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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵夫人ルシアへの恩赦(後)
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「アレクサンドラに言ったのって本音?」
「本音だって。全部を語っていないだけでね」
「まあいいわ。これでレオンは誕生するでしょうけれど、問題はどうやって伯母に過ぎないルシアがレオンの晴れ舞台に姿を見せるか、よね」
「それより前にここからどうやって出るかも考えなきゃ駄目じゃない? わたし達って前世で言う終身刑でしょうよ」
「……少し気は引けるけれど、両方の問題が片付く手段があるわ」
「……ソレ、わたし個人は嫌だって反対したい気持ちだけれど。ルシアの好きにさせたいって思うのは惹かれた弱みなのかもね」
次にルシアが登場出来るようにならなければいけません。
その最適解は単純で、レオンと同い年の子を登場させればいいんです。
元王太子の来訪日を調整して、あたしを渇望した彼に愛を囁き、あたしを求めた彼の愛を受け入れて。
わたしは彼を哀れな男だと決めつけていました。
だってそうでしょう、あたしは彼を『どきエデ』の攻略対象者として接していたに過ぎず、彼本人を見ていなかった。わたしは彼をルシアを満足させる『どきエデ』の登場人物としか認識していませんでしたから。
けれど……そんな考えは間違っていました。
久しぶりにルシアを抱いた元王太子……いえ、アルフォンソ様は初めての夜とは違いました。ルシアを愛し、ルシアを求め、ルシアにすがる彼にはもうルシアしか残されていなかったのです。
わたしとアルフォンソ様の一体何が違うのでしょう?
いえ、何も違いません。
わたしはこの時初めてアルフォンソ様に好意を抱いたのです。
やがてわたし達は第二子になるエドガーを産み、修道院では育てられないからとアルフォンソ様に委ねました。定期的に送られてくるアルフォンソ様からの手紙で我が子の成長を感じられました。
「アルフォンソ様、エドガーのことちゃんと育ててくれてるみたいね」
「ねえルシア。成長する我が子を見れないのって、寂しい?」
「……寂しい。本当だったらダリアだってエドガーだってあたしが抱きながら育てていたのに。アンタにとってはそうでもないんでしょうけれどね」
「わたしは……憎い。ルシアと二人きりになれるからってこんな牢獄みたいな場所を選んでしまった過去の自分が」
そして、段々と後悔に苛まれたのです。
あたしの人生を眺めるだけだったわたしにとってはあたしだけが全てでした。
けれどあたしを攻略したわたしの世界は広がってしまった。
大事なものが他にも出来てしまったのです。
そして……それら全てがわたしから離れていることが悔しくてたまりません。
「今ならルシアの気持ちが分かる。わたしは愛が欲しい……。寂しいよ……」
「……そう思うなら是が非でもあたし達は演じ続けないと駄目よ。そうすればきっと望むものが手に入るわ」
「ルシア……」
「貴女がルシア……いえ、その議論はもう無意味ね。この世界ではあたし達二人で一人のルシアなんだから」
わたし達は大人しい日々を送りました。
修道女の模範になるよう率先して仕事をこなし、規律を守り、神に祈りを捧げます。
そんな態度を見た者がルシアは反省している、と受け取ってくれるように。
すると不思議なことに、わたしは段々と前世の記憶を思い出していきました。それまであたしが語って聞かせてくれるだけしか知りようのなかった情報も自然と頭の中に思い浮かぶようになったのです。
と、同時にあたしがどのような考えで、思いでいたかも分かるようになりました。あたしならこうする、わたしならこう考える。それを一人でこなせるようになったんです。次第にわたしとあたしとの間に言葉はいらなくなりました。
「ねえ、わたし」
「なぁに、あたし?」
「アレクサンドラのことだからきっとエドガーのためにルシアを解放してくれるわ」
「大きくなっちゃってるでしょうね。でも……楽しみ」
「ずっと一緒にいたい気持ちは痛いほどよく分かるけれど、心を鬼にしなきゃ駄目よ」
「分かってるよ。『どきエデ2』のためでしょう?」
「……本当、ルシアったら最低の女ね。神様も呆れ果ててるに違いないわ」
原因は分かっていました。
わたしがあたしを、あたしがわたしを受け入れた結果、もうルシアが区別する必要が無くなったんです。
それは二人としての関係の終わりでもありました。
予想通りルシアには恩赦が与えられ、わたし達は長年過ごしてきた修道院を後にすることになりました。迎えに来たのはもちろんアルフォンソ様。どんなに離れていてもずっとルシアを愛してくださった旦那様です。
「ルシア。迎えに来た。さあ、行こうか」
「はい、アルフォンソ様」
さあ、行こうよあたし。
そうね、行きましょうわたし。
これからはずっと一緒だから。
ええ、一緒に愛し愛されましょう。
「アルフォンソ様。わたし、あたし……愛してます。大好きです」
「ああ、私もだよルシア。この世の誰よりも愛している」
こうして『どきエデ』のヒロインだった男爵令嬢ルシアは死にました。
こうして『どきエデ』のヒロインになった転生者ルシアは死んだ。
わたしは、そしてあたしは今、ダリアとエドガーの母でアルフォンソ様の妻。
そう、正真正銘のルシアになったのだから。
さあ、ルシアとしての第二幕を始めようじゃないの。
「本音だって。全部を語っていないだけでね」
「まあいいわ。これでレオンは誕生するでしょうけれど、問題はどうやって伯母に過ぎないルシアがレオンの晴れ舞台に姿を見せるか、よね」
「それより前にここからどうやって出るかも考えなきゃ駄目じゃない? わたし達って前世で言う終身刑でしょうよ」
「……少し気は引けるけれど、両方の問題が片付く手段があるわ」
「……ソレ、わたし個人は嫌だって反対したい気持ちだけれど。ルシアの好きにさせたいって思うのは惹かれた弱みなのかもね」
次にルシアが登場出来るようにならなければいけません。
その最適解は単純で、レオンと同い年の子を登場させればいいんです。
元王太子の来訪日を調整して、あたしを渇望した彼に愛を囁き、あたしを求めた彼の愛を受け入れて。
わたしは彼を哀れな男だと決めつけていました。
だってそうでしょう、あたしは彼を『どきエデ』の攻略対象者として接していたに過ぎず、彼本人を見ていなかった。わたしは彼をルシアを満足させる『どきエデ』の登場人物としか認識していませんでしたから。
けれど……そんな考えは間違っていました。
久しぶりにルシアを抱いた元王太子……いえ、アルフォンソ様は初めての夜とは違いました。ルシアを愛し、ルシアを求め、ルシアにすがる彼にはもうルシアしか残されていなかったのです。
わたしとアルフォンソ様の一体何が違うのでしょう?
