天秤の絆 ~ベル・オブ・ウォッキング魔法学園~

LEKI

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本編

本編ー12

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 多分、ルカ・ナナラフェルは、ベル・オブ・ウォッキング魔法学園に入学してから、初めてと言っても過言でないくらいに驚いた。驚いていた。
 自分を訪ねてわざわざ二年の補助魔法士学科の教室を訪れた、訪問者の姿に。

「おーい、ルカ・ナナラフェルー。おるー?」
「は……ひゃ、ひゃいっ!!」

 思い切り声が裏返った。緊張のせいで。
 元々気弱で、自分からあまり前に出ない性格だ、突然教室の入り口から大きな声で名前を呼ばれれば、驚いて当然。しかも訪問者が教師や薬学カウンター関係者でもなく、友人と呼べる相手でもないなら、尚更。
 現在学園に所属している中でも一番の問題児と言われている、魔法剣士学科の一年生、ナギト・アクオーツだったから。
 教室のドア枠に体を斜めに預け、少し気だるそうに立ち、ぐるり、補助魔法士学科の教室を見回す。
 一体ナギトとどんな接点があるのか、と。同じ教室内に居た他の補助魔法士学科の生徒達の視線が、ルカナへと一点集中。これで、気弱なルカナに萎縮するななんて到底言えなくて。ビクついてしてしまうのは、必然。
 しかし、呼び出した当の本人は、そんなルカナの心情を汲むような男ではなく。
 なかなか自分の元に来ないルカナに、片眉を跳ね上げる。考えたのは数秒。待っていてもルカナは動かないと判断。短くため息を吐き、ガシガシと片手で頭を掻く。

「ルカナー!放課後!薬草栽培区画の入り口に来いよー。『あの薬草』の件があるからなー」
「っ!はっ、はいっ!」
「んー。ゆづも待ってるからなー」

 あの薬草、と言われて。ハッとしたルカナが頷く。今度ははっきり、しっかりと。
 それを見たナギトは満足げに頷くと、教室のドア枠に凭れていた上半身を浮かせて、左手を軽くひらひらと振って去って行く。最後に、ユヅキも待っているからと釘を刺しつつ。
 僅かにルカナの肩が跳ねたのはきっと、さり気なくナギトが刺した釘が彼女にしっかりと刺さったからこそ。

 逃げちゃダメかな、なんて。考えていたのがバレた気がして、ちょっと怖かったのはここだけの話。

    ◇   ◆   ◇

「はーしれー。休むなミナギー。スピード落ちてんぞー」
「頑張れーっ!」
「もうバテちゃったのぉ?」
「うっざ……っ!くっそうざ……っ!!」

 放課後。約束通り、薬草栽培区画にやってきたルカナ。薬学カウンターに一度立ち寄り、用事があるので手伝いに入れるかわからない旨を伝えたせいか、時間が少しばかり掛かってしまった。
 駆け足で向かった薬草栽培区画では――なぜかミナギが走らされていた。薬草栽培区画前の舗装された道を。一定距離を往復する、シャトルランのように。
 シャトルランと違う点を挙げるなら、往復するタイミングはミナギ任せ。とにかく一定範囲を折り返し走り続けるだけ。
 しかも、手首にはリストウェイト、足首にはアンクルウェイトをそれぞれ巻いた状態で。
 ぜえはあと息を切らし、大粒の汗を掻いているところから見て、かなり長く走らされているのだろう事がわかる。
 そんなミナギを見て、真顔で声を掛けるナギト、笑顔で応援するユヅキ、からかうアルバと、三者三様。その声に、ミナギは隠そうともせずに不満を零す。

「え、えっと……?」
「なおん」

 困惑して声を掛ける余裕のないルカナに最初に気付いたのは、薬草栽培区画のゲートの上で寝ていたセラータだった。
 少し大きめの声でなおんと鳴けば、走っているミナギ以外の視線がゲートの上に集中。
 そして、セラータが顔を動かし、あちらを向けと促せば、ナギト達は素直にその動きに従って。少し離れたところに立ち尽くしているルカナの存在に、ほぼ同時に気付いて。ナギト、ユヅキ、アルバが、あ、と揃って異口同音。
 ぱぁっと目を輝かせ、一番にルカナに駆け寄ったのは、ユヅキ。

「ルカナちゃんだー!」
「ひゃいっ!あ、あの、遅れてしまって」
「あー、イイイイ、気にすんな。お前が来るまで走り続けろって言ってただけだから、むしろ遅れてくれて助かった」
「バ……ッ!ゲホッ。ブァッカじゃ……ないのっ!!」

 笑顔で駆け寄って来るユヅキの勢いに戸惑いつつ、遅れた事を謝ろうとすれば、遮って響くナギトの声。続けて、両手を膝に置き、ゼエハアと肩で大きく息をしながら大粒の汗を流すミナギが、息も絶え絶えに吐き捨てるように文句を言う。
 死ぬかと思ったとまで言うのだから、本当に限界に近かったか、もはや体力の限界を越えていたのかもしれない。
 なぜ走らされていたのだろう。心配そうにミナギを見ながらルカナが抱える疑問は、至極当然。彼等が同じパーティである事は知っているが、何かの罰だろうか。

「コイツ、体力なさ過ぎんだよ。ゆづのが体力あるから、とにかく体力づくりで走らせてた」
「う……っ、うっさいよ……っ!!」
「でもぉ、体力ないとぉ、これから大変よぉ?」
「うんうん。今はまだ近場だからいいけど、今後もっと遠くに行くクエスト受けた時、ミナギくん倒れちゃうかも」

 くそ正論腹立つ。声に出して言う余裕はなかったが、心の中でミナギは叫ぶ。
 ユヅキ達の言葉に反論するつもりはない。ミナギ自身、自分の体力のなさを自覚しているから。

 出待ち賊との戦いの際にミナギが使った、今までとは違う結界。その研究もかねて、強くなると誓ったミナギ。
 だがその前に、基礎的な体力を見ておこうとナギトが提案したのが運の尽き。
 まさか、自分と同じ身長のユヅキと勝負して負けるだなんて、想定外。まあ、経験から来る差と言えば、そうなのかもしれないけれど。
 魔力なしとわかった後は冷遇され、食事もまともに用意されなかった。結界術師だとわかってからは、生活が一変したけれど、そんな家の空気が嫌で、食事もまともに食べる気になれなかった。味がしなかった。美味しいとも思わなかった。ただ、食べ物を口から胃に押し込んでいるだけのようで、気が重かった。嫌いだった。
 だからこそ、体力もないし、ユヅキと同じかそれよりも少し細い、小柄な体になっている。
 一朝一夕で体が育つわけではない。それでも、何もしないより、少しずつでも鍛えなければ変わらない。それはわかっている。わかっているけれど――ちょっとスパルタ過ぎないか、このリーダー。

