天秤の絆 ~ベル・オブ・ウォッキング魔法学園~

LEKI

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本編

本編ー14

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 大陸全土に広がる街道から、一キロ外れた森の中。冷静なナギトの声と、鋭いミナギの声が響く。

「ゴブリン四体。全部右腕」
トリアングロ・バレッラ!テッタラ!!三角結界!四連!

 向かって来たゴブリン四体の腕や足に、ミナギの創り出した三角形の結界がそれぞれ出現する。その瞬間、結界が封じた腕や足が動かなくなり、向かって来た勢いが殺され、がくんと大きく体が傾く。
 自分達の体に何が起きたのか理解出来ず、グギャグギャと戸惑いの声を上げるゴブリン四体を見ながら――ミナギはヒィヒィと声を上げて肩で大きく息をしていた。
 大粒の汗を垂らし、今にも死にそうになっているミナギの横で、ナギトは片手を顎に手を当てて考え込み、ユヅキはアルバと共におおーっと感嘆の声を上げていた。セラータは、ミナギの頭の上でちょこんとお座りしたまま。
 時々、パシパシと尻尾でミナギの頭を叩いているが、恐らく励ましのつもりだろう。
 五人の小さな精霊達も、必死の形相のミナギの顔周りを飛び、頑張れと応援している。のだが、正直気が散るから止めてほしい、と言うのはミナギの心の声。

「すっごい凄い!ミナギくん、四枚同時に出した!」
「でも、右腕だっつってんのに狙いがズレてるからアウト。ミナギ、お前そっから動いてみー?」
「……っざっけ、な……ぁっ!!」

 出来るかボケェ、と。苦しそうな呼吸と共に吐き出されたミナギの暴言は、だがしかしナギトには響かない。
 少しでも動ければきっと今頃、怒りに任せてミナギはナギトを殴るか蹴るか出来ていたのに。それが出来ないのは、三角形の結界を四枚も同時に発動させているから。
 一辺が十センチ程度の大きさの、結界術としては一番弱い三角形の結界。
 ゴブリンの動きを封じるには十分らしい結界も、四枚同時に出現させるのは今のミナギには負担が大きいらしい。ただ出現させて結界を維持するだけでなく、腕や足を拘束する結界から抜け出そうともがくゴブリンの抵抗も影響しているのか、呼吸の荒さは変わらず、噴き出す大粒の汗は止まらず、膝もがくがくと震えている

≪あの大きさの結界四枚発動で身動き取れなくなるなら、実戦活用は厳しいな≫
「だなー。しかも相手ゴブリンだし。展開してから十八秒。ゴブリンが暴れてるのもあるかもしれねぇけど、もう結界が揺らいでる。ゴブリンナイトやアーチャークラスなら、二体同時に止められるかも怪しい。及第点も出せねぇなぁ」
「あぁらぁ、でもぉ、今回が初めてなんだからぁ、合格点はあげても良いでしょぉ?」
「とりあえずー、セラータ!もーいーよー!」
「なぁ」

 ヴェルメリオ、ナギト、アルバ、ユヅキ、セラータ。彼等の会話のどれだけを、ミナギは聞いていたのか。恐らく、半分以上聞こえていなかった筈だ。
 明るいユヅキの声に、一鳴き。
 結界のせいで身動きが取れてなくなっているゴブリン四体が、直径三センチにも満たない小さな闇の球に胸を貫かれ、絶命。結界に捉えられたままの腕や足だけを残して、その場に崩れ落ちるゴブリン達。
 ピクリとも動かないのを確認して、やっとミナギは四つの三角形結界を消す。

「っぶはぁっ!!……っ、クッソ……、しんっど……っ!」

 完全に結界を消した瞬間、まるでそれまで息を止めていたかのように大きく息を吸い込み、背中から地面に転がるミナギ。ゼエハアと荒い呼吸を繰り返し、大きく上下するミナギの胸の上では、五人の小さな精霊達があわあわと慌てている。
 特に慌てているのは水の精霊で、伝わらないとわかっていても、何やら必死にミナギに話しかけているのが見えた。ユヅキと、精霊達の目には。
 両腕を鳥のように上下に振っていた小さな水の精霊が、ぐるんっと勢い良くユヅキを振り返る。半泣きになっているように見えるのは、多分絶対気のせいではない。

≪どうかした?≫
≪おみずのむかきいてぇー!!≫
「ミナギくん、『お水飲む?』って」

 仰向けに倒れているミナギに駆け寄り、小さな水の精霊の言葉を通訳。
 けれど、もうミナギに声を上げる体力は残っていないらしく、荒い呼吸を繰り返しながら、力なく頷くのみ。けれど、小さな水の精霊には十分伝わって。任せろとばかり、小さな手で自分の胸をどんと叩く。うん、頼もしい。
 ミナギの口の上に、小さな水の球を創り出す。そこからちょろちょろとミナギの口に水を注いでいく。
 ちゃんとミナギが飲める水量で、溺れさせないように細心の注意を払って、と。小さな水の精霊は真剣な顔で自分の力を操っている。
 それを見守るユヅキとアルバの一人と一羽は、頑張れと呑気に応援中。
 むしろ、余計なプレッシャーを与えているように思うのは――はたしてミナギの気のせいだろうか。
 水を飲んでいたミナギが片手を上げ、水の供給停止を要求。すると、それを的確に読み取った水の精霊が、ぴたっと口へと注ぐ水を停止。
 しかしミナギの指示はそれだけではなく、自分の顔に向けて手の指をすぼめ、それからパッパッと開いて見せる。恐らく水を顔にかけてくれ、と言うアピールなのだろう。的確に指示を読み取った小さな水の精霊が、今度は創り出していた水の球を、ぽいっと両手で放り投げる動作を見せてミナギの顔面へ投擲。

「っぷは。はー……ありがと、助かった」

 鼻に水が入らないように摘まみつつ、息を止めて水玉を顔面に受けたミナギが、細く長く息を吐きながら、起き上がる。流石にありがとうの言葉は伝わらなかった為、ユヅキに通訳してもらったけれど。
 バンザーイと両手を上げて笑顔を見せるところから、喜んでくれているのがよくわかる。
 その素直な可愛らしさに癒されるのは、ナギトのスパルタにミナギが消耗しているからこそ。もっと優しくなってくれないかな、と思ったところで、多分無理だと即座に自分の思考を否定する、もう一人の自分の声を聞くミナギ。
 悲しいかな、優しく教えてくれるナギトは、それはそれで怖いと思うのだから辛いところ。
 がっくりと肩を落とし、息を吐きながら立ち上がるミナギの視界の端では、ナギトがゴブリン討伐の印である右耳を切り落としているのが見えた。正直、あまり気持ち良いものではない。
 まだクエルノ・ラビットの角の方がマシだった――と言うのは、多分ミナギだけでなく、ゴブリン討伐を経験した誰もが思う事だろう、絶対。
 水に濡れ、顔に貼り付く髪を鬱陶しいとかき上げ、ユヅキから距離を取ってから頭をぶんぶんと左右に振るミナギ。その行動の意図を読み取り、動いたのは小さな風の精霊コンビ。任せろとばかりにミナギの顔の前に現れ、二人で手を繋いで送り出す風は、ミナギがかぶった水玉の水分を吹き飛ばすには十分で。
 完全に乾いたのを確認すると、小さな風の精霊コンビに向かってお礼代わりの笑顔を。
 笑顔はちゃんと伝わったらしい。ミナギの顔や頭を乾かす事に成功した小さな風の精霊コンビは、わーいと笑顔でハイタッチを決める。
 一連の流れが見えていたユヅキとアルバは、言葉はなくともおおーっと歓声を上げて拍手。未契約の精霊である以上、精霊と話す力を持たないミナギと五人の小さな精霊達と会話は出来ない筈なのに、ちゃんとコミュニケーションが取れているのだから、素直に凄いと思う。
 きっとナギトとしても良い研究対象になっているだろう。

「……にしても、多いな」
「ミナギくんが動き封じてる間に倒したのも含めると……一時間の間に十二……十七?」
「オレ、これがゴブリン討伐初めてだから基準がわかんないんだけど……多いんだ」

 眉を顰めるナギトと、指折り数えるユヅキの言葉に、一人だけ知識のないミナギが首を傾げる。
 だがまあ、この二人がそう言うなら多いのだろう。と言う事は、近辺にゴブリンの集落か巣が出来ている可能性が高い、の、かもしれない。
 後の展開はわかっている。ミナギだってもうナギト達のマイペースに振り回されるだけではない。ベルトポーチタイプの自分のアイテムバックから飴を取り出し、口の中に放り込む。舐めるのではなく、思い切り噛み砕き、立ち上がる。
 飴の中には、魔力を回復する効果を持つものもあるが、結界術を行使する為に必要なのは魔力ではない為、今ミナギが食べているのは、ごくごく普通の飴だ。

「ゴブリンの集落か巣って遠い?」
「近くはない」
「でも遠くはない、かな?」
「微妙って事ね、リョーカイ」

 何を基準に判断しているかはともかく、二人の判断は間違いないだろうとあまり深くは考えずに終わるミナギ。思考放棄ともとれるが、自分が考えたところで名案なんて浮かばないとわかっているからこそ。
 少しずつナギト達を見て覚える段階が、今だから。

 学園から乗合馬車でも一日はかかる距離に位置する農村部。
 今回もシエロのお陰で移動時間は短縮出来た。農村の村人達にゴブリン退治に来たとナギトが伝えた時、村人達は揃って顔を明るくさせ、村長や他の村人達を呼び集めた。が、それもほんの数秒。
 ナギト達が制服を着ている学生で、しかも一年生で三人のパーティだと知った瞬間、目に見えて落胆したのがわかった。ヒソヒソと、子供だとか、一年生だとか、本当に大丈夫なのかだとか、好き勝手言っている声が聞こえて、不愉快だった。
 逆の立場――ゴブリン退治を頼んだ側だったら、確かに来たのが学生で、しかも一年生であれば、多少なりと不安を覚えるだろうと思うけれど。
 ベル・オブ・ウォッキング魔法学園に依頼したのは、他でもない彼等なのに。
 クエストを出す時に、条件として一年生パーティ禁止などと書かなかったのが悪いだろう。

 まあその後、村人達の事を無視して出発して、今に至るのだけど。
 農村から、大体直線距離にして二キロか三キロ離れた、森の中。街道沿いに、ゴブリンに人や隊商が襲撃されたと言うポイントを中心に探索して、かれこれ一時間。
 ゴブリン討伐と同時並行して行われているミナギの動きを封じる結界の検証は、まだまだ始まったばかり。

「ゴブリンが暴れなかったら、あの大きさなら四枚同時でも安定してたし」
「まあ、突然手足が動かなくなったら誰でもビックリして暴れちゃうよね」
「十八秒くらいなら、俺達が他のゴブリン倒す時間稼ぎは出来ると考えて……多少ゴブリンの数が多くても、十分倒せるか」

 悔しそうにミナギが吐き出せば、うんうんとユヅキは頷き、少しナギトは考え込む。
 どうやら、ゴブリンの集落か巣での戦い方、立ち回り方を考えているらしい。が、そこまで考える必要があるのだろうか、と言うのはミナギの正直な心の声。

「オレが結界張る必要もないんじゃないの?ナギトさん達なら」

 これから探すゴブリンの集落か巣がどれだけの規模で、ゴブリンの総人口がどれほどかはわからない。けれど、経験も知識も豊富なナギトとユヅキが、ゴブリン相手に劣勢に追い込まれる姿は到底想像出来ない。
 否まあ、前の出待ち賊戦では、追い込まれたけれど、それはそれ、これはこれで。

「偵察か先見か、どちらかはともかく、一時間以内に十七体のゴブリンは多いなんてもんじゃない、。この辺りのゴブリン討伐が長い間放置されてたか、どっか別のゴブリンのグループと融合したか……」
「うーん……秒読み?」
「パレード?……ゴブリンの、パレード?……それって、ゴブリンが大繁殖したとかで、大群で襲いかかって来る……て、ヤツ?」

 忌々しいとばかりに眉を顰めるナギトの隣では、暗い顔をするユヅキ。
 単語だけで言えば心躍る言葉ではあるが、状況から見て良いものでない事は明らか。なんとかミナギが頭の中で言葉を組み合わせ、その言葉が意味する展開に、さぁっと血の気が引いて行く。
 外れていてほしい。そう思っていても、現実は厳しくて。ミナギも、頭では理解しているのだ。それでも否定してもらいたいと思うのは、ゴブリン・パレードがなんたるものか説明していた本には、災厄とも言える話が書かれていたから。
 様々なモンスターがひしめくダンジョンから、突如としてモンスターが溢れ出す現象、モンスター・スタンピード死の大行軍とは、似て非なるもの。
 一般的には、モンスター・スタンピード死の大行軍の方が厄介だと言われている。が――。

「ナギトパパ、『モンスター・スタンピードとゴブリン・パレード、どっちが厄介か聞かれたら、僕は絶対ゴブリン・パレードって答えるよ』なんて言ってたもんね」
「えぇ……?ゴブリン・パレードなんて、なんか愉快な名前付けられてんのに……?現役指定災害変異超獣ネームドハンターが、ゴブリン・パレードの方が厄介って言うの?」
「言ってたわよぉ?セラータもぉ、覚えてるわよねぇ?」
「うーにゃん」

 ナギトパパ、と言えば、指定災害変異超獣ネームドハンターの一人。そんな人がモンスター・スタンピードよりもゴブリン・パレードを厄介だと評価するなんて、意外過ぎた。
 それこそ、ユヅキの記憶違いであればと願うくらいなのだが、上空からアルバの、ナギトの頭の上からセラータの、ユヅキの言葉を肯定する声が降って来て、言葉を失うミナギ。精霊の記憶力が良いか悪いかは知らないけれど、とりあえずこの二匹の記憶力は信用して良い筈だ、絶対、きっと。
 さてそうなると、欲しいのは理由の説明だ。
 世間一般では、モンスター・スタンピードの方が厄介と言われているのに。現役指定災害変異超獣ネームドハンターは逆説を唱える。理由が気にならない訳がない。
 無言のまま、セラータを見上げていた目で、そのセラータが踏みつけている頭の持ち主、ナギトへと目を向ける。視線だけで何が訊きたいのかわかるのは、話の流れから読み取っているから。

「判断基準がうちの親父超絶論外チートっての考慮してくれよ」
「今自分の父親を超絶論外チートって言った?」
「親父達が言ってたのはぁ」

 今日もミナギのツッコミが即座に入るが、当のナギトは意に介さず、話を進める。
 以前までなら無視して話を進めるナギトに苛立っているところだが、ミナギもミナギで慣れたもの。特に苛立った様子もなく、平然とした表情でナギトの次の言葉を待っている。
 そんな二人のやり取り――と言うか、ミナギの様子に、小さく拍手をするのはユヅキ。成長したねと、そう言う意味で。流石にこれにはミナギも険しい表情になったけれど、変に反応すれば、面白がったアルバにからかわれるとわかっているので、我慢、我慢。
 とりあえず話を戻そうとナギトを見上げれば、両親の話を思い出そうとしているのか、目を閉じて首を傾げている姿があった。

「モンスター・スタンピードってね?サイズ色々、危険度も種族も属性も大きさもバラバラなモンスターが群れになって襲い掛かって来るだけだから、実は群れの中にドッカーンと魔法撃ち込んじゃえばなんとかなるんだよ。まあ、場所によっちゃぁ人を巻き込んじゃうから、加減は必要かもだけどね?」
「ほうじゃね。ワシも、モンスター・スタンピードの方が楽じゃ。ゴブリン・パレードなんて誰が名前付けたか知らんけど、はっきり言うて、ヤツ等は『軍隊』じゃ。じゃ。何がたいぎいって、ソコがたいぎいんよ」
「うんうん。大体、ゴブリン・パレードが発生するくらいの規模になるとね、大体ジェネラルやナイトクラスが居て、キングだったりロードが指揮してるから、統率も取れてる。武器も色々、魔法も使って、他のモンスターを飼い慣らしてライダーにまでなっちゃう」
「そんなんが頭使って作戦立てて、罠まで使うって考えてみい。バチクソたいぎいじゃろが」

 いつ聞いた話だったかまでは正確に覚えていないが、モンスター・スタンピードとゴブリン・パレードの話になった時に、聞いたのは確かだ。
 二人とも、それぞれ体験した事があって、実際に戦った事もある。
 だからこそわかるモンスターの違いと、戦い方の違いは、実は意外と大きいものなのだと、話を聞き齧った程度のナギトでも理解出来た。

「あー……頭数揃えて力押しで暴れ回るがモンスター・スタンピードなら、色んな兵力揃えて指揮系統確立させたで来るのがゴブリン・パレードって感じだな」

 出来るだけ両親の話を噛み砕いて、わかりやすい表現になるように考えてみたが、どうだろうか。あまり顔には出ないナギトの不安は、だがしかし何かを理解したようなミナギの表情に、一瞬で吹き飛んでいった。
 どうやら言いたい事はちゃんと伝わったらしい。
 チラリ、目をユヅキに向ければ、見えた笑顔。無言だが、よく出来ましたと褒めているようで、自然とナギトの頬も緩む。

「最弱って言われてるモンスターの種類なのに、それでも、指定災害変異超獣ネームドハンターがめんどくさいとか厄介だとか言うレベルになるんだ……」
「人間だって、武器も持たない多数より、色んな武器持ってる多数の方が、相手にするのたいぎいだろ」
「あぁらぁ、ナギトのぉ、お父様とぉ、お母様はぁ?」
「アレは例外。論外。あの二人がセットで暴れたらどうなるか、お前等だってわかるだろ」

 ナギトの顔の前まで飛んで首を傾げるアルバだが、これにナギトは深いため息を吐きながら頭を左右に振って答える。
 心底うんざりした表情に、アルバは声を立てて笑う。ナギトの頭の上に居たセラータは、上手くバランスをとって頭の上に居座ったまま、大きな欠伸を一つ。しかし、次の瞬間にはピクッピクッと耳を震わせ、ぐるりと周囲を確認。
 星空のような瞳をすうっと細め、軽くぴょーんとナギトの頭の上から飛び降りる。

「とりあえず、ゴブリン・パレードの可能性の確認もかねて、行くか」
「はーい」
「結局行くのは変わらないんだ……」

 わかっていた。こう言う流れになる事はわかっていたけれども、予想通りの展開になると、流石にミナギも軽いめまいを覚えてしまう。否まあ、もうこのパーティに所属したのが運の尽きだ。諦めよう。
 とは言っても、ミナギが嫌だと言えばきっと、ナギトは別の方法を考えただろう。強制はしないのが、このパーティの決まりだから。結局、選んでいるのはミナギ自身。
 気を取り直して、ゴブリンの集落か巣の探索へ。
 だが、痕跡を辿って探索する従来の方法は取らない。一番手っ取り早い方法を、ユヅキが知っているから。

 正確には、、だが。

「このまま真っ直ぐ行けば最短距離でゴブリン集落着くって」
「……なるほど、精霊術師ってこう言うところもラク出来るのか」

 少しの間歌って――精霊達と話していたかと思えば、森の中の、ある方向を指差すユヅキ。
 その姿に、真顔で納得するのはミナギだ。
 精霊術師だからこその方法なのはわかる。わかるけれど、流石にちょっと斬新な方法過ぎて、脳が理解を拒んでいる。

「人の目が届かない場所でもぉ、わたし達には関係ないものぉ」
≪高い空の上。地の果て。深い海の底。明るい陽の下、夜の月の影。全てはぼくたちの手の上、目の端、耳の内だからねー≫
「なーうん」
「精霊術師と契約してないと、人間の言葉話せる精霊居ないから、耳の内は一部の精霊のみだけどな」

 耳元で吹く風の中から聞こえる、シエロの声。なんとも頼もしいと思う反面、聞き方によっては随分と怖い話だ。どこに行っても、どこに逃げても、どこに隠れても、何かしらの精霊達がそこに居て、こちらを見ているだなんて。
 監視している訳ではないが、そうだとしても、常に精霊の目がそこにある。
 未契約の精霊には人間の言葉がわからない為、話の内容がわからなくても、誰かと誰かが逢っていただとか、誰かがここに何かを隠していただとか、そう言うものが全部筒抜けになる訳で。
 精霊を見る力を持っているユヅキやミナギはともかく、その力を持っていないナギトや世間一般の人間からしてみれば、怖い部類の話になってくるだろう。
 まあナギトいわく、もう慣れた、らしいけれど。

「明確にゆづが精霊術師の素養があるってわかったのは二歳の時だけど、それより前から、何もない空間見て笑ったりなんか話し掛けてたり、ちょっと目を離したスキに危ない事しようとしてたら誰かに止められてたり、守られてたりしてたからな。ソレが精霊だって考えれば、なぁ?」