いえ、何も違いません。
わたしはこの時初めてアルフォンソ様に好意を抱いたのです。
やがてわたし達は第二子になるエドガーを産み、修道院では育てられないからとアルフォンソ様に委ねました。定期的に送られてくるアルフォンソ様からの手紙で我が子の成長を感じられました。
「アルフォンソ様、エドガーのことちゃんと育ててくれてるみたいね」
「ねえルシア。成長する我が子を見れないのって、寂しい?」
「……寂しい。本当だったらダリアだってエドガーだってあたしが抱きながら育てていたのに。アンタにとってはそうでもないんでしょうけれどね」
「わたしは……憎い。ルシアと二人きりになれるからってこんな牢獄みたいな場所を選んでしまった過去の自分が」
そして、段々と後悔に苛まれたのです。
あたしの人生を眺めるだけだったわたしにとってはあたしだけが全てでした。
けれどあたしを攻略したわたしの世界は広がってしまった。
大事なものが他にも出来てしまったのです。
そして……それら全てがわたしから離れていることが悔しくてたまりません。
「今ならルシアの気持ちが分かる。わたしは愛が欲しい……。寂しいよ……」
「……そう思うなら是が非でもあたし達は演じ続けないと駄目よ。そうすればきっと望むものが手に入るわ」
「ルシア……」
「貴女がルシア……いえ、その議論はもう無意味ね。この世界ではあたし達二人で一人のルシアなんだから」
わたし達は大人しい日々を送りました。
修道女の模範になるよう率先して仕事をこなし、規律を守り、神に祈りを捧げます。
そんな態度を見た者がルシアは反省している、と受け取ってくれるように。
すると不思議なことに、わたしは段々と前世の記憶を思い出していきました。それまであたしが語って聞かせてくれるだけしか知りようのなかった情報も自然と頭の中に思い浮かぶようになったのです。
と、同時にあたしがどのような考えで、思いでいたかも分かるようになりました。あたしならこうする、わたしならこう考える。それを一人でこなせるようになったんです。次第にわたしとあたしとの間に言葉はいらなくなりました。
「ねえ、わたし」
「なぁに、あたし?」
「アレクサンドラのことだからきっとエドガーのためにルシアを解放してくれるわ」
「大きくなっちゃってるでしょうね。でも……楽しみ」
「ずっと一緒にいたい気持ちは痛いほどよく分かるけれど、心を鬼にしなきゃ駄目よ」
「分かってるよ。『どきエデ2』のためでしょう?」
「……本当、ルシアったら最低の女ね。神様も呆れ果ててるに違いないわ」
原因は分かっていました。
わたしがあたしを、あたしがわたしを受け入れた結果、もうルシアが区別する必要が無くなったんです。
それは二人としての関係の終わりでもありました。
予想通りルシアには恩赦が与えられ、わたし達は長年過ごしてきた修道院を後にすることになりました。迎えに来たのはもちろんアルフォンソ様。どんなに離れていてもずっとルシアを愛してくださった旦那様です。
「ルシア。迎えに来た。さあ、行こうか」
「はい、アルフォンソ様」
さあ、行こうよあたし。
そうね、行きましょうわたし。
これからはずっと一緒だから。
ええ、一緒に愛し愛されましょう。
「アルフォンソ様。わたし、あたし……愛してます。大好きです」
「ああ、私もだよルシア。この世の誰よりも愛している」
こうして『どきエデ』のヒロインだった男爵令嬢ルシアは死にました。
こうして『どきエデ』のヒロインになった転生者ルシアは死んだ。
わたしは、そしてあたしは今、ダリアとエドガーの母でアルフォンソ様の妻。
そう、正真正銘のルシアになったのだから。
さあ、ルシアとしての第二幕を始めようじゃないの。
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