 ゼエハアと大きく肩で息をしながら、精一杯の気持ちを込めて睨み上げるも、そんなものがナギトに通用する筈もなく。
 涼しい顔をして見下ろして来るナギトは、平然としたまま。

「もうウェイト外してイイぞ。常に着けてればイイってもんでもないしな」
「あ、そーですかっ!!」
「ミナギくん、水の精霊さんが、『お水飲む?』て訊いてる」

 わいわいと賑やかなナギト、ミナギ、ユヅキの様子に付いて行けず、戸惑うのは当然ルカナ。
 呼び出されていざ来てみたら、どたばたと賑やかなやり取りを見せられて。自分はなんで呼び出されたのかな、と疑問に思っても仕方ない。ここに居る意味、とは。なんて心で思っても口に出せないのは、ルカナが内気だからこそ。
 どうしよう、どうすれば良いんだろう。そんなルカナの気持ちを知ってか知らずか、薬草栽培区画のゲートの上に居たセラータは、ふーっと長いため息を一つ。
 こればっかりは慣れてもらうしかない。恐らく、彼女とナギト達との付き合いは、これから長くなるのだから。

「とりあえず、ミナギは休憩しとけ。復活したらアルバにでも案内してもらえ。で、ルカナ、お前はこっち。ゆづも来い」
「はーい。アルバはミナギくんの傍にいてね。セラータ!行くよー!」
「んなぁ」
「わ、わかりました……」

 疲労により座り込んでしまったミナギをよそに、ナギトはユヅキとルカナを薬草栽培区画の中へと誘う。
 向かうのは、薬草栽培区画の中でも端っこの、比較的日当たりが悪い区画。暗い所で育つ種類の薬草用の区画だ。
 先を歩くナギト達の背を見ながら、ぎゅっとルカナは自分の杖を握り締める。
 補助魔法士と治癒魔法士が使う杖の先端に着いた鐘が、からんからんと音を立てる。聞き慣れたその音が、ルカナの緊張を和らげる。少しだけ。

 様々な環境下で育つ薬草を人工的に栽培する為、出来る限り元あった環境を再現しながら、自然の環境よりも整った状態を用意してある薬草栽培区画。結果的に、一定の品質の薬草を定期的に採取出来る状態になっている。
 それでも、栽培出来るのはあくまでもクレティア全土の中で、栽培方法が確立されている薬草だけで。まだ栽培方法が確立されていない薬草も多い。
 薬草栽培方法が確立されれば、その分その薬草を使ったポーションや薬も安定供給されるようになるわけで。
 日夜、薬学分野の魔研技師が栽培方法を模索している。

「よし、ココだ」

 そう言ってナギトが足を止めたのは、薬草栽培区画の中でも、一番日当たりが悪い場所。日向に比べると、体感温度は五度か六度くらいは下がる。少し、肌寒い。
 まだ誰も使っていない区画らしく、周りの区画も使われていないあまり整備らしい整備はされていないように見える。けれど雑草が生えている様子もなく、土もふわふわで、すぐにでも薬草を栽培出来そうな状態だ。

「……あ、あの……」
「ん?」
「どうかした?ルカナちゃん」

 おずおずとルカナが声を上げれば、同時に振り返るナギトとユヅキ。と、地面を歩くセラータ。ただそれだけなのに、またビクッと跳ねるルカナの肩。
 一気に二人と一匹の視線を集める事になってしまったルカナは、オロオロ。緊張のせいか驚いたせいか、自分がたった今何を言おうとしていたのか、それすらも忘れてしまった。けれど、ユヅキ達は自分の言葉を待っていて――と考え始めると、パニック必至。
 言葉に詰まり、えっと、えっとを繰り返すルカナに、短くふぅと息を吐いて。深く追求せずに、ナギトは話を進めようと考える。
 こう言う相手が話し出すのを待っていたら時間が掛かると、経験から知っているから、ナギトは。

「まずは、今回ルカナを呼び出すきっかけになった話な。前にルオーダ採掘場に行った時、ゆづが精霊達に言われて根元から採取してきた薬草が、実は採取自体が難しくて、頑張って採って来ても栽培方法が確立されてなくて、栽培しようとしても枯れるってのがわかった。ココまではイイか?」
「あい!」
「なーう」
「あってるよな?」
「はひぇ?!はっ、はひ!あってますっ!!」

 これまでの状況を説明した後、確認の為にナギトがルカナを見れば、また肩を震わせながら声を上げる。
 ナギトの顔から感情が抜け落ちたのは多分、流石にそこまでビクつかれるとなぁ、なんて思ったからだ。ルカナの性格はもう大体把握しているつもりだが、怯え過ぎな気もしないでもない。
 思わずすんっと大人しくなってしまうナギトの気持ちは、察するに余りある。
 けれどそれも、まあイイかの一言で終わらせられるナギトは、強いと言うか、慣れていると言うか。母親譲りのこの顔が全部悪い、そう割り切っておく。

 クレティアのどこかで、ナギトの母親、ウィーダが豪快なくしゃみをしたかもしれない。

「んで、栽培方法だが……試したのは?」
「えっ!……と、あの、人工的に、自生している場所……日光が当たりにくくて、水はけの悪い、硬い岩盤の崖肌に生えている……ので、その場所を再現するのですが…………げ、現状は……その、根付かなかったり、すぐ病気になったりで……」

 向けられる視線を、真正面から受け止める勇気は、ルカナにはない。
 それでも、精一杯の勇気でナギトからの質問に答えるべく、必死に言葉を絞り出す。視線を右に左にと忙しなく動かし、自分の杖を何度も握り直し、油断すると消えそうになる言葉を探して。かなり頑張っているのは、誰の目にも明らかだった。
 だからだろうか、ナギトも特に表情を変えず、ルカナの言葉を待っていた。ユヅキも、セラータも、同じく。

「はいはい!この薬草って、どんなポーション?薬?の材料になるの?」
「あ、その……一番薬効成分があるのは、実なんですが……。完熟した赤い身だと、熱傷防止や、熱傷治療のポーションになります。……でも」
「「でも?」」
「熱傷治療系の、ポーションは……その、もっと、効果のあるものが、あって……欲しいのは、完熟前の青い実なんです。この間、ユヅキさん達が持ってきてくれた」

