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一章
三十八話:愛してる
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(はあ、やっと静かになったか……)
この俺『ジーク』はペンを片手に、物凄い形相で窓の外を見ていた。
グレアもロンも忙しいようで、今日は殆ど顔を見ていない。ロン曰はく「今日は王宮で大事な会議がある」と聞いていてが、まさかこんなに騒がしいなんて。
悲鳴のような笑い声。
外の廊下を物凄いスピードで走り抜けていく『誰か』の足音。
それから――変な銃声。
一体どれだけ複雑な会議をしているのだろう。
時間があり過ぎて文字の勉強にも慣れてきてしまった。俺は大きな溜息を吐くと、退屈のあまりベッドにダイブした。このままふて寝でもしてしまおうか。
するとその時――ドアの方から、扉の開く音が聞こえた。
(もしかして……)
俺はすぐに身体を起こすと、扉に向かって駆け出していく。すると案の定、飛び出してきた俺を『紅の瞳』が待ち構えていた。
「グレア!」
「ジーク、良い子にしていたか?」
男は笑顔で俺に近づくと、優しく身体を抱きしめてくれた。久しぶりに会ったからだろうか――いつも控えめにするスキンシップも、今回ばかりは抑えられない。
「もう大事な会議は終わったのか?」
「ああ、丁度全て『片付いた』ところだ。これで漸くお前と居られる」
紅の瞳が、嬉しそうに俺を見つめる。
グレアは俺の頬に手を伸ばすと、そこへ優しくキスを落とした。突然の出来事に動揺し、頬を染めると――グレアは更に追い打ちをかけるよう「会いたかった」と耳元で囁いた。
「オレが居ない間、寂しかっただろう?」
「別に、文字の勉強してれば一瞬だったし」
「手紙もすべて、大切に保管しているそうだな」
「な、なんでそれを――」
「ロンから聞いた」
顔が熱い、恥ずかしい。うまく言葉が出て来ない。
俺はグレアから視線を外すと、動揺を抑えるべく冷静さを取り戻そうとしていた。長い間会えなかったせいか、突如あふれ出した嬉しさと動揺が、高速で身体中を駆け巡っている。
「オレはとても寂しかった。ジークが居ないと、生きてる心地がしない」
「大袈裟だぞ……ばかグレア」
「本当だ。オレは、ジークが居ないとダメな身体になってしまった」
「……はあっ?!」
よくそんな恥ずかしセリフが言えるな。
身体が、心が、沸騰するように熱い。グレアの悪戯に堪え切れなくなった俺は、両手で顔を隠して黙る。
しかし俺は……大事なことを忘れていた。
グレアが『紙』を持ち上げる音が聞こえた。それと共に聞こえた嬉しそうな男の笑声に――俺は「まさか」と顔を上げる。
「ジーク、文字の練習とは『オレの名前』のことだったのか」
グレアが持っていたのは、俺がさっきまで書いていた『名前』練習の紙だった。
「ち、違うっ……それは違う!」
「オレの名前をこんなにたくさん練習していたとは。この紙は額縁に飾ろう、永久保存しておく」
「やめろ! そんなことしたら怒るからな、ばかグレア!」
俺の怒声を聞いても尚、男は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
『グレア様の本名は「グレア・ヴィクター」というのですよ。字を覚えたら、書いてみましょう。きっと喜ばれますよ』
以前ロンにそう言われ、気紛れに練習していただけなのに……よりによって本人に見つかってしまうなんて。しかし、頬を染める俺をは裏腹に、グレアの表情は幸せに満ちていた。
「こんなに愛情の籠った文字を見たのは初めてだ。ありがとう、ジーク」
「……」
グレアが嬉しそうに笑うので、俺はもう何も言えなくなる。人から褒められるのに慣れてないせいか……身体が熱くて仕方がない。
「弱ったな。オレはもう、お前を手放せそうにない」
宝石のように美しい瞳が、真剣な表情で俺を見ていた。
初めて会った時の、恐ろしい印象とは違う。グレアと一緒に過ごし、過去を知って、目的を知って――俺の心は、間違いなく男に惹かれてしまっていた。
(あいつは話術に長けている。平気で嘘もつくだろうし、今だって俺を騙しているかもしれない。でも、それでも……)
「愛してる、オレのジーク。何があっても幸せにすると誓おう。だからどうか、これからも傍にいてほしい」
俺はもう――この男から離れられないかもしれない。
