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Interlude1 アレクサンドラのその後
大商人夫人ミランダの正体(前)
「大変お騒がせしました……」
お義母様が落ち着いた所で仕切り直し。
ミランダ……いえ、ミレイアは仮面を顔の左半分だけを覆うものに交換した。すると無事な方の右側は確かにお義母様によく似ている。確かに実の姉妹なんだな、と二人が並ぶと自然と納得してしまった。
ミレイアは非常に居心地が悪そう。その原因は隣に座る妹のマリアネア王妃陛下に他ならない。お義母様は相当実の姉を慕っているのか、逃さないと言わんばかりにミレイアの手を掴んでいる。
「それでお姉様、この二十年以上もの間どこにいたの?」
「……それよりも、そんな長い間連絡も取らなかったわたくしを恨んでいないの?」
「理由なんて察しがついているからどうでもいいわ」
第三者の私からしたらどうでもよくないんだけれど、何となくは想像は出来る。
お義母様の父君である前公爵が伝え聞く通りの評判なら、かの者は貴族を至高の存在と捉えるような輩なんでしょう。自分で作った敵に屋敷を焼かれて、王太子妃候補筆頭の娘に跡が残る大火傷を負わせ、挙げ句は役立たずだと表舞台から退場させた、と。
なら、生き延びたと知られたら刺客を送られてくるのは自明の理。だから死んだと見せかけて別人として新たな人生を歩み出さなきゃいけなかったわけか。その過程で彼女は公爵令嬢だったミレイアの名を捨ててミランダになった、と。
「馬車ごと崖から落ちたわたくしは谷底に流れる河に流されて、下流で助けられたの。気を失ってたから分からなかったんだけれど、流木にしがみついてたわたくしを助け出したのが今の夫だったのよ」
「は? あのイシドロが?」
思わず口を挟んでしまったわ。でもそれだけ意外だったんだもの。
信じられないと声を上げた私に気分を害する事無く、ミレイアは若干照れながら頬に手を当てた。
「意外でしょう。あの体型だものね。わたくしも実際に見なきゃ信じられなかったわ。でも本当にあの人泳ぐのは得意なのよ」
想像もしなかった長所があったのね。人は見かけによらないというか。ちょっとあのイシドロが水泳に打ち込む姿を想像してみると……平泳ぎにしろクロールにしろ笑いを堪えられる自信が全く無いわ。
いや、それより驚きなのがミレイアを救うためにイシドロ自らが河に飛び込んだことか。彼なら部下に任せればいいのに。
もしかしてイシドロったら河に流れる美女に一目惚れして自分でも予想外な行動に出ちゃったとか? 今度問い詰めてみよ。
「これからどうしようって迷っていたら夫から仕事を手伝わないかって誘われて、やってるうちに面白くなっちゃって、そのうち熱烈な求婚を受けるようになって、ほだされたわたくしが快諾して、家族を作って今に至る、と」
「お姉様。商会に勤めていたならこちら側の情報も伝わっていたでしょう」
そんな惚気話を披露するミレイアへ向けるお義母様の言葉は冷たさを感じさせた。いえ、どちらかというと静かなる怒りが渦巻いている、って表現をすべきかしらね。エロディア達侍女一同が悲鳴をあげそうになるぐらいに。
「お姉様を排除したお父様には私が王太子妃になって数年後に引退してもらったわ。それから領地のお屋敷に隠居してもらったし、それからすぐに不慮の事故で亡くなってるの。もうお姉様を脅かすお父様はいないのよ」
「知ってるわ。馬車で移動していたら落盤があって岩に押しつぶされたんですってね」
その話は私もお父様から聞いた覚えがある。前公爵が領地から王都に向かう最中、山間部の道で落盤事故があって、巻き込まれたんですってね。岩の下から回収された公爵の遺体はぺしゃんこのミンチになっていたんだとか。
「……!? お姉様、まさか――」
「身分も名前も捨てたわたくしがあの男に恨みや未練を残していると思って? 冗談、イシドロの妻として商会に身を置く充実した毎日を送っているのに、わざわざ過去に引きづられるなんて馬鹿みたいじゃないの」
「そう、よね……」
商会の人脈と資産を復讐のために使ったんじゃないか、ってお義母様の懸念をミレイアは一笑に付した。お義母様は納得してない様子だったけれど、ミレイアが断言するものだからそれ以上の追求は避けたようだ。
ただ、あくまで私の想像だけれど、現公爵、つまりお義母様の兄君が果たして姉を容赦なく切り捨てた冷血な貴族を引退だけで済ますかしら? 私がやったみたいに裏の仕事をミレイアに依頼して、事故に見せかけて亡き者にしたんじゃないの?
