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Interlude1 アレクサンドラのその後
国王ジェラールの即位(前)
「本日をもって余は退き、王太子ジェラールに王位を譲るものとする。皆の者。これまで余に仕えてくれたこと、感謝する」
その日、タラコネンシス王国国王カルロス陛下は元老院の前でそのように謝意を述べた。私の義理の父はその際とても晴れやかな表情を浮かべていたそうだ。やりきったとの達成感か、次代を信頼しての期待からか、それはあの方にしか分からない。
元老院議員は感慨深く涙を流す者、恭しく頭を垂れる者、拍手を送る者、など、様々な反応を示した。お義父様の治世は概ね安泰、聖戦による領土奪還もあった。きっと歴史には名君だと刻まれることでしょう。
そんな私はというと、ジェラールと二人きりの休日を過ごしていた。
学園を卒業してから王太子妃として忙しく働いてきたし、休みをとっても子供達と一緒に過ごす時間が大半だった。本当なら明日の戴冠式に備えなきゃいけないんだけれど、君主となる前の最期の思い出を、ってことで昨日のうちに全部片付けておいた。
「ほら、アレクサンドラ。ここが僕らが初めて出会った場所だよ」
「よく覚えてるわね……。私なんかもうかなり記憶が曖昧なんだけれど」
王宮は王家の権威を象徴ためにとても立派な庭園がある。年に一度は一部が一般開放されて都民の憩いの場と化すけれど、他は王家の者に招待されたごくわずかしか訪れる機会のない場所よ。
王妃は三代公爵家の本家の娘じゃなければいけない。それは建国時の盟約によって定められている。
とはいえ、どういう経緯か知らないけれど近親婚の危うさは薄々察していたらしく、次の王となる王太子アルフォンソ様のお相手にはお義母様のご実家を除く二つの公爵家より私かカロリーナのどちらか、ということになった。
未来の王太子妃選定のために、私はお父様に連れられて結構な頻度で王宮を訪ねていた。政治的駆け引きもさることながら、本人同士の相性も確かめられていたんでしょうね。私はアルフォンソ様方と遊んでいた記憶しか残ってないわ。
初めてお会いした頃のアルフォンソ様は既に王太子教育が始まっていたらしく、実年齢よりだいぶ立派だったと思う。逆を言えば妙に大人ぶった生意気な小僧って感じだったからよく衝突したのだけれどね。
アルフォンソ様の弟、グレゴリオ殿下は逆にやんちゃだったわ。第二王子だったから重圧とかも無かったんでしょうね。いたずらとかもしたし、一番大目玉を食らっていた気がする。
「でもジェラールがとっても大人しかったのは今でも覚えてるわよ」
「そんな僕を連れ回したのはアレクサンドラ、君だよ」
あくまで私が王宮に来ていたのは未来のお相手になるアルフォンソ様と顔合わせのため。グレゴリオ様だって教育をサボってたまにしかお会いしなかったし。ましてや第三王子は身体が弱かったって聞いてたもの。たまたま出会ったジェラールを第三王子と結びつけろって方が無理な話よ。
いやー、ジェラールとは楽しく遊んだわ。今となっては細部は思い出せないけれど、お母様とお義母様に絶叫をあげさせたのは後にも先にもあの時だけね。そして王妃陛下から直々にお尻叩かれた悪ガキも私達ぐらいでしょう。
「あんなにも素敵な思い出なのに、忘れてしまいそうなのが怖いの」
「仕方がないよ。それからずっと素敵な出来事があったからね。それだけアレクサンドラが充実した人生を送っているって証だと思うよ」
「そうね。悲観してばかりはいられないわね」
ジェラールの個室だった部屋にやってきた。今は王太子夫妻用のもっと大きな部屋に移ってしまったから、ここはレオンが使っている。ちなみに今彼は別の部屋でみっちり王子教育を受けている真っ最中で、ちょうど掃除が行われている。
「懐かしいな。家具とかはそのままだ」
「私も結構少なくない回数ここ来てたっけ。勉強も見てあげたことあったっけ」
「僕はアレクサンドラみたいに頭は良くなかったからね。どうしてこんなのも分からないのか、って顔されたこともあったよ」
「……そうだったかしら? 私の記憶には何も無いわね」
アルフォンソ様の婚約者になった私とジェラールは姉弟のようになった。ジェラールがあの時の男の子だと気づけなかった私だけれど、それでも親しい関係は築けたとは思う。
そう、あくまで家族であって男性として彼を意識はしていなかった。
「今でもびっくりなんだけれど。ジェラールが密かに私に恋心を抱いていた、だなんてね。私は可愛い弟だとばかり思ってたから」
