タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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31話

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​ ドサッ。

 乾いた音が響き、桐島玲奈の体がベッドに沈んだ。

​ 俺は無言のまま、虚ろな目をした玲奈を見下ろす。

 彼女は抵抗しようともせず、天井のシミをぼんやりと見つめているだけだった。

​「……もう、いいよ」

​ 玲奈がカサカサに乾いた唇を開く。

​「好きにして。殴るなり、犯すなり……どうせ逃げられないなら、もうどうでもいい」

「…………」
​ 俺は何も答えない。

 ただ、冷徹な能面のような無表情で、玲奈の太腿を跨ぎ、その体の上にのしかかった。

​ スッ、と両手を伸ばす。

 その手が触れたのは、玲奈の細い首だった。

​「……っ」
​ 玲奈がわずかに身じろぐが、すぐに力を抜いて目を閉じた。

 このまま終わらせてほしい。意識がなくなれば、高校生活という地獄に行かなくて済む。

 そんな『甘え』に近い諦観が、その顔に浮かんでいた。

​ 俺の指に力がこもる。

 ギリッ、と血管が圧迫される感触。

​ ガチャリ。

 背後でドアが開く音がした。

 ミナとアイリが入ってきたのだ。
​「――ッ!?」

​ 二人の息を呑む気配が伝わる。

 目の前で行われている光景――主人が、かつてのイジメっ子の首を絞めている異常事態に、二人は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

​ だが、俺は振り返らない。

 止めるつもりもない。

 俺の手は、さらに深く、強く、玲奈の首へと食い込んでいく。

​「が、ぁ……」
​ 玲奈の口から、空気が漏れる音がした。

 苦痛に顔が歪む。

 だが、まだ足りない。
 
 俺は知っている。『死ぬ直前』という感覚を。

 前回の人生で、何度も味わわされた、あの冷たくて暗い淵。

 意識が明滅し、心臓が悲鳴を上げ、細胞の一つ一つが『生きたい』と絶叫する瞬間。

​ ……今だ。
​ 俺は容赦なく、限界点を超えて力を込めた。

​「ッ!? ガッ、ギィ……!!!」
​ 玲奈の目がカッと見開かれた。

 白目が充血し、瞳孔が開く。
 
 苦しい。息ができない。
 視界が真っ赤に染まり、手足の先から感覚が消えていく。

​ (死ぬ! 本当に死ぬ! 嫌だ、消えたくない!!)

