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Interlude1 アレクサンドラのその後
暗殺者エリアスの最後(前)
その日は雨だった。
大雨ってほどではなく小雨でもなく。雨雲も白寄りの灰色かしらね。風も吹かないから外出には傘を差せば事足りるでしょう。
そんな天気の中、王都の大広場は人で大変賑わっていた。
傘を差す人がいれば合羽を着る人もいるし、周囲の建物の窓から眺める人もいる。
子供の数が少ないぐらいであとは老若男女揃っている。市民階級が多いものの貴族階級の者も少なからず見受けられる。お忍びで来ている貴族は地味な、けれど充分裕福だと分かるしっかりした、服で市民に紛れている。特等席で見物する酔狂な人もいた。
別に祭りがあるわけじゃない。祝い事でも集会でもない。
これから何が行われるか、は大広場の中央に設けられた代物が物語っている。
処刑台を前にして、観衆達は死刑執行を待ち望んでいた。
「悪趣味な……。僕が王になった暁にはこんな催しは廃止にしようか」
「残念だけど現時点では必要悪と判断しざるをえないんじゃない? 古の大帝国みたいに闘技場での死闘を見物出来るわけでもないし、大衆娯楽が少ないんだもの」
「そんな文化まで発展させられる余裕なんてこの国には無いよ……」
「なら国を大きくしていきましょう。私とジェラールで」
罪を犯した者は裁かれる。情状酌量はあれど基本的には法律って尺を用いて公平に罰は定められる。ただし、前世のわたしの世界と違って加害者の更生なんてほとんど考えられてない。無償重労働や禁固刑を始め、死刑を求刑されるなんてザラね。
で、その死刑執行はこのように公開の場で行われることもある。どれだけ重い罪を犯した者がどれほどの罰を受けるのか、を知らしめるために。
大衆も悪人をいくら罵倒しようが石を投げようが咎められないし、何なら死亡を確認された遺体に追い打ちを加えられる場合もあって、憂さ晴らしも兼ねてるみたい。
そんなわけで、死刑囚はたまにこうして市民の生贄に捧げられてるってわけ。
さて、私は当たり前だけれど下賤な見世物に興味は無い。大衆の溜飲が下がるなら別に構いやしない、って考えてたかつての私。人の生死を見世物にするなんて、って前世の価値観が少し芽生えた今の私。どちらにせよ無縁だったし、そうでありたかった。
「それで、どうして今日に限って見に来たの? 配下の者に後から報告を聞くんじゃあ不満足だったかい?」
「ええ。今日だけは自分の目じゃないと駄目なの」
なのに、私は今日だけはそんな公開処刑の観衆として紛れ込んでいた。
目立たないよう外套を羽織って頭巾も被って口元も隠しているから、王太子妃アレクサンドラが来ているとは騒がれていない。いかにも正体隠してますって風貌は、こんな悪趣味な場にいたことがバレちゃ困る人が同じ格好だから、目立たず済んでいる。
そんな私の隣には夫である王太子ジェラールが同行していた。彼ったら私が今日処刑を見に行くって伝えたら学園サボって付いていくって言い出すんだもの。結局押し切られる形で許してしまった私は相当彼に弱いらしい。
そして、今日の主役が処刑台へと引きずり上げられた。
暗殺者エリアス。
『どきエデ』の攻略対象者だった彼の処刑が今日、執り行われる。
エリアスの姿が見えた途端に観衆が興奮しだす。有る事無い事様々な暴言、罵り、嘲りを彼にぶつけていく。中には恨みや憎しみ、そして嘆きを彼に向ける者もいた。私の大切な人を返せ、との女性の悲痛な叫びはとても聞いていられなかった。
「逮捕してから今日まで随分と時間がかかっているけれど、そんなに取り調べと裁判が長引いたの?」
「余罪がてんこ盛りだったのよ」
あの人生で一番忙しかった丸一日で捕らえたエリアスの身柄は翌日に公安に引き渡した。公爵令嬢だった私の暗殺未遂だけでも充分極刑に出来たんだけれど、彼の仕事と思われる未解決事件を解明するため、かなりの時間を要した。
いやー全く、余罪が出るわ出るわ。屋敷の中で謎の死を遂げた貴族とか、繁華街で突然倒れてそのまま亡くなった町人とか、相当数の人を彼が殺めているって分かって大騒ぎよ。中には病気で息を引き取ったと思われていた人物まで実は、とかもあったり。
当たり前だけど彼は最初のうちは口が裂けても自供なんてしなかった。彼の罪状を暴いたのは依頼人と彼との間を橋渡しする闇の仲介人、具体的にはイシドロやドミンゴの商会からの情報ね。イシドロからは私が買い取って、ドミンゴの所は例の裏帳簿を頼りにした。