 言われて、思い出す。
 今は一時的に精霊達に預けて管理している、あの薬草の事を。

 ルオーダ採掘場で、精霊達に教えられて、薬草を採取する為に向かった、崖。
 高さは多分、十メートルか、十五メートルくらいはあっただろうか。登ろうにも、足場に出来そうなものもなく、風の精霊の力を借りる事で、なんとか事なきを得た。力を借りて居なかったら多分、地面から両足を離した時点で崖から落ちていた、絶対。と言うのは、ミナギの心の声。
 そうして見付けた薬草は、大きさ一センチにも満たない小さな実を一度に複数実らせる、全長十センチ程度の小さな薬草、プシュークロムだった。
 ユヅキ達が見付けた時、プシュークロムは揃って青い実をつけていて、ルカナの話の通りなら、完熟前の実だったのだろう。
 採取に関しては、ルオーダ採掘場に住む地の精霊達が、根っこごと綺麗に岩盤を纏めて採取してくれた。主根から伸びるヒゲのような細い根っこまで綺麗に採取してくれて、持ち帰ったのをルカナに見せた時は、言葉を失い少しの間硬直していたのを覚えている。近くに居た薬学カウンターのスタッフや手伝いの生徒達も、同じく。

 ルカナに見せると、全ての青い実を買い取らせて下さいと、薬学カウンターのスタッフ達に頭を下げられたのは、良い思い出。
 詳しく聞けば、プシュークロムの実は完熟前と後とで、全く違う薬効があるらしい。
 赤い実なら、熱傷対策に。青い実なら――凍傷対策に。

「凍傷対策の薬効がある薬草は……えっと、チェルシェニー大陸に自生しているものが、多くて……」
「あー……もしかして、凍傷系のポーションとか薬って、輸入?」
「……です。実の状態だと、追熟する事もあって、乾燥させたり、粉末にさせたり……でも時間が経つせいか、効果が落ちてる場合もあって……。効果が落ちる分、ポーション一つを作るのに、多めに材料が必要に……」

 嗚呼成る程、と。ナギトとユヅキは納得。セラータは、くりっと首を傾げていたけれど。まあそこは人間と精霊の違いか。
 薬効効果が落ちる分、ポーションを一つ作るのに材料が多めに必要なら、輸入や素材加工の手間も含めて考えると、普通のポーションよりも値段は高く設定されるだろう。チェルシェニー大陸からグラナディール大陸まで海路で移動すると、どう頑張っても七日以上は必要で。諸々を含めて考えると自然、お金に余裕のある富裕層しか買えなくて。
 このベル・オブ・ウォッキング魔法学園のあるグラナディール大陸は、チェルシェニー大陸より冬は厳しくないが、それでも寒いものは寒い。相手にするモンスターによっては、凍傷対策も重要になってくる。
 だが、しかし。

「崖に生えてんだから、魔法で採取するとか出来ねぇの?」
「あっ、はい。えっと……元々小さな植物で、実も小さくて……その、風の攻撃魔法で採取しようとした人もいましたが……」
「あ、わかった。ぐちゃぐちゃになっちゃったんだ?」
「まー、アレくらいちっさい草で実なら、バチクソ魔力調整とコントロール得意じゃなきゃ、わやんなるだろなぁ」
「今ナギトが言った『わや』は、『むちゃくちゃ』って意味ねっ」

 プシュークロムが自生していた場所等を考えると、更に成る程納得のナギト達。
 そうなると、プシュークロムの人工栽培方法の確立は、グラナディール大陸の凍傷対策の状況を一変させるものになる。
 青いプシュークロムの実を、頭を下げてまで欲しがった、ルカナを含めた薬学カウンターの人達。そんな中で、栽培方法が確立出来たらと、何人かの人が零していたのを、ナギト、ユヅキ、セラータ達は聞いていた。
 まあ、だからこそ今ナギトがこうして動いているのだけれど。
 否まあそもそも、成功するかはわからないけれど、やらないよりはやった方が良い。失敗は成功の基。そもそもやろうとしなければ、失敗する事もないのだから。

「んじゃ、ひとまずお前にコレ渡しとくぞ」
「へっ?えっ!あ、わ、わたし……?コレって……へ?」

 レッグバッグタイプの自分のアイテムバックからナギトが取り出すのは――昨日、学園長室で学園長の承認をもらい、後は関係各所の承認をもらった、薬草栽培区画使用許可証と、プシュークロムの栽培研究許可証。
 申請前の書類じゃない。既に必要な承認を取った後の、正式な書類。
 しかも、栽培区画管理者と研究責任者の欄には自分の――ルカ・ナナラフェルの名前が。
 これには流石のルカナもどうして良いかわからず、差し出された書類を受け取った状態で、思考停止。理解が追い付かないとか、そんなものを越えた状態だ。
 一応薬師見習いの端くれであり、薬学カウンターでも働いている身だ。この許可証の承認を取るのにどれだけ時間がかかって大変か、理解している。理解しているのに、ルカナの記憶が正しければ、ナギト達がプシュークロムを薬学カウンターに届けたのは、一昨日だった筈なのに。
 中途半端に口を開け、ぽかーんとしているルカナを見て、楽しそうに笑い合うのはナギトとユヅキ。

 実は、ユヅキがルカナ、ルカナと呼ぶせいで、栽培区画管理者と研究責任者の欄に記入する際、名前を間違えかけたのだが、ここだけの話。

「な、なんで……なんで、こんな……?」
「俺等は薬草に関しちゃ素人だ。そんな俺等がこのプシュークロムの栽培なんて出来るわけナイだろ」
「手伝いはするけどねっ?」
「え、えぇぇ……?」

 もう訳がわからない。平然としているナギト、ユヅキの顔を見比べ、ルカナは絶望にも近いものを感じていた。これはダメだ、付いていけない。
 現実に付いて行く事すら出来ず、呆然とするルカナと、その前に立つナギトとユヅキ。と、近くに生えている木の上に移動して、大きな欠伸をしているセラータ。そんな三人と一人の姿を、遠目から見守るのは――やっと動けるくらいに体力が回復したミナギだ。右肩の上に、アルバを止まらせながら。

 本日の被害者、ルカナさん。
 あ、今のルカナさんって、普段のオレポジション。
 周りから見たら、オレって普段あんな感じなんだろうな。

 第三者の目線だからこそわかる構図に、思わずミナギはルカナに同情した。
 ある程度慣れて来たミナギならまだしも、それを慣れる以前に人付き合いすら苦手そうなルカナ相手に、ほぼ兄妹レベルのマイペース二人組は今日も今日とて通常運転。勘弁してやれ。
 完全に硬直してしまったルカナと、そんなルカナの前で並んで立っているナギトとユヅキの間に、割り込む。

「ちょっと、アンタ達のペースは独特なんだから、慣れてない人巻き込むの止めてよ。ほら、ルカナさん固まっちゃってんじゃん」
「「えぇー?」」
「えぇーじゃないから!!」

