タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

文字の大きさ
3 / 36

3話

しおりを挟む
学校から離れた、廃工場の跡地。

 錆びついた鉄骨と、割れた窓ガラスから差し込む西日が、殺伐とした空気を漂わせている。

 放課後の薄暗がりの中、俺はそこに呼び出した「駒」を待っていた。

​「……遅いな」

「し、仕方ないでしょ。誰にも見られないように抜けてくるの大変だったんだから」
​ 
瓦礫を踏む音と共に現れたのは、桐島玲奈だ。

 彼女は俺の顔を見るなり、露骨に顔をしかめた。汚いものを見るような、軽蔑と嫌悪が入り混じった目だ。

​「あんたと一緒にいるところなんて、誰かに見られたら死にたくなるわ」

「口の減らない奴だな。……報告は?」

​ 俺は近くのドラム缶に腰掛け、冷淡に促した。
 
玲奈は舌打ちをし、吐き捨てるように話し始める。

「今日の昼休み、くるみがまた言ってたわ。『真理愛ちゃんは可愛いけど、ちょっと世間知らずで心配』って。いつものマウント取りよ」

「それだけか?」

「……あと、取り巻きのミナたちが、くるみに言われてあんたの上履きを隠そうとしていたわ…。」

​ やはりな、と俺は鼻で笑った。

 未来の記憶通りだ。あの時、俺は上履きがなくなって途方に暮れ、それをくるみに「一緒に探してあげる」と優しくされ、さらに彼女に依存したのだ。

中学生だった当時としては、親に怒られることの方が怖い事なのだと錯覚してしまっていたから。

​「報告は以上よ……。」

​ 玲奈はそれだけ言うと、逃げるように踵を返した。
 一秒でも早くこの場を去りたい。その態度が気に食わない。

​「待て」
​ 俺は立ち上がり、彼女の腕を掴んで引き戻した。
 背後の錆びた柱に、彼女の華奢な背中がドンとぶつかる。

​「いっ……! なによ、離してよ!」

「『報酬』が必要だろ? よく働いたペットには、餌をやらないとな」

​ 俺は彼女の顎を強引に掴み、上を向かせた。

 至近距離で目が合う。

​「は? 何言って……やめ、触らないで! 気持ち悪い!」

​ 玲奈が必死に俺の胸を押し返そうとする。その目には涙が滲むほどの生理的な拒絶が浮かんでいた。

 だが、俺は構わず唇を重ねた。

​「んぐっ!? ふ、ううーっ!!」

​ ジタバタと暴れる彼女の両手首を片手でねじ伏せ、頭上で固定する。

 歯が当たるほどの乱暴な口づけ。
玲奈は必死に顔を背けようとするが、俺は逃がさない。

​「んっ、んーっ! (サイテー、死ね、離して!)」

​ 声にならない罵倒が聞こえてくるようだ。
俺は空いた手で、彼女の制服越しに脇腹を撫で上げ、耳の裏のくぼみを指先で強く刺激した。

 未来で、俺を玩具にしていた女たちが好んだ、神経を逆撫でするような愛撫。

​「ひっ……!?」
​ ビクリ、と玲奈の体が跳ねた。

 嫌悪感で強張っていた体が、不意に別の反応を見せる。

​「な、に……やめ……っ、あ……」
​ 意思とは無関係に、喉の奥から小さく甘い声が漏れた。

 その事実に一番驚いたのは、玲奈自身だったようだ。彼女は目を見開き、信じられないという顔で俺を見た。



​ ――なんで? 気持ち悪いのに。あんなに見下してた透なのに。



 どうして今、背筋がゾクゾクしたの?