紅と琥珀が混ざり合う。触れ合う指先が、互いの熱を交差させる。二人だけの空間は、酷く穏やかで温かかった。
この俺『ジーク』はペンを片手に、物凄い形相で窓の外を見ていた。
グレアもロンも忙しいようで、今日は殆ど顔を見ていない。ロン曰はく「今日は王宮で大事な会議がある」と聞いていてが、まさかこんなに騒がしいなんて。
悲鳴のような笑い声。
外の廊下を物凄いスピードで走り抜けていく『誰か』の足音。
それから――変な銃声。
一体どれだけ複雑な会議をしているのだろう。
時間があり過ぎて文字の勉強にも慣れてきてしまった。俺は大きな溜息を吐くと、退屈のあまりベッドにダイブした。このままふて寝でもしてしまおうか。
するとその時――ドアの方から、扉の開く音が聞こえた。
(もしかして……)
俺はすぐに身体を起こすと、扉に向かって駆け出していく。すると案の定、飛び出してきた俺を『紅の瞳』が待ち構えていた。
「グレア!」
「ジーク、良い子にしていたか?」
男は笑顔で俺に近づくと、優しく身体を抱きしめてくれた。久しぶりに会ったからだろうか――いつも控えめにするスキンシップも、今回ばかりは抑えられない。
「もう大事な会議は終わったのか?」
「ああ、丁度全て『片付いた』ところだ。これで漸くお前と居られる」
紅の瞳が、嬉しそうに俺を見つめる。
グレアは俺の頬に手を伸ばすと、そこへ優しくキスを落とした。突然の出来事に動揺し、頬を染めると――グレアは更に追い打ちをかけるよう「会いたかった」と耳元で囁いた。
「オレが居ない間、寂しかっただろう?」
「別に、文字の勉強してれば一瞬だったし」
「手紙もすべて、大切に保管しているそうだな」
「な、なんでそれを――」
「ロンから聞いた」
顔が熱い、恥ずかしい。うまく言葉が出て来ない。
俺はグレアから視線を外すと、動揺を抑えるべく冷静さを取り戻そうとしていた。長い間会えなかったせいか、突如あふれ出した嬉しさと動揺が、高速で身体中を駆け巡っている。
「オレはとても寂しかった。ジークが居ないと、生きてる心地がしない」
「大袈裟だぞ……ばかグレア」
「本当だ。オレは、ジークが居ないとダメな身体になってしまった」
「……はあっ?!」
よくそんな恥ずかしセリフが言えるな。
身体が、心が、沸騰するように熱い。グレアの悪戯に堪え切れなくなった俺は、両手で顔を隠して黙る。
しかし俺は……大事なことを忘れていた。
グレアが『紙』を持ち上げる音が聞こえた。それと共に聞こえた嬉しそうな男の笑声に――俺は「まさか」と顔を上げる。
「ジーク、文字の練習とは『オレの名前』のことだったのか」
グレアが持っていたのは、俺がさっきまで書いていた『名前』練習の紙だった。
「ち、違うっ……それは違う!」
「オレの名前をこんなにたくさん練習していたとは。この紙は額縁に飾ろう、永久保存しておく」
「やめろ! そんなことしたら怒るからな、ばかグレア!」
俺の怒声を聞いても尚、男は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
『グレア様の本名は「グレア・ヴィクター」というのですよ。字を覚えたら、書いてみましょう。きっと喜ばれますよ』
以前ロンにそう言われ、気紛れに練習していただけなのに……よりによって本人に見つかってしまうなんて。しかし、頬を染める俺をは裏腹に、グレアの表情は幸せに満ちていた。
「こんなに愛情の籠った文字を見たのは初めてだ。ありがとう、ジーク」
「……」
グレアが嬉しそうに笑うので、俺はもう何も言えなくなる。人から褒められるのに慣れてないせいか……身体が熱くて仕方がない。
「弱ったな。オレはもう、お前を手放せそうにない」
宝石のように美しい瞳が、真剣な表情で俺を見ていた。
初めて会った時の、恐ろしい印象とは違う。グレアと一緒に過ごし、過去を知って、目的を知って――俺の心は、間違いなく男に惹かれてしまっていた。
(あいつは話術に長けている。平気で嘘もつくだろうし、今だって俺を騙しているかもしれない。でも、それでも……)
「愛してる、オレのジーク。何があっても幸せにすると誓おう。だからどうか、これからも傍にいてほしい」
俺はもう――この男から離れられないかもしれない。
紅と琥珀が混ざり合う。触れ合う指先が、互いの熱を交差させる。二人だけの空間は、酷く穏やかで温かかった。
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