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しおりを挟む□当日十七時
「アレクサンドラ! 度重なるお前の悪意には、もう愛想が尽きた! 王太子アルフォンソの名において、お前との婚約は破棄する!」
そう仰っていますのは、私の婚約者であらせられるタラコネンシス王国の第一王子アルフォンソ様。十人女性がいれば八人、いいえ九人が見惚れるほど端整な顔は、今、眉間にしわが寄っている。彼は鋭い眼差しで私を睨みつけていた。
「アレクサンドラ様……どうか罪をお認めになってください。今なら慈悲深いアルフォンソ様は笑って許してくださいます……!」
そんなことを言いながら、アルフォンソ様に愛おしそうに抱かれているのは、私が芋女と呼んでいるルシア男爵令嬢だ。
彼女の容姿は子供らしいあどけなさと可愛さ、そして大人らしい美しさが絶妙に入り混じっていて、その笑顔は憎らしいくらいに見る者を惹きつける。
王太子と彼女の周りには、ルシアを慕う方々がずらりと並んでいた。王太子ほどではないもののいずれも殿方からは尊敬され、女性陣からは慕われる方ばかりだ。顔立ちも整っているため、普段なら目の保養になるのかもしれないが、彼らは今、私を糾弾し怒りを露わにしている。
で、当の糾弾されている私はというと、内心で嘲笑っていた。
勝ち誇ったかのように威張るアルフォンソ様と彼の胸に隠れてほくそ笑んでいる芋女には悪いけれど。
おあいにく様、私は彼らを返り討ちにする手を打ち終えている。
全ては丸一日前に始まった……いえ、引っくり返ったのだからね。
□前日十七時
――悲報、私終了のお知らせ。婚約破棄と断罪の破滅コンボ成立まで、あと一日しかない件について。
「どうしよう、詰んだ……」
私は絶望で頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
いや、そもそも頭の中が混乱して吐き気がするし、気分最悪。
寝室には誰もいないため、公爵令嬢であるこの私の醜態を、侍女をはじめとした使用人に見せずに済んだのは不幸中の幸いといったところかしらね。
とにかく、状況を確認しなければ。現実逃避なら後でいくらでもできる。今は冷静になって頭の中を整理しないと。
もしかしたら起死回生の一手がぱっと閃くかもしれないし。
よっし、頭の中が切り替わったら少し気分が楽になったわね。
「まず、私はアレクサンドラ。タラコネンシス王国が誇る三大公爵家の娘よね」
私は、この世界の大陸の半島に位置するタラコネンシス王国の中でも有数の、長い歴史と尊き血を持つ公爵家に生まれたの。
三大公爵家と呼ばれる、建国の始祖の系譜。
王家の娘は三大公爵家に嫁ぎ、公爵家の娘は王子に嫁ぐ。そうやってタラコネンシスでは、代々王家と三大公爵家が強く結ばれ続けているの。
今代の王太子であらせられるアルフォンソ様は何を隠そう私の婚約者である。これは私とアルフォンソ様が幼少の時に陛下とお父様がお決めになった。
そのため、私は小さな頃から王妃となるべく英才教育を施されている。私も国母に相応しくあろうと死ぬ思いで頑張っているわね。
そんな風に、アルフォンソ様と結ばれる未来を信じて疑っていなかった。それ以外の将来なんて想像すらしていなかったの。
アルフォンソ様の傍らに私がいるのは当然だと思っていたし、それが神様から授かった私の運命なんだって納得していたのよ。
嗚呼、だから私はアルフォンソ様が芋女――ルシアに心を奪われただなんて認めたくなかったんだ。
そう、今、アルフォンソ様の心は私にはないのだ。
「アレクサンドラ様はアルフォンソ様を王太子としてしか見ていないんです!」
それはいつぞやあの芋女が口にした戯言だけど、とんでもない。
私はアルフォンソ様を愛している。
勿論、王太子の彼を公爵令嬢の私が、じゃない。アルフォンソ様という一人の男を、一人の女としてお慕いしている。その愛は山よりも高く海よりも深いんだから。
……ただし、私の愛は天然ではなく、養殖物なのだ。
私はアルフォンソ様と会う前に、婚約関係になった。初めて会った時の彼は紳士的だったものの、私は特別な感情は抱かなかったわ。
けれど義務的な関係ではお互い幸せになれないと幼いながらに考えた私は、彼を好きになるべく、ある意味、自分で自分を洗脳して恋心を抱くように仕向けたのよ。
