タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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32話

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​ 部屋には、異様な熱気と、鉄錆のような匂いが充満していた。

 ベッドの上では、玲奈がまだビクビクと余韻に震え、焦点の合わない目で天井を見つめている。

 その光景は、地獄であり、同時にとろけるような桃源郷のようでもあった。

​ 俺は玲奈から視線を外し、床にへたり込んでいる二人へと歩み寄った。

​「…………」

​ ミナとアイリは、腰が抜けて動けずにいた。

 二人は胸元の服を両手でぎゅっと握りしめ、心臓が破裂しそうなほどの激しい鼓動を抑え込もうとしている。

 瞳孔が開いた目は極限まで見開かれ、鼻と口からは涙と鼻水、そしてよだれが垂れ流されていた。


​ 怖い。恐ろしい。


 けれど――欲しい。



​ 彼女たちの呼吸は、ヒュー、ヒューとゆっくりで、熱い。

 俺が目の前まで迫り、その影が二人を覆う。

 見下ろす俺と目が合うと、二人のぽかんと開いた口角がピクピクと痙攣し、だらしなく緩んでいく。

 それは、恐怖で引きつっているのか、歓喜で歪んでいるのか分からない、麻痺した笑みだった。

​「……いい顔だな」
​ 俺はしゃがみ込み、二人の頬に手を添えた。

 熱い。火傷しそうなくらい火照っている。

​「どうした? そんな目で見て。……お前たちも、玲奈みたいにされたいか?」

「ッ……!」
​ その問いに、二人はビクリと震えた。


 喉がゴクリと鳴る。
 あんなことされたら壊れてしまう。死んでしまうかもしれない。

 頭では分かっている。絶対に『否定』するべき場面だ。


​ けれど。


 ミナとアイリは、吸い寄せられるように、ゆっくりと、コクりと頷いた。

​ 壊されたい。

 あんな風に、理性が吹き飛ぶほどの衝撃を、透くんに与えてほしい。

 私だけを見て、私だけの命を握ってほしい。
 その歪んだ渇望が、理性を凌駕していた。


​ だが。
​「――ダメだ」

​ 俺は冷たく言い放ち、二人の頬から手を離した。

「え……?」
「あ……?」
​ 二人の顔が凍りつく。

 拒絶された絶望が、その瞳に広がる。
​「お前たちには、あんなことはしない。これからもずっとだ」

​ 俺は二人の頭を優しく撫でた。髪を梳くように、慈しむように。

​「お前たちへのご褒美は、すべて『甘い』ものだけにする。抱きしめるのも、キスをするのも、交わる時にも。たまに叩いたり蹴ったりすることはあっても、それは全部手加減した『優しい』ものだ。玲奈にしたような、命のやり取りをするような『激しい』ことは絶対にしない」

