91 / 137
90 ぬくもりを求めて③
しおりを挟む
確か、ここだった…。
街角に立ち、僕は正面に聳える全面ガラス張りの超高層ビルを見上げた。
WASIOビル。
この建物の地下通路の多機能トイレで、僕は初めて一ノ瀬渉に出会ったのだ。
何食わぬ顔で、自動ドアをくぐる。
清涼な空気に、体中の汗が引いていくのがわかった。
会えるだろうか…。
周囲を見回してみる。
スーツ姿の男女が足繁躯く行き来する広大なフロアで、いかにも学生風のラフな服装の僕は明らかに場違いだった。
あの時の渉の言葉を思い出してみる。
ー俺は、このビルを管理する企業の保安課の者だー
確か彼は、僕を慰みものにした痴漢に対し、そう啖呵を切ったものだ。
このビルを管理するのは、IT関連で有名な鷲尾ホールディングス。
保安課へ行けば、彼に会えるということなのか。
受付嬢たちに訊く勇気はなかった。
ただでさえ彼女たちは、時折僕のほうに意味ありげな視線を投げては、その度コソコソ耳打ちし合っているのだ。
仕方なく、案内板を探すことにした。
目当てのものは、奥へと続く通路の入口の壁に設置されていた。
それによると、1階から7階までが様々なテナント企業のオフィスに割り当てられ、8階から12階が管理会社の鷲尾ホールディングス関連のフロアになっているらしかった。
更にその上は、頂上階まで全部、系列会社のホテルの客室という塩梅だ。
ホテル…。
僕は先日、一ノ瀬渉に連れられ、ロイヤルホテルの一室で休憩した時のことを思い出した。
初めての、兜合わせ。
硬く、弾力のある二本の肉棒を、同時にぎゅっと、握られて…。
く。
くう…。
不意にフラッシュバックした映像とそれに伴う性器の疼きに危うく声を上げそうになって、僕は半身を折った。
あの時のビキニショーツを、今日も穿いてきていることを思い出したからである。
あれ以来、この下着なしではいられない。
特に、自分で自分を辱める時は、絶対…。
渉の魂胆に反発を覚えつつも、その実、それが僕の悲しい性だった。
思いもかけないほど近くで、人の囁き声が聴こえてきたのはその時だ。
「な、いいだろ? すぐ済むから」
若手のリーマンがふたり、肩を組むようにしてこちらのほうへと歩いてくる。
ガタイのいいほうが、小柄なほうの肩に覆いかぶさるようにしているさまが、いかにも不自然だ。
「わかってるだろ? おまえの躰は、お偉いさんたちだけのものじゃない。みんなのものなんだぜ」
なんだ?
カラダが、どうしたって?
会話の内容の不穏当さにピンときて、僕は柱の蔭に身を隠しながら首だけ出してふたりを観察した。
そして、次の瞬間「あっ」と喉の奥でかすれた声を上げていた。
近づいてくる二人組の、背の低いほうは、間違いなくあの一ノ瀬渉だったのだ。
街角に立ち、僕は正面に聳える全面ガラス張りの超高層ビルを見上げた。
WASIOビル。
この建物の地下通路の多機能トイレで、僕は初めて一ノ瀬渉に出会ったのだ。
何食わぬ顔で、自動ドアをくぐる。
清涼な空気に、体中の汗が引いていくのがわかった。
会えるだろうか…。
周囲を見回してみる。
スーツ姿の男女が足繁躯く行き来する広大なフロアで、いかにも学生風のラフな服装の僕は明らかに場違いだった。
あの時の渉の言葉を思い出してみる。
ー俺は、このビルを管理する企業の保安課の者だー
確か彼は、僕を慰みものにした痴漢に対し、そう啖呵を切ったものだ。
このビルを管理するのは、IT関連で有名な鷲尾ホールディングス。
保安課へ行けば、彼に会えるということなのか。
受付嬢たちに訊く勇気はなかった。
ただでさえ彼女たちは、時折僕のほうに意味ありげな視線を投げては、その度コソコソ耳打ちし合っているのだ。
仕方なく、案内板を探すことにした。
目当てのものは、奥へと続く通路の入口の壁に設置されていた。
それによると、1階から7階までが様々なテナント企業のオフィスに割り当てられ、8階から12階が管理会社の鷲尾ホールディングス関連のフロアになっているらしかった。
更にその上は、頂上階まで全部、系列会社のホテルの客室という塩梅だ。
ホテル…。
僕は先日、一ノ瀬渉に連れられ、ロイヤルホテルの一室で休憩した時のことを思い出した。
初めての、兜合わせ。
硬く、弾力のある二本の肉棒を、同時にぎゅっと、握られて…。
く。
くう…。
不意にフラッシュバックした映像とそれに伴う性器の疼きに危うく声を上げそうになって、僕は半身を折った。
あの時のビキニショーツを、今日も穿いてきていることを思い出したからである。
あれ以来、この下着なしではいられない。
特に、自分で自分を辱める時は、絶対…。
渉の魂胆に反発を覚えつつも、その実、それが僕の悲しい性だった。
思いもかけないほど近くで、人の囁き声が聴こえてきたのはその時だ。
「な、いいだろ? すぐ済むから」
若手のリーマンがふたり、肩を組むようにしてこちらのほうへと歩いてくる。
ガタイのいいほうが、小柄なほうの肩に覆いかぶさるようにしているさまが、いかにも不自然だ。
「わかってるだろ? おまえの躰は、お偉いさんたちだけのものじゃない。みんなのものなんだぜ」
なんだ?
カラダが、どうしたって?
会話の内容の不穏当さにピンときて、僕は柱の蔭に身を隠しながら首だけ出してふたりを観察した。
そして、次の瞬間「あっ」と喉の奥でかすれた声を上げていた。
近づいてくる二人組の、背の低いほうは、間違いなくあの一ノ瀬渉だったのだ。
12
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる