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第3-1章 私は聖地より脱出しました
私は聖女らしくしているとの自覚がありませんでした
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「教会にとってアンナは理想の聖女でしたよ。それも癖のあった私達三人が片付けられた要因の一つだったかもしれません」
「何だよそれ……」
「まあ、今となっては過去の出来事です。アレッシアが慈愛の奇蹟を授かっていたとしても、別に聖女でも何でもないキアラになった私には関わりありませんし」
正直今からアンナと付き合えと言われたって御免被ります。人の愛を信じる彼女と人の悪意を身をもって思い知らされた私はもはや相容れません。彼女の愛に巻き込まれたくありませんから距離を置くのが正解でしょう。
「分かった。じゃあ俺もアレッシアとは親しくしないようにする」
赤裸々に語ってしまったところ、チェーザレは私を安心させるためなのか静かに、しかし力強く頷いてきました。
「別に私に合わせなくたっていいんですよ?」
「そうもいかないだろ。キアラとアレッシアが鉢合わせするかもしれないんだ。少しでもキアラが悲しむ可能性は無くしたい」
「私のことでチェーザレを束縛したくないんですが?」
「俺がそうしたいって言ってるんだ。キアラは気にしなくてもいい」
チェーザレったら、またそんなことを言う……。
彼の選択肢を狭める申し訳なさよりも私を想ってくれる嬉しさの方が先行してしまうのですから、私は本当に罪深い女だと思います。
揺れる幌馬車の中、私は自分の頭をチェーザレの肩に預けました。チェーザレは軽く驚いた様子で私を見つめてきましたが、その反応が何故か不満だったので更に欲を出して彼の腕を掴み、自分の首の後ろに回させました。
「道が舗装されていないからか馬車が揺れますね。支えてくれますか?」
「……分かった」
ようやくチェーザレも度胸を見せてくれ、私の肩を抱いてくれました。
それからはお互い一言もしゃべりません。ただ静かな二人きりの時間が流れていくばかりでした。
■■■
「侍女たる者、時には空気に徹することも重要です」
「私達と距離を置いてずっと外を眺めていたのはそのためですか……」
ごめんなさい、トリルビィのことはすっかり頭の中から抜け落ちていました。
それぐらい彼女は空気を読んで静かにしていましたね。
「謝る必要なんてありません。むしろわたしはチェーザレ様には感謝してます」
「チェーザレが私を気遣ってくれて、ですか?」
「お嬢様、自覚はないんですか?」
「自覚?」
自室に戻って法衣を脱ぐ手伝いをしてもらっていたトリルビィの表情が真剣なものとなり、私を見つめてきました。
「お嬢様はご自分で思っているよりずっと聖女らしいあり方をしています」
「……っ!?」
愕然としてしまいます。聖女になんてもうなりたくないと願いながらも苦しむ人に手を差し伸べる矛盾。線引きは出来ていると思いながらも実際は神託に引きずられている……そんな現実を突き付けられた形でした。
「そんなお嬢様もチェーザレ様といる時は普通の女の子に戻ります。ですからわたしはあの方に感謝しているのです」
「そう、だったんですね……」
「はい、終わりました。夕食までまだ時間がありますからお茶を入れましょう」
普段着に着替え終えるとトリルビィは法衣を衣装棚へとしまい、恭しく一礼した後に部屋を後にしました。一人残された私はソファーに体を預けて外を眺めます。日が暮れて満天の星空が世界を覆っていました。
「チェーザレが、私を普通の女の子に……」
チェーザレはよく自分は私に救われたと言います。
ですが……今は私の方がチェーザレに救われているのかもしれません。
「何だよそれ……」
「まあ、今となっては過去の出来事です。アレッシアが慈愛の奇蹟を授かっていたとしても、別に聖女でも何でもないキアラになった私には関わりありませんし」
正直今からアンナと付き合えと言われたって御免被ります。人の愛を信じる彼女と人の悪意を身をもって思い知らされた私はもはや相容れません。彼女の愛に巻き込まれたくありませんから距離を置くのが正解でしょう。
「分かった。じゃあ俺もアレッシアとは親しくしないようにする」
赤裸々に語ってしまったところ、チェーザレは私を安心させるためなのか静かに、しかし力強く頷いてきました。
「別に私に合わせなくたっていいんですよ?」
「そうもいかないだろ。キアラとアレッシアが鉢合わせするかもしれないんだ。少しでもキアラが悲しむ可能性は無くしたい」
「私のことでチェーザレを束縛したくないんですが?」
「俺がそうしたいって言ってるんだ。キアラは気にしなくてもいい」
チェーザレったら、またそんなことを言う……。
彼の選択肢を狭める申し訳なさよりも私を想ってくれる嬉しさの方が先行してしまうのですから、私は本当に罪深い女だと思います。
揺れる幌馬車の中、私は自分の頭をチェーザレの肩に預けました。チェーザレは軽く驚いた様子で私を見つめてきましたが、その反応が何故か不満だったので更に欲を出して彼の腕を掴み、自分の首の後ろに回させました。
「道が舗装されていないからか馬車が揺れますね。支えてくれますか?」
「……分かった」
ようやくチェーザレも度胸を見せてくれ、私の肩を抱いてくれました。
それからはお互い一言もしゃべりません。ただ静かな二人きりの時間が流れていくばかりでした。
■■■
「侍女たる者、時には空気に徹することも重要です」
「私達と距離を置いてずっと外を眺めていたのはそのためですか……」
ごめんなさい、トリルビィのことはすっかり頭の中から抜け落ちていました。
それぐらい彼女は空気を読んで静かにしていましたね。
「謝る必要なんてありません。むしろわたしはチェーザレ様には感謝してます」
「チェーザレが私を気遣ってくれて、ですか?」
「お嬢様、自覚はないんですか?」
「自覚?」
自室に戻って法衣を脱ぐ手伝いをしてもらっていたトリルビィの表情が真剣なものとなり、私を見つめてきました。
「お嬢様はご自分で思っているよりずっと聖女らしいあり方をしています」
「……っ!?」
愕然としてしまいます。聖女になんてもうなりたくないと願いながらも苦しむ人に手を差し伸べる矛盾。線引きは出来ていると思いながらも実際は神託に引きずられている……そんな現実を突き付けられた形でした。
「そんなお嬢様もチェーザレ様といる時は普通の女の子に戻ります。ですからわたしはあの方に感謝しているのです」
「そう、だったんですね……」
「はい、終わりました。夕食までまだ時間がありますからお茶を入れましょう」
普段着に着替え終えるとトリルビィは法衣を衣装棚へとしまい、恭しく一礼した後に部屋を後にしました。一人残された私はソファーに体を預けて外を眺めます。日が暮れて満天の星空が世界を覆っていました。
「チェーザレが、私を普通の女の子に……」
チェーザレはよく自分は私に救われたと言います。
ですが……今は私の方がチェーザレに救われているのかもしれません。
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