タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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22話

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そして迎えた、高校受験の当日。

 空は突き抜けるような青空だったが、空気は肌を刺すように冷たかった。

 地域トップの進学校の正門前には、緊張した面持ちの中学生たちが大勢詰めかけていた。

​「ねえ透くん、ここの歴史の年号……これで合ってる?」

「うん、大丈夫だ。ミナ、落ち着け」

「あうぅ……心臓飛び出しそう……」

​ 人混みの隅で、俺はミナとアイリに挟まれていた。

 二人は参考書を抱きしめ、捨てられた子犬のように震えている。

 俺は二人の肩を軽く叩き、最後の確認(クイズ)を出した。

​「いいか、最終チェックだ。二次方程式の解の公式は?」

「えっと……これ!」

「正解。じゃあ、アイリ。この英単語の意味は?」

「……『犠牲』」

「よし。二人とも完璧だ」

​ 俺が微笑むと、二人は少しだけ表情を緩めた。

 この日のために、俺は二人に徹底的に『傾向と対策』を叩き込んできた。
未来の記憶にある入試問題を元に、出る範囲だけを重点的に勉強させたのだ。

 彼女たちの学力なら、ギリギリ合格ラインには届くはずだ。

​「あ……」

​ その時、アイリが小さく声を上げた。

 視線の先には、一人の少女が歩いてきていた。

​ 桐島玲奈だ。
 だが、その様子は異様だった。

​「…………」

​ 彼女はブツブツと何かを呟きながら、足元を見つめて歩いている。

 手にはボロボロになった単語帳。

 目の下に濃い隈を作り、髪も少し乱れている。

 まるで何かに取り憑かれたような、あるいは断崖絶壁を歩いているような、鬼気迫るオーラを放っていた。

​ 玲奈は、俺たちの目の前を通り過ぎた。

 距離にしてわずか数メートル。普段なら絶対に気づく距離だ。

 しかし、彼女は俺たちの方を一瞥もしなかった。

 視界に入っていないのだ。彼女の世界には今、『合格』という二文字と、『逃げ出す』という執念しかない。

​「……玲奈、気づかなかったね」

「すごい集中力……っていうか、ちょっと怖いかも」
​ ミナとアイリが顔を見合わせる。

 声をかけようか迷っている二人に、俺は黙って首を振った。

 そして、目で合図を送る。

 『放っておけ』と。

​ 予鈴が鳴り響き、俺たちはそれぞれの受験番号の教室へと向かった。



​          

~~~~~~~~~~~





​ 数時間後。

 全ての試験が終了し、チャイムが鳴り響いた。

​「透くん! 透くん!」

​ 校門の近く、人の波から少し外れた場所で、ミナとアイリが駆け寄ってきた。

​「凄かった! 透くんが言ってたところ、全部出たよ!」

「数学も英語も、透くんと勉強したのと数字が違うだけだった……! これならいけるかも!」

​ 二人は興奮して俺の腕に抱きついた。

 当然だ。俺は一度経験しているのだから。

 俺は「しーっ」と人差し指を立て、二人を物陰に誘導した。

​「静かに、……あそこを見てみろ」

​ 俺が指差した先。

 正門から、一人の少女が出てくるところだった。
​ 玲奈だ。

 朝の悲壮感とは打って変わり、その顔には晴れやかな色が浮かんでいた。

 彼女は空を見上げ、深く息を吸い込むと、小さくガッツポーズをした。

​(……見ろ。あの顔を)

​ 彼女は確信しているのだ。

 自分の手応えは十分だった。そして、周りを見渡しても、あの憎き深澄透の姿はない。

 あいつはやっぱり、こんなトップ校の受験会場にはいない。レベルが違いすぎて受けに来るはずがない…と。

​ 玲奈は、勝利の余韻に浸りながら、軽やかな足取りで一人帰って行った。

 最後まで俺たちの存在に気づくことはなかった。

 いや、俺達が隠れたから気づかなかったのだ。

​「……可哀想に」

「え? 透くん、何か言った?」

「いいや、何でもない」

​ 俺はミナとアイリの頭を撫でた。

​ 彼女は今、人生で一番幸せな勘違いをしている。
 地獄への片道切符を手に入れたとも知らずに、『自由へのパスポート』を手に入れたと思い込んでいる。

 その勘違いは、合格発表の日まで泳がせておこう。

 絶望は、希望が高ければ高いほど、落差で味が深くなるのだから。

​「と・お・る・くーん!」

​ 背後から、甘ったるい声がした。
 くるみだ。

 彼女もまた、俺が『記念受験』で落ちると信じて疑わない笑顔で手を振っている。

​「お疲れ様! 難しかったでしょー? 今日は私が慰めてあげるからね!」

​ 俺は『困ったような笑顔』を作り、くるみの方へと歩き出した。

 ミナとアイリも、俺の後ろを影のように着いてくる。

​ 夕日に染まる校舎。

 そこは春から、俺たちの箱庭となる。

 誰一人欠けることなく、全員がこの檻の中に閉じ込められるのだ。

​ 玲奈、くるみ、ミナ、アイリ。
 そして、まだ見ぬ女王、天堂真理愛。
 


 俺はポケットの中で拳を握りしめ、静かに春の訪れを待った。
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