まあ、もしそうだとしてもミレイアは絶対に口を割らないでしょう。商会の信用を失いかねない守秘義務を破る真似なんてしないでしょうし、何よりお義母様に不利に働く迂闊な暴露をするわけがないもの。
お義母様が落ち着いた所で仕切り直し。
ミランダ……いえ、ミレイアは仮面を顔の左半分だけを覆うものに交換した。すると無事な方の右側は確かにお義母様によく似ている。確かに実の姉妹なんだな、と二人が並ぶと自然と納得してしまった。
ミレイアは非常に居心地が悪そう。その原因は隣に座る妹のマリアネア王妃陛下に他ならない。お義母様は相当実の姉を慕っているのか、逃さないと言わんばかりにミレイアの手を掴んでいる。
「それでお姉様、この二十年以上もの間どこにいたの?」
「……それよりも、そんな長い間連絡も取らなかったわたくしを恨んでいないの?」
「理由なんて察しがついているからどうでもいいわ」
第三者の私からしたらどうでもよくないんだけれど、何となくは想像は出来る。
お義母様の父君である前公爵が伝え聞く通りの評判なら、かの者は貴族を至高の存在と捉えるような輩なんでしょう。自分で作った敵に屋敷を焼かれて、王太子妃候補筆頭の娘に跡が残る大火傷を負わせ、挙げ句は役立たずだと表舞台から退場させた、と。
なら、生き延びたと知られたら刺客を送られてくるのは自明の理。だから死んだと見せかけて別人として新たな人生を歩み出さなきゃいけなかったわけか。その過程で彼女は公爵令嬢だったミレイアの名を捨ててミランダになった、と。
「馬車ごと崖から落ちたわたくしは谷底に流れる河に流されて、下流で助けられたの。気を失ってたから分からなかったんだけれど、流木にしがみついてたわたくしを助け出したのが今の夫だったのよ」
「は? あのイシドロが?」
思わず口を挟んでしまったわ。でもそれだけ意外だったんだもの。
信じられないと声を上げた私に気分を害する事無く、ミレイアは若干照れながら頬に手を当てた。
「意外でしょう。あの体型だものね。わたくしも実際に見なきゃ信じられなかったわ。でも本当にあの人泳ぐのは得意なのよ」
想像もしなかった長所があったのね。人は見かけによらないというか。ちょっとあのイシドロが水泳に打ち込む姿を想像してみると……平泳ぎにしろクロールにしろ笑いを堪えられる自信が全く無いわ。
いや、それより驚きなのがミレイアを救うためにイシドロ自らが河に飛び込んだことか。彼なら部下に任せればいいのに。
もしかしてイシドロったら河に流れる美女に一目惚れして自分でも予想外な行動に出ちゃったとか? 今度問い詰めてみよ。
「これからどうしようって迷っていたら夫から仕事を手伝わないかって誘われて、やってるうちに面白くなっちゃって、そのうち熱烈な求婚を受けるようになって、ほだされたわたくしが快諾して、家族を作って今に至る、と」
「お姉様。商会に勤めていたならこちら側の情報も伝わっていたでしょう」
そんな惚気話を披露するミレイアへ向けるお義母様の言葉は冷たさを感じさせた。いえ、どちらかというと静かなる怒りが渦巻いている、って表現をすべきかしらね。エロディア達侍女一同が悲鳴をあげそうになるぐらいに。
「お姉様を排除したお父様には私が王太子妃になって数年後に引退してもらったわ。それから領地のお屋敷に隠居してもらったし、それからすぐに不慮の事故で亡くなってるの。もうお姉様を脅かすお父様はいないのよ」
「知ってるわ。馬車で移動していたら落盤があって岩に押しつぶされたんですってね」
その話は私もお父様から聞いた覚えがある。前公爵が領地から王都に向かう最中、山間部の道で落盤事故があって、巻き込まれたんですってね。岩の下から回収された公爵の遺体はぺしゃんこのミンチになっていたんだとか。
「……!? お姉様、まさか――」
「身分も名前も捨てたわたくしがあの男に恨みや未練を残していると思って? 冗談、イシドロの妻として商会に身を置く充実した毎日を送っているのに、わざわざ過去に引きづられるなんて馬鹿みたいじゃないの」
「そう、よね……」
商会の人脈と資産を復讐のために使ったんじゃないか、ってお義母様の懸念をミレイアは一笑に付した。お義母様は納得してない様子だったけれど、ミレイアが断言するものだからそれ以上の追求は避けたようだ。
ただ、あくまで私の想像だけれど、現公爵、つまりお義母様の兄君が果たして姉を容赦なく切り捨てた冷血な貴族を引退だけで済ますかしら? 私がやったみたいに裏の仕事をミレイアに依頼して、事故に見せかけて亡き者にしたんじゃないの?
まあ、もしそうだとしてもミレイアは絶対に口を割らないでしょう。商会の信用を失いかねない守秘義務を破る真似なんてしないでしょうし、何よりお義母様に不利に働く迂闊な暴露をするわけがないもの。
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