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Interlude1 アレクサンドラのその後
王妃マリアネアの懸念(後)
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「……どのような情報を漏らせば助かるか、が書かれていると?」
わたしはてっきりアルフォンソ様が機転を利かせて機密をバラした、と思ってたんだけれど、事実は違うの? でも今回の敗戦の責任を取るのと合わせてアルフォンソ様は現在幽閉中の筈なのだけれど。
「読んでみて驚いたわ。然るべき部署で確認させてさらにびっくり。だって敵側に渡ったとされるアルフォンソの情報は確かに何割かは事実なんだけれど、少しずつ嘘が混ざっているの」
「嘘が、ですか?」
「一年後ぐらいに間髪入れずに次回の聖戦を断行すれば敵側はこの情報も頼りにするでしょうね。けれど、この偽りの情報は徐々に毒のように敵側を蝕んでいく。そう仕組まれているのよ」
嘘……それが事実だとしたら助言なんてものじゃない。戦略レベルじゃないの。そこまでの仕込みが出来る人なんていたかしら……? ロベルト様? フェリペ様? ジェラールの助言なんてアルフォンソ様が聞き入れるとは思えないし……。
「だからね、わたくしはそれを『予言の手紙』と勝手に呼んでいます」
「予言……。それはさすがに大げさすぎるのではありませんか?」
「アレクサンドラ。その上で改めて聞きたいのだけれど、貴女あの一件については事前に把握していたんじゃなくて?」
「……っ!」
なるほど、そうきたか。
とは言っても『どきエデ』については今更出し渋る情報でも無いのよね。だってとっくに終わった物語だもの。けれどそれを私がどうやって知ったか、については慎重に明かす必要があるわ。でなければ要らない面倒事を招きそうだもの。
「天啓を得たのです。あのまま進んでいたらアルフォンソ様に突き放される、と」
「天啓、ね。だからアルフォンソの友人達には体調不良になってもらった、と?」
「あら、バルタサル様方は体調管理が不十分だったせいですわ。あくまで偶然です」
「そう言う事にしておきましょう。つまり、アレクサンドラも先を知っていたわけね。だからあのように立ち回ったのは理解出来るのだけれど……」
言葉を濁すお義母様はとにかくその中身を読むよう促してきた。不思議に思いながら手紙を読んでみる。確かに蛮族共を騙す偽情報は舌を巻くほど驚嘆に値したものの、前文も結びの言葉も何一つ無い、正に事務的な指示はいっそ清々しいほどだった。
『王太子アルフォンソは以下の情報を相手に渡せば無事帰国できます』
丸みを帯びた可愛らしい癖のある文字からは考えられない内容ね。にしてもこの筆跡、「わたしってこんなに可愛いのよ!」って激しい自己主張すら感じられるわ。そう、あろうことかあの芋娘を連想させるぐらいに……!
「これだけならまだ分析力に長けた誰かが他の誰よりも先んじてアルフォンソに進言をした、で済むのだけれど……これを見て頂戴」
「これは……?」
「結構前にわたくし宛に送られた、警告です」
「……!? そんな、まさか……!」
『貴女の息子、王太子アルフォンソは交流会にてアレクサンドラとの婚約を破棄します』
この手紙を素直に受け取るなら、この私が前世を思い出す前に『どきエデ』を把握した何者かがお義母様にアルフォンソ様方がヒロインに誑かされていく未来を心配していたことになるんだけれど……ヒロインの芋女じゃなくて悪役令嬢の私の味方を?
「実はジェラールにも同じような予言が届いたみたいなの」
「ジェラールにも!?」
「あの子が勇気ある決断をしたのも何としてでもそんな未来を防ぎたかったんでしょう」
「そうですか……それで、一体この手紙は誰が送ったのですか?」
「ジェラールも調べさせたのだけれど追跡出来なかったそうよ。だから、この特徴ある文字を鑑定にかけて……驚愕の事実が分かったわ」
深刻な面持ちでお義母様が私に提示したのは……王立学園の授業で提出した課題? 確かに手紙と同じ丸く可愛らしい文字で綴られている。結構正解率が良いので普通に優等生みたいだったけれど、そんなのは些事ね。
だってコレ、あの芋女こと男爵令嬢ルシアの名が書かれているもの。
「意味が分からないでしょう? わたくしも鑑定結果を報告された時は耳を疑ったわ。だってこれ等を本当にあの娘が書いたのなら、アレクサンドラに返り討ちにあって恋敗れた今の状況こそ彼女が望んだ結末になるもの」
一年前に事情聴取した際もざまぁされたヒロインのテンプレみたいな「こんなの脚本に無かった」「どうしてヒロインのわたしが」なんて間抜けた供述してたけれど、それすら演技で内心では願いどおりになったってほくそ笑んでたってわけ?
「お義母様。もう一度取り調べてみるべきかと進言します」
こればっかりは他の人達には任せられない。
私自身が彼女に確かめるしかないわ。
わたしはてっきりアルフォンソ様が機転を利かせて機密をバラした、と思ってたんだけれど、事実は違うの? でも今回の敗戦の責任を取るのと合わせてアルフォンソ様は現在幽閉中の筈なのだけれど。
「読んでみて驚いたわ。然るべき部署で確認させてさらにびっくり。だって敵側に渡ったとされるアルフォンソの情報は確かに何割かは事実なんだけれど、少しずつ嘘が混ざっているの」
「嘘が、ですか?」
「一年後ぐらいに間髪入れずに次回の聖戦を断行すれば敵側はこの情報も頼りにするでしょうね。けれど、この偽りの情報は徐々に毒のように敵側を蝕んでいく。そう仕組まれているのよ」
嘘……それが事実だとしたら助言なんてものじゃない。戦略レベルじゃないの。そこまでの仕込みが出来る人なんていたかしら……? ロベルト様? フェリペ様? ジェラールの助言なんてアルフォンソ様が聞き入れるとは思えないし……。
「だからね、わたくしはそれを『予言の手紙』と勝手に呼んでいます」
「予言……。それはさすがに大げさすぎるのではありませんか?」
「アレクサンドラ。その上で改めて聞きたいのだけれど、貴女あの一件については事前に把握していたんじゃなくて?」
「……っ!」
なるほど、そうきたか。
とは言っても『どきエデ』については今更出し渋る情報でも無いのよね。だってとっくに終わった物語だもの。けれどそれを私がどうやって知ったか、については慎重に明かす必要があるわ。でなければ要らない面倒事を招きそうだもの。
「天啓を得たのです。あのまま進んでいたらアルフォンソ様に突き放される、と」
「天啓、ね。だからアルフォンソの友人達には体調不良になってもらった、と?」
「あら、バルタサル様方は体調管理が不十分だったせいですわ。あくまで偶然です」
「そう言う事にしておきましょう。つまり、アレクサンドラも先を知っていたわけね。だからあのように立ち回ったのは理解出来るのだけれど……」
言葉を濁すお義母様はとにかくその中身を読むよう促してきた。不思議に思いながら手紙を読んでみる。確かに蛮族共を騙す偽情報は舌を巻くほど驚嘆に値したものの、前文も結びの言葉も何一つ無い、正に事務的な指示はいっそ清々しいほどだった。
『王太子アルフォンソは以下の情報を相手に渡せば無事帰国できます』
丸みを帯びた可愛らしい癖のある文字からは考えられない内容ね。にしてもこの筆跡、「わたしってこんなに可愛いのよ!」って激しい自己主張すら感じられるわ。そう、あろうことかあの芋娘を連想させるぐらいに……!
「これだけならまだ分析力に長けた誰かが他の誰よりも先んじてアルフォンソに進言をした、で済むのだけれど……これを見て頂戴」
「これは……?」
「結構前にわたくし宛に送られた、警告です」
「……!? そんな、まさか……!」
『貴女の息子、王太子アルフォンソは交流会にてアレクサンドラとの婚約を破棄します』
この手紙を素直に受け取るなら、この私が前世を思い出す前に『どきエデ』を把握した何者かがお義母様にアルフォンソ様方がヒロインに誑かされていく未来を心配していたことになるんだけれど……ヒロインの芋女じゃなくて悪役令嬢の私の味方を?
「実はジェラールにも同じような予言が届いたみたいなの」
「ジェラールにも!?」
「あの子が勇気ある決断をしたのも何としてでもそんな未来を防ぎたかったんでしょう」
「そうですか……それで、一体この手紙は誰が送ったのですか?」
「ジェラールも調べさせたのだけれど追跡出来なかったそうよ。だから、この特徴ある文字を鑑定にかけて……驚愕の事実が分かったわ」
深刻な面持ちでお義母様が私に提示したのは……王立学園の授業で提出した課題? 確かに手紙と同じ丸く可愛らしい文字で綴られている。結構正解率が良いので普通に優等生みたいだったけれど、そんなのは些事ね。
だってコレ、あの芋女こと男爵令嬢ルシアの名が書かれているもの。
「意味が分からないでしょう? わたくしも鑑定結果を報告された時は耳を疑ったわ。だってこれ等を本当にあの娘が書いたのなら、アレクサンドラに返り討ちにあって恋敗れた今の状況こそ彼女が望んだ結末になるもの」
一年前に事情聴取した際もざまぁされたヒロインのテンプレみたいな「こんなの脚本に無かった」「どうしてヒロインのわたしが」なんて間抜けた供述してたけれど、それすら演技で内心では願いどおりになったってほくそ笑んでたってわけ?
「お義母様。もう一度取り調べてみるべきかと進言します」
こればっかりは他の人達には任せられない。
私自身が彼女に確かめるしかないわ。
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