命を救った美女令嬢の家でVRMMOをプレイする。いつか彼女と付き合いたい。

茜色 一凛

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六話 『一の扉』

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「あのさ……」

 試着室のエリカの足元に純白の下着が落ちていることを視線で知らせてあげると、エリカはムッとして俺を両手で押し出しカーテンを勢いよくビシャっと閉めた。

「信じられない! この変態っ!」

 言わなきゃ良かった。それにしてもログアウト出来ないってどういう事なんだ?

 運営からのお知らせによれば、外部の人間が眼鏡型のハードを外せば元の世界に戻れるのだから、問題は無い。そのうちメイドが気づいて取り外してくれることだろう。

「着替え終わった?」
「ええ。まさかゴスロリの服に下着まで付いてるとは思わなかったわ」

 慌ててたから、まあしょうがないか。

「その切れたワンピースとか下着って売れないかな?」
「売れるわけないじゃない」
「もしかしたら、もしかするってこともあるし、聞いてみようか? そのまま持っていてもかさばるだけだし」
「やめなさいよ。 今まで履いていたんだから……買う人いるはずないでしょ!」
「付加価値がつくかもしれない」
「やめなさい!」

 そう言われると、ゲームの世界ということもあってか悪ノリしてしまう。

「すいませーん。 このワンピと下着売れませんか?」

 先程の店主がのそのそと出てくる。

「ワンピの方は駄目だな。初期装備だし、これだけボロボロでは買い手が見つからん」

 まーそうだろう。初期装備なら最初から手にしているし、破れていてはどうしようもない。

「下着の方は1万でどうかね?」

 鼻の穴を膨らませながらやや興奮しているように見える。マジか? このゲームの世界もリアル同様そういった需要もあるのか。

「それ系は品薄でね。なかなか手に入らんのだよ」

 よく分からないけど、この男性がニタニタと口元が緩んでいたのが怖かった。

 エリカは俺をキッと睨みつけると、

「ファイアーボールで燃やしなさい!」

 まーそうだよな。杖に集中してファイアーボールで燃やしてあげた。まさかパンツを燃やすのに魔法を使うことになるとは。

 下着に照準マークの三角マークが出てきた時はびっくりしたけど。この照準は対象物があれば何にでも合わせられるようだ。






 『Lack the world』は全部で10の扉があり、各フロアをクリアすると次の扉が開く仕組み。遅くとも明日の朝食の前にはハードが外されるはず。それまで呑気にこのゲームを進めていこう。

「もしゲームオーバーになったらどうなるんだろうね」
「最初からになるんじゃない?」

 そうなんだろうか。たかがゲームでHPが無くなったら、リアルでも死亡したとか聞いたこともないし、その辺は考えなくてもいいだろ。

「せっかくだから行ける所までいきましょ」
「そうだね。情報収集からだ。RPGの基本は街の人から話を聞いて進めていくんだよ」
「結構面倒いわね」
「他のプレイヤーから情報を集める手もあるけど」
「早く言いなさいよ! 街の人から話を聞いてたら日が暮れるわ」

 この場合、プレイヤーから情報を集めれば上手くいけば時短できるけど、それだと10の扉を終わらせるのに人任せで楽しめない。しかも早く終わってしまってはエリカと仲良くなる時間を確保できない。

 出来ることならじっくり進めていきたいけど、そうなると恵里香がこのゲームに飽きてしまうことも考えられる。

 どうするか。最初は気持ちよく進めていけた方が初心者は始めやすい。プレイヤーの集まりやすい場所を中心に回ろうと決めた。

 エリカは防具屋のカウンターに腰掛けて脚をプラプラ揺すっている。ミニスカートから伸びる白くて綺麗な脚が眩しい。ほんとリアルの体型と同じでこのゲームの凄さを改めて実感する。

「プレイヤーの集まりそうな場所を回ろう」
「それがいいわ!」
「まずは酒場から」
「お酒飲めないわよ」
「RPGだとお約束で酒場にみんな集まることになってるから」

 エリカは慣れた手つきで、ウインドウを開き地図を確認する。この街の北東の位置に酒場があると指さす。

「こっちよ!」
「あ、うん」

 カウンターからふわりと降りると、走り出す。その後を追いかける。

 そう言えば、俺も最初、MMORPGを始めた時はこんな感じだった。夢や希望、この先の冒険に心踊っていた。それがいつからだろう。ソロでしてるときにワクワクしなくなったのは。

 人のペースに合わせるのは面倒いとか思っていたけど意外と悪くない。相手がエリカだからなのかもしれない。

 空は夕焼けがかかり茜色のグラデーションがかかる。街灯がポツポツと路地を灯していく。細い路地を抜けると5分くらいでジョッキの看板の掲げられた酒場に着いた。おかしい、夕方なら他の冒険者も集まってそうなのに静かだ。

「行くよ!」

 エリカは勢いよくドアを開け放つ。

 中にはカウンターに1人の幼女が座っている。髪はショートボブでミルクを啜っている。俺の方を見て嘘つきと言わんばかりだ。

 マスターが

「いらっしゃい」

 と、陽気な声をかけた。まだ若い。赤髪のポニーテールで肩ぐらいまで髪を伸ばしている。マスターが女性とか珍しい。

「プレイヤーいないじゃない、さっきの自信はどこからきてるの?」

 エリカは俺の額を人差し指でグイッと押してくる。

「いや、ちょい待って。もしかしたら初日だから敵と戦っているのかも」
「隣いい?」

 エリカの強引な態度に僧侶っぽい幼女はこくりと頷く。

「マスター私にも何か飲み物頂戴!」
「なんになさいます?」
「この後冒険するから、ハイボールで!」
「いえ、サイダーを二つにしてもらっても良いですか?」
「なんでよ!」
「飲めないんだろ?」
「1の扉を制覇したいけど、まず何したらいいの?」