 ルカナを背中に庇い、真正面からナギト達を叱り飛ばす。が、当のナギトとユヅキからは不満の声が上がるが、即座に切って捨てるミナギ。
 背中で庇っているルカナを肩越しに振り返り、すみませんと頭を下げるミナギは、ある意味このパーティの良心かもしれない。
 否、二人が悪心と言う訳でもないけれど。

「この人達、相手のペース考えないで話するから、何も言わないとぽんぽん話進めちゃうんだ。……で、今度は何したの、ナギトさん」
「俺確定か」
「当然じゃん」

 真顔で断言するミナギと、お前が悪いと決めつけられたナギトの間で散る火花。
 こうして真正面からナギトと睨み合う余裕があるのは、ナギトの目付きの悪さや言動に慣れたからこそ。そんな自分がちょっとだけ悲しいと思う気持ちに、そっと蓋をする。
 もう諦めた。このパーティに入ると決めたのは自分だから。
 パーティを抜けると言う選択肢は――ない。

「前に採って来た薬草関係なのはわかる、けど……。うわぁ、何コレ。コレってアレでしょ、学園長のところで承認貰って来てたやつ」
「おう。プシュークロムの栽培用の区画使用許可証と、研究許可証な」
「ナギトが頑張って学園長から承認取って、手間省いたやつね」
「でもさ……栽培方法が難しくて失敗続きなんでしょ?」

 うん、と。ナギトとユヅキが二人同時に頷く。瞬間的にイラッとしてしまうのはミナギ。ただ答えただけなのに、なぜかそれに苛立つのは、事の重大さを二人があまり、と言うか全く気にしていない気がするから。
 学園長から直接承認もらって、諸々の手間を省こうなんて考えないだろう、普通は。

 ホント嫌だ、この人達。

「栽培出来ないって言われてるのに、どうやってやるの?ナギトさん達だって、栽培方法わかんないんでしょ?」
「うん。一応知り合いにも訊いてみたけど、『そんなん自分らの方が知りたいわ!栽培研究論文上がったらコッチ回してな!!再現性研究任せれぇ!!薬学部の全員で検証やったれば、再現性研究には十分だべや!』て言われた」
「…………訊かない。絶対訊かないから」

 ついつい、その知り合いって誰、と訊こうとして、寸前で言葉を呑み込むミナギ。
 ここで訊いたらいつものパターンだと、自分に言い聞かせて。訊きたくなる気持ちを、ツッコミたくなる気持ちを、必死に呑み込む。ここで二人のペースに巻き込まれたら大変だと、ミナギは身を以って知っている。
 話を進めよう。まず、現状プシュークロムはどうやって栽培しようとしているか、だ。
 日光が当たりにくく、水はけの悪い、硬い岩盤の崖肌に生えている。その自生場所がわかっていて、既にその環境を再現する事はされている。
 少なくとも、同じ事をしても結果は失敗に終わる事は、薬草栽培の知識が乏しいミナギにも理解出来る。ミナギに理解出来ているなら、当然ナギト、ユヅキだって理解している筈で。それでもなお、ナギトはルカナにプシュークロムを栽培させようとしている。

「……で、でも……っ、どうやって……」
「あ、やっと落ち着いた?じゃない、落ち着きました?」

 今にも泣き出しそうな声ではあったが、やっとルカナが声を上げる。完全に消化出来た訳ではないが、とりあえず話をするだけの余裕は出て来たらしい。
 まあそれでも、顔色は悪いし、泣きそうではあるけれど。

「まず訊きたいのは、自生してる環境を作るのにどうやってるか、だ」
「…………え、と……。私が、知ってるのは……日当たりが悪い場所に、崖の岩盤を再現する、のに……地属性の、魔法の……ロカ・ムゥロで、人工的に崖を作って……」
「あー……ナギトが言ってた通りの感じだね?」
「ソーデスネ」
「え?あ、あの、どう言う……」
「あ、この二人、自分達の次元で会話する事多いから、ツッコミ入れたら終わりだよ」

 ルカナが、自身が知っている範囲でプシュークロムの栽培方法を答えていると、少し残念そうな声を出して答えるのはユヅキ。
 え、と思わず口を開いたルカナだが、即座に停めに入るミナギが居る。突っ込んだら終わりと、若干うんざりした顔で経験者は語る。ルカナの反応は世間一般から見れば至極当然の反応なのだが、相手がナギトやユヅキとなると、少し変わって来るから。
 慣れているミナギと、慣れていないルカナ。この二人のリアクションの違いは、少し新鮮な気もする。
 自分を見上げるユヅキとルカナの視線に、両腕を組んだまま軽く肩を竦めて。とりあえずナギトは現状の栽培方法の続きの説明を促す。全部聞いてから話すからと、そっけなく返されてしまった。
 けどその前に一つだけ、ミナギは訊いておきたい事があった。

「ロカ・ムゥロって……地面から岩盤出現させる地属性魔法だよね?攻撃にも使えるし、防御にも使えるから、地属性を持つ攻撃魔法士の人はすぐに覚えるように言われる魔法」
「うんうん。慣れた人だと、高さも厚さも凄いのがどーんて出せちゃうやつ」

 どーんと言いながら、両手を真っ直ぐ上に伸ばした後、大きく横に広げて見せるユヅキの動作は、年齢の割に少し子供っぽい。言っている事は、正しいのだけど。
 それでも、魔法に関してはまだまだ初心者のミナギにとっては、十分な説明だった。
 一番良いのは見本となる魔法を見せる事だが、地属性をナギトは闇属性単一だし、ユヅキは精霊術師でミナギは結界術師で、ルカナは補助魔法士の為、どうしても言葉での説明に留まってしまうのが残念ではある。

「は、はい。その魔法です。……えぇっと……人工的にロカ・ムゥロで崖を作ったら……プシュークロムを植え付ける場所に穴をあけて、から……隙間が埋まるように、魔法で上手くやる、みたいで……?」
「魔法でそこまで細かく……出来るからやってんだっけ。それでも、栽培は出来ないって……ハードル高くない?」

 知り得る限りの説明をすれば、魔法に関する知識が乏しいミナギが感想を零す。
 きっとミナギでなくとも、今の説明を聞いた者は大体同じような感想を持つ事だろう。それが普通だ。
 でも、だけど。ミナギは知っている。

 世間一般の常識。
 それをミナギが持ち合わせているかどうかは、危ういところだけれど。でも少なくとも、その世間一般の常識が通用しない相手がいる事を、知っている。
 知識も、経験も、実力も、持ち合わせている常識も、何もかもが規格外の人間が居る事を。過大評価ではない、過剰評価でもない。ミナギにとっては、それが正当な評価だ。

