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第三王子殿下の恋Ⅲ
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きれいに片付けられたテーブルにうっつぶして駄々をこねるエドアールに、ラフェールはやれやれといった感じで生ぬるい視線を彼に向ける。
「お前の方が年下なんだから、無理というものだろう」
「なんで?」
ラフェールの言葉に顔をあげると意味が分からないとばかりに首を傾げた。
「三歳違いは結構大きな壁だと思うけどな」
「たった三歳じゃん。どこが大きな壁なわけ?」
「貴族令嬢の結婚は大抵同い年か年上が多いし、年下を選ぶとしたら双方によほどの益がないと結ばないものだから、難しいのは当然だろう」
「僕との結婚って、そんなにメリットのないものなの」
ラフェールの容赦のない言葉にがっくりと肩を落とすエドアール。何度も両親にどんなに懇願しても取り合ってもらえなかったから、薄々は感じていた理由をこうもあっさりと言われると落ち込んでしまう。
「まあ、ないんじゃないかな。クリスは筆頭公爵家の長女で婿を取って後を継ぐことは決まっていたし、王族と結婚する必要もメリットもない。でも、エドは違う。王族だから早々簡単に結婚は決められない。まだ、十六だしな」
「政略の駒になれってこと?」
「……まあ……」
明け透けに言われてラフェールは言葉を濁した。
「だったら、兄上はどうなのさ。自分で相手は探すっていってたじゃん。父上も母上もそれを認めていたってことでしょ? で、今はフロレンティーナ嬢がいるし。王太子の兄上にできて、僕はできないなんてそれって理不尽だよ。酷いじゃん」
それを言われると何も言えなくなってしまう。王位を継ぐのだから、将来の伴侶は自分が選んだ人をと両親に願っていたのは確かなのだが、実は縁談の話はたくさんあった。
だから推薦される令嬢に気に入った人がいれば選ぶこともできたのだが、あいにくそんな令嬢はいなかった。そんな時出会ったのがフロレンティーナだったのだ。
「俺のことを引き合いに出されるとちょっと困るんだが」
「なんで? 同じ兄弟でしょ。どこが違うの?」
違うだろうといっても聞きはしないだろうと思いながら、睨みつけてくるエドアールにラフェールはしばらく口をつぐんだ。
ラフェールの場合は国内の勢力安定のために貴族令嬢から選ぶのは決まっていた。けれど、第二、第三王子はその限りではない。他国との関係によって婚姻を結ぶことも必要になるから自分の意思など関係ない。
政略の駒と言われればその通りなのだが、ここでどんなに駄々をこねたところで今の状況が変わるわけでもない。
「それよりも、クリスはもう結婚してるんだし、ここで愚痴ってもどうにもならないと思うが……」
「……」
ラフェールの強烈な一言に見る見るうちに青褪めたエドアールの瞳からポロポロと涙がこぼれる。
「酷い。僕がどれだけ傷ついてると思ってるの」
エドアール付きの侍従セバスからハンカチを受け取ると本格的に泣き出した。ぐすぐすと鼻をすすりながらめそめそしている様子を見やりため息をつきたくなった。
(面倒くさいな。今日は特に)
日頃から顔をあわせるとエドアールの小賢しさが先に立って相手をするのも億劫になりがちで、あまり可愛いとは思えなかった。両親や周りには、天真爛漫に見えるのか甘え上手なのか末っ子だからなのか大層可愛がられているのは傍目で見ても明らかだった。
なのに、両親に溺愛されていても叶わない望みもあるんだと他人事のように思うラフェールだった。
「それは気の毒だし可哀想だとは思うが、どうしようもないだろ。ここは潔く諦めるのが一番いいんじゃないか? お前にはもっとふさわしい令嬢が見つかるだろう」
「だったら、兄上も諦めればいいじゃない。反対されているんでしょ? だから未だに婚約もできないんじゃん」
「あのなあ……」
(ああいえば、こういう……まったくこいつは)
さっきのお返しとばかりに胸をえぐられるような一撃に、怒りでこめかみがぴくぴくと震える。クリスティアが結婚したのがよっぽどショックなのか、ラフェールにまでとばっちりがいった。
悲し気な表情で悪態をつく姿も自分と照らし合わせれば、さすがに可哀想にはなってくる。ラフェールの方は反対はされてはいるもののまだ可能性はあるのだ。けれど、エドアールの方は……
「隣国からの申し出だったから、断り切れなかったらしいからな」
「でも、友好関係はずっと続いてるんでしょ? 婚姻関係を結ばなきゃいけないほどでもないのでは?」
「国交樹立記念式典の時に出た話で、さらなる友好の証としてということらしい。そう言われれば無下にもできないし相手が王子をとなれば断るのは無理だろうな」
「なんで王子? あそこは王女もいたよね」
素朴な疑問。こちらの王族は男子しかいない。となれば王女でもいいはずだ。
「確かにね。でも現実は王子を差し出したわけだからな。隣国にどんな思惑があったのかは知らないけど、こちらも受けたわけだから」
(クリスティアをと名指しだったってことは黙っておこう)
「うー。悔しいよ。ティーアを取られるなんて」
涙はとっくに乾いたようだが、新たな感情が湧き出したエドアールは、ラフェールに思いの丈をぶつけずにはいられなかった。