そのかいあって、今や私は彼を愛せている。そして彼に愛されたいと思えるようになったわ。
あの方を奪われるなんて、私のこれまでの努力と在り方、つまり私の人生を全て否定されることに他ならない。
アルフォンソ様と芋女が仲睦まじくするのは、耐えられないわ。
国が定めた婚約に割り込むなんて許されるはずがない――そんな大義名分を振りかざしていたけれど、とんでもない。単に嫉妬を膨れ上がらせていただけよ。
そして、次第にその嫉妬は悪意へと形を変えて芋女に向かっていった。
彼女の私物を隠したり皆様に聞こえるように嫌味を口にしたり。それでも懲りないので彼女に直接危害を加えて、心身を貶めようとしたの。
「ほら、こんなにもルシアさんはアルフォンソ様には相応しくありません」
そう指摘して、芋女が身分不相応な恋を諦めれば、アルフォンソ様の気の迷いが晴れ、私達の関係は元通り。近い将来、私は王妃、ゆくゆくは国母となってこの国を支えていく。そんな光景を信じて疑わなかったのに。
あがけばあがくほど、私が醜さを露わにすることになり、結果、芋女の純粋さが際立っていった。アルフォンソ様は私に失望してますます彼女に惹かれていく。
それは正に悪循環。
気が付けば、私はアルフォンソ様から敵意を向けられるようになってしまったの。……愚かな私は全て芋女のせいだと決めつけて彼女への憎しみを更に強めていったのだけれど。
そして明日は、盛大な宴が開かれる予定になっている。
既にアルフォンソ様と芋女が愛を語り合い、互いの想いを確認したって噂は聞いていた。おそらく明日の宴で、彼は目に余る私を捨てて芋女を選ぶのでしょうね。これまで散々彼女に振り撒いた私の悪意を口実に。
そんな未来、認められるわけないじゃないの!
私はアレクサンドラ、誇り高き公爵令嬢にして王太子の婚約者よ!
芋女の分際でアルフォンソ様を誑かすとは、なんて図々しい!
私の、公爵家の力で必ず破滅させてやるわ……!
「――というのが、ついさっきまで抱いていた憎悪なのよね」
芋女への嫉妬から湧き立った憎悪で吐き気と頭痛と眩暈がして最悪な気分になっている私に、先ほど突然これまで生きてきた十数年間の記憶を超える量の情報が流れ込んできたのだ。
私が私でなくなる。
その恐怖など知るかとばかりに膨大な情報が頭に押し込まれていった。
それは私とは異なる人生、前世の自分とも言うべきわたしについての情報だ。
わたしはつい最近まで女子大生をやっていた、ただのしがないOL、社会人二年生。男っ気なしで彼氏いない歴イコール年齢。容姿は普通というか地味。やせ気味で悲しいことに貧乳。趣味はライトノベルでも漫画でも何でもいいからとにかく空想作品を読み漁ることよ。
いきなり前世を思い出したというこの状況に対して何故や、どうやって、はこの際どうでもいい。どうせ考えたところで結論なんて出やしないんだから。
肝心なのは今の私、つまり公爵令嬢アレクサンドラは、わたしの記憶の中にある彼女そのままだって点ね。
「まさかここって、乙女ゲームの世界!?」
題名は『どきどき♡高鳴るエデンの園での恋心』、通称『どきエデ』だったはず。副題もあったんだけれど……忘れた。
しっかり記憶してろよ、わたしぃ!
それはともかく、『どきエデ』はまあ単純と言うかテンプレと言うか。ただの平民でしかないヒロインが貧乏男爵家の養女になって王国の貴族を養成する学園に入学し、そこで巡り会った素敵な殿方と恋を育んでいく。そんな王道的物語のゲームね。
で、その乙女ゲーの攻略対象者には、将軍嫡男や宰相嫡男といった錚々たる面々が名を連ねている。
王太子様はその筆頭。恋愛に障害は付き物で、全ルートで敵キャラとして立ちはだかるのが王太子様の婚約者――つまり、私だ。私は所謂、悪役令嬢って存在なのね。ちなみにゲームヒロインは勿論、あの芋女だ。
「えっと、『どきエデ』でヒロインにたてついた悪役令嬢の末路ってルートごとに違うんだったっけ?」
王太子様ルートだと婚約破棄後に実家の公爵家から自殺を強要され、宰相嫡男ルートでは修道院に追放され、そこに向かう途中で野盗に襲われて行方不明。将軍嫡男ルートだと追放先の土地が蛮族の侵略を受けて奴隷に。なんと市中引き回しの上で処刑なんてルートもあるのよね。
……ちょっと待って。
どうして芋女がアルフォンソ様以外に懸想した場合でも悉く私は破滅してるのよ? しかも死亡とか奴隷堕ちとか悲惨な末路ばっかだし。
脚本書いたの誰だか知らないけど、出てきなさいよ!