​ 俺は二人の目を見つめ、残酷な判決を下す。
​「お前たちは、一生『安全圏』で飼い殺してやる」
​ それは、救済ではない。究極の『焦らし』だ。

 目の前で玲奈が極限の快楽(死と再生)を与えられているのを見せつけられながら、自分たちは中途半端な優しさしか与えられない。

 どれだけ欲しても、どれだけねだっても、決して『奥』までは届かない。

​「優しくされるのが嬉しくて、気持ちよくて……でも、それが物足りなくて辛くなるように。気が狂いそうになるくらい、俺を求めるように」


「う、あ……ぁ……透、くん……」

「一生、飢え続けろ」
​ 二人はガタガタと震えながら、俺の胸に泣きじゃくった。

 満たされない地獄の始まりに、歓喜と絶望が入り混じった涙を流しながら。





​          
~~~~~~~~~



​ 数時間後。
 日が完全に落ち、部屋が闇に包まれた頃。

​ ガバッ。

 ベッドの上で、玲奈が弾かれたように飛び起きた。

​「はっ、はぁ……ッ!?」
​ 玲奈は荒い呼吸を繰り返し、周囲を見回した。


 ここは透の部屋。

 さっきまでの記憶………首を絞められ、キスをされ、死と快楽を交互に味わわされた地獄の記憶が、鮮明に蘇る。

​ 逃げなきゃ。
 殺される。食べられる。

​ 玲奈は俺たちに声をかけることもなく、靴も履かずに部屋を飛び出した。

 ドタドタと階段を転げ落ちる音がして、やがて玄関のドアが乱暴に開け閉めされる音が響いた。

 嵐のような逃走だった。

​「……行っちゃった」

「透くん、追いかけなくていいの? 捕まえに行く?」

​ ミナとアイリが、心配そうに俺に尋ねる。
 俺は窓の外、闇夜に消えていく玲奈の気配を感じながら、冷ややかに答えた。

​「必要ない。……おい、想像してみろ」
​ 俺は二人を見据えた。

​「もしお前たちが今の玲奈の立場だったら……逃げた先で、俺に不利になるようなことを警察や親に言えるか? 俺を裏切るような真似ができるか?」

​ 二人は顔を見合わせ、玲奈の心境をトレースした。

 死の淵を見せられ、その恐怖と快楽を脳に刻み込まれた状態。

 逆らえばまた『あれ』をされるかもしれない恐怖。いや、逆らわなくても、透なしでは息ができなくなるような依存感。

​ 想像しただけで、二人の体がビクリと震えた。

​「……無理」
「言えない。怖くて言えないし……透くんに嫌われたくないもん」

​ 二人はニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、首を横に振った。

 玲奈はもう、精神的に完全に檻の中だ。
 どこへ逃げようと、鎖は繋がったままなのだ。

​「そういうことだ。放っておけ。明日の朝には、また震えながら学校に来るさ」

​ 俺はそう言い捨てると、二人に夕飯の支度を命じた。
​          



~~~~~~~~~~~~


​ 一時間後。
 リビングには、ミナとアイリが手際よく作った料理が並んでいた。

 俺たちはテーブルを囲み、これからの計画について話し始めた。

​「いいか。高校に入ったら、お前たちにはやってもらうことがある」

​ 俺は箸を止め、二人を見た。

​「結衣と協力して、『派閥』を作れ」

「派閥?」
​ 二人が首を傾げる。

 俺は未来の記憶を整理しながら説明した。

​「あの高校には、二つの大きな勢力が生まれる。一つは『小日向くるみ派』。あいつの猫かぶりに騙され、憧れたり、惚れたりした馬鹿な生徒たちの集団だ」

「うわぁ……想像つく」

「もう一つは『天堂真理愛派』。あいつの圧倒的な容姿と財力、そして冷徹なカリスマ性にひれ伏した連中だ。金と力で集められた、強固な信者グループだ」

​ 前回の人生では、この二大勢力が学園を支配し、俺のような一般生徒は肩身の狭い思いをした。

 だが、今回は違う。

​「ミナ、アイリ。お前たちは、そのどちらにも属さず、第三の勢力を作れ」

「第三の勢力……私たちが?」

​「ああ。お前たちのその派手な容姿と、少し不良っぽいカリスマ性は武器になる。そこに結衣の情報収集能力と、ネットでの工作(裏工作)を組み合わせるんだ」

​ 俺は黒い笑みを浮かべた。

​「くるみのグループに入れないような少しグレた連中や、真理愛の厳格なグループに馴染めないチャラついた連中。そういう『あぶれ者』や『馬鹿な男たち』を囲い込め。俺の手足として動く、使い捨ての兵隊を作るんだ」
​ ミナとアイリは目を輝かせた。

 透くんのために、自分たちがボスになって軍団を作る。

 その役割を与えられたことが誇らしかった。

​「分かった! 私たちが女王様になればいいんだね!」

「任せてよ。男なんて、ちょっと優しくしてあげればイチコロだもん」
​ 二人は頼もしく請け負った。

 だが、ふとアイリが疑問を口にした。

​「でも透くん。そんな派閥作って、何をするの? くるみたちと喧嘩するの?」

​ 俺は残った食事を口に運び、ゆっくりと咀嚼してから答えた。

​「……それは、その時になったら教える」

​ 今はまだ、全てを話す必要はない。
 この第三勢力が、いずれくるみと真理愛を共倒れさせ、俺が漁夫の利を得るための最大の布石になることを。

​「お前たちはただ、俺のために兵隊を集めろ。……できるな?」

「はいっ、ご主人様!」
​ 二人の元気な返事がリビングに響く。

 玲奈という犠牲を経て、より強固になった俺たちの結束。
 
 高校入学まで、あとわずか。
 復讐の舞台への準備は、着々と整いつつあった。
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