残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん

文字の大きさ
37 / 88
Interlude1 アレクサンドラのその後

男爵令嬢ルシアの自白(前)

 タラコネンシス王国でも一、二を争う厳しい戒律が定められた修道院。かつてヒロインとして攻略対象者達を尽く虜にした男爵令嬢ルシアは現在そこに収容されている。

 深い森を抜けた先の山の頂に築かれた修道院からの脱走はまず不可能。恋愛はご法度。家族との面会すら一年に一回許されれば御の字。そんな具合なので、とんでもない問題を起こした貴族令嬢流刑の場所、だなんて呼ばれていたりする。

 本来なら入ってから一年程度の修道女が外部との接触を許されるわけがない。なので王太子妃の権限でゴリ押しして今回の面会が実現した形ね。彼女の両親である男爵夫妻も申請したらしいのだけれど、当然ながら却下されたと聞いている。

 そうして久しぶりに再会した彼女は……早速私を驚かしてきた。
 なんと面会に応じたルシアは赤子を抱いていたのよ。

「お久しぶりです、アレクサンドラ様」
「久しぶりね、ルシア。一応聞いておくけれど、貴女が抱いているその子は?」
「勿論わたしとアルフォンソ様の子供ですよ。ダリアって名付けました。ほーらダリア、叔母様にご挨拶しましょうねー」
「お、おば……」

 確かに私も子供がいるからそう呼ばれるのは覚悟の上よ。でも実際に現実を突きつけられると結構ショックなんだけど。せめて大きなお姉さんとか呼んで頂戴って幼い頃から言い聞かせようかしら?

 いや、そんな事はどうでもいいわね。断罪劇以降ルシアはアルフォンソ様と触れ合っていないから、ダリアは例の初夜イベントを経て誕生した子ってことになる。まさか一晩で成し遂げるなんて、ここまで来ると尊敬に値するかも。

「まさかこの修道院で子育てするつもり? そんな真似が許される筈無いわ」
「はい。残念ですがそれは叶わないでしょう。ここが孤児院も兼任していたら良かったんですけど……」
「預けるあてはあるの? 言っておくけれど、貴女が誑かしたアルフォンソ殿下は聖戦惨敗の責任を取って謹慎処分を受けてるから」
「風の噂で聞きました。生きているだけで充分です。そうしたらダリアにお父さんの顔を見せられますから」

 ルシアはぐずってきたダリアを「おーよしよし」とあやしながら胸をはだけさせた。そして優しい笑みをこぼしながらダリアに乳を与える。その様子はまるで絵画の中の聖母のように慈悲深く、母性を感じさせる。

 ……とても数多の攻略対象者を惑わせた魔性の女とは思えない。

「アレクサンドラ様。どうかダリアを一旦預かってもらえませんか?」

 憮然としながら授乳を眺めていたら、何かルシアが落ち着いてきたダリアをこっちに差し出してきたんだけど。
 ……その可能性については一応考えてはいたけれど、まさか本当に切り出してくるなんて図太い神経してるじゃないの。

「はあ? 貴女の娘をどうして私が引き取らなきゃいけないわけ?」
「アルフォンソ様が王族から席を外されてませんから、ダリアも王族になっちゃいました。だから孤児院に預けるなんて出来ませんし、実家で男爵家の娘として育てるわけにもいきません。アレクサンドラ様だけが頼りなんです……!」

 ルシアは大粒の涙を流し始めた。拭わないものだから机へと滴り落ちていく。

 恐ろしいとはこのことか。この私ともあろう者が芋娘を哀れに思い、ぐらっと心が動きかけてしまった。こうやって言葉巧みに近寄り、揺さぶりをかけ、いつの間にか自分の大事な内側に入ってきている。

 そして何よりも愕然としたのが、そうと分かっていても彼女が気になって仕方がないって点ね。
 こうしてアルフォンソ様方を篭絡していったのかしら。少し攻略対象者達の気持ちが分かってしまった。良いように攻略されていた彼らにほんの少しだけ同情してしまうわ。

「お願いです! ダリアには何の罪も無いんです。せめてこの子にはアルフォンソ様の娘として立派になって欲しいんです……」

 私はうつむき加減だったルシアからダリアを受け取った。

 珠のように可愛い赤ちゃん。ふっくらした頬と小さなお手々。髪の毛はまだ産毛って程度ね。お母さんのお乳を飲んでお腹いっぱいなのか、すやすやと寝息を立てている。そっと指で頬をなでたらその指を握ってきた。

 ……アルフォンソ様。貴方とは将来を誓い合いましたね。共に王国を支え、共に暖かな家庭を築きたい、ってお話したこともありましたか。結果としてはあんな酷い終わり方をしましたけれど、私は貴方をお慕いしておりました。

(それに、この子に親の業を背負わせられないし)

「分かったわ。一旦預かるけれど、最終的な判断をするのは国王王妃両陛下とジェラールだから。ただ、私の誇りに誓って悪いようにはしないって約束する」
「本当ですか……!? ありがとうございます……!」
「ただし、条件が一つあるわ。質問に答えてもらいたいのだけれど」
「はい。わたしに答えられる範囲でしたら」

 ただしそれはそれ、これはこれ。

「貴女、一体何者なの?」

 私がぶつけた問いかけに対し、ルシアはきょとんとしてきた。
 実にルシアらしい仕草だけれど、これすら演技だとしたら大したものよ。

「えーと、男爵令嬢で、『どきエデ』のヒロイン。これで答えになってますか?」
「上辺だけの事実は結構よ。貴女が王妃陛下の恐怖心を煽ってジェラールを私にけしかけたこと、既に明らかになってるんだから」

 私はお義母様から預かってきた二つの手紙を取り出し、ルシアへと突きつける。すると彼女はあどけない様子はそのままにわずかに目を細める。
 ……雰囲気が変わったわね。いえ、適切に表現するなら、切り替えた、かしら?

「勘違いじゃないでしょうか。それとも誰かがわたしの筆跡を真似たんだと思います」
「バカ言わないで。こんな可愛らしさを強調する特徴的な丸文字を書くのは王国広しと言えど貴女ぐらいよ。それから、匿名の手紙で貴女の筆跡を真似る理由が無いでしょうよ」
「じゃあどうしてわたしがアレクサンドラ様とジェラール様の恋のキューピットにならなきゃいけないんですか?」
「そうね。逆ハーレムルート攻略と逆行するものね。だから私の知る芋女の仕業じゃないとは確信してる。だからこそ貴女が誰なのか聞いてるのよ」
「だから言ったじゃないですか。男爵令嬢で、『どきエデ』のヒロインですって」
「……そう、それが答えでいいのね」

 彼女の正体、ようやく確信したわ。
 もし私の推理が正しかったらそりゃあお義母様は真相にたどり着けないわね。
 だって、この現象は私達にしか理解できないもの。

「じゃあこれから便宜上貴女のことは真ルシア、とでも呼ぶわね」
感想 249

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。