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Interlude1 アレクサンドラのその後
大商人イシドロの商談(前)
「ご機嫌麗しゅう、アレクサンドラ妃殿下。いつもお美しく……」
「とかなんとかいつも世辞を言うけれど、本当は自分の嫁の方が美人だとか思ってるんじゃないの?」
「おや、妃殿下も妻とはお会いになったでしょう。私は美を損ねてもなお気高い彼女を好きになりましてな。勿論今も美しいとは思っておりますが、毎日尻に敷かれておりますとも」
「どうだか。あの方も貴方を好きなようだし、お似合いなんじゃない?」
王太子妃になって公私共に落ち着いた頃、私はイシドロを王宮に呼びつけた。
ぎっくり腰でろくに動けなかった時はミランダが対応してくれていたけれど、ようやくまともに客先に出向けるまでには回復したようね。
前置きはそれなりに私はイシドロに椅子に座るよう促した。腰を落ち着けた彼は「おや、この椅子は私共が準備したものではありませんな」とか言ってきたけれど、贔屓にしているからって任せっきりにするとは思わないことね。
「ところで、最近どうなの?」
「仕事面でしたら妃殿下のおかげもあり益々繁盛しておりますとも。どういうわけか競合相手が勢いを失っておりましてね」
「ああ、なんでも人身売買や違法薬物を流通させていた等、不祥事の情報が漏れて顧客が離れたせいだったわね。あそこも脇が甘いというか」
「我々もほくそ笑むばかりでなく脇を固めねばなりませんな」
「あら、そっちの商会も公になったらまずい商売でもやっているの?」
「さて、どうだったか?」
何か新しい侍女のノエリアが胡散臭げな表情を浮かべてくるけれど、実際私がイシドロの競合相手であるドミンゴの商会から裏帳簿を盗んだのがきっかけなので、お互い分かっていて白々しい会話を楽しんでいるだけだったりする。
「この度は私共が紹介した者を雇って頂き感謝しております」
「感謝するなら貴方の奥様に、よ。採用に足る能力を備えてかつ私の好みに合う人選をしてきた、ね」
「成程。ではそのようにいたしましょう」
ミランダが私の侍女採用試験に送り込んできた者達は本当に優秀だった。王太子妃にもなればそのお付きの侍女は貴族令嬢にする場合が多い。なのにそんな思惑でやってきた娘達を蹴散らす勢いでもぎ取ってくるんだもの。
ちなみに採用したノエリアは私に結構気さくに接してくる。勿論しかるべき場所では切り替えてきちんと弁えるし、馴れ馴れしさというより親しみやすさを感じさせるさじ加減。ローサ王女殿下とも友達になったようだしね。
「それで、呼び出した用件は頭に入っているんでしょう?」
「ええ、勿論ですとも」
イシドロは紙に書かれたとある品の設計図をこちらに提示してきた。
あいにく前世でも設計には携わっていないから図面の見方は分からないけれど、私の意図がきちんと反映されている辺り、とても良い仕事をしているわね。紙をめくれば他の製品の三面図が描かれていて、こっちも想像通りに出来ていた。
「妃殿下より説明されました子供用の玩具一式です。いかがですかな?」
イシドロに依頼したのは今度生まれてくる私の子供用のおもちゃ一式だったりする。
だってこの世界、まだ新生児用のおもちゃが無いんだもの。前世の学生時代に赤ちゃんの世話を手伝った経験が生きたわ。もはや今の私にとって二十年以上前の記憶だからあやふやだけれど、なんとか記憶を辿って説明したものよ。
具体的には角が取れてる等されてて口に含んでも害が無くて、触るとガラガラ音が出る感じのやつ。あとベッドに上に付けてぐるぐる回るやつ。確か……メリーとか言うのだったかしら。あと思い出せるものを片っ端からね。
「んー、見た感じ問題無さそうだけれど、実際に作ってみないことには何とも言えないわね。このまま試作してもらえるかしら?」
「畏まりました。それにしても妃殿下は多才ですな。うちで雇いたいぐらいです」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「それで、試作後の話につきましては契約書を持ってまいりました」
私はノエリアを経由してイシドロから契約書を受け取る。そこには試作後の製品を商品化した際の権利使用料について書かれていた。具体的には私が権利を放棄する代わりに予め一定金額、そして試作完成品一式を貰うって契約になっている。
一応全頁読み込んだけれど、引っ掛けだったり怪しげな文章は書かれていない、まっとうなものだった。イシドロが私をはめるような真似するとは思えないけれど、馬鹿は見たくないからね。
「言われた通りとしましたが、本当によろしかったのですか? 私共は売上から一定割合を割譲でも構いませんが」
「王太子妃にもなったのに副収入を得るわけにもいかないでしょうよ。ちょっと好き勝手出来る小遣い程度があれば充分よ」
「成程。ではこのままとして、こちらに署名を」
「……はい。これで良いかしら?」
私は署名欄に自分の名を記す。もちろん王家に嫁いできたので家名はそちらの方に。
余談だけれど、署名する度に私はジェラールのお嫁さんになったんだなぁ、って実感しちゃう。セナイダにその事を話したら乙女心満載ですね、とか言われたけれど。そっちだって公爵家の家名で署名する時は嬉しいくせにね。
