次期当主に激重執着される俺

勹呉

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一章

二話:潜む影

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「到着いたしました。グレア様」

暗闇の中、その声は辺りに小さく響いた。
その言葉を聞くや否や、男は静かに目を開ける。闇のように深い青色の髪とは対照的に、周囲を照らす紅の瞳が――声の主を見ていた。青髪の男は馬車から降りると、人目を避けるように黒いローブで身を包む。闇夜に紛れる男の身体は、不思議と気迫で満ちていた。

「それにしても……急に出かけたいと仰っていましたが、何故『ここ』なのですか? ここは貧しい者が集まる貧困街。この国の『次期当主』となるグレア様のような『高貴な方』が態々足を運ぶような場所では――」

「ロン。お前は、オレの意志に反対するのか? どうやらその舌は只の飾りのようだな」

たった一瞬、紅の瞳に殺気が混じった。ロンは忽ち目を見開くと、上ずった声で「申し訳ありません」と頭を下げる。その身体は、小刻みに震えている。
夜は深みを増していく。グレアは暫く、震える部下を無表情で見下ろしていた。紅の瞳が放つ視線は至極冷淡で、一切の優しさがなかった。
しかし――漸く満足したのだろう。グレアは「顔を上げろ」と呟くと、ここに来た理由を語り始めた。

「探し物をしている。幼いころ本で見た『希少種』を、傍で飼ってみたいのだ」

「希少種……と、いいますと?」

歩き出すグレアの後ろで、ロンがおずおずと尋ねる。するとグレアは、風にローブを靡かせながら後ろを振り返り、瞬きもせず呟いた。

「琥珀の瞳を持った人間だ。オレはそれを手に入れたい」

それは、ロンにとって聞きなれない言葉だった。男は突拍子のないグレアの言葉に混乱しながらも「こはくのヒトミ……」と片言な鸚鵡返しを披露する。

「では問おう。ロン、お前の瞳は何色だ?」

「あ……青色です」

「そうだ。この国は、国民の多くが『青い瞳』を持って生まれる。そして、オレのように王の血を引く人間は、その証として『紅の瞳』を持って生まれる」

グレアは再び歩き出すと、明かりのある方へ足を進めた。ロンはその道に従うよう、黙って後に続く。

「だがこの世には『琥珀の瞳』を持つ人間がいるらしい。オレは見てみたいのだ――王の血を引く人間でも、それ以外でもない、唯一の『例外』を」

グレア様が笑っている――声色だけでそれを察知したロンは、滅多にお目にかかれないソレに、思わず目を見開いた。それと同時に、実在するかわからない『琥珀の瞳を持つ人間』に、心底同情してしまった。

やがて、暗闇の中に明かりが見えて来る。
グレアはローブで顔を隠すと――躊躇なく街へ足を進めた。




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