文字の大きさ
大
中
小
41 / 88
Interlude1 アレクサンドラのその後
元王太子アルフォンソの陥落(前)
■Side アルフォンソ
アルフォンソは未だに男爵令嬢ルシアを愛していた。
アレクサンドラへの断罪に失敗して本性を表したルシアを目の当たりにしても、だ。
王国南部の土地に巣食う蛮族共を聖戦で蹴散らせばその功績をもって過酷な修道院に収容されたルシアを救い出せる、と踏んでいた。改めてルシアを迎え、公爵に封ぜられた新天地で彼女とともに新たな生活を送る未来を思い描いて。
アルフォンソのもとにはたまにルシアから手紙が送られてきた。内容はアルフォンソへの愛と学園生活を懐かしむ思い出話、そしてアルフォンソの身を案ずる心配と無事に帰ってきてほしいという願いが込められていた。
「やはりあの時はアレクサンドラの奴が追い詰めたせいで一時的に焦ったためだろう」
アルフォンソは都合のいいように解釈した。ルシアが未だに自分を気にかけてくれている、自分の帰還を待っている、その事実だけでも甘美に酔った。そして改めて聖戦での勝利を愛しい女性に捧げる誓いを立てたのだった。
そんな中、アルフォンソの元に匿名の手紙が届けられた。
それは明らかにルシアの筆跡で書かれていたが、内容はいつもの恋文と明らかに違っていた。何せ、彼が敗北して囚われの身になることを前提とした対応策がただ淡々と記されていただけだったから。
自分を騙すだけなら恋文と同じようにルシアの署名と修道院の封蝋を押せばいい。それに愛の言葉を前文にした方が明らかに説得力がある。かと言って本当にルシアが送ってきたにしては匿名にする理由も思い浮かばない。
結局のところアルフォンソは心に留めていく程度で済ませた。まさかそれが彼の生死を分ける結果となるだなんてその時は微塵も考えていなかった。
そして、聖戦は大敗という最悪の結末を迎えた。
捕らえられたアルフォンソは蛮族達の尋問を受けた。彼を人質として要求した多額の賠償金と領土割譲は国王により突っぱねられたため、彼から有益な情報を搾り取る方針に転換され、尋問はやがて拷問へと変わっていった。
どの程度痛めつけられる度にどの情報を漏らせばいいか、指示書には事細かく書かれていた。その情報も王国に大した影響のないものや微妙に数値が古かったりデタラメだったりする偽物ばかり。しかし蛮族共に判別は付かない。指示書通りに事が運んだ。
「お前、向こうでは王太子だったんだろ? そんな口が軽くていいのか?」
蛮族共の中で立場が上の者が蔑みながら質問してきた時もあった。
そんな時、命が惜しいからという理由では即座にその首ははねられていただろう。
だから、本音半分嘘半分で彼は演じる。己の復讐で国を売る愚か者を。
「私は王太子の座を追われて無茶な遠征軍の大将に祭り上げられたんだ。これで少しは私の苦労も分かって欲しいものさ」
洗いざらい喋ったところでアルフォンソは解放された。彼を見せしめに処刑してその死骸を送りつけたところで王国にはさほど効果が無いと判断されたからだ。とどのつまり、殺す価値もないから放逐されたに過ぎない。
「何とでも言え! 私はルシアのもとに帰らねばならん……!」
全てはルシアを手に入れるためだ。その為なら泥水だって啜ろうじゃないか。
もはや王太子の座を追われ、王家より離され、民や友人から白い目で見られようが構わない。彼にとっての拠り所はルシアのみであり、彼女さえ取り戻せれば良い。それはもはや恋路を通り越した依存である、との自覚がありつつも想いは止められない。
「ダリアは私とジェラールの娘として育てますので」
甘んじて幽閉生活を送っていたある日、かつての婚約者であり現王太子妃、そして転落の元凶であるアレクサンドラが赤子を連れて面会にやってきた。しかもその赤子はアルフォンソとルシアの娘だと語ってきた。
