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Interlude1 アレクサンドラのその後
第一王女ローサの慰問(後)
一般病棟へと戻ると、何やら慌ただしく看護師やら医者やらが駆けずり回っている。病室を覗くと医療関係者がとある患者の病床を取り囲んでいて、その側ではローサ一行が見守っている様子だった。ローサ本人は青ざめて振るえているし、今にも倒れそう。
医師達のやり取りを聞く限りだと、どうも容態が急変したらしいわね。慌てて何か薬を飲ませようとしているみたい。看護師が懸命に元気づけているけれど、もう患者の命は風前の灯、って言ったところでしょう。
「お……王女殿下……」
「……! はい、ここにおります……!」
「ああ……ありがたき幸せ……」
ローサは患者の手を取った。気丈にも神の元に召されようとする彼に笑顔を見せる。
そんなローサの手から患者の手が滑り落ちていった。息を引き取ったのだ。
医者が死亡を確認し、その顔に毛布を被せる。
「……」
私は黙ったまま彼女の側により、肩に手を置いた。するとローサは涙をこらえきれなくなって私に抱きついてくる。
「人が亡くなるのを見るのは始めてです……」
「そう。でも彼はローサに看取ってもらえたんだもの。悔いはなかった筈よ」
「どうして彼は死ななきゃいけなかったんですか? お父様が聖戦なんて起こしたからですか?」
「その辺りの事情はもっと歴史を学ばなきゃ理解出来ないわ」
彼を始めとして多くの兵士達が傷ついたきっかけは王国側が聖戦を起こしたため。でもそれは決して『どきエデ』のバッドエンドを演出するためだけじゃない。大帝国が滅亡するきっかけになった蛮族共の侵攻で多くの土地を奪われたからよ。
聖戦を何度も起こして蛮族共と戦うのは決して古の復讐からじゃないし、蛮族共が憎いわけでも気に入らないからでもない。はるかなる祖先達が生活を営んでいた故郷をこの手に取り戻すことこそが悲願なんだから。
「争いはいけないことだけれど、譲れないものまで譲っちゃ駄目よ。そうしたら相手はつけあがってそれ以上に求めてくるもの」
「そんなにずっと昔に失った土地が大事なんですか……? 人の命よりも?」
「だってそのためにこのタラコネンシス王国は建国されたんだもの」
「え……?」
この王国は古の大帝国が滅亡したずっと後、北部の一地域から始まった。
小さな公国同士が追いやられた果ての狭い土地を巡って小競り合いを繰り返す最中、手を取り合って大義を果たそう、と呼びかける人物が現れた。彼は他の公国の君主達と共に近隣地域をまとめ上げて聖戦を起こし、勝利を収めた。
その彼こそが建国の祖、初代国王で、彼に同調した他の君主達が三大公爵家となって国を支えていくようになりましたとさ。だからこそ三大公爵家は王家に続く由緒正しい家柄であって、一蓮托生なのよ。
「だから聖戦は王国にとって、そして王家にとっては使命でもあるの。否定なんて出来やしないわ」
「戦争以外にも必ず道はあると思うんです。血を流さないで悲願を叶える方法が……」
「外交努力にも限度はあるでしょうけれど、諦めないことは大事よ。もしかしたらローサがそんな不可能を可能にする敏腕っぷりを発揮するかもしれないし」
「そんな、わたくしなんかが……」
悩みなさい、ローサ。悩むことで自ずと王家の者としての自覚が芽生えるでしょう。
貴女は決して私のように権力を振りかざす愚か者にはなり果てないで。
ローサは患者に握られた手を見つめる。そしてその手を握り締め、胸元に置いた。
「わたくし、もっと勉強します。それで……誰も悲しまないやり方をきっと見つけ出します」
「そうね、それがいいわ」
決意を秘めた強い目つきをするローサに私は笑いかけた。
この後、ローサは日が暮れそうになるまで病院内を慰問した。声をかけて、励まして、時には恨みを買って。患者達に触れ回ったためか、病院を出る頃にはその綺麗だったドレスは薄汚れていた。
「お義姉様、看護の経験がお有りなんですか? 途中結構手を出してましたけど」
「んー、ちょっと故があってね。でも実践したのは今日が初めてよ」
そんな私は包帯を取り替えたり上体を起こすのを手伝ったりした。応急処置の講習は前世に何度か受けていたから、つい我慢しきれなくてね。手際が良いって看護師に褒められちゃった。
「いやー汚しちゃいましたね。こりゃ洗濯が大変ですよ」
「これだけ汚れたら取り替えた方が手っ取り早くないかしら?」
「そんな勿体ない! ちゃんと洗えばまた使えますって。同じドレス着ていったら笑われる社交界がおかしいですよ」
「んー、確かに作業着にシミが残っても馬鹿にしてくる人はいないわよね」
「姫様のお着物だって明日にはすっかり綺麗になってますって」
「え、本当ですか?」
「勿論。何を隠そう私はキッチン、ランドリー、チェンバー等、何でもござれなオールワークスですからね。お茶の子さいさいです」
帰路についた私達は残らずこんな感じなもので、やりきったとの充実感でいっぱいだった。けれどそれはあくまで独りよがりな感想。現状を把握して環境の改善などなど次に繋げていかなきゃ駄目ね。課題は山積みよ。
□□□
バルタサルはその後リハビリを重ねてそれなりに動けるよう回復した。一年後ジェラールが率いた新たな聖戦に再参戦、騎兵として獅子奮迅の働きをしてみせた。そして当主の座を継いだ弟さんの補佐を全うしたのだった。
ロベルトはその後体調が改善しないまま屋敷で静養を続けたそうね。結局彼はルシアへの恋心を諦められず、けれど二度と彼女には振り向いてもらえず、再会することもなかった。そんな寂しいまま数年後に息を引き取った。
