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結菜ちゃんも??
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「玲ちゃん、ボクシング同好会はどう? 毎日行ってるの?」
今日はよく晴れているので、中庭のベンチで結菜ちゃんとお昼ご飯を食べていた。
「うん。わたしは相変わらずステップとジャブの練習しかやってないけど、なんとか続けているよ。ただ、他の人がスパーリングするときとかグローブを付けるのを手伝ってあげたり、ホワイトボードにラウンド数を書いたりするのが大変なんだけど。まあ、大変って言ってもたいしたことないし。とにかく、ユウ先輩がほんとに凄いよ。未だにユウ先輩のスパーリング見ると鳥肌立つくらい」
「ステップ? ジャブ? なーに? それ?」
結菜ちゃんは箸を止めて小首をかしげる。
結菜ちゃんは自分でお弁当を作ってくる。それが見るからに美味しそうなお弁当なのだ。毎回見る度に、感心してしまう。わたしなんて、コンビニで買ったおにぎりなのに。
「ああ、あのね。ステップってボクシング特有の足捌きというか、足の運びというか。ジャブはパンチの種類のことなの」
「ふーん。私も一度見てみたいな。玲ちゃんがやっているところ」
「うん。来て来て。わたしなんてまだ全然ボクシングの練習はしてないけど、ユウ先輩がとにかくすごい格好いいから」
「実は、今日バイト無いんだ。見に行っていい?」
「うん! もちろん」
「やったー!」
結菜ちゃんが嬉しそうに笑う。まだ知り合ってからそんなに時間は経っていないけれど、ほんと、結菜ちゃんは素直で可愛い子だ。おまけに頭も良いんだよね。バイトも何とかっていう有名な進学塾の講師をしている。
今ではLINEで取り留めの無いことをいつまでも話している。わたしにとってはそれが掛け替えのない時間になっていた。
授業が終わると、待ち合わせをして結菜ちゃんとボクシング場に行った。
また女の子が見学に来たというので、修斗先輩は大喜び。
折りたたみ椅子を広げ、すぐにどこかに行って戻ってくると自動販売機で買ったらしいペットボトルのお茶を結菜ちゃんに渡す。
あれ? わたしの時となんか待遇が違うような。
「ねえ、玲ちゃん。ユウ先輩ってあの人のこと?」
結菜ちゃんが小声でわたしに訊く。
「うん。そうだよ」
「ホントだ。背が高くてすっごい格好いい。モデルさんみたいだね。それでボクシングも強いんでしょう?」
「うんうん」
バンテージを巻き終えると、ユウ先輩はいつものストレッチを始める。
「あれ? 玲ちゃん、その手に巻くの、可愛い! 黒猫ちゃんだあ」
わたしは自分の右の拳に巻いたバンテージを、結菜ちゃんに見せた。
「ああ、これ? なんかいつの間にか縫い付けられていたみたい」
「あははは。よくわからないけど!」
「だよねえ。わたしもよくわかんない!」
ふたりできゃっきゃっと笑う。
「……あの、それと修斗さんって言う人はどの人?」
「ああ、さっきお茶をくれた人」
「あ、そうなんだ。私、ちょっとお礼を言っておきたいな」
「うん、わかった。修斗先輩!」
「はい!?」
わたしが呼ぶと、なぜか修斗先輩は直立不動で手を上げる。
「結菜ちゃんがお話があるって言ってます」
「はい!」
修斗先輩がすっ飛んでくる。
結菜ちゃんは恥ずかしそうに、下を向く。
「……あの、私……私も履修登録の手引きを玲ちゃんに見せて貰って、参考にさせていただきました。すごく丁寧に説明が書かれてあって、本当に役に立ちました。ひとこと、お礼が言いたくて……」
結菜ちゃんのほっぺが少しだけ赤くなる。
「え……。まぢですか!? あんなもの、いくらでも書きますです! いつでも言いつけてください!」
ユウ先輩がそんなやり取りをするふたりを見て笑っている。
「なーに、あれ? 修斗の奴、妙に鯱張って」
「ですねえ。あんな修斗先輩、初めて見ますね」
他の先輩たちも笑っている。
いつまでも修斗先輩が号令を掛けないので、痺れを切らしたユウ先輩が大声を上げる。
「おい! 修斗! 練習を始めるぞ!」
「はい!」
なぜかまた直立不動で手を上げた。こっちに歩いてくる修斗先輩の顔は目尻が下がってこれ以上無いほどしまりのない顔だ。
「まったく! デレデレとして」
ユウ先輩は呆れ顔だ。
練習が始まると、わたしは修斗先輩にマンツーマンの指導を受けた。
修斗先輩の前で、練習をしてきたジャブを打ってみろと言われる。
「まだまだ、力が入りすぎ。ジャブは力を入れすぎると、早く打てないよ。ファイティングポーズをしている時から両拳は、軽く握る程度にしておく。それで、力を入れずに素早くジャブを打つ。その際に、拳は当たる瞬間に固く握るイメージ。それと、手の甲の部分を上に向ける」
言われたとおり、左のジャブを出す。
「ジャブを出した後は、そのまんまの軌跡でガードに戻すんだ。打った後に腕が下がっている。打った後も、真っ直ぐに素早く戻して! それと、ステップインとジャブがシンクロするように意識をして」
「はい!」
わたしは何度もジャブを出す。
「ほら! 今度は右の拳のガードが下がっている。右のガードも絶対に下げちゃダメだ。ジャブを打った瞬間に右が下がっていたらそこを狙われるぞ」
「はい!」
同時に色々なことを気をつけなくちゃならないので難しい。ひとつのことに集中してうまくやろうとすると、他のことが疎かになってしまう。
でも、なんだか今日の修斗先輩はやけに指導に熱が入っている。さっきまでの締まりの無い顔から一変してやたらに厳しい顔だ。
というか、その厳しい顔って、作ってる?