まさかあの一夜で子を授かったなどと全く知らなかったアルフォンソにとっては青天の霹靂だった。ルシアとの間に愛娘が生まれた喜びと、それをあろうことかアレクサンドラが自分の娘にすると言い出した怒りで内心がぐちゃぐちゃになった。
しかし、と冷静になって考える。
ルシアは修道院に、自分は幽閉中。ならダリアはどうなる? アルフォンソの醜態はアレクサンドラの策略で市民に晒されている。その情事で生まれた娘が一体どんな誹りを受けるのか、どれほど悲しみに襲われるのか分かったものではない。
(ルシアの実家に預ける……? いや、止めておくべきか。ただでさえルシアが私達を誑かした悪女などという誹謗中傷を受けているせいで肩身が狭い思いをしているんだ。その上でダリアまで任せられないな)
結局、現時点ではアレクサンドラに託すのが最善手との結論に至った。しかしアルフォンソは娘のダリアを完全に手放すつもりは無かった。いつか必ずルシアを取り戻す日が来る。その暁には迎えに行こう、そう固く心に誓った。
……結局その願いが叶うことは無かったのだが。
アルフォンソは未だに男爵令嬢ルシアを愛していた。
アレクサンドラへの断罪に失敗して本性を表したルシアを目の当たりにしても、だ。
王国南部の土地に巣食う蛮族共を聖戦で蹴散らせばその功績をもって過酷な修道院に収容されたルシアを救い出せる、と踏んでいた。改めてルシアを迎え、公爵に封ぜられた新天地で彼女とともに新たな生活を送る未来を思い描いて。
アルフォンソのもとにはたまにルシアから手紙が送られてきた。内容はアルフォンソへの愛と学園生活を懐かしむ思い出話、そしてアルフォンソの身を案ずる心配と無事に帰ってきてほしいという願いが込められていた。
「やはりあの時はアレクサンドラの奴が追い詰めたせいで一時的に焦ったためだろう」
アルフォンソは都合のいいように解釈した。ルシアが未だに自分を気にかけてくれている、自分の帰還を待っている、その事実だけでも甘美に酔った。そして改めて聖戦での勝利を愛しい女性に捧げる誓いを立てたのだった。
そんな中、アルフォンソの元に匿名の手紙が届けられた。
それは明らかにルシアの筆跡で書かれていたが、内容はいつもの恋文と明らかに違っていた。何せ、彼が敗北して囚われの身になることを前提とした対応策がただ淡々と記されていただけだったから。
自分を騙すだけなら恋文と同じようにルシアの署名と修道院の封蝋を押せばいい。それに愛の言葉を前文にした方が明らかに説得力がある。かと言って本当にルシアが送ってきたにしては匿名にする理由も思い浮かばない。
結局のところアルフォンソは心に留めていく程度で済ませた。まさかそれが彼の生死を分ける結果となるだなんてその時は微塵も考えていなかった。
そして、聖戦は大敗という最悪の結末を迎えた。
捕らえられたアルフォンソは蛮族達の尋問を受けた。彼を人質として要求した多額の賠償金と領土割譲は国王により突っぱねられたため、彼から有益な情報を搾り取る方針に転換され、尋問はやがて拷問へと変わっていった。
どの程度痛めつけられる度にどの情報を漏らせばいいか、指示書には事細かく書かれていた。その情報も王国に大した影響のないものや微妙に数値が古かったりデタラメだったりする偽物ばかり。しかし蛮族共に判別は付かない。指示書通りに事が運んだ。
「お前、向こうでは王太子だったんだろ? そんな口が軽くていいのか?」
蛮族共の中で立場が上の者が蔑みながら質問してきた時もあった。
そんな時、命が惜しいからという理由では即座にその首ははねられていただろう。
だから、本音半分嘘半分で彼は演じる。己の復讐で国を売る愚か者を。
「私は王太子の座を追われて無茶な遠征軍の大将に祭り上げられたんだ。これで少しは私の苦労も分かって欲しいものさ」
洗いざらい喋ったところでアルフォンソは解放された。彼を見せしめに処刑してその死骸を送りつけたところで王国にはさほど効果が無いと判断されたからだ。とどのつまり、殺す価値もないから放逐されたに過ぎない。
