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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました

私達は買い物の待ち合わせをしました

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 大公国の屋敷にいる間は我が家お抱えの職人に縫ってもらうのですが、聖都にいる私は一介の貴族令嬢に過ぎません。職人を呼び寄せたら最後、家計が火の車となり明日から芋がご馳走になりかねませんね。

 そんな次第で次の日、学院から帰ってきた私は早速トビアを連れて繁華街へと向かいます。勿論トビアは女の子らしい服に身を包んでもらいました。ワンピース風の上下一体構造でしたら左程体の大きさは問いませんからね。

「あの、姉さん。それでさ、聖女適性検査を掻い潜る方法なんだけれど……」
「それは昨日も秘密だって言ったでしょう。安心なさい、今日下準備は済ませてきましたから」
「えっ? でも今日は学院に行っただけじゃん。何も出来ないよ」
「単に教会に向けて手紙を送っただけですから」
「……っ」

 それを聞いたトビアは不安に襲われたようですが私は気にしないふりをしました。

「どんな事書いたの?」
「正直にあるがままを。お探しになっていた下の妹がやって来ましたから都合のいい時間にお訪ねください、と」
「どうして!? 言ったじゃないか、僕は――!」
「声が大きいですよ。公共の場なんですから静かに。勿論トビアをただで教会に差し出す鬼畜な真似は致しませんよ。それに手紙のあて先はエレオノーラではありませんから」
「えっ? でも聖女が直々に追いかけてきたのに、他の人に出しても意味無くない?」
「教会内部にも話の分かる味方がいる、とだけ教えておきましょう」

 私達は今聖都の市民が待ち合わせによく使う銅像の足元にいました。私とトビアは待ち人が到来するまで時間潰しに他愛ない話をしていましたが、どうもトビアは恐怖からか今みたいに私にどうやって聖女適性検査を凌ぐかを聞いてきます。

 さすがにうんざりし始めた頃、丁度よく二人の少女がこちらへとやって来ました。一人はリボンやフリルがふんだんに散りばめられた可愛らしい服に身を包んだパトリツィア、作業服のようなゆったりとしたオーバーオールを穿いたのがオフェーリアです。

「ごめん、待たせた?」
「いえ、私達も来たばかりです」
「へえ、この子がキアラの下の妹さん?」
「はい。トビア、この二人は私の学友のオフェーリアとパトリツィアです。そしてこの娘が私の下の妹のアリーチェです」

 私の紹介で三人は互いを自己紹介しました。既に相手の情報は各々に伝えていたので簡潔なやり取りで初対面の挨拶は終了となりました。なお、説明がややこしくなるのでこの二人にはトビアのことをアリーチェで押し通します。

 トビアは女の子らしい言葉と仕草になるよう努力しているようですが、控えめに言ってもぎこちないです。私は別に内面まで変えろとは言っていません。きっとこれ以上お母様方に迷惑をかけられないとの意志からでしょう。

「それで、今日ははるばる聖都までやって来た妹さんの服を買ってやりたいんですって?」
「ええ。見ての通りやんちゃ坊主に成長してしまいましたから。貴族の娘に相応しくとまでは申しませんが、せめて女の子らしくなってほしいと思いまして」
「別に無理して周りに合わせなくたっていいと思うんだけどなぁ。私だって普段はこんな格好してるし」
「それは船を操って一人前とされる海洋国家だからでしょう。社交界に出ても恥ずかしくない程度にはなってもらいたいのです」

 別に舞踏会やらの主役になる程の華やかさを持たせる気はありません。しかし蔑みや哀れみとも無縁になる無難な領域までは到達しなければこの先辛いでしょうから。聖女となる運命から逃げ切ったとしても貴族の娘である事実は変えられませんから。

「んじゃあアリーチェ、今日はよろしくな!」
「あ、うん……じゃなかった。はい、お願いしますオフェーリア様」
「あーそんな堅苦しくしなくてもいいって。別に敬称なんていらないし。そもそもその言葉遣い、疲れるだろ?」
「……うん」

 オフェーリアは気さくにトビアの肩に手を置いて満面の笑みをこぼしました。なれなれしいを通り過ぎてあまりの大胆さにトビアは面食らう他ありません。それでも屈託がない笑顔にトビアも少し気を許したようで、頬の緊張を緩めていました。

「私には遠慮なんかいらないぜ。パトリツィアもそうだろ?」
「んー、気にはするけれど我慢出来る範囲だし。大体私だって結構公の場じゃない限りいい加減だもの」
「決まりだな」
「わ、ちょっと……!?」

 早速とばかりにオフェーリアはトビアの手を引いて繁華街へと向かいました。パトリツィアは呆れて肩をすくめつつも二人を追いかけます。私も微笑ましく見つめつつも置いて行かれまいと後に続きました。駆けても問題ない靴を履いてきて正解でした。
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