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Interlude1 アレクサンドラのその後
王妃マリアネアの回想(後)
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「……様、王妃様?」
「あ……、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃってたわ」
「そうでしたか……あの、こちらをお使いください」
マリアネアはエロディアから差し出されたハンカチで自分が涙を流していることにようやく気付いた。ありがたくハンカチで涙を拭い、机に置こうとしてエロディアに回収された。
「それで今この王宮は突然やってきた黒づくめの殿方の話題で持ち切りってわけね」
「あ、いえ。黒づくめの婦人です」
「……なんですって?」
「何でもイシドロ氏の奥方だとか。そうなると年齢は王妃様の少し上になるのでしょうか?」
てっきり男だとばかり思っていたマリアネアはエロディアからの否定に驚愕した。そして同時に「まさか」との思いに支配された。
いてもたってもいられなかったマリアネアは部屋を飛び出す。
侍女からの制止の声を一切耳に留めずに。
爛れて歪んだ肌と顔を隠す黒ずくめの婦人、年齢は自分より少し上。
大商人の妻として経済界の第一線で活躍する手腕。
マリアネアにとってはそれだけの判断材料でも希望にすがるには充分だった。
そしてマリアネアは中からの返事も聞かず、アレクサンドラの部屋へ突撃した。
「お義母様?」
「王妃陛下……!? これは一体……」
中には娘同然に愛するアレクサンドラ、その子が信頼する侍女のセナイダ。そして噂されていた黒づくめの婦人がいた。アレクサンドラとセナイダはほぼ同時に驚きをあらわにして、黒づくめの婦人は……視線をそらしてきた。
「生きて、いたんですね……」
力なく膝から崩れ落ちたマリアネアに対して黒づくめの婦人は窓の方へ顔を背けた。
その自分に負い目を感じた時のごまかし方、マリアネアにとっては懐かしかった。
間違いない。希望は確信へと変わった。
「お姉様……!」
神よ。尊敬し、愛した姉を天より帰してくださったこと、感謝致します。
□□□
「王妃陛下がどなたと間違えてらっしゃるのかは存じませんが、人違いです」
「いいえ、私が敬愛するミレイアお姉様を見間違えるはずがありません!」
「とんでもない! わたくしはただのしがない商人の嫁に過ぎません」
「……何コレ?」
何か目の前でお義母様とミランダが言い争いを始めたんだけれど。私やセナイダはおろか、エロディア達この場にいた王宮の面々全員が蚊帳の外じゃないの。少し長引きそうだし、お茶でも飲んでようかしらね。
私を守っていたセナイダにも座るよう促す。「侍女が座るわけには」と固辞してきたので「その前に次期公爵夫人でしょうよ」と事実を突きつけてやった。諦めたセナイダは深くため息を漏らしながらも私の隣に腰を落ち着ける。
「お義母様の姉君って……王太子妃になっていたかもしれないミレイア様のこと?」
「言われてみればわたしも伺ったことがあります。不幸な事故で亡くなったとか」
「不幸? 故意のじゃなくて?」
「それはあくまで噂に過ぎません。事件性を示す証拠は出ませんでしたから」
私達が雑談している最中もお義母様とミランダの衝突は白熱していく。お義母様がこれこれこういう根拠でミランダはミレイアだと主張して、ミランダはそれを滑稽無糖だとせせら笑うばかり。話は平行線のようね。
「もういいです! 王宮騎士達、王妃マリアネアが命じます! 直ちに商人ミランダを拘束なさい!」
「はぁ!? え、ちょっと、嘘でしょう……!?」
どうすればいいのか戸惑っていた王宮騎士達も一度主人から命令が下さればすぐさま行動を開始した。鍛え抜かれた屈強な男達はミランダの抗議の声を無視して彼女を左右から取り押さえた。
身動きが取れなくなったミランダへとお義母様が歩み寄り、手を頭の後ろに回す。仮面を固定する紐の結び目がある後頭部へと。
「お姉様、久しぶりにこの妹にそのお顔を見せてください」
「お止めください、わたくしの顔はとても見せられないほど醜く……」
「知っていますが、それが何か問題でも?」
ミランダは観念したのか身体から力を抜いた。それから自分を捕まえる騎士達に離れるよう頼み込む。お義母様から許可が下ると騎士達は離れ、ミランダは面と向かってお義母様と対峙した。
そして、自らの手で仮面を固定する紐の結び目を解いていく。
「全く……王妃になっても言い出したら聞かないのは直らなかったのね」
外されるミランダの顔を覆い隠した仮面。そして顕になった素顔は……確かに彼女の主張通り醜く爛れて歪んでいた。その……口元はまだマシな方で目は瞼が溶けたのか眼球があらわになってるし。本当に申し訳ないんだけれど、悲鳴が漏れてしまった。
そんな大火傷の跡が残った婦人を前に、お義母様は涙をとめどなく流した。
「ただいま、マリアネア。元気にしてた?」
「お姉様……お姉様ぁ……!」
たまらなくなったお義母様がミランダに飛び込み、彼女の胸の中で泣き出す。そんなお義母様をあやすようにミランダが優しく頭を撫でる。その優しさがお義母様の感動に更に拍車をかけて、大泣きは止まりそうにない。
ここまでされるとこっちも実感が湧いてきた。