 流石はユヅキが生まれた頃からの幼馴染。年季が違う。世間一般の人が怖いと思いそうな状態は、とっくの昔に通り越した後だったから。
 それに何より、ナギトも精霊のお陰で命拾いをした身だ。精霊達が居たからこそ生きていられるし、ヴェルメリオにだって逢えたのだ。常に朝から晩まで精霊達が自分を見ている事に対する恐怖なんて、あるわけがない。
 ありがとうとお礼を言ったところで、ごく一部の精霊にしか伝わらないけれど。
 まあ、アルバやセラータ、シエロ、グラール達に伝えれば、きっと他の精霊達にも伝わって行くのだろうけど。どうせなら自分の言葉で伝えたい気持ちもあって。難しい話。

「精霊だったから良かったけど、知らない人からしたら、幽霊でも見えてるんじゃないかーみたいに思うところだよね」
「精霊術師が一番最初につまずくトコだな。周りの人間の知識や理解がなきゃ、幽霊が見えてるとか、精神イってるヤツとか思われて、相応の扱いされてるトコだ。実際、後から精霊術師だったってわかったなんてパターンは結構ある。まあ、その頃には既に本人が潰された後で手遅れなんだが」
「…………それが魔法士一族の中で、……扱い方はもっとヒドイ場合もあるけどね」

 精霊達の案内で先を歩くユヅキの後ろを追う、ナギトとミナギ。
 舗装されている道を歩くのとは違い、平坦ではない森の中を歩くのは大変。時に転がる石や地面に顔を出している木の根に躓きそうになったり、草や木の枝や葉が手に小さな傷を作ったりと、ただ進むだけでも一苦労。
 まだ慣れない森の中を進みながらミナギが零した言葉は、しっかりとナギトの耳に届いていて。けれど、特に何も言わない。
 何も言う必要はないと思って居るし、ミナギだって、何か言ってほしい訳じゃないだろうから。

「ゆづの両親は、両方魔研技師だからなぁ。『どうしてだろう』とか『なんでだろう』を突き詰めて研究して検証するのは日常なんだよ。後、うちの親父達が近くに居たのもでかい。だからゆづは潰れずにすんだ」
「ふぅん……いいな」

 小さく吐き出される、ミナギの声。
 すぐ近くを歩いているナギトが、その声を聞いていたかもどうかわからないくらい、それは本当に小さな声で。けれど、声と共に吐き出された羨望の思いは、大きく、強くて。

 もし自分にも、そんな人達が傍に居たら、もしかしたら何かが変わっていたのかななんて――考えたところで、無意味なのに。
 どうしても考えてしまうのは、ミナギにとってセニオル家の全てが重くて苦しいものでしかないからかもしれない。家を離れ、大陸すら離れた今でも、こうしてナギト達とクエストに出掛けても、常に両手足に巻き付き、どれだけ振り払っても自分を縛り上げて離してくれない鉛で出来た鎖のような、呪いのようにも思えて。
 嗚呼もう、本当に、大嫌いだ、あんな家。

    ◇   ◆   ◇

 ゴブリンの集落か巣と聞いて、世間一般が想定するのは、大きくても五十体くらいのものだとミナギが知ったのは、ゴブリン討伐の為にモンスター図鑑のゴブリンのページを読んでいる時だった。
 だが今ミナギの目の前に広がっているのは――ざっと見ても三百は越える、ゴブリン達の姿。しかも、見えている範囲で、の話なのだから、それ以上が居る事は確実な景色。
 よくもまあここまで増えられるものだ、なんて。誰の心の声か。

「えぇー?ここまで増えてるのに気付かなかったの?おかしくない?」
「街道から直線距離で三キロ。クエ発行元の村から……大体五キロ半くらいか?そんだけ離れてりゃ、気付かれにくいわな」
「でも、あんだけ数が居るなら、そのうちバレるんじゃないの?」

 精霊の案内を受けて見付けた、森の奥。近くに水場となる沢に近い場所にある洞穴と、その周辺に木で出来た家を何棟も作り、ゴブリン達は一つの大きな集落を作っていた。集落と言うには規模が大きく、中には、人間が作っているものを真似たのか物見台みたいなものまであって、これで集落を覆う壁があれば、要塞に近いかもしれない。暮らしているゴブリンの数も想定以上に多かった。
 否、多いなんてものではない。多過ぎる。誰がどう見てどう考えても、冒険者のパーティが複数で討伐に当たるレベルだ。
 沢を挟んだ反対側、ゴブリン集落を見下ろせる崖の上。絶対これは無理だと顔を蒼くさせるミナギの横で、ぷぅっとユヅキは頬を膨らませ、ナギトは両腕を組んで考え込む。アルバは別方向からゴブリンの集落を観察しに向かい、セラータは木の上からゴブリンの集落を見下ろす。

「遅かれ早かれ気付かれるだろうな。けど、気付いた時に慌ててパーティ編成しても、近くの農村を守れるかどうか微妙なラインだ。ゴブリンが来たーって外部のギルドに連絡が来た頃には手遅れ、なんてパターンが見える」
「シエロに頼んで、学園とか近くの都市部に手紙運んでも、対応可能な冒険者招集してパーティ編成から到着まで、早くても三日はかかるよね?多分」
「見た感じぃ、すぐにどうこうって感じはないけどぉ……。でもぉ、ゆづが言ったようにぃ、ゴブリン・パレード秒読みって感じよぉ?」
≪ちょっと周りに訊いてみたけどさー、襲った人間や隊商から武器を持って帰ってたーってさー。魔法使ってるヤツもいるっぽいよー≫

 流石は風の統括大精霊と言うべきか、既に地元の精霊達から情報収集を終えた後らしい。
 そこまで詳しくゴブリンの動向を知っていながら、なぜ精霊達は放置していたのかと、浮かぶ疑問。
 ユヅキいわく、精霊達にとって実害がなければ特に手を出す事はないらしい。
 だからこそ、人間がどれだけ襲われようが、隊商がどれだけ襲われようが、精霊達が手を出す事はない。だって、精霊達には関係ないから。関係あるとしたら、統括している場所や物に毒をばら撒かれたとか、強引に開拓されたとか、そう言うもので。
 どちらかと言えば、人間が自然に対してやっている事の方が、精霊からしてみればアウトの場合が多いか。
 勿論、人間も暮らしがあるからと、ある程度許容してくれている部分もあるらしいが。

 まあ、襲われたのがユヅキで、もし怪我なんてしようものなら、精霊達は即ガチギレモードになって全力でゴブリン殲滅を開始するのだけども。

 ゴブリンの集落を見下ろし、冷静に分析するナギトやユヅキの声を聞きながら、ミナギは眉を顰める。
 正直な話、このパーティ内で自分は足手まといに等しい。実戦経験豊富なナギトやユヅキに比べて、赤子同然。新しい結界の使い方も検証真っ最中で、現状、とりあえず小さい結界であれば四枚までは展開出来る事がわかっている。
 そうだとしても、今ここでゴブリン達を倒さずにいた場合の被害は、ミナギでもなんとなくわかるから。
 グッと、ナギトとユヅキから贈られたベルトの剣帯に刺してあるコラムビを、握り締める。
 まだ正直、コラムビを使いこなせているとは言えない。練習も兼ねて、ナギトやユヅキに付き添ってもらって、討伐任務を受け、初心者向けのスライム狩りでコラムビを使ってみたが、あまりにも切れ味が良過ぎて背筋が凍った。
 だがあの時相手にしたのはスライムであって、これから相手にするつもりなのは、スライムよりずっと強く大きく、数も多いゴブリンだ。けど、それでも。

