残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん

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Interlude1 アレクサンドラのその後

男爵令嬢ルシアの自白(後)

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「そう呼びたければ好きに呼んで。今のわたし達にはもう関係無いもの」

 彼女、真ルシアは朗らかな笑みをこぼした。
 敗北して最果ての修道院に追いやられた負けヒロインとはとても思えない、とても満ち足りたものだった。
 そして……あどけなさが強調されてたルシアのとは違う、理知的な印象を覚えた。

 真相は多分こうね。
 彼女、真ルシアは本来の男爵令嬢で、本当の『どきエデ』ヒロインである。
 けれど真ルシアはある日前世を思い出した。
 ただし、私のように元の人格が残らず、前世が今を塗り潰してしまった。
 そうして誕生したのが芋女、つまりルシアよ。

「前世に乗っ取られていた、と表現すべきかしら?」
「その認識で概ね問題無いかな。一応意識はあったけれど全く思い通りに動かせなかったし。あぁ、残念だけど感覚は共有してなかったよ。映画を見ているって表現で合ってるかな?」
「手紙をしたためたのはルシアの意識が無い間に、ってところね?」
「正解。ルシアが寝ている間にね。ルシアを慕う人に送るよう頼んだ」
「貴重な自由時間をルシアの『どきエデ』攻略の邪魔に費やすなんてね。そんなに自分の身体を乗っ取ったルシアに復讐したかったの?」
「まさか! ルシアの幸せはわたしの幸せ。憎いどころかわたし以上にルシアを愛している存在なんてこの世にはいないよ」

 は? ルシアを憎んでない? 愛してる?
 この女は一体何を言っているの?
 どうしてそう幸せそうに自白なんかしてるの?

「ルシアが『どきエデ』を攻略したかったのはルシアが『どきエデ』を愛して、『どきエデ』のキャラクターが大好きだったから。だからルシアはヒロインとして振る舞った。攻略中の彼女は生き生きとしてとても幸せだったな」
「そんな彼女を貴女は裏切ったわけね」
「言ったでしょう、わたしは『どきエデ』のヒロインだって。だからわたしはルシアが悪役令嬢にざまぁされて孤独に……いえ、彼女にはわたし一人だけになるようルシアを攻略したってわけ」
「ヒロインを攻略するヒロイン……傍から聞いてたら意味不明ね」

 何となく察した。つまりルシアを愛する攻略対象者達を排除して孤立させ、逆ハーエンドを迎えたのに合わせて身体の主導権を奪い返したってわけね。今度は逆にルシアが閉じ込められて真ルシアの生活をただ眺めるだけなのかしら。

 酷い話だこと。真ルシアは逆ハーレムルートを攻略するルシアの裏で彼女を破滅させようと暗躍してたわけだから。

 察するに真ルシアはルシアは互いを認識し合っていた。ルシアが真ルシアに『どきエデ』の詳細を洗いざらい喋るぐらいに。もしかしたら真ルシアはルシアが逆ハーレムルートを実演するための相談役にもなっていたかもしれない。

 攻略に失敗し、逆に自分が攻略されていた。ルシアの絶望具合と言ったら、ね。

「貴女、アルフォンソ様やこのダリアのことは愛してないの?」
「勿論愛しているよ。ただ、アレクサンドラ様の考えるような愛じゃない。ルシアがあの方とその子を愛しているからわたしも愛を捧げるの。だってそれがルシアでしょう?」
「じゃあさっきまでのルシアの演技は私と面会するためのもの?」
「あいにくルシアはこの修道院に合わないからやむなく大人しくしてる。でもわたしをルシアと認識する人と会うならわたしはルシアとして振る舞うだけね」

 歪んでいる……。それともこれもまた愛の在り方なのかしらね。

 ルシアの中に閉じ込められていた真ルシアにとってはルシアが全てで、それ以外は有象無象に過ぎない。それはルシアが恋敗れて解放された今も変わらない。そして、真ルシアはこれからも愛するルシアのイメージを崩さないよう振る舞い続けるでしょう。

「それを聞いた以上、絶対にダリアは返さないから」

 決めた。ダリアは私が私の娘として育てる。
 こんな奴をこの子の母親だなんて認めてたまるものですか。

「酷いね。誤解がないように言うけれど、わたしだってアルフォンソ様やダリアを愛しているの。順位の問題に過ぎないんだから」
「言い訳は結構。疑問は晴らせたし、もう用は無いわ」

