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Interlude1 アレクサンドラのその後
侯爵令嬢レティシアの引越(前)
フェリペ殿下がお付きの秘書官である侯爵令嬢レティシアに乱暴を働いた騒動は公式に調査されることになった。何しろ仕事一辺倒だったあの王弟殿下がご乱心召されるなんて異変に違いない、って誰もが思ったものだから、まあ当然と言えるわ。
真相は私がイシドロの商会から仕入れた効き目抜群の媚薬をレティシアに譲って、彼女がフェリペ殿下の紅茶に盛ったせいだ。本格的に捜査されたら最後、レティシアはおろか私にも罪が波及して咎められるのは間違い無いでしょう。
勿論王太子妃にまで上り詰めた私なら揉み消しだって不可能じゃない。国王王妃両陛下は私の味方だから、芋女に現を抜かす有様をこれ以上見たくなかった、と正直に告白すれば捜査の打ち切りを命じてくれた可能性も高い。
けれど、私はあえて成り行きに任せた。
だって何とかなるって確信があったんだもの。
「王弟殿下自らが捜査の打ち切りを命じられるとは……」
「あの方にとってレティシア様はそれほど大切な方だった、ってことなんでしょう」
私の予想通りフェリペ殿下はレティシアを庇った。
あの方曰く、彼にとってレティシアは共に国を支える同志のような存在であり、そして共に時間を過ごすと安心する友人であり、妹のような大切な存在でもあった。女性として意識した回数は少なくなかったが、国のためにと自らを戒めた。
なのに、あのルシアが現れたせいで全てが狂った。恋など知らなくて良い、愛と自分は無関係だ、と言い張るフェリペ殿下の心の隙間にルシアは言葉巧みに入り込んでいった。時には尊敬し、時には励まし、時には笑わせて。
ルシアに心奪われたと自覚したのは皮肉にも秘書官に徹し続けていたレティシアがルシアへの嫉妬を顕にしたためだ。ルシアを愛しているのは確かだったけれど、そのためにレティシアを悲しませたとの罪悪感は心に根を張り続けた。
「逆ハーレムとやらなんて実現できるわけないでしょうに。フェリペ殿下方は一体何を考えてらっしゃったのでしょうね」
「さあ? 添い遂げられない女の虜になり続ける決心をした男の心の中なんて知りたくもないわ」
これからは国だけでなくルシア個人の支えになると誓った殿下だったけれど、ものの見事に私の悪意……いえ、レティシアの執念で打ち砕かれたってわけ。もうここまで来ると彼女にあっぱれとしか言いようがないわよ。
媚薬で理性を崩壊させられてレティシアを抱いた殿下は、それで正気に戻ったそうな。ルシアへの恋はこれまで国に尽くす自分を傍らから支えてきたレティシアを突き放してまで本当に求めるものだったのか、ってね。
「賢者タイムにでもなったのかしらね」
「その『けんじゃたいむ』とやらの意味は存じませんが、下世話なものとは察しが付きますからね」
情事が終わった後、レティシアは全てを殿下に打ち明けたそうな。振り向いてもらえないから薬に手を染めてしまった。けれどもう一度同じ目にあっても同じようにしたに違いない。如何様な罰も謹んで受けるつもりだ。もう自分に悔いはない、と。
フェリペ殿下はレティシアに謝罪し、今後は共に生きていこう、と語った。愛しているか、との問いに答えようとした殿下の口はレティシアの口付けで塞がれた。もう我慢しない、絶対に自分を愛するようにしてみせる、と宣言しながら。
「それでお嬢様。どうしてフェリペ殿下とレティシア様の恋路の振り返りを?」
そんなわけであの騒動の調査が正式に打ち切られたのが数日前。私とセナイダは休憩時間中のお茶会を過ごしていた。やっぱりこうして何の気兼ねも無く喋れる相手がいると楽しいわね。
「これまでフェリペ殿下は独身であり続けたからこそ王宮に留まって、王家の一員として公務に明け暮れていたでしょう。けれど、レティシア様の愛を受け入れたことで状況は変わってしまったわ」
「陛下の御子はお三方共立派に成長なさりましたし、いつまでも王弟が残るわけにもいきませんか」
「だから今回を丁度いいきっかけにして、正式に臣籍降下なさるんですって。その意志を昨日国王陛下に伝えたそうよ」
「そうでしたか。では王宮がここ数日賑やかなのは……」
フェリペ殿下は昨日をもって一代限りの公爵に封ぜられた。王家から外れたことで王家の居住する王宮からは離れることになった。直轄領の一部を公爵領として割譲、邸宅も与えられたので、そちらに移り住む予定だ、とお義母様から聞いた。
だから今頃は引っ越しの準備で慌ただしいことでしょう。公爵邸から私物と結納品、嫁入り道具をこっちに送るだけで済んだ私の時も結構大掛かりだったものね。住居丸ごと引き払ってなんてどれだけの規模になることやら。
「ねえセナイダ。折角だからあっちの様子を見に行かない?」
「今日の分の公務は滞りなく終えていますし、問題はありませんが……単に面白そうだからって理由ですよね?」
