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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵家侍女セナイダの青春(前)
■Side セシリオ
それからというもの、セシリオは充実した毎日を送るようになった。
休み時間中の雑談は当たり前。昼食を一緒に取ることもざらで、そのうち放課後に共に予習復習するようにもなった。家柄は申し分なく学業も優秀だったのもあってなんとか委員に抜擢されるなどもしたが、多少無理してでも彼女との時間を作った。
セシリオを鬱陶しがったセナイダもそのうち学園内なら、と妥協するようになり、セシリオとのひと時を文句を言いながらも過ごすようになった。いつしかそんな生活が当たり前になり、セシリオが用事で欠席した日には落ち着かなくなるぐらいになった。
同級生は口々に語る。セシリオはセナイダと一番多く接していた、と。
教員は証言する。セナイダがいたからこそセシリオは腐らずにいた、と。
そんなセシリオと距離が近いセナイダを一番鬱陶しがったのは、他でもなくセシリオを狙う貴族令嬢達だった。
何故なら、セシリオにはまだ決まった婚約者がいなかったから。
公爵家の嫡男の伴侶になればゆくゆくは公爵夫人に、やがてはその子または孫が王妃となる。つまり王家に自分の血が流れていくことになる。貴族の娘として生を受けてこれほどの名誉など無いに等しかった。
「貴女、最近調子に乗っているのではなくて?」
故に、そんなお目当ての殿方と馴れ馴れしくするセナイダに悪意が向くのは自明の理だった。
休み時間中に人気の無い場所に呼び出されてみれば、複数の貴族令嬢に囲まれてしまった。強引に突破しようと思えば出来たが、後で実家に面倒事が及ぶと分かりきっていたため、大人しく彼女らの事情を聞くことにした。
「不満でしたらセシリオ様御本人にご意見を申し上げれば良いではありませんか。御覧頂いている通りわたしはあくまで受け身ですので」
「口答えしてるんじゃありませんわよ!」
「それに、セシリオ様は他人を蹴落として成り上がる輩は好みではありません。振り向いてもらいたいのでしたらご自身の魅力を磨かれるのが近道かと」
「この、子爵家の小娘風情が!」
さすがに顔を叩かれたら跡が残ってしまう。セシリオに気付かれたくないし、アレクサンドラに知られれば最後、待ち受けるのは報復による彼女達の破滅だ。身から出た錆な面もあるのでそこまで大事にはしたくない。
そのため、セナイダは手を振り下ろしてきた令嬢の手首を素早く掴み、そのまま自分の方へと引き寄せると、彼女の手を腕ごと背中に回し、そのままひねり上げた。痛みに慣れていない令嬢は絶叫しようとしたので、手で口元を覆ってしまう。
「あいにくわたしは公爵家に仕える身。そうやすやすと思い通りにはさせてあげられませんよ」
「その汚い手をお離しなさい!」
「生意気よ貴女!」
まとめ役が返り討ちにあったのをきっかけに周りの令嬢達も一斉に手を挙げる。怪我を負わせるわけにもいかないため打撃も投げも封じられたセナイダは、捕らえた令嬢を盾に何とかこの場をかいくぐろうとするも、多勢に無勢。髪を引っ張られて壁に叩き付けられてしまった。
「あぐっ……!」
「ふっ、二度と色目を使えないように顔を傷つけてあげますわ」
令嬢の一人がその辺に落ちていた木の枝を拾い上げ、そのまま勢いよくセナイダの頬をひっかこうと振り上げた直後だった。その令嬢が悲鳴を上げて凶器を取り落とした。他の令嬢達は一斉に彼女から距離を取る。
「セシリオ様……」
いつの間にか彼女達の後ろにはセシリオがいて、瞬時に手首を掴み上げたのだった。鍛えられた男の握力で握り締められたか細い手首に走る激痛で叫ぶ令嬢の姿に周りの者達は恐れおののく。
「お前達、何をしている?」
しかしそれはほんの序の口。セシリオが怒気を滲ませた目で睨みつけると、複数名の令嬢が軽く悲鳴を上げた。皆一様にセシリオの問いかけに答えられず、「あの」「その」とどう弁明しようかと悩む者、更に怒りを買わないよう沈黙する者等、反応は鈍い。
「何をしている、と聞いているんだが?」
「えっと……、少し彼女と内緒話がしたくて人気のない場所に呼び出しまして……」
「俺と親しくするセナイダが気に食わなくて少し分からせてやろうとしたんだろう? 俺が聞いているのは、我が公爵家に仕える彼女に危害を加える行為が公爵家にどんな印象を与えるのか承知の上なのか、なんだが?」
「そ、それは……!」
その情報を失念していた令嬢が何名か、たかが使用人一名に嫌がらせをしたところで大事にはなるまいと高をくくっていた令嬢が何名か、残りはセシリオにバレる前にセナイダに分からせば済むだろうと想定していた。要するに、全員考えが甘かった。
「このことは家を通じて正式に抗議させてもらうからな。それでも懲りないようならこの俺を敵に回すと覚悟しておけ」
「ヒィッ……!?」
「も、申し訳ございませんでした!」
令嬢達は一目散に逃げ出した。手首を掴まれていた令嬢はセシリオに何やら耳打ちされ、顔を青ざめさせながら彼女達の後を追う。とても貴族としての教養を受けたとは思えないほどの慌てふためきぶりだった。