「とかなんとかいつも世辞を言うけれど、本当は自分の嫁の方が美人だとか思ってるんじゃないの?」
「おや、妃殿下も妻とはお会いになったでしょう。私は美を損ねてもなお気高い彼女を好きになりましてな。勿論今も美しいとは思っておりますが、毎日尻に敷かれておりますとも」
「どうだか。あの方も貴方を好きなようだし、お似合いなんじゃない?」
王太子妃になって公私共に落ち着いた頃、私はイシドロを王宮に呼びつけた。
ぎっくり腰でろくに動けなかった時はミランダが対応してくれていたけれど、ようやくまともに客先に出向けるまでには回復したようね。
前置きはそれなりに私はイシドロに椅子に座るよう促した。腰を落ち着けた彼は「おや、この椅子は私共が準備したものではありませんな」とか言ってきたけれど、贔屓にしているからって任せっきりにするとは思わないことね。
「ところで、最近どうなの?」
「仕事面でしたら妃殿下のおかげもあり益々繁盛しておりますとも。どういうわけか競合相手が勢いを失っておりましてね」
「ああ、なんでも人身売買や違法薬物を流通させていた等、不祥事の情報が漏れて顧客が離れたせいだったわね。あそこも脇が甘いというか」
「我々もほくそ笑むばかりでなく脇を固めねばなりませんな」
「あら、そっちの商会も公になったらまずい商売でもやっているの?」
「さて、どうだったか?」
何か新しい侍女のノエリアが胡散臭げな表情を浮かべてくるけれど、実際私がイシドロの競合相手であるドミンゴの商会から裏帳簿を盗んだのがきっかけなので、お互い分かっていて白々しい会話を楽しんでいるだけだったりする。
「この度は私共が紹介した者を雇って頂き感謝しております」
「感謝するなら貴方の奥様に、よ。採用に足る能力を備えてかつ私の好みに合う人選をしてきた、ね」
「成程。ではそのようにいたしましょう」
ミランダが私の侍女採用試験に送り込んできた者達は本当に優秀だった。王太子妃にもなればそのお付きの侍女は貴族令嬢にする場合が多い。なのにそんな思惑でやってきた娘達を蹴散らす勢いでもぎ取ってくるんだもの。
ちなみに採用したノエリアは私に結構気さくに接してくる。勿論しかるべき場所では切り替えてきちんと弁えるし、馴れ馴れしさというより親しみやすさを感じさせるさじ加減。ローサ王女殿下とも友達になったようだしね。
「それで、呼び出した用件は頭に入っているんでしょう?」
「ええ、勿論ですとも」
イシドロは紙に書かれたとある品の設計図をこちらに提示してきた。
あいにく前世でも設計には携わっていないから図面の見方は分からないけれど、私の意図がきちんと反映されている辺り、とても良い仕事をしているわね。紙をめくれば他の製品の三面図が描かれていて、こっちも想像通りに出来ていた。
「妃殿下より説明されました子供用の玩具一式です。いかがですかな?」
イシドロに依頼したのは今度生まれてくる私の子供用のおもちゃ一式だったりする。
だってこの世界、まだ新生児用のおもちゃが無いんだもの。前世の学生時代に赤ちゃんの世話を手伝った経験が生きたわ。もはや今の私にとって二十年以上前の記憶だからあやふやだけれど、なんとか記憶を辿って説明したものよ。
具体的には角が取れてる等されてて口に含んでも害が無くて、触るとガラガラ音が出る感じのやつ。あとベッドに上に付けてぐるぐる回るやつ。確か……メリーとか言うのだったかしら。あと思い出せるものを片っ端からね。
「んー、見た感じ問題無さそうだけれど、実際に作ってみないことには何とも言えないわね。このまま試作してもらえるかしら?」
「畏まりました。それにしても妃殿下は多才ですな。うちで雇いたいぐらいです」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「それで、試作後の話につきましては契約書を持ってまいりました」
私はノエリアを経由してイシドロから契約書を受け取る。そこには試作後の製品を商品化した際の権利使用料について書かれていた。具体的には私が権利を放棄する代わりに予め一定金額、そして試作完成品一式を貰うって契約になっている。
一応全頁読み込んだけれど、引っ掛けだったり怪しげな文章は書かれていない、まっとうなものだった。イシドロが私をはめるような真似するとは思えないけれど、馬鹿は見たくないからね。
「言われた通りとしましたが、本当によろしかったのですか? 私共は売上から一定割合を割譲でも構いませんが」
「王太子妃にもなったのに副収入を得るわけにもいかないでしょうよ。ちょっと好き勝手出来る小遣い程度があれば充分よ」
「成程。ではこのままとして、こちらに署名を」
「……はい。これで良いかしら?」
私は署名欄に自分の名を記す。もちろん王家に嫁いできたので家名はそちらの方に。
余談だけれど、署名する度に私はジェラールのお嫁さんになったんだなぁ、って実感しちゃう。セナイダにその事を話したら乙女心満載ですね、とか言われたけれど。そっちだって公爵家の家名で署名する時は嬉しいくせにね。
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