「嫌ねえ。義理の叔父夫婦の新たな門出を祝うのがそんなにいけない?」
「その元凶がどの口が言いますか……」
と呆れるセナイダも何だかんだで私に同行するのでしたとさ。
真相は私がイシドロの商会から仕入れた効き目抜群の媚薬をレティシアに譲って、彼女がフェリペ殿下の紅茶に盛ったせいだ。本格的に捜査されたら最後、レティシアはおろか私にも罪が波及して咎められるのは間違い無いでしょう。
勿論王太子妃にまで上り詰めた私なら揉み消しだって不可能じゃない。国王王妃両陛下は私の味方だから、芋女に現を抜かす有様をこれ以上見たくなかった、と正直に告白すれば捜査の打ち切りを命じてくれた可能性も高い。
けれど、私はあえて成り行きに任せた。
だって何とかなるって確信があったんだもの。
「王弟殿下自らが捜査の打ち切りを命じられるとは……」
「あの方にとってレティシア様はそれほど大切な方だった、ってことなんでしょう」
私の予想通りフェリペ殿下はレティシアを庇った。
あの方曰く、彼にとってレティシアは共に国を支える同志のような存在であり、そして共に時間を過ごすと安心する友人であり、妹のような大切な存在でもあった。女性として意識した回数は少なくなかったが、国のためにと自らを戒めた。
なのに、あのルシアが現れたせいで全てが狂った。恋など知らなくて良い、愛と自分は無関係だ、と言い張るフェリペ殿下の心の隙間にルシアは言葉巧みに入り込んでいった。時には尊敬し、時には励まし、時には笑わせて。
ルシアに心奪われたと自覚したのは皮肉にも秘書官に徹し続けていたレティシアがルシアへの嫉妬を顕にしたためだ。ルシアを愛しているのは確かだったけれど、そのためにレティシアを悲しませたとの罪悪感は心に根を張り続けた。
「逆ハーレムとやらなんて実現できるわけないでしょうに。フェリペ殿下方は一体何を考えてらっしゃったのでしょうね」
「さあ? 添い遂げられない女の虜になり続ける決心をした男の心の中なんて知りたくもないわ」
これからは国だけでなくルシア個人の支えになると誓った殿下だったけれど、ものの見事に私の悪意……いえ、レティシアの執念で打ち砕かれたってわけ。もうここまで来ると彼女にあっぱれとしか言いようがないわよ。
媚薬で理性を崩壊させられてレティシアを抱いた殿下は、それで正気に戻ったそうな。ルシアへの恋はこれまで国に尽くす自分を傍らから支えてきたレティシアを突き放してまで本当に求めるものだったのか、ってね。
「賢者タイムにでもなったのかしらね」
「その『けんじゃたいむ』とやらの意味は存じませんが、下世話なものとは察しが付きますからね」
情事が終わった後、レティシアは全てを殿下に打ち明けたそうな。振り向いてもらえないから薬に手を染めてしまった。けれどもう一度同じ目にあっても同じようにしたに違いない。如何様な罰も謹んで受けるつもりだ。もう自分に悔いはない、と。
フェリペ殿下はレティシアに謝罪し、今後は共に生きていこう、と語った。愛しているか、との問いに答えようとした殿下の口はレティシアの口付けで塞がれた。もう我慢しない、絶対に自分を愛するようにしてみせる、と宣言しながら。
「それでお嬢様。どうしてフェリペ殿下とレティシア様の恋路の振り返りを?」
そんなわけであの騒動の調査が正式に打ち切られたのが数日前。私とセナイダは休憩時間中のお茶会を過ごしていた。やっぱりこうして何の気兼ねも無く喋れる相手がいると楽しいわね。
「これまでフェリペ殿下は独身であり続けたからこそ王宮に留まって、王家の一員として公務に明け暮れていたでしょう。けれど、レティシア様の愛を受け入れたことで状況は変わってしまったわ」
「陛下の御子はお三方共立派に成長なさりましたし、いつまでも王弟が残るわけにもいきませんか」
「だから今回を丁度いいきっかけにして、正式に臣籍降下なさるんですって。その意志を昨日国王陛下に伝えたそうよ」
「そうでしたか。では王宮がここ数日賑やかなのは……」
フェリペ殿下は昨日をもって一代限りの公爵に封ぜられた。王家から外れたことで王家の居住する王宮からは離れることになった。直轄領の一部を公爵領として割譲、邸宅も与えられたので、そちらに移り住む予定だ、とお義母様から聞いた。
だから今頃は引っ越しの準備で慌ただしいことでしょう。公爵邸から私物と結納品、嫁入り道具をこっちに送るだけで済んだ私の時も結構大掛かりだったものね。住居丸ごと引き払ってなんてどれだけの規模になることやら。
「ねえセナイダ。折角だからあっちの様子を見に行かない?」
「今日の分の公務は滞りなく終えていますし、問題はありませんが……単に面白そうだからって理由ですよね?」
「嫌ねえ。義理の叔父夫婦の新たな門出を祝うのがそんなにいけない?」
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