「いや、落ち着け私。シナリオライターを怨んだって今の状況は改善されないわ……」
……ただ、思い出すならもうちょっと早くが良かったわね。
だってヒロインが攻略対象者を引き連れて悪役令嬢を断罪するのって明日じゃん!
『どきエデ』はゲーム性を追求した一週間ごとのヒロインの行動を決めるシミュレーション形式と、シナリオ性を重視した選択肢で分岐するノベル形式の二パターンで発売された。この世界がどっちのシナリオにのっとっているにしろ、ここまで進んでいると結末は確定している。
「あの芋女が選んだ相手は……」
私の記憶にある忌々しい芋女と、わたしの記憶にある『どきエデ』のヒロインを照らし合わせる。
確か芋女に恋した攻略対象者はアルフォンソ様、将軍嫡男、宰相嫡男と……アレ? ちょっと待って。担任教師に大商人子息に、隠しキャラの王弟とアイツ……
「嘘、逆ハーレムエンド直前?」
何やってくれてんだあの芋女! よりによって節操なく攻略対象者全員に手を出しているなんて……!
どれだけビッ……失礼、色気づいているのよ!
逆ハーレムエンドは、シミュレーション形式でもノベル形式でもない、『どきエデ』ファンディスクで実装された所謂おまけルート。ベースは王太子ルートで結ばれる相手もアルフォンソ様。ただ他の殿方ももれなくヒロインの虜になっていて、さながらヒロイン女王が爆誕したって感じだったわね。
このルートでは、悪役令嬢は罰を受けない。ヒロインの慈悲深さに救われて和解、二人は生涯、友情という固い絆で結ばれるのだ。
……それは、自殺、奴隷、娼婦、処刑、そのどれもが生ぬるいと感じるほどの最悪の結末。
私、アレクサンドラの全否定だ――
「ふざけんな……っ! そんな未来なんて断じて認めないわ!」
服毒自殺させられても、厳格な修道院に飛ばされても、私は三大公爵家の令嬢、更には元王太子の婚約者として誇り高いままだ。
けれど芋女と和解してしまえば、私はこれまで血のにじむ思いで送ってきた日々を全部、そう……全部無意味、無価値にされる!
この私、アレクサンドラはたとえこの身が下郎に嬲られ火あぶりにされようと、断じて芋女なんかに許しを請うものですか!
とは言え、完全にチェックメイトに陥ったこの状況をどう引っくり返す?
決まっている。
詰みだと認めずに駒を動かし続けて相手の失態を誘うのよ。
普通に過ごしていたなら、『どきエデ』最高難易度の逆ハーレムルートに突入するなんてまず無理。大方芋女も私と同じく『どきエデ』を熟知している転生者なんでしょうね。で、アルフォンソ様方に媚を売る一方で、シナリオ通りに墓穴を掘っている私を見て内心でほくそ笑んでいたわけだ。
だからこそ芋女は油断しているはず。『どきエデ』的にはもうハッピーエンド確定だ。
でも、あいにくここはシステムに縛られたゲームの世界じゃなくて現実。プレイヤーが操作できない時間も自由に動き回れるのだ。挽回のチャンスがまだある。
残り二十四時間弱。――果たして運命を覆せるか?
「よし、じゃあまず手始めに……」
ベルを鳴らして呼びつけたのは、長きにわたり私に仕えている侍女のセナイダだ。
音を立てずに入室して私の前で恭しく一礼した彼女に、私は命令を下した。
「セナイダ。執事のヘラルドについて、今すぐ探ってもらえるかしら?」
□前日十八時
公爵令嬢アレクサンドラ付きの執事ヘラルド。彼はなんと『どきエデ』の攻略対象者だったのよ!
