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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵子息エドガーの遊戯(後)
「失礼致します、王妃様。男爵夫人がお見えになりました」
「そう、分かったわ。こちらに通して頂戴」
「畏まりました」
ふと、王宮女官がお義母様に何やら報告、お義母様は顔だけ彼女に向けて指示を出す。恭しく一礼した女官は下がり、やがて少し経ってから一人の貴婦人を伴って現れる。貴婦人は丁寧すぎるぐらいに深くお辞儀をした。
見覚えがあるわ。彼女は確かあの断罪の場でお義母様が目配せしていた女性か。だとしたら彼女はルシアの母親、男爵夫人ね。会うのはあの一件からすぐ後に謝罪に訪れた時以来かしら。それから表舞台に姿を見せてなかったし。
「王妃陛下。本日はお招き頂きまして――」
「今日はそういう堅苦しいのは抜きにして。まずは座って頂戴」
「は、はい。では失礼致します」
男爵夫人は縮こまりながら行儀よく椅子に座る。緊張して固まっている様子だったけれど、彼女の来訪に気付いたエドガーがこっちに向かって元気よく手を振ってくる。男爵夫人もぎこちない笑みとともに孫に手を振り返した。
「あの、王妃陛下。本日はどのようなご用件でしょうか……?」
「ファティマ。ここは社交の場ではないし誰も見ていないんだから、もっと肩から力を抜いてもいいのよ」
「いえ、そういうわけには……」
「真面目ねえ。それが美点であって欠点なのは昔から変わってないのね」
ん? お義母様と男爵夫人ってもしかして知り合い以上だったりするの?
意外な交友関係があったものねえ。
「ファティマはエドガーとは会っているのかしら?」
「はい。年に一度遊びに来てくれますので」
「ルシアとは会っていないの?」
「それが……わたしにはもう分からないんです。大きな罪を犯してもわたしの娘には変わりない、そう思っていたのにそうじゃないように思えてならないんです。旦那様には疲れてるって言われますし、気のせいって思いたいんですが……」
それは真ルシアがルシアに乗っ取られていたから。真ルシアがルシアに影響されて愛に堕ちたから。ルシアが明かさない以上私からそれを男爵夫人に説明するつもりはないし、知らない方がまだ幸せのように思える。
男爵夫妻はルシアの犠牲者とも言える。けれど一歩間違えていたらお父様方もそうなっていたかもしれない。だって私はたまたま前世のわたしの記憶と経験が良いように転がったもので、外道な輩や頭お花畑が私と混ざっていたらと思うとぞっとする。
「それで、どうして呼び出したか、だったかしら。実はファティマにだけ真実を教えておこうと思ってね。ここで話したことは他言無用に出来る?」
「……はい」
そこでお義母様が何を明かしたかったかようやく分かった。私は別に教えなくても良いって考えだけど、男爵夫人は知っておいた方がいいって思いもある。なので口出しするつもりは無い。
「エドガーはね、うちのアルフォンソの第二子なのよ」
「え……?」
「ほら、あそこで遊んでいる孫達を見て何か思い当たらないかしら?」
「嘘……じゃあ、もしかして……」
男爵夫人は元気よくアルベルト達に声をかけていたダリアを見て口元を押さえた。
ルシアは母親似で、ダリアは両親の特徴を良く受け継いでいる。自然と男爵夫人とダリアはどことなく似るようになる。それこそ二人を見比べれば血縁関係だって疑いたくなるぐらいに。
「最終的にアルフォンソのもとに戻すかアレクサンドラが親のままになるかはあの子が成長してから自分で判断させます。いいわね?」
「……畏まりました」
「どっちになってもあの子が結婚式をあげる時は呼んであげるから。人生まだ捨てたものじゃないわ」