 視線をルカナが立つ左から、ナギトとユヅキが立つ右側へと、ミナギが動かす。
 なんとなく落ち着かなくて右肩の上に居るアルバを左手で撫でれば、何かを察したアルバがミナギの手に擦り寄り、一度軽く飛び上がり、ミナギの左腕に移動。丁度ミナギに向かい合う形に。
 自分を見つめるアルバの視線に、小さく肩を竦める。君の主たちには困る、と。そんな気持ちを込めて。
 するとそれが伝わったのか、偶然か、アルバがクスクスと楽しそうに笑う。
 ミナギの傍に居る五人の小さな精霊達も、それぞれミナギを励ますように、頭や頬を撫でたり、すりすりと擦り寄ったり。きっと、何が起こっているのかは理解していないけれど。この五人はその時の気分で動いているところがあるから。

「まあ、解決方法は単純なんだよな。ルカナ、ついでにミナギ、お前等、『自然ってどうやって出来てるか知ってるか?』」

 また何言い始めてんだこの人。心に思った事が、ミナギの顔にそのまま出ていた。瞬間的に青筋を立てたナギトに顔面を掴まれてしまったのは、ご愛敬。顔面を掴んだ手に力を込められなかっただけ、まだマシか。
 五人の小さな精霊達が慌てて、手を離せ離せと抗議していたが、ナギトの耳に届く筈もなく。
 アルバは、ナギトがミナギに向かって手を伸ばした瞬間、ミナギの腕から飛び立っていた。

「ナギトさんの質問の仕方が悪いんじゃんか!!」
「それは認める」
「認めんなら顔掴まないでくれる?!」
「二人はぁ、ほんっとーにぃ、仲が良いわねぇ」
「どこがぁ?!」

 ナギトとミナギのやり取りを見て楽しそうに笑うアルバに、即座に叫び返すミナギ。今日も今日とてミナギのツッコミは大忙しである。
 残されたルカナは、突然ミナギの顔面を掴んだナギトに怯えて小さな悲鳴を上げていたが、問題はユヅキ。騒がしい二人と一匹を、無言でじぃっと見つめている。見つめている、だけなのに。ハッと息を呑んだナギトがそろそろとミナギの顔面から手を離すのは――無言の圧力に負けたから。
 手を、放して。隣に立つユヅキへと体を向けながら、その長身の背中を丸め、地面の上に正座。

「さーせん」
「うん。ナギトそのまま反省しててね」
「ういっす」
「でも説明はして」
「へい」

 背中を丸めて正座するナギトの前で、両手を腰に手を当てて仁王立ちするユヅキの、その構図。見慣れているミナギはともかく、始めているルカナにとっては困惑するしかなくて。
 書類を持ったままオロオロするルカナに声を掛けるのは――それまで我関せずと木の上に居たセラータだ。木の上から降りてルカナの足元まで来ると、その足に頭をすりすりと摺り寄せる。
 その動作にルカナはホッと息を吐く。が、すぐにセラータの感触の違和感に気付く。
 靴下越しの感覚ではあったが、何かが、何かが違う。触れている感触は確かにあるのに、何かが違う。
 困惑顔で見下すルカナを静かに見上げ、意味深にセラータは星空のような瞳を細める。

 もし彼女に、実は今君の足に擦り寄っている猫が闇の統括大精霊だよと教えたら、どんな顔をするだろう。

「えーっと、さっきのは俺が悪かった。けどゆづ、あれ以外にどう言えと?」
「知らない!考えて!」

 また無茶を言う。思わずナギトに同情したのは、ミナギ、ルカナ、アルバ、セラータの二人と二匹。
 ガックリと肩を落としつつも、さてどうしたものかと考え込む。

「あー……えーっと……。まず話を戻すと、魔法で崖を創っても維持するのは難しいんだよ。崩れないように補強しても、創った時の状態は保てない。放っといたら崩れる。だからどれだけやってもプシュークロムの栽培は出来ん。それはなぜか。はい!考えて!」
「無茶振りって知ってる?」
「ヒントは出てるだろ、『魔法で崖を創った』って」

 真顔でツッコミを入れられたからと言って、ナギトのペースは乱れない。彼のペースを乱せるのは、やっぱりユヅキだけか。
 ヒントを出してくれただけでも、まだマシか。
 それ以上何も言わず考え込むミナギの様子から、自分も考えた方が良いのだろうと判断するのはルカナ。そもそも、今回の呼び出しは自分とプシュークロムがきっかけなのだ。いつまでもこの独特な空気に押されている訳にもいかないだろう――と、思うだけでもかなり本人的には頑張っている筈だ。きっと、多分。

 考える。プシュークロムの栽培方法が、どうして失敗しかしないのか。
 否、そんなものは自分の先人である薬学部門の魔研技師達が、ずっとずっと長い時間をかけて研究している事だけど。出来るだけ自生している環境は再現している。
 自生している場所をそのまま栽培場所出来れば良いのだが、モンスターが常に歩き回っている場所である為、管理者の安全が保証出来ないと許可は下りていないと聞く。仮に許可が出たとしても、水はけが悪い崖肌に自生する事しかわかっていない為、ゆっくり研究する必要もあって。出来るだけ安全は確保したいところ。
 だから出来れば、出来るだけ、安全な場所での栽培方法を確立させたい。でも、従来の方法では失敗する。創り出した崖は崩壊する。なぜか。
 ナギトの語った、ヒントを思い出す。ヒントは短かった、魔法で崖を創った。ただそれだけだった。
 短かったけれど、それが全てなのだろう事は――なんとなくわかって。
 さて、魔法とはどう言うものか。魔法の形をイメージして、その形を確かなものにする為詠唱をして、自分の魔力を使って様々な力を発現させるものだ。発現させられる属性は、その人の保有する魔法属性に左右されるけれど。
 少なからず魔力を持っていれば、属性も生まれながらに保有しており、後から扱える魔法属性が増える場合もあって、人それぞれ。

 自分が魔法を使っている時の事を、思い出すルカナ。
 補助魔法士である為、他の魔法士や魔法剣士、魔法銃士とはまた少し魔法の使い方は違う。敵でも味方でも、対象者に魔法を掛ける職業で、発動一回限りのものだったり、一定時間効果をもつものだったりと、多種様々。まあそれは、他の魔法士が使う魔法にも言える事だけれど。だが全てに共通するのは、一定の魔力を消費する事だ。
 ではもし、あえてどうなるのか。

「……魔法を維持する為の……魔力を、消したら……魔法をキャンセル?したら……消え、ます……よね?多分……?」

 おずおずと口にしたのは、ルカナ。当たっているかはわからない。でも、その言葉は、どうやらナギト的には満足の行くものだったらしい。
 ユヅキ、ミナギ、アルバ、セラータと共にルカナを見た後、ニヤリと笑い、片手をすっと誰もいない空間に向かって伸ばす。全員がその手の動きが見えるように、肩の高さではなく、頭よりも上の位置で。

