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四話 『Lack the world』

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『Lack the world』


 表紙をめくると、この世界は剣や魔法を駆使して強大な悪を倒すらしい。と、書かれている。──なるほど。一般的なVRMMOとあまり変わらないか。

 職業は選べれる。 読み進めて行くと、……まじか?

 説明書の最後に封筒が括り付けられており、それがあなたの職業です。と記載されている。

 あちゃー。これプレイヤーの事考えてないな。大丈夫か? ん? 冒険を進める上で転職することも可能と書いてある。そうそう、やっぱり自分の好きな職種で冒険したいよな!

 封筒を開けると、中には1枚のカードが入っていた。

 Dランク  魔法使い

 職業を詳しく説明した小冊子も一緒に入っていた。



 ・魔法使い

 力と体力、攻撃力が低く、前線で戦う事には向いていません。MP(マジックポイント)と呼ばれる精神エネルギーを使い、魔法を唱えることが出来ます。

 精神エネルギーは全ての生物に備わるもので、魔法は練習次第でどんどん使えるようになります。ちなみにレベルの概念は在りません。

 と、いうことは、早めに魔法を練習して覚えていけば、誰よりも先を越せると言うわけか。今時珍しい。大抵はレベルアップと共に使える魔法が増えていくものだけど。

 そして、ページをめくると魔法が羅列してあった。

 ・初級魔法

 ・ファイアーボール
 ・アイスキャノン
 ・サンダーボルト
 ・ラッキーボール

 ん? 4個しか覚えない? 最後のラッキーボールってなんだ? 読み進めて行くと魔法使いは道中、魔法書を手に入れて練習することで魔法を憶えていくと書かれている。

 なんかリアルの世界みたいで面白そうだな。

 つまり、プレイヤーは、初期の職業から始めて職転していくことになるのか? 俺は逆にこのままこの職業でやり続けよう。

 職種ごとにこんな小冊子をつけるとか手が込んでいる。

 自分の部屋は殺風景で机と椅子。後は何も入っていない本棚に、ベッドがあるぐらい。取り敢えず、恵里香が戻ってくるまで少し遊んじゃおう。

 VRの本体である眼鏡をかける。

 椅子に腰かけて、コンセントを挿して、いざ!

「ログイン」

 ログインはちなみに音声入力方式。


 ──すると、目の前には舗装されていない白い砂利道が、遠くまで続いている。その両わきには広大な草原が広がっていた。目の前には木で作られた看板がある。

  この道を真っ直ぐ行けば『ラムの町』らしい。キャラの容姿はリアルのまま。服装はグレーのローブを身に纏っていた。そして手には枝のようなものを握っている。これは杖かな?

 モンスターもいないし、練習してみるか。草原にはゲームの初日ということもあり、ログイン地点だからか、人が沢山集まっている。俺は少し離れて練習することにした。

 ファイアーボールでも覚えてみるか。説明書を見ると確かこうだ。

 息を吸って、一度お腹に息を溜め込んでから、息を吐きながら、それが右腕を通って杖の先端までいくのを想像する。

 ふぅふぅ

 息を止めるのはきつい。やり方間違ってないか?

 自然に呼吸しつつ、息を吸うタイミングでお腹にあるエネルギーが右手に移動するさまをイメージ。そして視線を杖の先端に向ける。

 ──すると、杖の先端がバチバチと線香花火のように光りだした。

「おぉ!」

 感動してしまう。ほのかに揺れる黄色い光がバチバチと小さな音を立てて留まっている。この後、魔法の名前を唱えればいいんだよな。

「ファイアーボール」

 何も変化なし。なんでだ?

 やり方が違うのか、何かコツがいるのか。分からない。周りには同じような魔法使いがファイアーボールやらアイスキャノンを練習している姿が目に入る。

 ──でも誰一人として出来ていない。

 これもしかして、バグ? 栗毛の女性魔法使いは

「あれっ、出ない! やり方違うのー?」

 杖をぶんぶん振りまわしている。見てたら手からすっぽ抜けてどこかに飛んで行った。大丈夫かな?

 これは試行錯誤しないと出来ないゲームか?

