上 下
18 / 52
Season 2 キャサリン・ランカスター

処刑まであと31日 その②

しおりを挟む
 ■Side エリザベス

 愚兄とシャーロットの出会いは入学式の際にぶつかった時だそうです。倒れて尻餅をついたシャーロットに愚兄は手を差し伸べたんだとか。元気よく感謝の意を述べて入学式の会場に向かった彼女が微笑ましかった、と後に愚兄は語りました。

 そんな愚兄がシャーロットを意識し始めたのが、彼女が引き裂かれた制服を無様に縫い合わせて登校した際だとか。怯えた顔をしたシャーロットが心配になって声をかけたところ、シャーロットは無理をした笑いを愚兄に見せたのがきっかけでした。

 愚兄や他にシャーロットに惹かれた殿方が率先してシャーロットを守るようになりましたが、やんごとなき方々の庇護を得たシャーロットなど面白いはずもありません。貴族令嬢達の悪意はますます深刻になっていきました。

「器物破損に飽き足らず恐喝までしたそうだな。お前の取り巻き共がシャーロットを脅す場面に何度遭遇したことか!」
「お待ち下さい! 確かに彼女達の振る舞いが行き過ぎていたのは事実ですが、それは全てこの国を思ってのこと! 王太子ともあろうお方が一介の娘を寵愛するなどとあっていい筈が……!」
「黙れ! そういって常日頃身分が下の者を見下していたから取り巻き共がつけあがったのだ! 全てお前に責任がある!」

 そのうちシャーロットを呼び出して愚兄達に近寄らないよう忠告するようになり、それでもなお愚兄達がシャーロットの傍にいるものだから、わざとではないと言いながら足を引っ掛けたり桶の水を頭にかけたりと、直接的にシャーロットを虐げるようになりました。

 なお、愚兄は全部キャサリン様のせいになさっていますが、王家でも調査したところ彼女本人は何らシャーロットと関わりはありませんでした。虐げておらず、しかし助けもせず。関心を持っていない、との表現が的確でしょう。

 シャーロットに悪意を振りまいていた輩は彼女に魅了された殿方を慕う者や単純に彼女を気に入らない者で、中にはキャサリン様がおいたわしいと主張する者もいました。そんな者達を見て見ぬふりをしていた、となれば確かにキャサリン様は罪深いでしょう。

「それに殿下は私がシャーロット様を虐げていたと申しますが、私は何度も彼女をお茶会へ招待して交流を持とうとしました。ですが殿下が彼女に欠席するよう促したそうではありませんか」
「当然だろう。獅子の口の中に飛び込む真似などシャーロットにさせられるものか。何をされるか分かったものではないからな」

 それでもキャサリン様は愚兄が親しくするなら、とシャーロットに歩み寄る姿勢を見せていました。それを跳ね除けたのは愚兄であり、それがきっかけで他の貴族令嬢達もシャーロットを突き放すようになっていったのです。

 そんな感じにいじめられる可哀想な娘だったシャーロットに転機が訪れたのは、野外実習の時でしょう。突如として現れた魔物の爪の牙の餌食になった生徒にシャーロットが手をかざすと、発せられた光で命を脅かす傷を癒やしたのです。

 そう、シャーロットは神より奇跡を授かった聖女だったのです。

 これにより立場は逆転。貴族の娘達も現金なもので、学園内で誰よりも尊い存在となったシャーロットに媚びへつらうようになりました。そしてあろうことか、己の悪意は実はとある方の指示だと告白しました。

 こうしてキャサリン様はシャーロットに嫉妬して悪意を振りまく悪女に仕立て上げられたのです。

「そして王太子妃としての地位が脅かされたお前はあろうことか、シャーロットにならず者をけしかけたな! 幸いにも私達が彼女を守ったから事なきを得たが、後少し遅ければシャーロットがどれだけ酷い目にあっただろうか!」

 そしてつい最近、シャーロットが学園行事の手伝いで夜遅くに下校していたところ、複数名のならず者に襲われました。狙いはシャーロットを傷物にして二度と表舞台に出られなくする、などというゲスなものでした。

 シャーロットは聖女の奇跡による結界を発動してならず者達を寄せ付けず、そうして時間を稼いでいる間に愚兄達が憲兵を連れて助けに現れたらしいですね。
 そこでとうとう愚兄とシャーロットは互いの想いに蓋を出来なくなり、二人は愛をささやきあい、お互いを確かめるべく……といった流れだそうな。

 その件で愚兄はキャサリン様を敵と断定、今の断罪に至ります。

「人々を救済する聖女の命を脅かした罪は重い! よってアルビオン王国王太子フィリップの名において、キャサリン・ランカスターを処刑する!」
「お、お待ち下さい! 何故私が処刑されなければならないのですか!? 正当な裁判を要求いたします!」
「黙れ! 下手人共を尋問した結果、お前が依頼したと白状している。もはやここまで罪が明白なら裁判など不要、王権によって裁いても問題はない!」
「そんな……。国王陛下はご存知なのですか!? こんな一方的に言われたところで納得など出来ません!」
「この期に及んでまだ謝罪も無いとは、つくづく見下げ果てたやつ。命乞いなら牢屋の中でするんだな!」

 愚兄は衛兵達に命じてキャサリン様を連行させます。キャサリン様が身を捩っても鍛えられた兵士達はびくともしません。
 キャサリン様は愚兄の名を何度も叫び、涙を流しました。それは今まで強かったキャサリン様が見せたことのない、哀れな有様でした。

「お考え直しください! 私は何もやっておりません! 殿下、殿下ぁぁっ!」

 キャサリン様の必死の訴えも虚しく、彼女とわたくし達を隔てるように会場の扉が厳かに閉まりました。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,360pt お気に入り:7,107

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:36,680pt お気に入り:29,968

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:141,944pt お気に入り:8,445

愛する事はないと言ってくれ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,903pt お気に入り:167

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:6,002

なんで婚約破棄できないの!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:9,561

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:6,248

断罪不可避の悪役令嬢、純愛騎士の腕の中に墜つ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:342

先日、あなたとは離婚しましたが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:795pt お気に入り:713

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。