「ありがとう、ございます……」
ダリアにはいずれ出生の秘密を明かすつもりだけれど、その時にあの子はどちらの親を選ぶのかしら。育てているうちに我が子のように可愛く思えてきたから、アルフォンソ様やルシアがいいなんて言い出したら……また嫉妬で狂ってしまうかもしれない。
いけないいけない。不安を溜めていたら体に良くないわ。そんなのはダリアが成長してから向き合うとしましょう。
それに今の私は一人じゃない。ジェラールだって、二組の両親だって、子供達だっているんだもの。いくらでも相談すれば良い。
ダリアがどのような選択をしても母親として受け止めましょう。
……なんて考えてたら、向こうから吹っ飛んできたボールがテーブルの上に並んでいたお菓子とティーセットをなぎ倒してきた。しかもお義母様も男爵夫人も無事だったのに私の方にお茶が飛散してきたし。
「ご、ごめんなさいお母さん……」
「母上、大丈夫?」
……ふっふっふっ。
やんちゃなお子様達には少しお灸を据えなきゃ駄目なように。
私はかかったお茶を拭ってボールを持って立ち上がる。
「あの、お母様。ボールをこっちに投げてくれませんか?」
「これでも食らいなさいっ!」
「いっ……!」
そして、思いっきりぶん投げてやった。ただ悲しいかな、ビーチボールみたいに空気抵抗であさっての方向に飛んでいき、エドガーの顔面に直撃する。そのまま空中に浮いたボールはグラシエラが見事キャッチした。ノーコンでごめんなさいね。
「宣戦布告と受け取るわ。ノエリア、応戦するわよ」
「合点承知ですよー」
「「「へ?」」」
腕をぐるぐる回す私と首をごきごき鳴らすノエリア。私達二人は子供達の方へと向かっていく。間の抜けた声は子供の方からのみならず、後ろからも聞こえてきたけれど、気にしない気にしない。
「こっちの頭数はそっちと同じ、卑怯とは言わないわよね?」
「ちょっとアレクサンドラ、その頭数って私達も入ってるの?」
「さあかかってきなさい! 貴方達が台無しにしたお茶会の主催者である王妃マリアネア陛下の名のもとに、この王太子妃アレクサンドラが相手よ!」
「ちょっとアレクサンドラったら!」
この後無茶苦茶ボール遊びした。
何だかんだで私やお義母様、男爵夫人も楽しんだ。
その晩、ジェラールや国王陛下はもとより、アルフォンソ様からすら呆れられたのは言うまでもない。
「そう、分かったわ。こちらに通して頂戴」
「畏まりました」
ふと、王宮女官がお義母様に何やら報告、お義母様は顔だけ彼女に向けて指示を出す。恭しく一礼した女官は下がり、やがて少し経ってから一人の貴婦人を伴って現れる。貴婦人は丁寧すぎるぐらいに深くお辞儀をした。
見覚えがあるわ。彼女は確かあの断罪の場でお義母様が目配せしていた女性か。だとしたら彼女はルシアの母親、男爵夫人ね。会うのはあの一件からすぐ後に謝罪に訪れた時以来かしら。それから表舞台に姿を見せてなかったし。
「王妃陛下。本日はお招き頂きまして――」
「今日はそういう堅苦しいのは抜きにして。まずは座って頂戴」
「は、はい。では失礼致します」
男爵夫人は縮こまりながら行儀よく椅子に座る。緊張して固まっている様子だったけれど、彼女の来訪に気付いたエドガーがこっちに向かって元気よく手を振ってくる。男爵夫人もぎこちない笑みとともに孫に手を振り返した。
「あの、王妃陛下。本日はどのようなご用件でしょうか……?」
「ファティマ。ここは社交の場ではないし誰も見ていないんだから、もっと肩から力を抜いてもいいのよ」
「いえ、そういうわけには……」
「真面目ねえ。それが美点であって欠点なのは昔から変わってないのね」
ん? お義母様と男爵夫人ってもしかして知り合い以上だったりするの?