「…………オレ、どうしたらいい?」
「うん?」
「ん?」

 僅かな震えを隠し切れない、不安混じりのミナギの声。
 それでも、ユヅキとナギトはしっかりと聞いていたらしく、すぐにゴブリンの集落からミナギへと目を移す。左手でコラムビの柄を握り締め、でも目はゴブリンの集落を見つめて、けれど小さく震えている、ミナギの姿。
 正直に言えば怖い。許されるなら逃げ出したいくらいに。でも、強くなりたいと願ったのは、他でもないミナギ自身だから。
 顔を、上げる。自分を見つめているナギトとユヅキを見上げ、もう一度。今度はしっかり、はっきりとした声で。

「オレは、どうしたらいい?」

 一度ナギトとユヅキが瞬き、そして、顔を見合わせる。見合わせて、数秒後、にぃっと左目を眇めて笑うナギトと、にっこり満面笑顔を見せるユヅキ。
 すぐにアルバとセラータを呼び戻し、それからシエロ、グラールを呼び出す。
 ゴブリン達が居るだろう洞穴は、他に抜け穴は出来ていないそうで、出入り口は一つだけ。他の抜け穴からゴブリンが逃げ出す可能性はない、と言うのはこの辺りに住む地の精霊達からの情報だ。

「んじゃ、作戦会議な」
「作戦って言っても、ナギトがドッカーンて闇魔法ぶち込むのがメインだけどね」
「ん。俺は魔法ぶち込みながら、ヴェルメリオ使って集落のど真ん中でゴブリンの注意引き付けて大暴れ。グラールは、ゴブリンが逃げ出さないように集落周辺に壁を創れ。その後は好きにしてくれ。シエロは、ゴブリン・アーチャーの矢の妨害と、下位種の掃討。ゆづはアーチャーやマジシャンの遠距離攻撃組排除。アルバはユヅキの傍に居て、状況見て適時対応。中で暴れてると、どうしても遠距離組まで見てらんないからな。手が足りないなら他の精霊にも声かけろ」
「あいっ!」
「任せなさぁい!」
「承知した」
「オッケー。矢だろうが石だろうが、フッ飛ばしてやんよー!」

 短時間に立てられた作戦の割に、それぞれの役割は明確かつわかりやすかった。
 ナギトの指示を受けたユヅキが右手で敬礼。シエロやアルバと頷き合った後、歌い始める。ゴブリン達に気付かれないように、小さな声で。おおかた、手伝ってくれる子来て、とかそんな事を言っているのだろう。
 小さいものの、風の統括大精霊であるシエロが声を風に載せて拡散しているのか、次々に集まって来る地元の精霊達。相変わらず言葉はわからないが、ユヅキ達がゴブリン退治をすると知って、気合十分なのは表情を見ればわかる。
 残る、ミナギとセラータの役割は。

「ミナギは、離れたところからゴブリンの動きを観察して、動きを止める結界使え。俺達は最強じゃない。他のヤツ等よりちょっと経験があるだけだ。死角から狙われたら対応が遅れる。そう言うトコを狙って来るヤツの動きを止めろ。無理はするな、一瞬でいい」
「わかった」
「……で、一つ訊いとく」
「なに?」

 少しだけ低くなる、ナギトの声。
 左目がすぅっと細められ、睨んでいる訳ではないのに睨まれた気がして、ビクッと体を震わせながらミナギは僅かに身構える。ドキドキと心臓が緊張で脈を打つ。
 さっきよりもぎゅっと強く、コラムビの柄を握り締める。

「お前は殺せるか?ゴブリンを。言っとくが、スライムみたいなゼリー切ってる感覚とは全然違うぞ」

 明確なナギトの言葉に、ゾッと背筋が凍り付く。戦えるかではなく、倒せるかでもなく、殺せるか。
 これから自分が取る行動の意味を明確な言葉で伝えられ、恐怖に竦むミナギの体。
 きっとナギト自身も、わかって言っている。わかっていてなお、ストレートな表現でミナギに問いかける。覚悟を、問う。
 いつもならここでナギトを止めている筈のユヅキは、沈黙。ただじっと、ミナギの答えを待っていた。話の流れはわからずとも、なんとなくミナギがいじめられていると判断した五人の小さな精霊達がナギトに向かって行こうとしていたのを、寸前で止めている。
 小さいとは言っても、五人全員手の平に乗るサイズ。流石に同時に五人を止める事は難しく、姿を見せたシエロやグラールも一緒になって止めてくれていた。

「お前らー、邪魔しちゃダメだってばー、大人しくしとけー?」
「人には人の領分があるのじゃ。我等が口を挟んではならぬよ」

 両腕を組んだまま、ナギトがちらり、グラールとシエロを見る。
 ナギトの目には、二人が何もいない空間に向かって話し掛けているようにしか見えないが、少なくともグラールの左手が何かを掴んでいるのだから、五人の小さな精霊のうちの一人はそこに居るのだろう。
 まあ、今はそんな事はどうでも良いか。見えないモノを見る目が欲しい訳ではないから、ナギトは。
 目を、ミナギに戻す。まだ恐れはある。怯えもある。それでも、真っ直ぐに自分を見上げるミナギに、ナギトはまたにやり、片目を眇めて笑う。
 もう答えは出ているようなものだった。

 正直に言えば怖い。怖いし、逃げたいけれど。
 この人達と一緒に行くと決めたのは、強くなりたいと願ったのは、他でもない自分自身だから。

「出来る。て……断言出来たら、カッコイイんだと思う、けど……正直、怖い。出来るか、わかんない。…………でも、やるだけ、やる」

 断言は出来ない。多分、寸前で殺す事を躊躇うし、怖がる。正直に答えるミナギに、だがしかしナギトは笑う。にやり、ではなく、ふっと柔らかく。
 それはどちらかと言えば、ユヅキに見せるような笑顔で。自分が置かれた状況も忘れてミナギが大きく目を見開いたのはご愛敬。

「よっし。じゃあお前にはセラータを付ける。セラータ、素人任せるけど頼むぞ」
「わう」
「……セラータ、よろしく」
「にゃんっ」

 ナギトは力強く、でもミナギには軽く返事をするセラータ。は、今日も今日とて尻尾をゆらゆらと揺らめかせ、星空のような瞳で自分が契約した精霊術師の相棒と、その仲間の結界術師を見上げる。見上げて、目を細めて笑う。
 二人はよく似ているだなんて言ったら、二人はどんな顔をして、何を言うのだろう。まあ、まだしばらくは言うつもりはないし、見守る役に徹底するつもりだけど。