ヘラルドは表向きでは主人に言われるがままにこき使われる美声かつ美形の執事なのだが、実は悪役令嬢の我儘に疲れ果てていたっていう設定のキャラになる。嫌々、悪役令嬢の命令に従いヒロインを心身共に傷つけているってわけね。
そんな彼はヒロインとの逢瀬で段々と人としての心を取り戻していくのだ。
事あるごとにヒロインが健げに優しい言葉を送るものだから、ヘラルドは彼女を聖母のごとく崇拝するようになるのよ。そして自分を召使いどころかただの道具、奴隷としか扱わない悪役令嬢に愛想をつかすのよね。
そのせいで、悪役令嬢の悪行を暴く重大な場面で、彼は己の意思で主に逆らった。人として自分を愛してくれる女性のために。
悪役令嬢に仕えていた彼にとって、証拠集めなんて朝飯前。彼により悪役令嬢は刑罰を食らって破滅を迎えるのだ。
逆ハーレムルート爆走中の現在、あの芋女がこの執事にまで食指を伸ばしているのは確定だ。このままいけばヘラルドは、私の悪事だか何だか知らないけれど不利になる物証を盛大にばらまいてくるに違いないわ。
はっ! そうはさせるものですか。
「お前はクビよ。今すぐ私の前から失せなさい」
裏切り者は真っ先に排除するに限るわ。
終盤の大逆転劇――『どきエデ』の攻略本に記載されていた通り呼ぶならば断罪イベント――それの前に解雇しちゃえば、ヘラルドは舞台にすら上がれなくなるってわけよ!
私の我儘でいきなり呼び出されるのは慣れっこだったヘラルドも、突然のこの宣告には驚いたようね。
最近コイツったら私がいくら理不尽な命令をしてもまるで動じなかったから、久しぶりに人間らしい反応が見られて大満足よ。
「お嬢様。私に何か至らぬ所がありましたでしょうか?」
「お前があの芋女を好きだってことぐらいとっくに知っているのだけれど?」
「……っ」
私が芋女と口にした途端、取り繕っていたヘラルドの顔がわずかに歪んだ。
邪魔な悪役令嬢を退場させるまでもう少しくらい取り繕ったっていいんじゃない? 粘土細工のお面みたいに、その微笑、叩けばすぐ崩れ落ちそうじゃないの。
「お前が誰を一生涯の相手に選ぼうが知ったことじゃないけれど、私に害を為す女を主より優先させるなら話は別よ」
「害だなんてそんな。確かにルシアはとても素敵な女の子ですが……」
「あら、名前で呼び合う仲にまでなっていたのね。あの芋女は王太子殿下を始めとした婚約者がいらっしゃる方々に馴れ馴れしくしたあげくに、言葉巧みに擦り寄っていって誘惑していたでしょう。他の男のお手つきなのに惚れるなんて私には理解できないわね、ホント」
「お嬢様、撤回してください。その言い方では彼女がふしだらに男性を誑かしているように聞こえます」
ヘラルドは自分が恋した女性を貶されて込み上げる怒りをかろうじて抑え込み、従者としての態度を貫く。
さすがにまだ公爵令嬢かつ王太子殿下の婚約者である私に、下僕風情が真っ向から楯突くような真似はしないか。
「あら、事実を口にしただけだから撤回なんて必要ないわよ。それより……」
会話の途中、部屋の扉が勢い良く開かれた。次に、使用人が複数ずかずかと私の部屋に入ってくる。その内の一人がヘラルドの腕を押さえ込み、もう一人が彼のひざ裏を蹴って私の前に跪かせた。
「もう当家の使用人でもなんでもない、たかが貧弱な一般人ごときが三大公爵家の娘である私に命令する気? 身のほどを知りなさい」
最後尾にいたセナイダが、両手いっぱいに抱えていた手記と羊皮紙の束を側のテーブルに並べていく。そのうちの一つ、手記を手に取ると端を折ってあった頁を開いて私に提示した。
その手記は日記も兼ねているみたいで、日付と天気が記載されている。
「お嬢様の危惧された通りでした。このヘラルドはお嬢様の動向を詳細に記録していたようです。中にはお嬢様が接触していた裏社会の情報も――」
「ご苦労だったわね、セナイダ。まさかヘラルドが私を……いえ、この家を貶める工作をしていたなんて信じたくなかったけれど、受け入れるしかないのね」
なーんて心にもないことを言って、私は表面上、物悲しいって顔をする。
