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21話
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季節は冬を迎えた。
海沿いの街には鉛色の雲が垂れ込め、冷たい風が吹き荒れる。
中学三年生の冬。
それは、人生の分岐点となる『高校受験』という戦場の季節だ。
教室の空気は張り詰めていた。
休み時間の笑い声は消え、誰もが参考書と睨み合っている。
俺、深澄透もまた、その空気に溶け込んでいた。
(……面倒な作業だ)
机に向かいながら、俺は心の中で毒づく。
俺の頭脳には、既に大学レベルの知識が入っている。高校入試の問題など、赤子の手をひねるようなものだ。
だが、今の俺は『平均的な成績の深澄透』でなければならない。
全問正解できる衝動を抑え、わざと計算ミスをし、絶妙なラインで点数を調整する。
それは問題を解くよりも遥かに神経を使う作業だった。
~~~~~~~~~~~~
12月24日。世間はクリスマス一色に染まっていた。
街にはイルミネーションが輝き、恋人たちが浮足立っている。
だが、俺たちには関係のない話だ。
くるみは、完璧な生徒会長として、そしてトップ校を目指す優等生として、イベントなど目もくれずに勉強に打ち込んでいた。
玲奈は、俺から逃げるために、鬼のような形相で机にかじりついているだろう。
結衣は、部屋の中でモニターの光を浴びながら、世間の幸せなSNS投稿を冷ややかな目で見つめているはずだ。
そして俺もまた、誰とも会わず、孤独に牙を研ぎ続けた。
聖なる夜の静寂は、復讐者にとっては心地よいBGMでしかなかった。
~~~~~~~~~~~~
年が明け、1月の中旬。
寒さが最も厳しくなる頃、俺のマンションのインターホンが鳴った。
夜の9時過ぎ。
モニターを見ると、そこにはマフラーに顔を埋め、寒さに震える二人の少女が映っていた。
ミナとアイリだった。
「……何してるんだ、こんな時間に」
俺がエントランスに降りていくと、二人は雪の降る中、捨てられた子猫のように身を寄せ合っていた。
以前のような派手なメイクはない。受験勉強の疲れか、目の下には隈ができ、肌も荒れている。
だが、俺の姿を見た瞬間、その死んだような目に生気が宿った。
「透くん……!」
「あ……透くん、だ……」
二人は駆け寄ろうとして、寒さで強張った足がもつれて転びそうになる。
俺はため息をつきながら、二人を受け止めた。
「勉強はどうした。追い込みの時期だろ」
「やったよ……ちゃんとやってるよ……」
ミナが俺のコートにしがみつき、涙声で訴える。
「でも、もう無理……限界なの」
「透くんが足りないの……。声も聞けないし、会えないし……頭おかしくなりそうで」
アイリも震える手で俺の背中に触れ、体温を貪るように擦り寄ってくる。
「クリスマスも我慢したよ? お正月も……透くんの写真見て耐えたよ? でも、もう充電切れちゃった……」
禁断症状だ。
彼女たちにとって、俺という存在は酸素や麻薬と同じ。
受験勉強という過度なストレスに加え、俺との接触を絶たれたことで、精神のバランスが崩壊寸前だったのだ。
(……可愛い奴らだ)
俺は内心で嘲笑いながら、表面上は優しく微笑んでみせた。
ここまで依存してくれれば、裏切る心配など皆無だ。
「よく我慢したな。偉いぞ」
俺が頭を撫でてやると、二人は「ふあぁ……」と蕩けたような声を漏らした。
極寒の空の下、彼女たちの体からは湯気が立ち上るほどの熱気が溢れている。
「ご褒美だ。少しだけ充電させてやる」
俺は二人を人気のない公園のベンチへと連れて行った。
そして、代わる代わる抱きしめ、耳元で甘い言葉を囁き、口づけを与えた。
「んっ、ちゅ……透くん、好き、大好き……!」
「はあ、はあ……生き返る……透くんの匂いだ……」
二人は貪るように俺を求め、瞳孔が開いた目で俺を見つめる。
それは受験生の顔ではない。完全に理性を失った、狂信者の顔だった。
「さあ、充電完了だ」
ひとしきり可愛がった後、俺は二人を引き剥がした。
「帰って勉強しろ。俺と同じ高校に来るんだろ?」
「うん! 絶対行く!」
「合格したら、もっと凄いご褒美あげるから」
その言葉に、二人は力強く頷いた。
先ほどまでの疲労困憊した様子は消え失せ、目には異様な光が宿っている。
「頑張る! 透くんのために!」
「私、絶対合格する! 待っててね、透くん!」
二人は何度も振り返りながら、夜の闇へと消えていった。
その背中からは、鬼気迫る執念が立ち昇っていた。
「……単純なもんだ」
俺は冷え切った手をポケットに突っ込み、白い息を吐いた。
これで彼女たちは、死ぬ気で勉強し、裏口を使ってでも這い上がってくるだろう。
舞台は整いつつある。
あとは、俺自身が『合格』という切符を手にするだけだ。
天堂真理愛、小日向くるみ、そして俺の奴隷たち。
役者が全員揃う春まで、あと少しだ。
海沿いの街には鉛色の雲が垂れ込め、冷たい風が吹き荒れる。
中学三年生の冬。
それは、人生の分岐点となる『高校受験』という戦場の季節だ。
教室の空気は張り詰めていた。
休み時間の笑い声は消え、誰もが参考書と睨み合っている。
俺、深澄透もまた、その空気に溶け込んでいた。
(……面倒な作業だ)
机に向かいながら、俺は心の中で毒づく。
俺の頭脳には、既に大学レベルの知識が入っている。高校入試の問題など、赤子の手をひねるようなものだ。
だが、今の俺は『平均的な成績の深澄透』でなければならない。
全問正解できる衝動を抑え、わざと計算ミスをし、絶妙なラインで点数を調整する。
それは問題を解くよりも遥かに神経を使う作業だった。
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12月24日。世間はクリスマス一色に染まっていた。
街にはイルミネーションが輝き、恋人たちが浮足立っている。
だが、俺たちには関係のない話だ。
くるみは、完璧な生徒会長として、そしてトップ校を目指す優等生として、イベントなど目もくれずに勉強に打ち込んでいた。
玲奈は、俺から逃げるために、鬼のような形相で机にかじりついているだろう。
結衣は、部屋の中でモニターの光を浴びながら、世間の幸せなSNS投稿を冷ややかな目で見つめているはずだ。
そして俺もまた、誰とも会わず、孤独に牙を研ぎ続けた。
聖なる夜の静寂は、復讐者にとっては心地よいBGMでしかなかった。
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年が明け、1月の中旬。
寒さが最も厳しくなる頃、俺のマンションのインターホンが鳴った。
夜の9時過ぎ。
モニターを見ると、そこにはマフラーに顔を埋め、寒さに震える二人の少女が映っていた。
ミナとアイリだった。
「……何してるんだ、こんな時間に」
俺がエントランスに降りていくと、二人は雪の降る中、捨てられた子猫のように身を寄せ合っていた。
以前のような派手なメイクはない。受験勉強の疲れか、目の下には隈ができ、肌も荒れている。
だが、俺の姿を見た瞬間、その死んだような目に生気が宿った。
「透くん……!」
「あ……透くん、だ……」
二人は駆け寄ろうとして、寒さで強張った足がもつれて転びそうになる。
俺はため息をつきながら、二人を受け止めた。
「勉強はどうした。追い込みの時期だろ」
「やったよ……ちゃんとやってるよ……」
ミナが俺のコートにしがみつき、涙声で訴える。
「でも、もう無理……限界なの」
「透くんが足りないの……。声も聞けないし、会えないし……頭おかしくなりそうで」
アイリも震える手で俺の背中に触れ、体温を貪るように擦り寄ってくる。
「クリスマスも我慢したよ? お正月も……透くんの写真見て耐えたよ? でも、もう充電切れちゃった……」
禁断症状だ。
彼女たちにとって、俺という存在は酸素や麻薬と同じ。
受験勉強という過度なストレスに加え、俺との接触を絶たれたことで、精神のバランスが崩壊寸前だったのだ。
(……可愛い奴らだ)
俺は内心で嘲笑いながら、表面上は優しく微笑んでみせた。
ここまで依存してくれれば、裏切る心配など皆無だ。
「よく我慢したな。偉いぞ」
俺が頭を撫でてやると、二人は「ふあぁ……」と蕩けたような声を漏らした。
極寒の空の下、彼女たちの体からは湯気が立ち上るほどの熱気が溢れている。
「ご褒美だ。少しだけ充電させてやる」
俺は二人を人気のない公園のベンチへと連れて行った。
そして、代わる代わる抱きしめ、耳元で甘い言葉を囁き、口づけを与えた。
「んっ、ちゅ……透くん、好き、大好き……!」
「はあ、はあ……生き返る……透くんの匂いだ……」
二人は貪るように俺を求め、瞳孔が開いた目で俺を見つめる。
それは受験生の顔ではない。完全に理性を失った、狂信者の顔だった。
「さあ、充電完了だ」
ひとしきり可愛がった後、俺は二人を引き剥がした。
「帰って勉強しろ。俺と同じ高校に来るんだろ?」
「うん! 絶対行く!」
「合格したら、もっと凄いご褒美あげるから」
その言葉に、二人は力強く頷いた。
先ほどまでの疲労困憊した様子は消え失せ、目には異様な光が宿っている。
「頑張る! 透くんのために!」
「私、絶対合格する! 待っててね、透くん!」
二人は何度も振り返りながら、夜の闇へと消えていった。
その背中からは、鬼気迫る執念が立ち昇っていた。
「……単純なもんだ」
俺は冷え切った手をポケットに突っ込み、白い息を吐いた。
これで彼女たちは、死ぬ気で勉強し、裏口を使ってでも這い上がってくるだろう。
舞台は整いつつある。
あとは、俺自身が『合格』という切符を手にするだけだ。
天堂真理愛、小日向くるみ、そして俺の奴隷たち。
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