​ 混乱する彼女の隙を突き、俺はさらに深く舌をねじ込んだ。

 抵抗する力が、ガクンと弱まる。
 膝から力が抜け、俺の体に体重を預ける形になる。

​「……っ、ふ、ぅ……」
​ ほんの数秒。

 彼女が抵抗を忘れ、されるがままになった瞬間を見計らって、俺はパッと体を離した。

​「……あ」

​ 支えを失った玲奈が、その場にへたり込む。
乱れた髪。荒い呼吸。そして、涙で濡れた瞳。

 彼女は袖口で乱暴に口元を拭うと、真っ赤な顔で俺を睨みつけた。

​「さ、最低……! やっぱりあんたなんかゴミよ、死んじゃえばいいのに!」
​ 罵倒の言葉は鋭い。

 だが、その声は微かに震えていた。
睨みつける瞳の奥には、怒りだけではない、得体の知れない動揺が渦巻いている。

​「続きがしたければ、もっとマシな情報を持って来い」

「だ、誰が……ッ!」

​ 玲奈は何か言い返そうとしたが、言葉に詰まり、逃げるように廃工場を走り去っていった。

​ 去り際、彼女が一度だけ振り返り、悔しそうに、けれど何かを探るような目で俺を見たのを、俺は見逃さなかった。

​ 恐怖と嫌悪。
 けれど、その中にほんの一滴だけ混ざった、身体の反応への戸惑い。


 その一滴が、いずれ彼女を壊す毒になる。


​ 俺は夕闇の中に消えていく背中を見送りながら、冷たく笑った。





~~~~~~~~



​「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
​ 公園の公衆トイレに駆け込んだ玲奈は、洗面台の蛇口を勢いよく捻った。

 冷たい水を手ですくい、何度も、何度も唇を洗う。

​「最低、最低、最低っ! あんなゴミに……気持ち悪いっ!」

​ 薄くしていた化粧が崩れるのも構わず、ゴシゴシと口元を擦る。

 鏡に映る自分の顔は、怒りと屈辱で赤く染まっていた。



​ 深澄透。



 クラスで一番パッとしない、顔が整っているだけの影の薄い男。

 本来なら、私の視界に入ることすら許されないような底辺。

 それなのに、あいつは私の弱みを握り、あろうことか唇を奪った。

​「なんなのよ、あの態度……! いきなり強気になって、私のことペットだなんて……!」
​ 思い出すだけで鳥肌が立つ。

 あんな奴、死ねばいい。万引きの写真さえなければ、すぐにでもくるみに言いつけて、社会的に抹殺してやるのに。

​ そこまで考えた時、ふと――先ほどの感覚がフラッシュバックした。



​『反応がいいな』



​ 耳元で囁かれた低い声。

 背筋を駆け上がった、得体の知れない電流のような痺れ。
あいつの指が首筋を撫でた時、私の体は確かに跳ねた。

 あろうことか、あんな陰気な男の愛撫に、声を出して感じてしまった。

​「……っ」


​ 玲奈は自身の二の腕を強く抱きしめ、首を激しく横に振った。
​「違う。……あんなの、びっくりしただけよ」

​ 自分に言い聞かせるように、鏡の中の自分を睨みつける。

​「そうよ、ただの生理現象。くすぐったかっただけ。あいつなんかに私が感じるわけないじゃない」
​ 透はただのゴミだ。

 今は写真を盾に取られているから従っているだけ。隙を見て証拠を全て取り返したら、倍にして復讐してやる。

 絶対に許さない。あんな屈辱、二度と味わうものですか。

​「……ふん」
​ ハンカチで乱暴に顔を拭くと、玲奈は努めていつもの「強気な自分」を作った。


 だが。


​(……でも)
​ 鏡から目を逸らす瞬間。
 唇に残る、手荒くも熱かった感触が、どうしても消えてくれないことに気づいてしまった。

​ 心臓が、不愉快なほど速く脈打っている。


 恐怖のせいだ。怒りのせいだ。


 ……本当に、それだけなのか?


​「……忘れなさいよ、私。あんな奴のこと」
​ 玲奈は誰に言うでもなく呟き、逃げるようにトイレを後にした。

 その足取りが、来る時よりも少しだけ重いことに、彼女自身はまだ気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...