文字の大きさ
大
中
小
54 / 88
Interlude1 アレクサンドラのその後
暗殺者エリアスの最後(後)
「世間を騒がせた世紀の暗殺者もこれで年貢の納め時ね」
「その『ねんぐ』って東方での税金だったっけ?」
鉄の心を持つ暗殺者のままだったら彼はどのような苛烈な拷問を受けようと何も喋らず表情一つ変えずに処されたでしょう。けれど、ルシアの愛で人の心を取り戻したエリアスは逆に耐えられなくなってしまった。
ルシアを出汁にされて口を割ったものの「は? 約束? 何のことだ?」的に反故にされて結局愛する女性には会えずじまい。牢屋の中ではルシアに会いたいだの助けてくれだの喚いていたんだそうな。
馬鹿ね。貴方は『どきエデ』逆ハーレムルートの犠牲になったのよ。
ルシアが愛したのは攻略対象者だった暗殺者エリアスで、貴方自身ではなくてよ。
それを未だに分からないなんて……本当、哀れだわ。
「あの男爵令嬢を愛した彼はアレクサンドラを憎んでいただろう。そんな危険人物が報いを受けようとしているのに、どうしてそんな浮かない顔なんだい?」
「だからこそ、よ。私が彼を返り討ちにして捕らえ、引き渡したんだもの」
けれど、私が直前になって『どきエデ』をプレイした前世のわたしを思い出さなかったら彼はきっと幸せだったでしょう。ルシアがアルフォンソ様と結ばれても、彼はそれからもルシアから人として接してもらえるものね。
そんな未来は私がぶち壊した。私が破滅しないために。私を追い落とそうとする連中に私という存在を思い知らせるために。『どきエデ』の知識で私を蹴落とそうとしたんだから私だってそうしても構わないわよね。
その結果が今目の前に広がっている光景よ。
猿轡を外された彼はあらん限りの力を込めて「嫌だ! 死にたくない!」との命の懇願と「助けてルシア……!」との愛する少女に救いを求める声を出していたらしい。観衆の興奮が最高潮に達してうるさかったから直には聞こえなかったけれど。
そんな彼は、処刑人によって小瓶の液体を無理やり飲まされた。吐き出すといけないからと口にチューブ付き漏斗を突っ込んで胃に直接流し込む徹底ぶり。処刑人が小瓶が空になったことを大衆に示すと周囲は更に湧いた。
途端にエリアスは身体を異常に振るえさせ、苦しみながら血を吐き出した。処刑人達が離れても彼は悶えながら喉を掻きむしるだけ。処刑台の上で倒れた彼はのたうち回り、痙攣し、最後の力で天に向かって手を伸ばす。
そうしてエリアスは事切れた。
「この処刑方法、アレクサンドラの提案だって聞いたけれど」
「まあ、まるでこの私があの暗殺者に死の直前まで苦しむよう望んでいたように聞こえるわ。いくらジェラールの妃になったからって罪人の裁き方にまで口を挟めないわ」
「そうだね。決めたのは裁判官達であってアレクサンドラは意見を述べただけだ。けれど、忖度が働かなかったとは言い難いんじゃないかな?」
「裁量の範囲内で融通を聞かせてもらった、と言って頂戴」
エリアスの死に様は『どきエデ』の暗殺者ルートの最後で悪役令嬢が毒殺されたシーンの再現よ。ヒロインを散々苦しめた悪役令嬢の末路として相応しい終幕を、と毒を盛られたんだから、その意趣返しでもある。
処刑人達が四肢を押さえながら呼吸と目の瞳孔、そして心臓の鼓動を確認し、処刑が完了したことを告げた。盛り上がる周囲を他所に処刑人達は粛々とエリアスの遺体を処刑台足元の棺桶に放り投げ、そのまま運んでいった。
「重罪人なのに火炙りにはしなかったんだ」
「彼もある意味犠牲者よ。恋なんていう甘い蜜の、ね」
今日彼の処刑を見に来たのは何もざまぁみろって勝利宣言したかったわけじゃない。
私の選択で破滅させた者の末路をこの目で確かめ、心に刻みたかっただけよ。
エリアス。『どきエデ』の貴方は嫌いじゃなかったわ。
貴方が死んだのは私の責任よ。でも私は謝らない。
私は貴方を犠牲にし、その遺体を踏み越えて前へと進んでいく。
「行きましょう。もう用は無いわ」
さようなら。次生まれ変わるのなら……『どきエデ』なんかに振り回されない人生を歩んで頂戴。
「その『ねんぐ』って東方での税金だったっけ?」
鉄の心を持つ暗殺者のままだったら彼はどのような苛烈な拷問を受けようと何も喋らず表情一つ変えずに処されたでしょう。けれど、ルシアの愛で人の心を取り戻したエリアスは逆に耐えられなくなってしまった。
ルシアを出汁にされて口を割ったものの「は? 約束? 何のことだ?」的に反故にされて結局愛する女性には会えずじまい。牢屋の中ではルシアに会いたいだの助けてくれだの喚いていたんだそうな。
馬鹿ね。貴方は『どきエデ』逆ハーレムルートの犠牲になったのよ。
ルシアが愛したのは攻略対象者だった暗殺者エリアスで、貴方自身ではなくてよ。
それを未だに分からないなんて……本当、哀れだわ。
「あの男爵令嬢を愛した彼はアレクサンドラを憎んでいただろう。そんな危険人物が報いを受けようとしているのに、どうしてそんな浮かない顔なんだい?」