それからというもの、セシリオは充実した毎日を送るようになった。
休み時間中の雑談は当たり前。昼食を一緒に取ることもざらで、そのうち放課後に共に予習復習するようにもなった。家柄は申し分なく学業も優秀だったのもあってなんとか委員に抜擢されるなどもしたが、多少無理してでも彼女との時間を作った。
セシリオを鬱陶しがったセナイダもそのうち学園内なら、と妥協するようになり、セシリオとのひと時を文句を言いながらも過ごすようになった。いつしかそんな生活が当たり前になり、セシリオが用事で欠席した日には落ち着かなくなるぐらいになった。
同級生は口々に語る。セシリオはセナイダと一番多く接していた、と。
教員は証言する。セナイダがいたからこそセシリオは腐らずにいた、と。
そんなセシリオと距離が近いセナイダを一番鬱陶しがったのは、他でもなくセシリオを狙う貴族令嬢達だった。
何故なら、セシリオにはまだ決まった婚約者がいなかったから。
公爵家の嫡男の伴侶になればゆくゆくは公爵夫人に、やがてはその子または孫が王妃となる。つまり王家に自分の血が流れていくことになる。貴族の娘として生を受けてこれほどの名誉など無いに等しかった。
「貴女、最近調子に乗っているのではなくて?」
故に、そんなお目当ての殿方と馴れ馴れしくするセナイダに悪意が向くのは自明の理だった。
休み時間中に人気の無い場所に呼び出されてみれば、複数の貴族令嬢に囲まれてしまった。強引に突破しようと思えば出来たが、後で実家に面倒事が及ぶと分かりきっていたため、大人しく彼女らの事情を聞くことにした。
「不満でしたらセシリオ様御本人にご意見を申し上げれば良いではありませんか。御覧頂いている通りわたしはあくまで受け身ですので」
「口答えしてるんじゃありませんわよ!」
「それに、セシリオ様は他人を蹴落として成り上がる輩は好みではありません。振り向いてもらいたいのでしたらご自身の魅力を磨かれるのが近道かと」
「この、子爵家の小娘風情が!」
さすがに顔を叩かれたら跡が残ってしまう。セシリオに気付かれたくないし、アレクサンドラに知られれば最後、待ち受けるのは報復による彼女達の破滅だ。身から出た錆な面もあるのでそこまで大事にはしたくない。
そのため、セナイダは手を振り下ろしてきた令嬢の手首を素早く掴み、そのまま自分の方へと引き寄せると、彼女の手を腕ごと背中に回し、そのままひねり上げた。痛みに慣れていない令嬢は絶叫しようとしたので、手で口元を覆ってしまう。
「あいにくわたしは公爵家に仕える身。そうやすやすと思い通りにはさせてあげられませんよ」
「その汚い手をお離しなさい!」
「生意気よ貴女!」
まとめ役が返り討ちにあったのをきっかけに周りの令嬢達も一斉に手を挙げる。怪我を負わせるわけにもいかないため打撃も投げも封じられたセナイダは、捕らえた令嬢を盾に何とかこの場をかいくぐろうとするも、多勢に無勢。髪を引っ張られて壁に叩き付けられてしまった。
「あぐっ……!」
「ふっ、二度と色目を使えないように顔を傷つけてあげますわ」
令嬢の一人がその辺に落ちていた木の枝を拾い上げ、そのまま勢いよくセナイダの頬をひっかこうと振り上げた直後だった。その令嬢が悲鳴を上げて凶器を取り落とした。他の令嬢達は一斉に彼女から距離を取る。
「セシリオ様……」
いつの間にか彼女達の後ろにはセシリオがいて、瞬時に手首を掴み上げたのだった。鍛えられた男の握力で握り締められたか細い手首に走る激痛で叫ぶ令嬢の姿に周りの者達は恐れおののく。
「お前達、何をしている?」
しかしそれはほんの序の口。セシリオが怒気を滲ませた目で睨みつけると、複数名の令嬢が軽く悲鳴を上げた。皆一様にセシリオの問いかけに答えられず、「あの」「その」とどう弁明しようかと悩む者、更に怒りを買わないよう沈黙する者等、反応は鈍い。
「何をしている、と聞いているんだが?」
「えっと……、少し彼女と内緒話がしたくて人気のない場所に呼び出しまして……」
「俺と親しくするセナイダが気に食わなくて少し分からせてやろうとしたんだろう? 俺が聞いているのは、我が公爵家に仕える彼女に危害を加える行為が公爵家にどんな印象を与えるのか承知の上なのか、なんだが?」
「そ、それは……!」
その情報を失念していた令嬢が何名か、たかが使用人一名に嫌がらせをしたところで大事にはなるまいと高をくくっていた令嬢が何名か、残りはセシリオにバレる前にセナイダに分からせば済むだろうと想定していた。要するに、全員考えが甘かった。
「このことは家を通じて正式に抗議させてもらうからな。それでも懲りないようならこの俺を敵に回すと覚悟しておけ」
「ヒィッ……!?」
「も、申し訳ございませんでした!」
令嬢達は一目散に逃げ出した。手首を掴まれていた令嬢はセシリオに何やら耳打ちされ、顔を青ざめさせながら彼女達の後を追う。とても貴族としての教養を受けたとは思えないほどの慌てふためきぶりだった。
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