 ヴェルメリオと並び、一番最初にユヅキと契約した精霊として、見守るのが自分の役目だと、そう思っているから。
 ユヅキの敵に関しては、誰一人例外なく――叩き潰すつもりだが。

「さーて……そんじゃ、派手にやるかぁ!ヴェルメリオ!!」

 明るく楽しそうなナギトの声と共に、紅い閃光が広がった。

 あ、コレあれだ、なんだかんだもっともらしい事言ってたけど、ただナギトさん暴れたかっただけだ――と言うのは、ミナギの心の声である。

    ◇   ◆   ◇

 紅い閃光が沢を挟んだ崖の上から放たれた事に驚く間もなく、集落の周囲を完全に囲う形で現れた岩壁に、ゴブリン達が動揺したのは言うまでもない。
 指揮系統を担う上位種のゴブリンも、突然の出来事に動揺し、何が起こったのかと確認すべく周囲をキョロキョロと見回している。
 困惑した結果、一体のゴブリンが、沢に背を向けてどこかに走って行くのが見えた。人間から奪い取ったのだろう防具を装備して、見た目からして強そうなそのゴブリンは、恐らくゴブリン・ナイト。
 恐らくあのゴブリン・ナイトは、自分達のリーダーへと緊急事態を報せに行ったのだ。と同時に、リーダーの安全確保。
 弓を持っているゴブリン・アーチャーが何かを叫び、物見台に立っているゴブリン・アーチャー達が、紅い閃光が最初に見えた崖の方へと一斉に弓を構え、矢を放つ。何が起こっているのか状況はわからないが、とりあえず先手必勝、と言うところだろうか。

 まあ、そんなものは通じないのだけど、当然。

「ちょっとぉー!うちのユヅキ狙うとかさぁ……ざっけんじゃねぇぞゴラァー!!」
「わぁ、シエロブチギレテンペスターモードだ!」

 無数の矢が放たれたが、ゴブリン・アーチャー達の狙いに――ユヅキ達に届く事はなかった。矢がユヅキ達の隠れる森の中に届く十数メートル手前で、シエロによって、阻まれたから。
 ゴブリン集落の中心で、風が一瞬にして膨れ上がり、爆発する。
 放たれた矢を押し返し、空中で纏め上げ、そして今度はゴブリン達に向かって振り下ろす。ユヅキを狙われた事で、ガチギレモードとなったシエロの風と巻き上げた矢は、文字通りの大嵐となってゴブリン達に叩き付けられて行く。
 同時に、ゴブリン・アーチャー達の放った矢に紛れる形で現れるのは、真っ黒な矢。闇の矢、オスクロ・フレチャだった。
 ただいつもと違うのは、その本数が六本でもなく、数十本でもなく――数えきれないくらい、だと言う事か。

「オスクロ・フレチャ:チャパロン!!」

 シエロの風と、風に巻き上げられたゴブリン・アーチャー達の矢と共に、闇の矢、オスクロ・フレチャが上空から真っ直ぐ地上に、ゴブリン達に向かって雨の如く降り注ぐ。ただの雨ではなく、豪雨の如く降り注ぐ、オスクロ・フレチャ。
 否、ナギトいわく、オスクロ・フレチャ:チャパロンだったか。
 自分達が放った矢や、オスクロ・フレチャ:チャパロンに射貫かれ、シエロの風に切り裂かれ、次々と倒れて行くゴブリン達。だがそれでも、下位種であるゴブリンやゴブリン・アーチャーが倒れるくらいで、完全に戦闘不能になってはいない。せいぜい、数を減らした程度。
 まあこの攻撃は、あくまでも数を減らす為のものなのだから、当然だけども。

「シエロ、追い風!」
「こっちにも寄越せよぉ、シエロ!」
「おうよ!オラオラ退け雑魚ども!道開けろやぁ!!」

 全力の助走と共に、強く踏み込んだユヅキとナギトが、それぞれ崖の上から飛び出す。
 えええええっと驚愕に上がるミナギの大音声。けれど飛び出した二人の体は地面に向かって落下する事はなく、シエロの風によって前へ、前へ――ゴブリン集落へと進んでいた。
 普通では考えられない移動方法だ。魔法を使ったとしても、崖上から軽く見積もっても十メートル以上は距離がありそうな沢を越えた対岸まで到達する事なんて難しいだろう。仮にそんな魔法があるとしても、だ。

「ミナギィ!俺が呼ぶまでソコ居ろよ!!」
「うっ、うん!わかった!」

 おいて行かれると思い、慌てて追い駆けようとした事に気付いたのだろう。肩越しに振り返ったナギトの言葉に、ビクッとミナギは体を震わせながら頷く。
 もしここで飛び出していたら、怒られていたかもしれない。
 先にゴブリン集落に到達したのはナギトで、ツーハンドソード状態になったヴェルメリオの柄を両手で握り、肩に担いだ状態から振り下ろす。

グラベダド・マス重力・増加

 闇属性の高位魔法、重力増加させるグラベダド・マスが発動。それに合わせ、ナギトを包んでいたシエロの風が消える。
 丁度、ゴブリン集落のど真ん中。上空からの落下に加え、グラベダド・マス重力・増加による加速は、一瞬でナギトの体を地面に叩き付けるには十分。
 ズゥゥンッと、周囲に響く重たい音。ヴェルメリオとナギトが着地した場所を中心に、放射状に広がるヒビと、沈む地面。
 着地は振り下ろされたヴェルメリオからではあるが、それでもヴェルメリオを握る腕から全身に伝わる衝撃は、ダメージは、凄まじくて。瞬間的にナギトの全身を衝撃と痛みが駆け抜ける。
 歯を食いしばって耐えるナギトだが、その衝撃と痛みの具合は、筆舌に尽くしがたい。
 ビキビキと筋肉が悲鳴を上げているのがわかる。ギシギシと骨が軋んでいるのがわかる。皮膚が裂け、血が噴き出す。衝撃に耐えきれなかった骨が、折れて行くのがわかる。が、その痛みも、怪我も、ほんの数瞬。
 視界の端に飛ぶ、無数の小さな光の球が痛みと怪我が消えた――癒えた理由。

「サンキュー、アルバ!」
「いぃえぇ。ちゃぁんと見てるからぁ、気にせず戦いなさいよぉ!」

 視線は周囲のゴブリンに向けたまま声を張り上げ、アルバに向けて礼を。
 返される声を聞きながら、ナギトはすぐに動き始める。矢と、シエロの風と、オスクロ・フレチャ:チャパロンでの強襲を受け、動けなくなっているゴブリン達を飛び越え、木の家や物陰に隠れ、強襲を乗り越えたゴブリン達に向かっていく。
 強襲を避けるだけの知恵があるせいか、ナギトが向かっていく先に居るゴブリンは、ライダー、ソルジャー、ナイト、ジェネラル等の上位種が多い。
 だが――相手にとって不足なし。