「何とでも言え! 私はルシアのもとに帰らねばならん……!」
全てはルシアを手に入れるためだ。その為なら泥水だって啜ろうじゃないか。
もはや王太子の座を追われ、王家より離され、民や友人から白い目で見られようが構わない。彼にとっての拠り所はルシアのみであり、彼女さえ取り戻せれば良い。それはもはや恋路を通り越した依存である、との自覚がありつつも想いは止められない。
「ダリアは私とジェラールの娘として育てますので」
甘んじて幽閉生活を送っていたある日、かつての婚約者であり現王太子妃、そして転落の元凶であるアレクサンドラが赤子を連れて面会にやってきた。しかもその赤子はアルフォンソとルシアの娘だと語ってきた。
まさかあの一夜で子を授かったなどと全く知らなかったアルフォンソにとっては青天の霹靂だった。ルシアとの間に愛娘が生まれた喜びと、それをあろうことかアレクサンドラが自分の娘にすると言い出した怒りで内心がぐちゃぐちゃになった。
しかし、と冷静になって考える。
ルシアは修道院に、自分は幽閉中。ならダリアはどうなる? アルフォンソの醜態はアレクサンドラの策略で市民に晒されている。その情事で生まれた娘が一体どんな誹りを受けるのか、どれほど悲しみに襲われるのか分かったものではない。
(ルシアの実家に預ける……? いや、止めておくべきか。ただでさえルシアが私達を誑かした悪女などという誹謗中傷を受けているせいで肩身が狭い思いをしているんだ。その上でダリアまで任せられないな)
結局、現時点ではアレクサンドラに託すのが最善手との結論に至った。しかしアルフォンソは娘のダリアを完全に手放すつもりは無かった。いつか必ずルシアを取り戻す日が来る。その暁には迎えに行こう、そう固く心に誓った。
……結局その願いが叶うことは無かったのだが。
感想 249
あなたにおすすめの小説
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
由香【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「役立たず」と離婚された侯爵夫人ですが、実家が世界一のお金持ちでした
由香「役立たず」と言われ、愛人のために離婚を突きつけられた侯爵夫人エレノア。
だが、夫は知らなかった。
彼女の実家が、王国どころか世界一の財閥だったことを。
離婚と同時に援助は打ち切られ、侯爵家はあっという間に崩壊。
破産寸前となった元夫は土下座で復縁を懇願するが…。
「申し訳ありません。そのお願いは、お断りします。」
これは、支える側だった令嬢が本当の幸せを手に入れる、痛快ざまぁストーリー。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
王太子殿下、最初の一曲は私ではないのですね 〜我慢をやめた公爵令嬢は、婚約指輪をお返しいたします〜
ゆぷしろん 王太子カーティスの婚約者フローラは、彼に何度も「君なら分かってくれる」と我慢を強いられてきた。王宮の茶会や演奏会、誕生日の晩餐までも、殿下は王弟の落胤であるサビーナを優先し、フローラの傷を見ようとしない。ついに生誕舞踏会の最初の一曲まで奪われた彼女は、周囲の視線にさらされながらも笑顔の裏で限界を迎え、婚約解消を決意する。
翌日、王妃の前でこれまでの扱いを訴えると、サビーナもまた殿下の都合のよい言葉に利用されていたと判明。カーティスは自分の甘えと無責任さを認めきれず、国王は婚約解消と王太子活動の停止を命じる。
フローラは誰かの都合に合わせ続ける人生をやめ、自分の心を優先する穏やかな日々を取り戻す。そして、彼女を一人の人として尊重するルシアンの手を取り、初めて自ら望んだ新たな未来へ歩み出していく。