けになるのでひろいんとの接点も少なくありません。
聖女や教会との関わりは間接的になるのでそれほど気構えなくても良いでしょう。彼女自身は裏表の無い立派な方ですし。警戒するに越した事はありませんがね。立派だからこそ使命を果たせとミネルヴァと共に迫ってくる可能性も否定出来ませんので。
「フェリーチャ、ちょっといいかしら?」
不意に手芸室の扉が軽く叩かれたかと思うと、ミネルヴァの声が向こう側から聞こえてきました。ミシンが動いて静かではない空間でも透き通るような声ですね。何事かと会員の幾人かが作業の手を止めてそちらへと視線を向けました。
「ミネルヴァ、どうかしましたか?」
フェリーチャが扉を開けてミネルヴァを招き入れます。ミネルヴァは一切癖の無い長い髪をかき上げながら室内を見渡し、あろう事か私へと視線を固定させました。今更気づかないふりをしても無駄でしょうね。ため息したくなります。
「そちらのキアラさんを少しの間お借りしたいのだけれど」
「それは構いませんが我々は奉仕活動中です。妨げるに値する理由がありますか?」
「ええ。生徒会長としてでも貴女の友人としてでもなく、ね」
「……成程。それなら」
その時点で嫌な予感はしましたが、逃れる術はありません。いえ物理的には勿論可能なのでしょうが今後の学院生活を考えれば悪手でしょうね。私は観念しつつフェリーチャが視線を送ってきたと同時に作業の手を止めました。
「キアラさん。こちらへいらっしゃい」
私は重くなる足に鞭打つ気持ちでミネルヴァの前に立ちます。彼女は微笑みながら私に部屋の外に出るよう促しました。フェリーチャが止めてくれる気配は微塵もありませんので私は気が重くなりながらもミネルヴァに従いました。
ミネルヴァは廊下に私達二人しかいない事を確認した後、私の瞳を見据えてきました。その眼は宝玉のように美しく、睫毛も長くてとても綺麗です。これ程容姿端麗なのに神に仕えるべく身も心も捧げるのは少し勿体ない気もしますね。
「キアラさんならご存知かもしれないけれど、基本的に聖女候補者は世俗から離れて修行する毎日を送っているの。学院に通うのはあくまで例外ね」
「私には関係ありません」
存じています。外部との連絡は可能ですが手紙は残らず前もって神官が確認しますし両親が娘に何かを送りたくても届く事はありません。会いたくても教会からの許可が下りない限りは認められませんし、教会の敷地外に出るなど年に何度あるか。
「それでね、セラフィナが今度の安息日に貴重な外出許可日を使って貴女に会いたいって言っています」
まさか、と驚きを隠せませんでした。
妹と再会するのは彼女が学院に通うようになる来年だとばかり思っていたので、不意打ちに近いものがあります。
「勿論キアラさんの都合もあるでしょうから強要はしないけれど、今度を逃すと次は大分先になってしまいます。姉妹水入らずで休日を送ってくれない?」
断りたくてもそんな選択肢は私には許されていませんでした。疑念を抱かれないよう自然に振舞うなら実の妹との久しぶりの再会には喜ぶしかありませんから。
「勿論です。私も楽しみにしますとお伝えください」
なので私は本心ではない歓迎を口に出来た自分を褒めてあげたいぐらいです。
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