「はっはぁー!このシエロ様の前で、飛び道具が通用すると思ってんじゃねぇぞぉ?!」
「うぅっわぁ……シエロ、完全にキャラ変わってる……」

 風の統括大精霊のせいか、シエロの声は離れていても風に乗って崖上に居るミナギの耳にも届く。シエロ自身はゴブリン集落の上空に居て、崖上に居るミナギとは軽く十数メートルは離れているのに。
 ブチギレテンペスターモードとユヅキは言っていたが、あれが本気で怒った時のシエロの勢いなのだろう。
 シエロの怒りが暴風となって吹き荒れ、ゴブリン集落の中でヴェルメリオを揮うナギトや、ゴブリン・アーチャーやゴブリン・マジシャンを狙うユヅキに向かって放たれる矢の全てを防ぎ、押し返している。
 けれど、戦っているナギトやユヅキがその暴風の影響を受ける事がないのだから、微妙に調節しているのか――と思いきや、二人のすぐ傍に別の風の精霊が数人居て、暴風をかき消しているようにも見える。距離があるせいで、ミナギの目にはそこまではっきりと見えないけれど。
 自分の傍に居る、五人の小さな精霊達へと、目を向ける。
 風の精霊コンビはテンション高く両手を振り、水の精霊は小さな水のしぶきを作って頭の上に虹を作ってはしゃぎ、光の精霊はハラハラドキドキと心配そうな様子で、地の精霊は両手でパチパチと拍手しながら、それぞれのスタイルで観戦していた。
 観戦。そう、観戦だ。ミナギの目には、確実に彼等は観戦しているように見える。

≪いっけー!そこだー!≫
≪ゴブリンなんかにまけるなー!≫
≪ふぁいとー!≫
≪すごい……!あんなにおっきいあいてなのにー!≫
≪おおー、みんなすごーい≫

 もしミナギが未契約の精霊達と話せる能力を持っていたら、今頃そんな声が聞こえていただろう。まあ声は聞こえなくともその姿から、大体想像は出来るけれど。
 数の利を生かそうと戦うゴブリン・ライダー、ゴブリン・ソルジャー、ゴブリン・ナイト、ゴブリン・ジェネラル達だが、自分達の体の大きさが邪魔をして、たった一人のナギトに対して攻撃がしにくくなっている。
 ナギトが誘導しているのか、時には同士討ちのような形になっていて、戦況的にはナギトが優位。
 そしてユヅキはと言えば、リング・ダガーを左右の手それぞれに持ち、素早くゴブリン・アーチャーやゴブリン・マジシャンとの距離を詰め、的確に行動不能、もしくは戦闘不能に追い込んでいる。
 風で矢の妨害は出来ていても、流石に魔法をかき消す事は難しくて。特にそれが地属性の魔法ともなれば、なおさら。
 石のつぶてを投げ付けるピエドラ・バラや、岩を出現させて落とすロカ・カエ等は、特に相性が悪い。ユヅキはなんとか避けているけれど、避けられなければ怪我はまぬがれない。
 ギリギリで避け、距離を詰め、そしてリング・ダガーを使って、一体ずつ確実に仕留めて行く。ユヅキがリング・ダガーを使って戦うところを見るのは、これが二回目。出待ち賊戦以来だが、戦い慣れているのは、よくわかる。
 真っ白な制服が、紫色のゴブリンの血で染まって行く。

「精霊術師なのになぁ……」

 ついついぼやいてしまうミナギの声を唯一聞いていたセラータだけが、楽しそうに目を細めて笑っていた。

    ◇   ◆   ◇

 ゴブリン達の間に、混乱が、戸惑いが、広がって行く。
 数で圧倒的優位に立っていたゴブリンは、少しずつ、でも確実にその数を減らしていた。なぜ、どうして、なんで自分達が押されているのかと、恐怖を抱き始める。
 いつもならある後方からの弓矢や魔法による後方支援もなく、武器を揮えば避けられ、時には仲間を攻撃してしまう。かと思えば、侵入者のツーハンドソードで断ち切られ、闇属性の魔法に切り裂かれ押し潰され貫かれる。
 なぜ後方支援がないのかと見れば、空中を飛ぶ何者かに矢は巻き上げられ、ゴブリン・アーチャーやゴブリン・マジシャンは、もう一人の侵入者によって倒されているのが見えた。
 苛立ちに、ゴブリン・ソルジャーが声を張り上げる。岩から切り出したのだろう棍棒を振り回す。
 だがその結果、周りに居た他のゴブリンや建ててある家を巻き込み、破壊しているのだから、始末が悪い。ついにはゴブリン・ソルジャー同士で仲間割れまで始めてしまう。

「ハッ!ナイトの方がまだ冷静だなぁ、オイ!」
≪ナギトさん!右!!クアドリラテロ・バレッラ四角結界!!≫
「ん?……おー」

 ナギトから見て右。眼帯で覆われている右目の死角に、突如として現れた四角結界。大きさは、縦二メートル、横二メートルで、ヴェルメリオを持っているナギトを十分に
 パルス・ウォークス越しに響いたミナギの声を受け、右を向いたナギトが見たのは、四角結界に阻まれるゴブリン・ナイトの剣の一撃。完全に気付いていなかった一撃に、おーと声を上げるナギト。
 驚いているわけでもなく、どこかのんびりした声に、ミナギが対岸の崖上で脱力したのは言わずもがな。
 しかし、そんなミナギに戦闘中のナギトが気付くはずもなく。
 結界に攻撃を防がれ、いきり立つゴブリン・ナイト。一度ナギトから距離を取り、別のゴブリン・ナイトと共に横一列に並ぶ横隊陣の陣形を取り、剣を正面に構え、突進して来る。まるで人間の突撃兵の真似事だ。

「ミナギー、これ防げるか?」
≪……クエバ・リザードと戦った時、攻撃を防ぎきれなくて結界が割れたの、攻撃がじゃなくて、尻尾の棘ので来たからだと思う。だから……≫
「剣の切っ先で押されたらヤバイ、かぁ……。仕方ナイ」

 返された答えに短く息を吐き、ヴェルメリオを地面に突き立て、ミナギの創った四角結界の向こう側、突進して来るゴブリン・ナイト達に向けて、右手をスッと伸ばす。
 狙いは、向かって来るゴブリン・ナイト達の全身。まずは、罠を仕掛ける。

「オスクロ・ボンバ:メテオリート!」

 以前、ルカナと薬草栽培区画でナギトが一度見せた、爆弾魔法――の、複数出現バージョン。直系七センチほどの大きさの闇の球が、ゴブリン・ナイト達の視界一杯に出現。そして、まるで流星のごとく、ゴブリン・ナイト達に向かって飛んでいく。
 突進していた状態だ、急に立ち止まる事は不可能。
 気付いた時には構えていた武器や身に纏った防具、皮膚に貼り付いていて、なんだなんだと狼狽えたゴブリン・ナイトの一体が、腕に着いたオスクロ・ボンバを払い落とそうとして――指先が闇の球に触れた、瞬間。