「愛してしまった、だなんて口が裂けても言えやしなかったよ。だって兄さんの婚約者だよ。横恋慕なんてしたくなかったし、あの時の兄さんとアレクサンドラは本当にお似合いだったから」
その日、タラコネンシス王国国王カルロス陛下は元老院の前でそのように謝意を述べた。私の義理の父はその際とても晴れやかな表情を浮かべていたそうだ。やりきったとの達成感か、次代を信頼しての期待からか、それはあの方にしか分からない。
元老院議員は感慨深く涙を流す者、恭しく頭を垂れる者、拍手を送る者、など、様々な反応を示した。お義父様の治世は概ね安泰、聖戦による領土奪還もあった。きっと歴史には名君だと刻まれることでしょう。
そんな私はというと、ジェラールと二人きりの休日を過ごしていた。
学園を卒業してから王太子妃として忙しく働いてきたし、休みをとっても子供達と一緒に過ごす時間が大半だった。本当なら明日の戴冠式に備えなきゃいけないんだけれど、君主となる前の最期の思い出を、ってことで昨日のうちに全部片付けておいた。
「ほら、アレクサンドラ。ここが僕らが初めて出会った場所だよ」
「よく覚えてるわね……。私なんかもうかなり記憶が曖昧なんだけれど」
王宮は王家の権威を象徴ためにとても立派な庭園がある。年に一度は一部が一般開放されて都民の憩いの場と化すけれど、他は王家の者に招待されたごくわずかしか訪れる機会のない場所よ。
王妃は三代公爵家の本家の娘じゃなければいけない。それは建国時の盟約によって定められている。
とはいえ、どういう経緯か知らないけれど近親婚の危うさは薄々察していたらしく、次の王となる王太子アルフォンソ様のお相手にはお義母様のご実家を除く二つの公爵家より私かカロリーナのどちらか、ということになった。
未来の王太子妃選定のために、私はお父様に連れられて結構な頻度で王宮を訪ねていた。政治的駆け引きもさることながら、本人同士の相性も確かめられていたんでしょうね。私はアルフォンソ様方と遊んでいた記憶しか残ってないわ。
初めてお会いした頃のアルフォンソ様は既に王太子教育が始まっていたらしく、実年齢よりだいぶ立派だったと思う。逆を言えば妙に大人ぶった生意気な小僧って感じだったからよく衝突したのだけれどね。
アルフォンソ様の弟、グレゴリオ殿下は逆にやんちゃだったわ。第二王子だったから重圧とかも無かったんでしょうね。いたずらとかもしたし、一番大目玉を食らっていた気がする。
「でもジェラールがとっても大人しかったのは今でも覚えてるわよ」
「そんな僕を連れ回したのはアレクサンドラ、君だよ」
あくまで私が王宮に来ていたのは未来のお相手になるアルフォンソ様と顔合わせのため。グレゴリオ様だって教育をサボってたまにしかお会いしなかったし。ましてや第三王子は身体が弱かったって聞いてたもの。たまたま出会ったジェラールを第三王子と結びつけろって方が無理な話よ。
いやー、ジェラールとは楽しく遊んだわ。今となっては細部は思い出せないけれど、お母様とお義母様に絶叫をあげさせたのは後にも先にもあの時だけね。そして王妃陛下から直々にお尻叩かれた悪ガキも私達ぐらいでしょう。
「あんなにも素敵な思い出なのに、忘れてしまいそうなのが怖いの」
「仕方がないよ。それからずっと素敵な出来事があったからね。それだけアレクサンドラが充実した人生を送っているって証だと思うよ」
「そうね。悲観してばかりはいられないわね」
ジェラールの個室だった部屋にやってきた。今は王太子夫妻用のもっと大きな部屋に移ってしまったから、ここはレオンが使っている。ちなみに今彼は別の部屋でみっちり王子教育を受けている真っ最中で、ちょうど掃除が行われている。
「懐かしいな。家具とかはそのままだ」
「私も結構少なくない回数ここ来てたっけ。勉強も見てあげたことあったっけ」
「僕はアレクサンドラみたいに頭は良くなかったからね。どうしてこんなのも分からないのか、って顔されたこともあったよ」
「……そうだったかしら? 私の記憶には何も無いわね」
アルフォンソ様の婚約者になった私とジェラールは姉弟のようになった。ジェラールがあの時の男の子だと気づけなかった私だけれど、それでも親しい関係は築けたとは思う。
そう、あくまで家族であって男性として彼を意識はしていなかった。
「今でもびっくりなんだけれど。ジェラールが密かに私に恋心を抱いていた、だなんてね。私は可愛い弟だとばかり思ってたから」
「愛してしまった、だなんて口が裂けても言えやしなかったよ。だって兄さんの婚約者だよ。横恋慕なんてしたくなかったし、あの時の兄さんとアレクサンドラは本当にお似合いだったから」
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