 エリカはストレートに聞く。マスターは眉間にシワを寄せながら

 「一の扉には1つの街と隠された地下へと続く階段があります。まずはダンジョンに通じる階段を探してください。そしてその奥に潜むボスを倒せば攻略となります」

 もしかしたら夕方だから誰かがもうすでに階段を発見しているのかもしれない。

「シンプルね。ボスはどんな感じなのかもわかる?」
「それは分かりません。またお客さんに聞きましたら教えますね」

 優しく微笑む。えくぼが見えて可愛い。

「俺はユウキ。運営のお知らせ見た?」

 幼女に話しかける。

「私……ログアウト出来ないの……」
「私達もだよ。そのうち家族が見つけてくれてログアウト出来るから、心配しなくていいわよ」

 エリカは幼女の頭を撫でて、励まそうとしている。

「一人暮らしだから駄目かもしれない」

 マジか? 何歳なんだこの子? 見た目は小学生位に見えるけど

「失礼ですけど何歳です?」
「女性に年聞くとかありえないわ」

 エリカは素早く手を引っこめる。何故かイライラしている。他の女性に興味を持つことが嫌なのか?

「よく小学生に間違われるんですけど、私、実はハタチなんです。今日の朝ハードとソフトを買ったらこんなことになるなんて思ってもみなくって」

「知ってる? このゲーム外部とネットできるはずよ。」

「いや、ダメじゃないか? 不特定多数の掲示板に住所書き込むとか危険すぎるだろ。もしかしたら運営から個別に住所を送って対応とか考えてくれるかもしれないし」

 ちょっと待て、俺は何をいっているんだ。日本全国のプレイヤー、一人一人にそんなきめ細かいサービスが果たして出来るんだろうか。都合よすぎか?



「希咲 ツグミって言います。もし良かったらパーティ組みませんか? 一日ソロしてて寂しかったんです。もしかしたら、当分リアルの世界に戻れないかもしれないし。」

 怖いことを言う。今までこんなログアウト出来なくなるなんてことは無かったから、運営がどういう対応をするのか見ものだ。まあ、エリカに任せよう。最悪俺達がリアルに戻ったらこのツグミちゃんをエリカに助けて貰えばいいだけの話だ。

「そうね。 ユウキ3人でパーティ?」

「パーティって言うのは3人でグループを組むってこと。お菓子パーティをするとかそーいうのじゃないから」

 酒場のマスターはもう保護者のような目になって、ウンウンと頷いている。

「つぐみちゃん、エリカに取り敢えず連絡先教えといて! もし俺らが戻れたら助けに行く」

 夕方なので階段だけでも探しに行こうと思った。もしかしたらこうしている間にもリアルの世界に戻れるかもしれないのだから。

 三人で酒場を後にする。小さな町なので比較的早く階段を見つけることが出来た。

 何故なら地下へと続く階段の周りは人だかりになっていたからだ。
 
 もしかしたら階段の前で作戦を練っていたり、フレンドを集めていたり、パーティを組めそうな人を探している人たちなのかもしれない。

「階段の位置も分かったし、取り敢えずどうする?」

 その時、階段の下から息切れをしながら五名のプレイヤーが上がってきた。服は何かで引っかかれたようで切り刻まれており血しぶきが付いてモンスターとの戦闘が凄まじいことを想像させる。

「おかしいな。最初のボスはそれほど強くないはず」
「助けて……」
「とんでもなく強いボスがいる……」

 腹のあたりをを爪で抉られた戦士が、血を滴らせながらバタッと地面に倒れ込むと同時にゲームオーバーの文字が空中に現れる。

 ピクリとも動かなくなり、そしてガラスのようなポリゴンが砕け散り彼は消滅した。

「これってどういうことなんだ?」
「ゲームオーバーだから、最初の立て札の場所に戻ったんでしょ?」
「なんか嫌な予感がします」

 ツグミは少し怖い顔になる。何を考えているのだろうか?

 ウインドウに運営からのメッセージが入る。

 不味いことになりました。ロット番号のログアウト出来ないハードを使って戦闘しゲームオーバーになると現実世界に戻れなくなります。

 戦闘はしないようにしてください。インターネットの情報を元に現実世界の体はこちらで探し次第管理します。また何か情報が分かり次第お知らせ致します。

 どういうことだろう。現実世界に戻れないとは?これはゲームの世界を壊さないようにするための比喩なのか? 何らかの問題が起きていることは確かだ。

 ツグミは上目遣いで俺たちを見て涙目になっている。

「明日には戻れるさ」
「そうよ。明日私が現実世界に戻ったら必ずあなたを助けに行くから安心しなさい!」

 ツグミはくしゃくしゃになった顔を上げると

「はい」

 と、小さく呟く。

 もうこんなところにいる場合じゃない。街に戻り休息が必要だ。

「街に戻りましょう」

 エリカは垂れた腕を震わせながらそう言う。不安が伝わってきた。癖なんだろうと思いながら。

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