同じような運命を辿りながら明暗が分かれた最後だったわね。
医師達のやり取りを聞く限りだと、どうも容態が急変したらしいわね。慌てて何か薬を飲ませようとしているみたい。看護師が懸命に元気づけているけれど、もう患者の命は風前の灯、って言ったところでしょう。
「お……王女殿下……」
「……! はい、ここにおります……!」
「ああ……ありがたき幸せ……」
ローサは患者の手を取った。気丈にも神の元に召されようとする彼に笑顔を見せる。
そんなローサの手から患者の手が滑り落ちていった。息を引き取ったのだ。
医者が死亡を確認し、その顔に毛布を被せる。
「……」
私は黙ったまま彼女の側により、肩に手を置いた。するとローサは涙をこらえきれなくなって私に抱きついてくる。
「人が亡くなるのを見るのは始めてです……」
「そう。でも彼はローサに看取ってもらえたんだもの。悔いはなかった筈よ」
「どうして彼は死ななきゃいけなかったんですか? お父様が聖戦なんて起こしたからですか?」
「その辺りの事情はもっと歴史を学ばなきゃ理解出来ないわ」
彼を始めとして多くの兵士達が傷ついたきっかけは王国側が聖戦を起こしたため。でもそれは決して『どきエデ』のバッドエンドを演出するためだけじゃない。大帝国が滅亡するきっかけになった蛮族共の侵攻で多くの土地を奪われたからよ。
聖戦を何度も起こして蛮族共と戦うのは決して古の復讐からじゃないし、蛮族共が憎いわけでも気に入らないからでもない。はるかなる祖先達が生活を営んでいた故郷をこの手に取り戻すことこそが悲願なんだから。
「争いはいけないことだけれど、譲れないものまで譲っちゃ駄目よ。そうしたら相手はつけあがってそれ以上に求めてくるもの」
「そんなにずっと昔に失った土地が大事なんですか……? 人の命よりも?」
「だってそのためにこのタラコネンシス王国は建国されたんだもの」
「え……?」
この王国は古の大帝国が滅亡したずっと後、北部の一地域から始まった。
小さな公国同士が追いやられた果ての狭い土地を巡って小競り合いを繰り返す最中、手を取り合って大義を果たそう、と呼びかける人物が現れた。彼は他の公国の君主達と共に近隣地域をまとめ上げて聖戦を起こし、勝利を収めた。
その彼こそが建国の祖、初代国王で、彼に同調した他の君主達が三大公爵家となって国を支えていくようになりましたとさ。だからこそ三大公爵家は王家に続く由緒正しい家柄であって、一蓮托生なのよ。
「だから聖戦は王国にとって、そして王家にとっては使命でもあるの。否定なんて出来やしないわ」
「戦争以外にも必ず道はあると思うんです。血を流さないで悲願を叶える方法が……」
「外交努力にも限度はあるでしょうけれど、諦めないことは大事よ。もしかしたらローサがそんな不可能を可能にする敏腕っぷりを発揮するかもしれないし」
「そんな、わたくしなんかが……」
悩みなさい、ローサ。悩むことで自ずと王家の者としての自覚が芽生えるでしょう。
貴女は決して私のように権力を振りかざす愚か者にはなり果てないで。
ローサは患者に握られた手を見つめる。そしてその手を握り締め、胸元に置いた。
「わたくし、もっと勉強します。それで……誰も悲しまないやり方をきっと見つけ出します」
「そうね、それがいいわ」
決意を秘めた強い目つきをするローサに私は笑いかけた。
この後、ローサは日が暮れそうになるまで病院内を慰問した。声をかけて、励まして、時には恨みを買って。患者達に触れ回ったためか、病院を出る頃にはその綺麗だったドレスは薄汚れていた。
「お義姉様、看護の経験がお有りなんですか? 途中結構手を出してましたけど」
「んー、ちょっと故があってね。でも実践したのは今日が初めてよ」
そんな私は包帯を取り替えたり上体を起こすのを手伝ったりした。応急処置の講習は前世に何度か受けていたから、つい我慢しきれなくてね。手際が良いって看護師に褒められちゃった。
「いやー汚しちゃいましたね。こりゃ洗濯が大変ですよ」
「これだけ汚れたら取り替えた方が手っ取り早くないかしら?」
「そんな勿体ない! ちゃんと洗えばまた使えますって。同じドレス着ていったら笑われる社交界がおかしいですよ」
「んー、確かに作業着にシミが残っても馬鹿にしてくる人はいないわよね」
「姫様のお着物だって明日にはすっかり綺麗になってますって」
「え、本当ですか?」
「勿論。何を隠そう私はキッチン、ランドリー、チェンバー等、何でもござれなオールワークスですからね。お茶の子さいさいです」
帰路についた私達は残らずこんな感じなもので、やりきったとの充実感でいっぱいだった。けれどそれはあくまで独りよがりな感想。現状を把握して環境の改善などなど次に繋げていかなきゃ駄目ね。課題は山積みよ。
□□□
バルタサルはその後リハビリを重ねてそれなりに動けるよう回復した。一年後ジェラールが率いた新たな聖戦に再参戦、騎兵として獅子奮迅の働きをしてみせた。そして当主の座を継いだ弟さんの補佐を全うしたのだった。
ロベルトはその後体調が改善しないまま屋敷で静養を続けたそうね。結局彼はルシアへの恋心を諦められず、けれど二度と彼女には振り向いてもらえず、再会することもなかった。そんな寂しいまま数年後に息を引き取った。
同じような運命を辿りながら明暗が分かれた最後だったわね。
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