 消えた。

 オスクロ・ボンバがあった周辺の空間が、ゴブリン・ナイトの腕が、払い落とそうとしていた手が、爆発に呑み込まれて、消えた。
 上がる絶叫。自分の身に、仲間の身に起きた事が理解出来ず、悲鳴を上げる。
 手で直に触らず、振り払おうとするが、体のあちこちに付着したオスクロ・ボンバを、振り落とす事は出来ず。
 その現象を見ていなかったゴブリン・ナイトは、なんだなんだと狼狽えるばかり。足並みが乱れる。隊列が乱れる。中には、ナギトを見て怯えを見せる者まで居る。が――もう遅い

 次にイメージするのは、扇状の衝撃波。空間を歪ませ、広がる衝撃波。

「ディストロシオン!」

 広がる衝撃波が、空間を歪め、揺らし、そしてオスクロ・ボンバを揺らす。そうすると当然、衝撃を受けたオスクロ・ボンバは、次々に爆発していく。爆発は爆発を生み、全てのオスクロ・ボンバが爆発を終える頃には、ゴブリン集落の中には汚れていない地面を探すのが難しい状態になっていた。
 ゴブリン・アーチャーやゴブリン・マジシャン等の遠距離攻撃組を担当していたユヅキも、残すところ数体のところまで来ていて。
 出待ち賊との戦いで劣勢に追い込まれていたのが嘘のような、圧倒的な戦いだった。
 まあ、ゴブリン討伐が終わった後に訊いたところによると、対人間戦であれば殺さないように手加減をする必要があるが、ゴブリンであれば手加減無用。遠慮なしに徹底的に叩きのめす事が可能だからこその結果なのだとしたら、納得は出来る。一応。ある程度は。

「オレ、居る意味ある?」
≪あるある。俺の事結界で守ってくれたじゃん≫
「ナギトさんはそうだけど……ユヅキさんとか、オレ完全に出る幕なかったし」
≪アタシはアルバと一緒だったし、他の精霊達も居たからね≫

 ナギトが呼ぶまで待機と言われ、大人しく沢を挟んだ対岸の崖上で見守っていたミナギだったが、正直出番は数える程度。しかも、数回ナギトの死角から来ていた攻撃を結界で防いだだけで、とても役に立てたとは思えない。
 完全な安全圏から見ているだけなんて、まるで観戦者。
 自分が弱い事は重々承知だが、観戦者で居るのは、それはそれで、納得いかなくて。むぅっと眉を顰めるミナギだったが――本当の本番は、ここから。

「もー、ミナギってばもう終わったみたいに言うー。本番はこれからじゃん?」
「は?シエロ、それってどう言う」

 流石が風の精霊。
 離れていても、まるで隣に立っているかのように、ミナギの声を聞き取っていたらしい。
 どう言う意味かとミナギが問うよりも、ずっとずっと早く。問いかけを遮るように、ミナギの体は、崖上からふわり、浮き上がっていた。

「はっ?!ちょ、えぇ!?」
≪おー、シエロ丁度イイ。そのまんまソイツ連れてこーい≫
「まっかせてー!」
≪ミナギくん、おいでおいでぇ≫

 例えるなら、風で出来た大きなボールのようなもの。それに包まれたミナギの体は、自分の意思に反してふわふわと浮かぶ。
 足元に地面がない。自分の意思とは無関係に進む体。馬車に乗っているのとはまた別の感覚には、まだ慣れない。ほんの少しでも動けば落ちてしまうのでは、なんて考えて、自然と体が緊張してしまう。シエロは絶対落とさないと、頭ではわかっていても。
 そんなミナギの緊張をよそに、あっと言う間にミナギはゴブリン集落の中、先に待っていたナギトやユヅキの傍らに降りる。
 瞬間的に鼻を突く血の臭いは、とてもじゃないが、良い匂いとは言えない。我慢していなければ、今にも吐いてしまいそうだ。
 一歩足を踏み出せば、びちゃっと足元から響く水音。けれど、足元に水は流れていない。ではこの水音の理由はなんて――考えるまでもない。ゴブリンの血だまりだ。
 ミナギの背筋を這い上がるのは、恐怖。どれだけ視界に入れないように頑張っても、視界の端に見える、ゴブリンの死体と、ゴブリンの血の紫に染まった地面。地面と同じく、ゴブリンの返り血で紫色に染まるナギトとユヅキの制服。崖上に居た時にはわからなかった、気付かなかった、リアルな感覚。
 崖上で待っている間は観戦者になっている自分が嫌だとすら思ったのに、今では五感に訴えて来る全てが嫌だと思うのだから、なんとも現金な話だ。
 自分勝手が過ぎると、内心自分に吐き捨て、ぎゅっと両手を握り締めるミナギ。

「これから、どうするの?」
「ん。アレ」
「洞穴の中にまだゴブリン達居るから、これからそれを倒すよ」

 周りの死体も、吐き気すら覚える血の臭いも、紫色に染まる地面も、ナギトやユヅキには慣れたもの。平然としている姿が怖いと思ってしまうミナギは――きっと、間違ってはいない。普通の感覚だ。
 しかしそんなミナギの思いに、二人が気付く筈がなく。
 最初にナギトがゴブリン集落に突撃した時、ゴブリン・ナイトの一体が駆け込んだ洞穴前へと向かう。
 幅七メートル、高さ三メートルほどの、横に幅広い洞穴は、今にもナギト達を呑み込まんと大口を開けているモンスターのようにも見えてしまう。
 中にはまだゴブリン達が居ると言うが、少なくとも、入口から光が届く範囲内に、ゴブリンの姿はない。誰も居ないと言われてしまえば、すんなり信じてしまうくらいに、動く影も見えず、足音はおろか、物音すらしなかった。
 けれど、奥に潜んでいると語るのは、闇の精霊や地の精霊達から話を聞いたユヅキ。

「中はゴブリン達が掘って広げて迷路みたいにしてて、罠もあるし、待ち伏せもあるって。でも、入口はココだけだから」
「逃げ場はないってワケだ。ミナギ、行けるか」

 ユヅキと話していたナギトが、ミナギに問う。
 一瞬その問いかけに体がビクッと跳ねかけたが、更に両手を強く握り締める事でこれを堪えて、大きく息を吸って吐いた後、頷く。ここからはもう、見ているだけではない。自分も一緒に戦う、戦力の一人。
 ベルトの剣帯に刺してあるコラムビを、引き抜く。誰が見ても、コラムビを握るミナギの右手は震えていて。
 気付いた五人の小さな精霊達が、右手の周りに集まりながら、心配そうにミナギを見上げていた。

「…………行ける。大丈夫」
「っし、行くぞ」
「シエロ、グラール、アルバもセラータも、いっくよー!」
「はーい!っつっても、洞穴内じゃグラールの方が出番多そうだけどねー」
「こんな狭いところで大嵐なんぞ起こせば、ユヅキ達が大変だからの」
「シエロだったとしてもぉ、ゆづ達に迷惑かけたらぁ、許さないからねぇ?」
「んなーん」

 マイペースと言えばマイペース。いつも通りと言えばいつも通り。
 そんなナギトやユヅキと精霊達に、少しだけ、本当に少しだけ呆れつつも、さっきまであった恐怖が少しだけ和らいだのを、ミナギは気付いていた。
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