命を救った美女令嬢の家でVRMMOをプレイする。いつか彼女と付き合いたい。

茜色 一凛

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三話 『お屋敷』

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 医務室に入ると、「お嬢様どうぞ」と医師から声がかけられ、恵里香の足首の捻挫から見てもらうことになった。医師がレントゲンやMRIを慌ただしく撮り、そして診察と流れるような速さで進められていく。

 ――おかしい。大病院ってものは朝早くから待合室でぼーっと昼まで待って、診察は三分で終わるものだったはず。お金持ちって優遇されてるんだな。

 恵里香はテーピングしてもらうと、すぐに問題なく歩けるようになった。腕の良い医師なんだろう。俺も骨には異常はなく数日間、横になっていれば自然に治ると言われた。

 二人して待合室に戻ると、SPが心配そうな顔でやってきた。

 恵里香は人差し指を胸の前で伸ばすと。

「じゃあ、早速行くわよ。ユウキ! 腰が悪いんだから無理するな! 私の屋敷で療養しなさい!」

「はいっ????」

 どういう事なんだ? 俺がエリカの部屋でお泊まり? 違うよな? お屋敷だから沢山あるうちの一部屋貸してやるぐらいの気持ちか?

 命の恩人だから数日だけ面倒を見てやろうと。金持ちの思考はさっぱり分からない。

「いや、いいよ。そこまでしてもらうのも悪いし」

「そうね。仕事もあるし・・・・・・。どうせ大した仕事してないでしょ。いっそのこと、私からその仕事は断っとくわ!」

 ──何でだよ。 エリカの透明なピンクのグロスを塗ったぷにゅっとした柔らかそうな唇にキスしたいとか、頬がすぐに紅く染まるとことか、容姿は本当に完璧なのに言っていることが、遥か宇宙の彼方に飛んでいる。

 その後、マイナンバーカードから俺の個人情報が判明し、今は働いていないことがバレ、白目になる恵里香。それも一瞬の事で直ぐに顔が緩み、

「え? 最近首になったの? 丁度良かったじゃない?」

「良くないよ……」

「数日経てば卒業論文書くだけから、大学あまり行かなくていいの。私と一緒にVRMMO三昧になると思うわ。その間はパパに連絡してお給金も出してもらえるように頼んどくから」

「いやいや! ゲームやるだけで? そんなことに給料なんて出せないでしょ?」

「大丈夫よ! 外に車待たせてるから行くわよ。ユウキの実家に、連絡いれとくし。そうねー! 宮内ダイヤの用務員てことでいいんじゃない?」

 なんてこった。宮内財閥の社員? ちょい待てよ。いつもそれでやらかしているじゃないか? 流されて安易な道を選んでいつも失敗してきた。こんなんで本当に大丈夫か?

「ちょい待て、期間だけでも決めとこう。腰が治るまででもいいか?」

 腰なんて1週間もすれば治るだろう。その頃にはエリカの熱も下がるだろ。

 この宮内ダイヤという会社は給料がアルバイトですら、その辺の会社の二倍以上。さらには福利厚生も整っていることから、よくテレビやラジオでも超絶ホワイト企業として大々的に紹介されることが多い。

「いいけど。まぁー、それはおいおいね」

 大丈夫かな、何か大きな罠にハマってはいないのだろうか。

「行くわよ!」

 そう恵里香はまたもや俺の手を引っ張って、ゆっくりと病院の玄関口まで歩く。目の前にはロールスロイス? 車幅の長いピカピカの黒塗りの車が停車していて、俺たちが近づくと自動ドアがスっと静かに開く。

「これに乗るの?」

「そうよ! これ以外になにかあるの?」

 恐らく、こんなの乗るのは人生で最初で最後だろう。恵里香が先に後部座席に乗ろうとしている。

 俺はまだ腰に痛みを感じていたので、前かがみになり右手で車体を押さえて乗ろうとすると、手が滑る。「あっ」と、声が出て、バランスを崩し……振り向いた恵里香の唇に俺の唇が触れた。

 恵里香は一瞬ビクッとして、目を大きく見開くと細い眉が一気に吊り上がった。

 ──やばいっ。

「えっ……」

「ごめっ……」

 後ろにいた黒服の男が俺を掴んで地べたへ放り投げる。ピンクのタイルが一面に貼られる病院の玄関先に俺は顔から打ち付けられた。

「ごふっ」

 さっきまでのはなんだったんだ……。

「ちょっとお嬢様にやりすぎてやしませんか。どこの誰かもわからんやつを、うちの車に乗せること自体最初から納得してなかったんですよ!」



 令嬢と仲良くなるなんて、有り得ないよな……。本当に情けない。一時でもいい思い出をありがとう。
 ──思わず涙が込み上げてきた。



 パーーーン!!!



 天空の青空に向かって高らかに気持ちよく鳴る清々しい音。まるで三角関係の恋愛ドラマで見た女優顔負けのビンタが俺の真っ暗な気持ちを変えてくれた。

 何とか、床に手をつき、重い身体を起こそうとすると、恵里香が「ふぅふぅ」と肩で息をしている。右手を震わせながら、スーツの男性をキッと睨み付ける。そいつは何が起こったのか分からず、呆然と突っ立っているようだった。

 ──どういうことだ?

「何やってんの! 命の恩人に何てことしてくれたのよ! あんたは今日付けで、くびよ!  くびっ!」

 恵里香は興奮して声を荒らげる。そして俺に近づき、しゃがみこんで起こそうとしてくれている。黒いミニスカートの奥に、白のレースの付いたパンツがチラリと見えた。

「大丈夫なの? 顔赤いし、変なとこ打ってない? ちょっと見てないで手伝いなさいよ!」

 後ろを振り返り、真剣に怒鳴っている。他のSPもやれやれといった感じで俺を助けてくれた。

 もしかしたら、この子、本気か? でもまだ分からない。慎重な態度に出た方が良さそう。

「いいよ。恵里香の家に行こう」

 この子の行動力は凄い、とても年下とは思えない。どうしたら若くしてこんな行動力を身につけられたんだろう……。 

 


 ☆




 車は病院から10分ほど走らせた山間部、喧騒のない静かな場所で停車した。屋敷の外壁は2メートルほどの高さのコンクリートの壁で囲まれており、一際目立つ赤い門の前に到着した。SPはリモコンのボタンを押して扉を開けた。

 敷地内に入ると日本庭園のような作りで白い石が地面に敷き詰められている、真ん中に道路が2本あり、500mぐらい先に大きなお屋敷が見える。

 その道中は池があったり、竹林があったり、松の木が手入れされていたりとセンスの良さがうかがわせる。まるで京都の観光名所に来たような気分だ。更には休憩室のような場所や、コンビニも建っているから驚かされる。

 玄関先にはメイドが10人ほどお辞儀しながら待機していた。

 その中を俺たちは歩いていく。

「ふぅー、緊張した。いつもこうなの?」

「そうよ! 何かおかしなことでもあった?」

「いつもこうだと疲れない?」

「慣れてるから、そんなこと考えたこともないわ」

 階段を踏みしめ二階へと上がる。一つ目、二つ目、三つ目・・・・・・、十個目の角部屋へと案内される。

「それよりゲーム始めましょ。私、シャワー浴びて着替えてくるから、その間に説明書読んで、それと、この部屋、あなたの部屋にするから、好きに使っていいわよ。ゲーム『Lack the world』楽しみね!」

 そう言って、エリカは部屋を後にする。

 俺はエリカのシャワーシーンを勝手に想像し、何やってんだと思いながら、説明書に目を通すことにした。
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