「オスクロ・ボンバ」

 短い詠唱の後、差し出したナギトの手の平の前に現れるのは、直径七センチほどの黒い球。黒一色ではなく、よくよく見れば青や紫が覗く、闇の球。
 攻撃魔法ではあるが、罠としても使えるもので、空中でも地面でも自由に配置可能。敵味方の判別はつけられない事が難点だが、対象がその球に触れると爆発を起こす爆弾魔法らしい。どの魔法属性でも共有の魔法だが、属性によって爆発後の効果が違う、との事。火属性なら敵を燃え上がらせ、地属性なら岩の棘が敵に突き刺さり、風属性なら敵を切り裂く、と言ったように。

「で、この魔法は、まだこの魔法を維持する為の魔力を残してるから、ココに残ってる」

 ユヅキの前で正座をした状態で、ナギトはオスクロ・ボンバを指差して語る。
 すると自然、説明を受けているユヅキ達の視線は、まだ空中に残っているオスクロ・ボンバへと向かう。うん、確かに残っている。
 全員が頷いたのを確認すると、わかりやすくナギトは指をパチンと鳴らす。瞬間、音もなくフッと消える、オスクロ・ボンバ。話の流れから、指をパチンと鳴らした瞬間に、魔力を消した――魔法キャンセルを入れた事が、魔力を持たないミナギでもわかった。
 同時に、ルカナは――これまでプシュークロムの栽培が失敗続きだった、その理由を理解する。

 地属性の魔法、ロカ・ムゥロで創り出した岩盤は、魔法を使った本人がその魔力の放出を止めた瞬間、内側から崩壊している可能性が高い。
 岩盤が崩れないように周囲をどれだけ補強しようとも、根本を支える魔力を失うのだ。建物で言えば、土台や足場が直接消えるようなもの。崩壊するのは目に見えている。だからこそ、見た目は岩盤を維持していたとしても、既にプシュークロムを栽培するのに適した岩盤ではなくなっている訳で。
 そこまで理解した瞬間、ルカナはその場にへたり込む。

 なんだそれ。なんだそれ。
 もし仮にそうだとしたら、根本から間違っている。栽培なんて永遠に出来る訳がない。どれだけ魔法で高く硬い岩盤を作っても、無意味でしかない。

「じっ、じゃあ……なんで、私にこんな、書類……」

 ナギトから手渡された書類を握り締めるルカナの目に浮かぶ、涙。その目に浮かぶのは、絶望にも似た色。
 だが、それもまた仕方ない。
 これまでの話から考えれば、栽培方法の確立なんて永遠に不可能だから。仮にどんな隠し玉を、ナギトが持っていたとしても。
 無理じゃないか。不可能じゃないか。自分を見つめる、涙に濡れるルカナの瞳。それを受け止めてもなお、ナギトはナギトだった。いつも通り、通常運転。表情一つ以前に、眉一つ動かさない。

「はいナギトさん。対処法あるなら、そのヒントちょうだい」

 ぎこちないとは違う。どこか居心地が悪くなる空気を払拭したのは、ミナギだった。
 少し怒ったような顔に見えるのは多分、ナギトから出された問題に、思考を巡らせているからだろう、多分。傍に居る五人の小さな精霊達も、ミナギの真似をしているのか、それぞれ両腕を組んだり、頭に両手を当てて考える振りをしたり。
 そんなミナギの声に、ナギトは自分の前に歩いて来たセラータを肩に載せながら答える。

「ん。答えじゃなくてイイのか?」
「どーせナギトさんの事だから、更にオレ達に考えさせるんでしょ。もうパターンわかってるから、早く、次」

 今度こそ、明確にミナギの顔が不満に染まる。パターンはわかっていると言うが、本当に考えさせるような事を言うのかどうか――は、左目を細めて笑うナギトのその表情が、全ての答え。正解だ。
 若干ルカナがオロオロしていたのは、ミナギの言動やナギトの笑顔に戸惑ったからだろう。

「ん。偉い。さて、なーんて言えばイイか……。自然って言い方するとでかいからなぁ……。あっ、じゃあお前等、この学園って敷地広いけど、特に管理してるヤツが居る訳でもないのに、どうしてこんなに綺麗だと思う?この辺りの区画も、日当たり悪いからって一年は放置されたまんまだ」

 ナギトの言葉に、今度はルカナ達の視線が薬草栽培区画から、その向こうに広がる景色へと向けられ、それからルカナに分け与えられた区画へと移る。
 一年間。一年間放置されていたと言う割には、とても綺麗な栽培区画だ。すぐにでも種まきを出来るくらいに。あえて言うなら、日当たりと気温の問題はあるけれど、環境に適した植物なら、栽培可能なくらいに、綺麗な区画。
 誰が手入れしているのか――そう首を傾げるルカナの横で、ミナギは全てを理解した。

『自然ってどうやって出来てるか知ってるか?』

 あのナギトの質問の仕方は悪かった、確かに悪かった。けれど、それでも――多分、きっと、ミナギがナギトの立場に立っていて質問するとしたら、似たような事を言っている気がする。
 人への説明が得意なナギトですらあんな言い方になったのだ、もしこれがミナギだったとしたら、頭を抱えるくらいじゃ済まない筈だ。

 ルカナとミナギ、この二人には明確な違いがあった。
 未契約の精霊を見る力を持っているか、否か。

「……精霊達が、やってくれてるのか」

 それはナギトに向けた答えと言うよりも、独り言のような言葉だった。
 半ば呆然としながら、まだ何も植えられていない畑の土の上で、じっとこっちを見上げている精霊を、恐らく地の精霊達を、見つめて。
 続けて、肩の上に止まっているアルバや、自分の傍に居る五人の小さな精霊達へと、目を移すミナギ。

 単純な話だった。実にシンプルな話だった。世界を見る角度を、少しだけ、ほんのちょっと変えるだけだった。
 風は勝手に吹く訳じゃない。雨は勝手に降る訳じゃない。植物は勝手に生える訳じゃない。
 もし自然発生しているのであれば、精霊なんてそもそも必要ない。自然的なサイクルで、全ては生まれている筈だ。それなら、空を支配する風の統括大精霊のシエロや、光の統括大精霊のアルバも、闇の統括大精霊のセラータだって、必要なくなる。
 それでも彼等が存在するのは、精霊達こそが、この自然を作り出しているから。