 もう一度呼吸しながらお腹から腕へ、そして杖の先端に意識を集中させる。先端が光る。

 この後どうしたら魔法が出るのか?

 その時、草陰から一匹の白いスライムが飛び出してきた。

 LOCK ON

 何これ?ロックオンの△マークが現れる。もしかしたらこれは対象物がいないと出ないのか?

 △はゆっくりとぐるぐる回っている。スライムのど真ん中に当てたいと願う。

 マークがそのスライムのど真ん中で止まる。鼻の位置だ。杖を恐る恐る△マークに向けて

「ファイアーボール」

 マッチをつけたような小さな炎がゆっくりと飛んでいく。

 スライムがこちらを見て臨戦態勢に入る。

「やばい」

 こちらに体当たりを仕掛けてきた。

「ごふっ」

 ──超絶痛いじゃないか。

 もう1度やってやる。杖を構えてスライムを見る。白色か。そういえば、恵里香のブラも白だったような。SPに倒された時、駆けつけてくれてしゃがみこんだ時にちらりと見えた。

 スライムは手をハンマーの形にすると俺をポコポコ殴り始めた。

 左上にある緑のHPゲージが少しずつ減っていき、三分の一ほどになりかけた。

 手に力を入れて杖をおもいっきり振った。

 先ほどとは違いテニスボールくらいの火球が凄い勢いで飛んでいき。スライムにぶち当たる

 その瞬間、スライムは弾け飛びキラキラしたエフェクトが空中を舞った。

「ふぅ──」

 倒せた。やっぱセンスあるな俺。ちょい待て、最初は簡単なスキルからだろ。誰でも出来るんだよこんなこと。やばいな、また調子に乗りかけた。

 周りにいたプレイヤーがこちらに続々とやってくる。

 若い女性が多い。

「どうやって魔法出したんですか?」

 三つ編みの眼鏡の子がこちらを見てくる。調子こくなよ。オンラインは調子こくとすぐにネットにあげられて叩かれるのだ。

「あ、はい、僕もあまり良くわかないんですけど、杖を振る速さが玉のとぶ速さだと思います。初めてなので、まだつかみきれていないのですが」
「そうなんですね。ありがとうございます」

 中には師匠とか読んでくる男の子までいて困ってしまう。ここで得意げになってもしょうがない。

 そろそろ、恵里香も終わったかな。

 ログアウトボタンを押そうとしたとき体が揺れるのを感じた。

 眼鏡が取られて現実世界へと戻される。

「あーー、ズルい。自分だけ先にやってたの?」

 コラコラと言わんばかりの顔を近づけてくる。お風呂上がりの恵里香は肌がほんのりと赤く染まり色気を感じられた。目もすこしトロンとしているようで俺も思わず溶けてしまいそうになる。こんな幸せでいいんだろうか。

「シャワー浴びてきなさいよ! それか大浴場もあるから行ってきて! 着替えも用意させといたわ」
「何から何までしてもらってありがとう」
「私も説明書を読むから、夕食後に一緒にやりましょ」
「いってくる」

 こんな幸せなことしてていいのか? お風呂に浸かりながら考えている。ゲームは好きだし、好きな人といられる幸せ。

 向こうは恩人だと感じているから俺の好きそうなことをやらせているだけなのかもしれない。それは好意があるとはまた別の話だ。勘違いするな。

 俺なんて底辺の人間なんだから。恵里香はお嬢様で令嬢でかたや自分は雇われだよ。

 その辺りをしっかりわきまえた方が良いのかもしれない。

 お風呂から上がり、自分の部屋で夕食を頂く。メイドの方が持ってきてくれた。

「次からは取りに行きます」

と言うと年配の女性は

「あらいいのに」

 食器を食堂に片付けて、部屋のドアを開けると、パジャマ姿の恵里香が何故か俺の布団の上で大の字になって寝ていた!

 ボタンが上から二個外れていて小振りな胸がはだけている。半分寝ぼけているのか手を服の下からいれてモゾモゾとお腹を掻いている。小さなおへそが見えた。

 ──床に落ちた薄手の毛布をかけてあげると、目を覚ます。

「ごめんなさい。寝るはずじゃなかったのに」
「ゲームやれる?」
「少し寝たら目が覚めたから大丈夫よ!」
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