(いつまで話が続くのやら。でも、感情のはけ口はないとな。仕方ないな)
ラフェールも今日の仕事は諦めて、エドアールに同情しつつ根気強く話を聞いてあげていた。
「お前の方が年下なんだから、無理というものだろう」
「なんで?」
ラフェールの言葉に顔をあげると意味が分からないとばかりに首を傾げた。
「三歳違いは結構大きな壁だと思うけどな」
「たった三歳じゃん。どこが大きな壁なわけ?」
「貴族令嬢の結婚は大抵同い年か年上が多いし、年下を選ぶとしたら双方によほどの益がないと結ばないものだから、難しいのは当然だろう」
「僕との結婚って、そんなにメリットのないものなの」
ラフェールの容赦のない言葉にがっくりと肩を落とすエドアール。何度も両親にどんなに懇願しても取り合ってもらえなかったから、薄々は感じていた理由をこうもあっさりと言われると落ち込んでしまう。
「まあ、ないんじゃないかな。クリスは筆頭公爵家の長女で婿を取って後を継ぐことは決まっていたし、王族と結婚する必要もメリットもない。でも、エドは違う。王族だから早々簡単に結婚は決められない。まだ、十六だしな」
「政略の駒になれってこと?」
「……まあ……」
明け透けに言われてラフェールは言葉を濁した。
「だったら、兄上はどうなのさ。自分で相手は探すっていってたじゃん。父上も母上もそれを認めていたってことでしょ? で、今はフロレンティーナ嬢がいるし。王太子の兄上にできて、僕はできないなんてそれって理不尽だよ。酷いじゃん」
それを言われると何も言えなくなってしまう。王位を継ぐのだから、将来の伴侶は自分が選んだ人をと両親に願っていたのは確かなのだが、実は縁談の話はたくさんあった。
だから推薦される令嬢に気に入った人がいれば選ぶこともできたのだが、あいにくそんな令嬢はいなかった。そんな時出会ったのがフロレンティーナだったのだ。
「俺のことを引き合いに出されるとちょっと困るんだが」
「なんで? 同じ兄弟でしょ。どこが違うの?」
違うだろうといっても聞きはしないだろうと思いながら、睨みつけてくるエドアールにラフェールはしばらく口をつぐんだ。
ラフェールの場合は国内の勢力安定のために貴族令嬢から選ぶのは決まっていた。けれど、第二、第三王子はその限りではない。他国との関係によって婚姻を結ぶことも必要になるから自分の意思など関係ない。
政略の駒と言われればその通りなのだが、ここでどんなに駄々をこねたところで今の状況が変わるわけでもない。
「それよりも、クリスはもう結婚してるんだし、ここで愚痴ってもどうにもならないと思うが……」
「……」
ラフェールの強烈な一言に見る見るうちに青褪めたエドアールの瞳からポロポロと涙がこぼれる。
「酷い。僕がどれだけ傷ついてると思ってるの」
エドアール付きの侍従セバスからハンカチを受け取ると本格的に泣き出した。ぐすぐすと鼻をすすりながらめそめそしている様子を見やりため息をつきたくなった。
(面倒くさいな。今日は特に)
日頃から顔をあわせるとエドアールの小賢しさが先に立って相手をするのも億劫になりがちで、あまり可愛いとは思えなかった。両親や周りには、天真爛漫に見えるのか甘え上手なのか末っ子だからなのか大層可愛がられているのは傍目で見ても明らかだった。
なのに、両親に溺愛されていても叶わない望みもあるんだと他人事のように思うラフェールだった。
「それは気の毒だし可哀想だとは思うが、どうしようもないだろ。ここは潔く諦めるのが一番いいんじゃないか? お前にはもっとふさわしい令嬢が見つかるだろう」
「だったら、兄上も諦めればいいじゃない。反対されているんでしょ? だから未だに婚約もできないんじゃん」
「あのなあ……」
(ああいえば、こういう……まったくこいつは)
さっきのお返しとばかりに胸をえぐられるような一撃に、怒りでこめかみがぴくぴくと震える。クリスティアが結婚したのがよっぽどショックなのか、ラフェールにまでとばっちりがいった。
悲し気な表情で悪態をつく姿も自分と照らし合わせれば、さすがに可哀想にはなってくる。ラフェールの方は反対はされてはいるもののまだ可能性はあるのだ。けれど、エドアールの方は……
「隣国からの申し出だったから、断り切れなかったらしいからな」
「でも、友好関係はずっと続いてるんでしょ? 婚姻関係を結ばなきゃいけないほどでもないのでは?」
「国交樹立記念式典の時に出た話で、さらなる友好の証としてということらしい。そう言われれば無下にもできないし相手が王子をとなれば断るのは無理だろうな」
「なんで王子? あそこは王女もいたよね」
素朴な疑問。こちらの王族は男子しかいない。となれば王女でもいいはずだ。
「確かにね。でも現実は王子を差し出したわけだからな。隣国にどんな思惑があったのかは知らないけど、こちらも受けたわけだから」
(クリスティアをと名指しだったってことは黙っておこう)
「うー。悔しいよ。ティーアを取られるなんて」
涙はとっくに乾いたようだが、新たな感情が湧き出したエドアールは、ラフェールに思いの丈をぶつけずにはいられなかった。
(いつまで話が続くのやら。でも、感情のはけ口はないとな。仕方ないな)
ラフェールも今日の仕事は諦めて、エドアールに同情しつつ根気強く話を聞いてあげていた。
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