 答えにいち早く辿り着いたミナギの言葉に、瞠目するのは当然ルカナだ。
 精霊術師の存在は知っているのに、すぐ目の前に、ユヅキと言う精霊術師の存在があるのに、精霊の存在が頭からすっぽり抜け落ちていたなんて、驚き以外の何物でもない。
 肩の上で顔を洗っているセラータの頭を撫でつつ、そんなルカナをちらりと見上げるのは、いまだ正座継続中のナギト。

「ま、仕方ナイナイ。『知識』として知ってるヤツと、『日常』として触れてるヤツとじゃ、感覚が違い過ぎる。俺だって、ゆづが生まれた頃からずっと居るから、そう言うモンって『理解』してるだけだ」
「精霊達が居るから、自然がある。精霊達を怒らせたり悲しい思いさせたりしたら、めちゃくちゃになる。精霊達が嫌な思いをして、『もうここに居たくない!』って思って離れたら……その場所は死んじゃうんだよ」
「死ぬって言うのは、単純に荒れ果てるって事な。雨が降らなくなったり、植物が育たなくなったり、風が吹かなくなったり、直接的な影響が出る」

 知識と、日常と、理解。
 言葉で言えば単純だが、その違いは大きい。
 それを一番よく理解しているのは、生まれた頃から既に精霊術師としての素養を強く持っていたユヅキを幼馴染に持つナギトだ。ナギトだからこその、視点。

 ユヅキの許可を取り、正座解除。肩から頭の上に移動したセラータに気を遣いながら、ゆっくりと立ち上がろうとして。でも中途半端な姿勢で停止。どうやら足が痺れたらしい。
 まあ、あれだけ長い時間正座をしていたら、足も痺れるだろう。とりあえずお疲れ。

「でー……どうするかって話だが」
「あ、話続けるんだ」
「大丈夫ですか……?」
「ん。はい、ユヅキさん、アイツ呼んじゃって」

 足が痺れているせいで中途半端な姿勢を保ったまま、ナギトが話を進める。よく話を進める気になるな、なんて思ったのは、多分ミナギだけではない。
 だが、当のナギト的には結構必死。
 強引にでも話を進めないと、自分の身が危険だとわかっていたから。さっきから、ユヅキが楽しそうな顔をしてナギトに向かってじりじりと距離を詰めている。しかも視線は、痺れているナギトの足に向かっていて。痺れている足を突くと言う、典型的な悪戯をしようとしているのが、見て取れた。
 まあユヅキの手がナギトの足に届くよりも早く、その頭を鷲掴みにされる方が早かったけれど。

「うぐぐぐっ」
「ユヅキさぁん?さっさと呼んでもらえますかぁー?」
「ぐぐ……っ、ぅあい……っ!」

 頭を掴まれて前進出来ずに呻きつつも、それでも諦めない辺りユヅキも妙なところで負けず嫌いだ。力でナギトに適う訳がないのに。最終的には足の痺れが取れたナギトに敗北。
 むぅっと不満に唇を尖らせながら、頭を掴むナギトの手を振り払って。
 そして、口を開く。

「グラール!」

 響く、声。
 それは以前、ミナギが聞いた事のある名前。セラータが、セニオル家の人間の、ミナギの兄弟にイタズラ許可印をつけたと言う話になった時に、ちらりと出て来た名前の筈だ。当時は口を挟む隙がなくて訊けないまま、今日になっているけれど。
 どうやら、今日ついにそのグラールに逢えるらしい。どんな精霊だろう、とそわそわしてしまうのは多分、なんだかんだ言って、ミナギも楽しんでいるから。
 色々規格外過ぎる、ナギトやユヅキのあれこれを。

「何を遠慮しとるんだか。別にお前さんに呼ばれても出て来るつもりなんじゃが?我」
「それなら呼ぶ前に来いよ。どーせ最初っから聞いてたクセに。『手のひらの上』での会話なんだしよ」
「わーい!グラールだぁー!」

 音もなくナギト達の前に現れたのは、身長一メートルくらいの小柄な、と言うよりも子供だった。体のサイズに合わない、大き過ぎるオーバーサイズのフード付きコートを着込んでいるが、サイズが大き過ぎて、袖もコートの裾も地面に引きずってしまっている。
 ナギトと極々自然に会話が成立しているところや、ミナギの耳にもしっかりと人の言葉として聞き取れているところと、ユヅキがわーいと声を上げているところから見て、ユヅキが契約している精霊である可能性は高い。

 いつも思うが、精霊達はほとんど人間の見た目に近い。
 だからこそ幼い頃のミナギは、未契約の、普通の人間の目には映らない精霊達を人だと思い込んだのだけど。
 あえて人と違うところを上げるなら、時々ふわふわ浮いている事くらいだろうか。風の精霊でなくとも浮かぶくらいは出来るらしいが、人間と同様に地上を歩いている姿は、完全に人と言っても過言ではない。
 一目見て人間と違うなと思うのは、ミナギと一緒に居る五人の小さな精霊達くらいの大きさの精霊だろうか。手の平に乗るくらいの大きさの人間なんて、まず存在しないから。

 見た目だけで言うなら、ネグロ・トルエノ・ティグレに襲われた時に助けてくれた泉を司る水の精霊や、ルオーダ採掘場で案内してくれた地の精霊の方が大きい。
 空を司る風の統括大精霊のシエロよりも、見た目は小さい。小さい、のに。
 すぅっとミナギは目を細めた。初めて姿を見せた、グラールと言う名前の地の精霊を見ながら。

 なんだ、この違和感。

「おおよしよし。ユヅキもナギトも、随分と大きくなったもんだなぁ」
「お前が見た目小さいまんまにしてるからだろ。初めて出逢った頃から変わってねぇじゃん。アレから何年経ったと思ってんだよ」
「もう私の方がおっきいよ!」

 ほぼ真上を見上げるようにして、にっこりと穏やかに笑うグラール。ほわほわ、とは少し違う穏やかな笑顔は、見た目の小ささとは違う器の大きさすら感じる。
 腰を曲げてグラールの顔を覗き込むナギトの隣では、両手を腰に当てて胸を張るユヅキが居る。そんな二人を見上げ、笑みを深めてほわほわと笑う。まるで孫を見守るおじいちゃんのようだ、なんて。誰が抱えた感想か。
 あえて言うなら、それはミナギの抱えた感想ではないと言う事だ。
 怪訝そうな顔をして首を傾げ、じいっと見つめるグラールの姿。自分の中の違和感の正体の答えを、求めて。