前世を思い出してから小一時間。
その間ヘラルドが自室を離れるように誘導、セナイダに探ってもらったわけだ。明日、アルフォンソ様方に提出するつもりだったのだろう私がやらかした数々の悪行についての記録を。
そもそも仕える主、つまり公爵であるお父様を飛び越えて王太子へ直接、告げ口し、あげく断罪イベントで暴露するですって? そんなの許されるわけないでしょうよ。
私の行動は私一人の問題では済まされないわ。間違いなく公爵家の名誉に繋がるし、家と王家の信頼関係にまで響く。
もし彼が公爵であるお父様に相談していたら、私一人のこととして病に侵されたと偽り領地へ静養に行かせるなど、穏便な解決策を取れるのよ。
私が接触できる裏社会も、家と関係がある所なのだし。
要は、彼の行いは私への反逆ではなく、公爵家への背任になるわけ。
「何か弁解はあるかしら?」
「……勿論ありますよ。そもそも貴女がルシアに――!」
「黙らせなさい。芋女の名前を聞くだけで耳が腐りそうだわ」
あ、あー聞こえない聞こえない。
ヘラルドが雑音を喚き散らす前に、他の使用人達が猿轡をかませて喋れなくさせる。何かもがもが耳に入ってくるけれど、まあ許容範囲ね。
貴族社会における使用人は、能力もさることながら信用が第一。解雇されたヘラルドは問題ありだと解釈されて、どの家も雇わないでしょう。それとも攻略対象者のどなたかが同情して召し抱えるのかしら?
まあいい、それは今日明日の話じゃないもの。明日の断罪イベントで姿を現さなきゃ、ヘラルドなんてどうだっていいわ。
「ああ、そうそう。仮にも私に長年仕えてくれたんだもの……」
ついでに在庫処分もしてしまうか。
私はテーブルの上に置いてあった、わたしならティッシュ箱ぐらいって表現する大きさの箱を、山なりに放り投げた。両腕を取り押さえられているヘラルドが受け取れるはずもなく、見事に額に命中する。
「退職金代わりを差しあげましてよ。泣いて私に感謝することね」
床に転がり落ちた拍子に箱を閉じていた金具が外れた。中から、七色に輝く大きなダイヤモンドが中央に埋め込まれ、宝石がふんだんにちりばめられたネックレスが飛び出てくる。
「お嬢様、それは……!」
その場の誰もが驚きを露わにした。
セナイダなんてネックレスと私を交互に見比べてくるし。たった今理不尽な仕打ちを受けたヘラルドすら目を見開いていたわ。
ソレは、未来の王妃にと頂いたアルフォンソ様からの贈り物。私がここぞという夜会や舞踏会に出る時にしか身につけなかった装飾品だ。私の私物の中で最も高価で貴重で、掛け替えのない大切な品……だったやつ。
ええ、そう。今となってはもう過去形よ。
「これを然るべき所で売り払えば一生働かずに暮らしていけるでしょうね」
私自らの手でネックレスを拾い上げて箱にぞんざいにしまい、身動きの取れないヘラルドの懐に無理やりねじ込んでやる。
その間ヘラルドはただ茫然と私を見ているばかり。
「さようなら。二度と私の前に姿を見せないで」
私が顎でしゃくると、使用人達はヘラルドを引っ立てて退出していった。アレだ、時代劇の終盤でよく見る、罪人が引きずられていくシーンみたい。
彼は何か訴えたいことがあったようだけれど私の知ったことじゃあないわ。
さよならバイバイふぉーえばー。
「――ですが、まさかあのヘラルドさんが謀反を起こそうと企んでいたなんて……」
私と二人だけになった静かな部屋で、セナイダが口を開いた。まだ驚きを隠せず彼が退室した扉へ視線を向けっぱなしだ。
「恋は人を盲目にする。優先順位もつけられないぐらい馬鹿になっちゃったんでしょうね」
さて、これでまず一人目を片付けた。
この調子で、私を破滅コースに叩き落とす要素をどんどん排除していかなきゃ。
だから次は――
「ところでセナイダ」
「はい、なんでございましょうか?」
「この家の使用人を辞めて、私個人に仕える気はない?」
明日を境にあっさり裏切るこの侍女を買収するとしましょう。
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