​ 玲奈の中で、『死』が現実のものとして牙を剥いた。

 脳が理性を放棄し、生存本能が警鐘を鳴らす。
 どんなに心を閉ざしていても、生物である以上、死への恐怖からは逃げられない。

​ バタバタバタッ!!
 玲奈の手足が激しく暴れた。

 俺の腕を掴み、爪を立て、必死に引き剥がそうとする。

​ 意識がブラックアウト寸前になり、ついに限界を迎えたその瞬間。

 俺は唐突に、首から手を離した。

​「はッ、ごフッ――」

​ 気道が開く。喉が痙攣し、空気を求めようと大きく口を開ける。

 その瞬間。
 俺は覆いかぶさるように顔を近づけ、玲奈の唇を自分の唇で完全に塞いだ。

​「――んんッ!?」
​ 玲奈の目が見開かれる。

 口呼吸ができないパニック。だが、すぐに鼻から冷たい空気が気管へと流れ込んでくる。

​ シューッ……。

 酸素。命の源。それが体中に行き渡る感覚。

​ 生きている。死ななかった。助かった。

 その圧倒的な『安堵』と『歓喜』が脳内麻薬エンドルフィンとなって爆発する。

 そして、その瞬間に感じているのは……透との濃厚なキスだった。

​「ん、ぁ……んぅ……ッ!」
​ 苦しいはずなのに。憎いはずなのに。

 脳がバグを起こす。
 『呼吸ができる=気持ちいい』
 『死ななかった=嬉しい』
 その強烈な快感が、同時に行われている『キス』の感覚とリンクしてしまう。

​ 俺は無言のまま、舌をねじ込み、玲奈の口内を蹂躙した。
​          



~~~~~~~~~~~



​ 数分後。
 俺はゆっくりと唇を離し、ベッド脇の椅子に腰掛けた。

​「はぁ、はぁ、げほっ……!」

​ 玲奈は激しく咳き込みながら、酸素を貪っていた。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、俺を見る。
 そこには、先ほどまでの『無気力な諦め』はない。あるのは、純粋な『恐怖』だった。

​「……ッ!」
​ 玲奈がビクッと体を震わせ、シーツを掴んで後ずさった。

 ベッドのヘッドボードに背中を押し付け、ガタガタと震えながら俺を見る。

​(助かった……本当に………殺されるかと思った……)
​ そう思ったのも束の間。

 俺は無言で椅子から立ち上がった。
 そして、一歩、また一歩とベッドへ近づいていく。

​「い、いや……来ないで……!」
​ 玲奈が首を横に振る。

 だが、俺は止まらない。
 無言の圧力。絶対的な支配者としての威圧感。
​ 俺は再び玲奈にのしかかり、その首に手をかけた。

​「や、やめてえぇぇぇッ!!」
​ 玲奈の絶叫が部屋に響く。

 だが、俺の手は容赦なく締まる。
 
 二度目、三度目、四度目。
 
 絞める。限界まで追い詰める。離す。キスをする。
 
 その単純な繰り返し。

 だが、回数を重ねるごとに、玲奈の脳内回路は確実に焼き切れていった。
​ 苦痛と快楽の境界線が溶ける。
 恐怖のピークで与えられる、酸素とキスの甘美な味。

 それを繰り返されるうちに、玲奈の脳は、この異常な刺激なしでは満足できなくなっていく。

​ そして、十数回目が終わった頃。

​ 俺は、玲奈の首には触れず、ただ顔を近づけた。
 それだけで、玲奈の体がビクンッと跳ねた。

​「ひぅッ……!?」

​ 首を絞められていないのに。

 ただ、透の顔が近づいてくるだけで。
 玲奈の脳内で、あの『死の直前のフラッシュバック』が炸裂した。

​ 心臓が早鐘を打ち、全身の血液が沸騰する。
 これから『死ぬ』のだという恐怖と、その後に来る『生還』の爆発的な快楽を予期して、脳汁が溢れ出す。

​ 俺は玲奈の唇に、そっと自分の唇を重ねた。


​ ――ドプンッ。
​ 玲奈の中で、何かが弾けた。

​「――ア゛ッ♡」

​ 玲奈の喉から、聞いたことのないような濁った嬌声が漏れた。

 首は絞められていない。酸素はある。

 なのに、キスをされただけで、窒息寸前のあの極限状態と同じ快感が脳を駆け巡ったのだ。

​「オ゛ッ、あ゛、あ゛あぁぁッ……!!」

​ 玲奈の目が白目を剥き、焦点が上へと逃げていく。
 口の端からは、だらしなく大量の涎が垂れ落ち、シーツを濡らす。

 体は弓なりに反り上がり、ビクビクと痙攣を繰り返す。
​ 気持ち悪い。怖い。嫌だ。

 理性ではそう拒絶しているのに、本能が『もっと、もっと生を感じさせて』と叫んでいる。

 嫌悪感と依存性が混ざり合った、泥のような快楽。
​ 俺は無言のまま、舌を絡め続けた。

 玲奈の体は、俺の唇が触れるたびに、電気ショックを受けたかのように跳ね回る。

​ 彼女の中の『諦め』は完全に消え失せていた。

 その代わりに植え付けられたのは、死への恐怖と、それを乗り越えるための強烈な『生への渇望抵抗心』。

​ 今の彼女は、キスをされるたびに必死で俺にしがみつき、爪を立て、酸素を奪い合うように舌を貪ってくる。

 それは、かつて未来で俺を犯していた時の、あの貪欲な獣の姿そのものだった。

​ 俺はゆっくりと唇を離した。

​「はひゅ、ぐ、ふ……ッ!」

​ 玲奈は焦点の合わない目で俺を見上げ、涎まみれの顔で、まだ足りないとばかりに口をパクパクさせている。

 完全に壊れ、そして新しく作り直された玩具の姿がそこにあった。

​ 俺は冷たい目でそれを見下ろし、心の中でつぶやいた。
 
 ………おかえり、玲奈。

 これでやっと、復讐のスタートラインだ。

​ 部屋の隅で見ていたミナとアイリもまた、その凄惨で背徳的な光景に当てられ、熱い吐息を漏らしながら床に崩れ落ちていた。
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