 違う、見た目の雰囲気じゃない。
 もっと違う、根本的なところ。深いところ。
 例えるなら、なんだろう。こう、まるで――。

「……めちゃくちゃ大きいものを強引にちっちゃくしてるみたい……な?」

 ほぼ、無意識だった。自分の中の違和感に一番近い答えを、自然に零していた、ミナギは。
 するとその瞬間、大きく目を見開いたナギト、ユヅキと、セラータの視線が、ミナギに集中。アルバも、ミナギの肩の上から飛び、バサバサと大きく羽ばたいている。グラールだけは、一度瞬いた後、またゆっくりと微笑んでいたけれど。
 これに驚いたのは、呟いたミナギ本人。無意識の内に声に出ていたのにも驚きだが、何よりも驚いたのは、ナギト達のその反応だ。特にナギト。大抵の事には驚かないあのナギトですら、まるで信じられない話を聞いたかと言わんばかりの表情でミナギを見ていた。
 向けられる視線と無言の空気に、たじろぐミナギ。物凄く、居心地が悪い。

「え、何……」
「……ミナギお前」
「は、はい……?」
「あぁらぁ、ミナギってばぁ、もしかしなくてもぉ、精霊の力が『わかる』のねぇ?」

 目の前で羽ばたきながら、感心したようにアルバが呟くものの、いまいちミナギには理解出来ずに居た。精霊の力がわかる、その単語には、覚えがあるけれども。今の自分の発言とどう結びつくのか、よくわからない。
 困惑するミナギの様子に瞬き、けれどまた穏やかに微笑むのは、グラール。

「驚いた。『見る』力はかなりのものだが、我の『在り方』をなんとなくでも理解するとは、相当なものだ」
「でもミナギくん、他の子達の力には気付きにくいよ?グラールだからじゃない?」
「だろうな。とりあえずさー、もう俺等もそんなちっさくねえから、普通でいんじゃないの」
「それもそうか。つい最近までこのくらいだったと思っておったが」
「出たよ精霊発言。最近っつっても、十年以上も前じゃん」

 驚いたと言いながらも、表情は穏やかに笑っているのだから、本当に驚いているのかと覚える疑問。
 しかし、ナギトとグラールの話を聞く限り、どうやらグラールは、ナギトとユヅキとは十年以上の付き合いがあるらしい。グラールの言うこのくらいは恐らく、今のグラールの身長とナギトやユヅキが同じくらいだったと言う事だろうか。となると、かなり長い付き合いになる。いつユヅキが契約したのかは知らないが、少なくとも五歳前後の頃には契約していた事になるかもしれない。
 この、見た目は小さいけれどめちゃくちゃ大きい、地の精霊と。

「ミナギの言葉は的を射ておる。グラールは愛称であり、正式名称は……そうさなぁ、当ててみるといい。お前さん達は、我の名前を知っておるよ、よーく、な」

 瞬間、ミナギは理解した。ナギトがあえて答えを言わずに色々な事を回答形式にするのは、このグラールの影響だと。
 そしてこれまでのパターンから、本当に自分達はこのグラールの正式名称を知っているのだと察するミナギ。困惑顔のルカナに構う余裕もなく、もう慣れてもらうしかないと半ば諦めの境地。
 こう言う時は、さっさと目の前の問題に答えを見付けた方が早いと、ミナギは知っている。

「はい、ヒント希望」
「うん、当然だな。『グラール』は、まだ幼いこやつ達が覚えられないのと、毎回正式名を言うのが面倒だからこそ、正式名称を縮めたものを愛称にしたのさ。ああそれと、我がめちゃくちゃ大きいけど、強引にちっちゃくしとるのはあっとるのよ」
「ベル・オブ・ウォッキング魔法学園なんて、こいつの『』だ」
「つまり、精霊のベル・オブ・ウォッキングの統括範囲は、グラールにとってはそのくらいの大きさって事ねっ」

 楽しそうに語るユヅキだが、その言葉がある前から、ミナギはかなり大きな精霊なのだろうと思ってはいた。光の統括大精霊のアルバと、闇の統括大精霊のセラータに加えて、風の統括大精霊のシエロや、稀少な魔剣の精霊であるヴェルメリオと契約しているユヅキが、そんなに力の弱い精霊と契約する筈がないと、そう言う判断から。
 後は、自分の傍に居る五人の小さな精霊達の一人の、地の精霊。
 その子がさっきから、正確にはユヅキがグラールの名前を呼んだ時からそわそわしていて、グラールが姿を見せてからはミナギの背中に隠れてこそこそしているから。
 見覚えのある反応だった。あれは確か、シエロに初めて逢った時の、小さな風の精霊コンビの反応に似ている。まああの時の風の精霊コンビは、どうしようどうしようと慌てている感じがしていたけれど。
 この反応の違いは、精霊個人の性格の違いもあるだろうから、それはそれ、これはこれ。

「……チビがこの反応…………名前を縮めてグラール……めちゃくちゃでかい……学園が手のひら……地の精霊……」
「大ヒント。地の精霊は、統括してる精霊の名前がその辺りの地名ってパターンが結構多い。特にグラールは、世界地図レベルで名前載ってるしな」
「ナギト、それヒントじゃなくてもう答えだよ」

 思わずミナギの思考が一時中断。真顔になってしまったのは、いつもはナギトと一緒にマイペースを発揮するユヅキが、ツッコミ役に回ったから。
 口を挟む隙を見失い、数秒固まってから、ミナギは思考を再開。
 ちらり横目で盗み見たルカナは、状況を理解しようとするのに頭が一杯一杯と言ったところ。元々の性格もあいまって、きっと何を言おうと考える余裕はないだろう。喋ろうとする度胸もないかもしれない。

 世界地図。頭の中で開く、世界地図。
 統括している精霊の名前が、その辺りの地名になっているパターンが多い。
 正式名称を縮めたものが愛称のグラール。そしてでかい。
 そして、、契約している他の精霊達。
 あれ、ちょっと待て。

 

「…………………えぇ……?」

 ドン引き。露骨に有り得ないと言った表情を見せてドン引きするミナギに、にやぁっと楽しそうに笑うのはナギトだ。楽しそうな割には、かなり悪い笑顔だったけれど。
 その手前では、グラールが穏やかに笑ってミナギを見ていた。目が合うと、今度こそにっこりと笑って見せる。
 まるで、答え合わせをする前から、その答えは合っておるよと、語り掛けるような。

「……、大陸……の、統括大精霊……?」
「おうおう、大正解じゃ。我はこのグラナディール大陸の統括大精霊、地のグラナディール。ユヅキと契約しておる精霊の七人のうちの一人だ。これから逢う機会も増えるだろうさ、よろしく頼む」

 そう言いながら笑うグラール、もとい、正式名称グラナディールが、一メートル程度の身長ではなく、ナギトよりもずっと大きな、着ているコートが丁度良いサイズの大きな姿にブレて見えたのは――多分、ミナギの精霊を見る力と、精霊がわかる力が、ほぼ同時に発揮されたからだろう。
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