意外な交友関係があったものねえ。
「ファティマはエドガーとは会っているのかしら?」
「はい。年に一度遊びに来てくれますので」
「ルシアとは会っていないの?」
「それが……わたしにはもう分からないんです。大きな罪を犯してもわたしの娘には変わりない、そう思っていたのにそうじゃないように思えてならないんです。旦那様には疲れてるって言われますし、気のせいって思いたいんですが……」
それは真ルシアがルシアに乗っ取られていたから。真ルシアがルシアに影響されて愛に堕ちたから。ルシアが明かさない以上私からそれを男爵夫人に説明するつもりはないし、知らない方がまだ幸せのように思える。
男爵夫妻はルシアの犠牲者とも言える。けれど一歩間違えていたらお父様方もそうなっていたかもしれない。だって私はたまたま前世のわたしの記憶と経験が良いように転がったもので、外道な輩や頭お花畑が私と混ざっていたらと思うとぞっとする。
「それで、どうして呼び出したか、だったかしら。実はファティマにだけ真実を教えておこうと思ってね。ここで話したことは他言無用に出来る?」
「……はい」
そこでお義母様が何を明かしたかったかようやく分かった。私は別に教えなくても良いって考えだけど、男爵夫人は知っておいた方がいいって思いもある。なので口出しするつもりは無い。
「エドガーはね、うちのアルフォンソの第二子なのよ」
「え……?」
「ほら、あそこで遊んでいる孫達を見て何か思い当たらないかしら?」
「嘘……じゃあ、もしかして……」
男爵夫人は元気よくアルベルト達に声をかけていたダリアを見て口元を押さえた。
ルシアは母親似で、ダリアは両親の特徴を良く受け継いでいる。自然と男爵夫人とダリアはどことなく似るようになる。それこそ二人を見比べれば血縁関係だって疑いたくなるぐらいに。
「最終的にアルフォンソのもとに戻すかアレクサンドラが親のままになるかはあの子が成長してから自分で判断させます。いいわね?」
「……畏まりました」
「どっちになってもあの子が結婚式をあげる時は呼んであげるから。人生まだ捨てたものじゃないわ」
「ありがとう、ございます……」
ダリアにはいずれ出生の秘密を明かすつもりだけれど、その時にあの子はどちらの親を選ぶのかしら。育てているうちに我が子のように可愛く思えてきたから、アルフォンソ様やルシアがいいなんて言い出したら……また嫉妬で狂ってしまうかもしれない。
いけないいけない。不安を溜めていたら体に良くないわ。そんなのはダリアが成長してから向き合うとしましょう。
それに今の私は一人じゃない。ジェラールだって、二組の両親だって、子供達だっているんだもの。いくらでも相談すれば良い。
ダリアがどのような選択をしても母親として受け止めましょう。
……なんて考えてたら、向こうから吹っ飛んできたボールがテーブルの上に並んでいたお菓子とティーセットをなぎ倒してきた。しかもお義母様も男爵夫人も無事だったのに私の方にお茶が飛散してきたし。
「ご、ごめんなさいお母さん……」
「母上、大丈夫?」
……ふっふっふっ。
やんちゃなお子様達には少しお灸を据えなきゃ駄目なように。
私はかかったお茶を拭ってボールを持って立ち上がる。
「あの、お母様。ボールをこっちに投げてくれませんか?」
「これでも食らいなさいっ!」
「いっ……!」
そして、思いっきりぶん投げてやった。ただ悲しいかな、ビーチボールみたいに空気抵抗であさっての方向に飛んでいき、エドガーの顔面に直撃する。そのまま空中に浮いたボールはグラシエラが見事キャッチした。ノーコンでごめんなさいね。
「宣戦布告と受け取るわ。ノエリア、応戦するわよ」
「合点承知ですよー」
「「「へ?」」」
腕をぐるぐる回す私と首をごきごき鳴らすノエリア。私達二人は子供達の方へと向かっていく。間の抜けた声は子供の方からのみならず、後ろからも聞こえてきたけれど、気にしない気にしない。
「こっちの頭数はそっちと同じ、卑怯とは言わないわよね?」
「ちょっとアレクサンドラ、その頭数って私達も入ってるの?」
「さあかかってきなさい! 貴方達が台無しにしたお茶会の主催者である王妃マリアネア陛下の名のもとに、この王太子妃アレクサンドラが相手よ!」
「ちょっとアレクサンドラったら!」
この後無茶苦茶ボール遊びした。
何だかんだで私やお義母様、男爵夫人も楽しんだ。
その晩、ジェラールや国王陛下はもとより、アルフォンソ様からすら呆れられたのは言うまでもない。
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