もらい泣きしそうだったから拍手でもしてごまかすか。
すると私に同調してセナイダやエロディア達まで温かい拍手を二人に送った。
「あ……、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃってたわ」
「そうでしたか……あの、こちらをお使いください」
マリアネアはエロディアから差し出されたハンカチで自分が涙を流していることにようやく気付いた。ありがたくハンカチで涙を拭い、机に置こうとしてエロディアに回収された。
「それで今この王宮は突然やってきた黒づくめの殿方の話題で持ち切りってわけね」
「あ、いえ。黒づくめの婦人です」
「……なんですって?」
「何でもイシドロ氏の奥方だとか。そうなると年齢は王妃様の少し上になるのでしょうか?」
てっきり男だとばかり思っていたマリアネアはエロディアからの否定に驚愕した。そして同時に「まさか」との思いに支配された。
いてもたってもいられなかったマリアネアは部屋を飛び出す。
侍女からの制止の声を一切耳に留めずに。
爛れて歪んだ肌と顔を隠す黒ずくめの婦人、年齢は自分より少し上。
大商人の妻として経済界の第一線で活躍する手腕。
マリアネアにとってはそれだけの判断材料でも希望にすがるには充分だった。
そしてマリアネアは中からの返事も聞かず、アレクサンドラの部屋へ突撃した。
「お義母様?」
「王妃陛下……!? これは一体……」
中には娘同然に愛するアレクサンドラ、その子が信頼する侍女のセナイダ。そして噂されていた黒づくめの婦人がいた。アレクサンドラとセナイダはほぼ同時に驚きをあらわにして、黒づくめの婦人は……視線をそらしてきた。
「生きて、いたんですね……」
力なく膝から崩れ落ちたマリアネアに対して黒づくめの婦人は窓の方へ顔を背けた。
その自分に負い目を感じた時のごまかし方、マリアネアにとっては懐かしかった。
間違いない。希望は確信へと変わった。
「お姉様……!」
神よ。尊敬し、愛した姉を天より帰してくださったこと、感謝致します。
□□□
「王妃陛下がどなたと間違えてらっしゃるのかは存じませんが、人違いです」
「いいえ、私が敬愛するミレイアお姉様を見間違えるはずがありません!」
「とんでもない! わたくしはただのしがない商人の嫁に過ぎません」
「……何コレ?」
何か目の前でお義母様とミランダが言い争いを始めたんだけれど。私やセナイダはおろか、エロディア達この場にいた王宮の面々全員が蚊帳の外じゃないの。少し長引きそうだし、お茶でも飲んでようかしらね。
私を守っていたセナイダにも座るよう促す。「侍女が座るわけには」と固辞してきたので「その前に次期公爵夫人でしょうよ」と事実を突きつけてやった。諦めたセナイダは深くため息を漏らしながらも私の隣に腰を落ち着ける。
「お義母様の姉君って……王太子妃になっていたかもしれないミレイア様のこと?」
「言われてみればわたしも伺ったことがあります。不幸な事故で亡くなったとか」
「不幸? 故意のじゃなくて?」
「それはあくまで噂に過ぎません。事件性を示す証拠は出ませんでしたから」
私達が雑談している最中もお義母様とミランダの衝突は白熱していく。お義母様がこれこれこういう根拠でミランダはミレイアだと主張して、ミランダはそれを滑稽無糖だとせせら笑うばかり。話は平行線のようね。
「もういいです! 王宮騎士達、王妃マリアネアが命じます! 直ちに商人ミランダを拘束なさい!」
「はぁ!? え、ちょっと、嘘でしょう……!?」
どうすればいいのか戸惑っていた王宮騎士達も一度主人から命令が下さればすぐさま行動を開始した。鍛え抜かれた屈強な男達はミランダの抗議の声を無視して彼女を左右から取り押さえた。
身動きが取れなくなったミランダへとお義母様が歩み寄り、手を頭の後ろに回す。仮面を固定する紐の結び目がある後頭部へと。
「お姉様、久しぶりにこの妹にそのお顔を見せてください」
「お止めください、わたくしの顔はとても見せられないほど醜く……」
「知っていますが、それが何か問題でも?」
ミランダは観念したのか身体から力を抜いた。それから自分を捕まえる騎士達に離れるよう頼み込む。お義母様から許可が下ると騎士達は離れ、ミランダは面と向かってお義母様と対峙した。
そして、自らの手で仮面を固定する紐の結び目を解いていく。
「全く……王妃になっても言い出したら聞かないのは直らなかったのね」
外されるミランダの顔を覆い隠した仮面。そして顕になった素顔は……確かに彼女の主張通り醜く爛れて歪んでいた。その……口元はまだマシな方で目は瞼が溶けたのか眼球があらわになってるし。本当に申し訳ないんだけれど、悲鳴が漏れてしまった。
そんな大火傷の跡が残った婦人を前に、お義母様は涙をとめどなく流した。
「ただいま、マリアネア。元気にしてた?」
「お姉様……お姉様ぁ……!」
たまらなくなったお義母様がミランダに飛び込み、彼女の胸の中で泣き出す。そんなお義母様をあやすようにミランダが優しく頭を撫でる。その優しさがお義母様の感動に更に拍車をかけて、大泣きは止まりそうにない。
ここまでされるとこっちも実感が湧いてきた。
もらい泣きしそうだったから拍手でもしてごまかすか。
すると私に同調してセナイダやエロディア達まで温かい拍手を二人に送った。
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