「ただ、彼が犯した罪を全部は明らかに出来なかったそうよ。依頼の手順は複数あったみたいで、中には仲介を挟まずに直接請け負った仕事もあったみたいだから」
「粗方全容が見えてきたからようやく死刑を言い渡したってわけか」
大雨ってほどではなく小雨でもなく。雨雲も白寄りの灰色かしらね。風も吹かないから外出には傘を差せば事足りるでしょう。
そんな天気の中、王都の大広場は人で大変賑わっていた。
傘を差す人がいれば合羽を着る人もいるし、周囲の建物の窓から眺める人もいる。
子供の数が少ないぐらいであとは老若男女揃っている。市民階級が多いものの貴族階級の者も少なからず見受けられる。お忍びで来ている貴族は地味な、けれど充分裕福だと分かるしっかりした、服で市民に紛れている。特等席で見物する酔狂な人もいた。
別に祭りがあるわけじゃない。祝い事でも集会でもない。
これから何が行われるか、は大広場の中央に設けられた代物が物語っている。
処刑台を前にして、観衆達は死刑執行を待ち望んでいた。
「悪趣味な……。僕が王になった暁にはこんな催しは廃止にしようか」
「残念だけど現時点では必要悪と判断しざるをえないんじゃない? 古の大帝国みたいに闘技場での死闘を見物出来るわけでもないし、大衆娯楽が少ないんだもの」
「そんな文化まで発展させられる余裕なんてこの国には無いよ……」
「なら国を大きくしていきましょう。私とジェラールで」
罪を犯した者は裁かれる。情状酌量はあれど基本的には法律って尺を用いて公平に罰は定められる。ただし、前世のわたしの世界と違って加害者の更生なんてほとんど考えられてない。無償重労働や禁固刑を始め、死刑を求刑されるなんてザラね。
で、その死刑執行はこのように公開の場で行われることもある。どれだけ重い罪を犯した者がどれほどの罰を受けるのか、を知らしめるために。
大衆も悪人をいくら罵倒しようが石を投げようが咎められないし、何なら死亡を確認された遺体に追い打ちを加えられる場合もあって、憂さ晴らしも兼ねてるみたい。
そんなわけで、死刑囚はたまにこうして市民の生贄に捧げられてるってわけ。
さて、私は当たり前だけれど下賤な見世物に興味は無い。大衆の溜飲が下がるなら別に構いやしない、って考えてたかつての私。人の生死を見世物にするなんて、って前世の価値観が少し芽生えた今の私。どちらにせよ無縁だったし、そうでありたかった。
「それで、どうして今日に限って見に来たの? 配下の者に後から報告を聞くんじゃあ不満足だったかい?」
「ええ。今日だけは自分の目じゃないと駄目なの」
なのに、私は今日だけはそんな公開処刑の観衆として紛れ込んでいた。
目立たないよう外套を羽織って頭巾も被って口元も隠しているから、王太子妃アレクサンドラが来ているとは騒がれていない。いかにも正体隠してますって風貌は、こんな悪趣味な場にいたことがバレちゃ困る人が同じ格好だから、目立たず済んでいる。
そんな私の隣には夫である王太子ジェラールが同行していた。彼ったら私が今日処刑を見に行くって伝えたら学園サボって付いていくって言い出すんだもの。結局押し切られる形で許してしまった私は相当彼に弱いらしい。
そして、今日の主役が処刑台へと引きずり上げられた。
暗殺者エリアス。
『どきエデ』の攻略対象者だった彼の処刑が今日、執り行われる。
エリアスの姿が見えた途端に観衆が興奮しだす。有る事無い事様々な暴言、罵り、嘲りを彼にぶつけていく。中には恨みや憎しみ、そして嘆きを彼に向ける者もいた。私の大切な人を返せ、との女性の悲痛な叫びはとても聞いていられなかった。
「逮捕してから今日まで随分と時間がかかっているけれど、そんなに取り調べと裁判が長引いたの?」
「余罪がてんこ盛りだったのよ」
あの人生で一番忙しかった丸一日で捕らえたエリアスの身柄は翌日に公安に引き渡した。公爵令嬢だった私の暗殺未遂だけでも充分極刑に出来たんだけれど、彼の仕事と思われる未解決事件を解明するため、かなりの時間を要した。
いやー全く、余罪が出るわ出るわ。屋敷の中で謎の死を遂げた貴族とか、繁華街で突然倒れてそのまま亡くなった町人とか、相当数の人を彼が殺めているって分かって大騒ぎよ。中には病気で息を引き取ったと思われていた人物まで実は、とかもあったり。
当たり前だけど彼は最初のうちは口が裂けても自供なんてしなかった。彼の罪状を暴いたのは依頼人と彼との間を橋渡しする闇の仲介人、具体的にはイシドロやドミンゴの商会からの情報ね。イシドロからは私が買い取って、ドミンゴの所は例の裏帳簿を頼りにした。
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