 もう一分一秒たりとも真ルシアと一緒にはいたくない。いや、ダリアを彼女と一緒にいさせたくない、との想いの方が強い。
 自分じゃなく赤子の方が優先されるのは私も母親になったからなのかしらね。

 ……いえ、やっぱ止めた。
 いいようにやられっぱなしで癪だから、ここは一つ意趣返しでもしてやりましょう。

「いえ、やっぱり一つだけどうしても貴女に言っておきたいことがあるわ」
「非難や批判を聞く気は無いけれど?」

 ふん、そんな余裕ぶっていられるのは今のうちよ。
 私は『どきエデ』での自分を意識して、思いっきり悪い笑顔を作ってみせた。

「レオンは王太子妃になった私が生むから、安心してここで神に祈りを捧げてなさい」
「――っ!?」

 真ルシアは顔を歪めて思いっきり立ち上がった。拍子に椅子が傾き、倒れて大きな音を立てる。驚いてしまったのか抱いていたダリアが目を覚ましてぐずりだしてしまったじゃないの。おーよしよし、酷いお母さんでちゅねー。

「レオンはわたしの、ルシアの子でしょうよ!」
「それは『どきエデ』でアルフォンソ様と添い遂げて王太子妃になったヒロインの話で、今の貴女じゃないわ。今の状況でどうやって隣国第二王子を誕生させるつもり?」

 レオンとはタラコネンシス王国第二王子のことを指す。ただし、今から二十年近く未来を舞台にした『どきエデ2』での話ね。
 別に『どきエデ』での展開を覆した以上は次回作なんて気にしなくてもいいのだけれど、『どきエデ2』も好きな私は可能な限り『どきエデ2』も成立するように軌道修正しておきたいのよ。

 『どきエデ2』の追加攻略対象者に抜擢されているレオンを攻略すると、なんとサプライズゲストとしてアルフォンソ様とルシアが登場するってファンサービスがある。いやぁ、前世で事前情報無しでそのイベントやった時はとても驚いたし嬉しかったわ。

「諦めなさい。『どきエデ』のルシアで満足した貴女がどう足掻こうが『どきエデ2』のルシアにはなれっこない」

 そして、修道院に閉じ込められた真ルシアじゃあ『どきエデ2』のルシアの再現はどうあがいても不可能。そして、アルフォンソ様が失脚した今、第二王子の母親となることも無理でしょうよ。

「嫌! ルシアはずっとルシアじゃなきゃ……! だってわたしは、『どきエデ』のヒロインになりたかった、なりたくて一生懸命頑張ってたルシアが大好きなのに……! これからはわたしがルシアじゃなきゃいけないのに!」

 現実を突きつけられた真ルシアは取り乱し始めた。この有様は一年ほど前、負けが決定的になって馬脚を現したルシアに似ている。あの時はその醜態ぶりにざまぁみろって感じだったけれど、今回は……怒りが湧いてきたわ。

 どこまでも自分本位な娘だこと。
 『どきエデ』のヒロインだったルシアはもっといい子だったのに。
 良くも悪くもルシアに毒されすぎたかしら。

「なら、少しでも悔い改めることね」
「……え?」

 それでも、ダリアのためにも地獄に糸ぐらいは垂らしておきたい。
 そう情けをかけてしまうあたり、私も優しくなったものね。

 私は今度こそ立ち上がった。そして部屋の出口へと向か……え、ちょっと待って、ダリアが泣き出しそうなんだけど! 真ルシアが叫んだせいよねきっと。あやしても……駄目か。しょうがない、背に腹は変えられないし、私のでも飲ませるかー。

「『どきエデ2』の頃にはお義父様はジェラールに譲位なさっているでしょう。その際、貴女にはどんな恩赦が下るのかしらね」
「……っ」

 格好つけてもダリアへの授乳で台無しね、とか思いながら私は部屋を後にした。

 真ルシアが私の言葉をどう受け止めたかなんて知らない。このまま大人しく引き下がるのか、それとも『どきエデ2』を諦めずにまた暗躍しだすのか。それはいざ『どきエデ2』が開幕してからのお楽しみってことにしておきましょう。

 とにかく今は新たな娘をどう歓迎しようか、そんな計画で頭がいっぱいだった。
 そして願わくば、ダリアが健やかで幸せであらんことを。
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