「だからこそ、よ。私が彼を返り討ちにして捕らえ、引き渡したんだもの」
けれど、私が直前になって『どきエデ』をプレイした前世のわたしを思い出さなかったら彼はきっと幸せだったでしょう。ルシアがアルフォンソ様と結ばれても、彼はそれからもルシアから人として接してもらえるものね。
そんな未来は私がぶち壊した。私が破滅しないために。私を追い落とそうとする連中に私という存在を思い知らせるために。『どきエデ』の知識で私を蹴落とそうとしたんだから私だってそうしても構わないわよね。
その結果が今目の前に広がっている光景よ。
猿轡を外された彼はあらん限りの力を込めて「嫌だ! 死にたくない!」との命の懇願と「助けてルシア……!」との愛する少女に救いを求める声を出していたらしい。観衆の興奮が最高潮に達してうるさかったから直には聞こえなかったけれど。
そんな彼は、処刑人によって小瓶の液体を無理やり飲まされた。吐き出すといけないからと口にチューブ付き漏斗を突っ込んで胃に直接流し込む徹底ぶり。処刑人が小瓶が空になったことを大衆に示すと周囲は更に湧いた。
途端にエリアスは身体を異常に振るえさせ、苦しみながら血を吐き出した。処刑人達が離れても彼は悶えながら喉を掻きむしるだけ。処刑台の上で倒れた彼はのたうち回り、痙攣し、最後の力で天に向かって手を伸ばす。
そうしてエリアスは事切れた。
「この処刑方法、アレクサンドラの提案だって聞いたけれど」
「まあ、まるでこの私があの暗殺者に死の直前まで苦しむよう望んでいたように聞こえるわ。いくらジェラールの妃になったからって罪人の裁き方にまで口を挟めないわ」
「そうだね。決めたのは裁判官達であってアレクサンドラは意見を述べただけだ。けれど、忖度が働かなかったとは言い難いんじゃないかな?」
「裁量の範囲内で融通を聞かせてもらった、と言って頂戴」
エリアスの死に様は『どきエデ』の暗殺者ルートの最後で悪役令嬢が毒殺されたシーンの再現よ。ヒロインを散々苦しめた悪役令嬢の末路として相応しい終幕を、と毒を盛られたんだから、その意趣返しでもある。
処刑人達が四肢を押さえながら呼吸と目の瞳孔、そして心臓の鼓動を確認し、処刑が完了したことを告げた。盛り上がる周囲を他所に処刑人達は粛々とエリアスの遺体を処刑台足元の棺桶に放り投げ、そのまま運んでいった。
「重罪人なのに火炙りにはしなかったんだ」
「彼もある意味犠牲者よ。恋なんていう甘い蜜の、ね」
今日彼の処刑を見に来たのは何もざまぁみろって勝利宣言したかったわけじゃない。
私の選択で破滅させた者の末路をこの目で確かめ、心に刻みたかっただけよ。
エリアス。『どきエデ』の貴方は嫌いじゃなかったわ。
貴方が死んだのは私の責任よ。でも私は謝らない。
私は貴方を犠牲にし、その遺体を踏み越えて前へと進んでいく。
「行きましょう。もう用は無いわ」
さようなら。次生まれ変わるのなら……『どきエデ』なんかに振り回されない人生を歩んで頂戴。
感想 249
あなたにおすすめの小説
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
由香【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「役立たず」と離婚された侯爵夫人ですが、実家が世界一のお金持ちでした
由香「役立たず」と言われ、愛人のために離婚を突きつけられた侯爵夫人エレノア。
だが、夫は知らなかった。
彼女の実家が、王国どころか世界一の財閥だったことを。
離婚と同時に援助は打ち切られ、侯爵家はあっという間に崩壊。
破産寸前となった元夫は土下座で復縁を懇願するが…。
「申し訳ありません。そのお願いは、お断りします。」
これは、支える側だった令嬢が本当の幸せを手に入れる、痛快ざまぁストーリー。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
王太子殿下、最初の一曲は私ではないのですね 〜我慢をやめた公爵令嬢は、婚約指輪をお返しいたします〜
ゆぷしろん 王太子カーティスの婚約者フローラは、彼に何度も「君なら分かってくれる」と我慢を強いられてきた。王宮の茶会や演奏会、誕生日の晩餐までも、殿下は王弟の落胤であるサビーナを優先し、フローラの傷を見ようとしない。ついに生誕舞踏会の最初の一曲まで奪われた彼女は、周囲の視線にさらされながらも笑顔の裏で限界を迎え、婚約解消を決意する。
翌日、王妃の前でこれまでの扱いを訴えると、サビーナもまた殿下の都合のよい言葉に利用されていたと判明。カーティスは自分の甘えと無責任さを認めきれず、国王は婚約解消と王太子活動の停止を命じる。
フローラは誰かの都合に合わせ続ける人生をやめ、自分の心を優先する穏やかな日々を取り戻す。そして、彼女を一人の人として尊重するルシアンの手を取り、初めて自ら望んだ新たな未来へ歩み出していく。