「鮎坂。今、ハンカチかフェイスタオルを持っているか?」
「えっと……あると思います」
修斗先輩に言われて、わたしは自分のリュックが置いてある棚に行く。
結菜ちゃんが小さくガッツポーズをして、「がんばれ」と声を掛けてくれる。わたしは大きく頷いて応えた。
修斗先輩の所に戻ると結菜ちゃんの方を見ながら、また修斗先輩の顔がデレッと締まりが無くなっている。
「修斗先輩! タオルを持ってきました!」
わたしはわざと大きな声を出す。
「お? ああ、はい。じゃあ、たたんだままのそのタオルを自分の顎と手で挟んでみて」
途端に厳しい顔に変えた修斗先輩。わたしは言われた通りにする。
「そう。そのままジャブだけのシャドーボクシングを続けてみろ。いいか? 絶対にこのタオルを落とさないように挟んでいろ。そうやって、常に右の拳で顎をガードする癖を付けるんだ」
「はい!」
顎と右の拳でハンドタオルを挟んでジャブを打つ。何度も何度も。
でも、ジャブを打つことに意識を取られると、右の拳が離れてしまってタオルが下に落ちてしまう。バランスを崩さないように気をつけてステップを踏むと、また右の拳が離れる。
単純なようで意外と難しい。
これを全く意識しないで自然と出来るようにならなければ。
「タオルを落とさないようと意識しすぎて身体に力が入っている。ジャブがスムーズに出ていない」
「はい!」
修斗先輩の指導は、3ラウンド続いた。
インターバルに入ると、結菜ちゃんの所に行って、お尻は痛くないかだの、喉は渇かないかだのと、デレッとしまりの無い顔で訊いている。
ユウ先輩がわたしの所へ来て呟く。
「あいつ。またしまりのない顔をしてるな」
わたしも同意して何度も頷く。
その後、修斗先輩はユウ先輩ご指名でスパーリングを3ラウンドやらされ、ボコボコにされた。
でも、スパーが終わると同時に、再び修斗先輩の顔のニヤけが始まった。
「玲ちゃんお疲れさま!」
全ての練習が終わって、結菜ちゃんの所に行く。
「はああ。もうヘロヘロだよ」
「すごい頑張ってたよね。私、玲ちゃんの頑張る姿を見て感動しちゃった」
「えええー? ユウ先輩、凄かったでしょ?」
「うんうん。格好良かった。でも、玲ちゃんが1番格好良かったよ」
「そんなあ。わたしなんか」
「お、玲。ファン1号がいるんか?」
ユウ先輩が横に並んでわたしの頭をぽんと叩きながら、棚から自分のシャンプーセットを取り出している。
結菜ちゃんはそんなわたしたちを交互に見ながら、真剣な表情で大きく息を吸う。
「あの……私! 私も同好会に入りたいです!」
突然、結菜ちゃんから衝撃の言葉が飛び出した。
「ええええええー!?」
その言葉に驚いたわたしたちは、同時に大きな声を上げてしまう。
「なになになになに! どした?」
すかさず修斗先輩が走り寄る。
「結菜ちゃんが! 同好会に入りたいって言ってます!」
「まぢか!?」
「あ、でももちろん、マネージャーですよ。私も何かみなさんのお役に立ちたいと思いました」
結菜ちゃんがマネージャーでボクシング同好会に入る!
なにそれ。めっちゃ嬉しい!
修斗先輩は、感極まったように放心状態だ。
「うっしゃああああ! 再び新入生獲得だ!」
放心状態から我に返ったのか、突然修斗先輩が雄叫びを上げる。その喜びようったら、こっちが恥ずかしくて見てられないくらい。
でも、結菜ちゃんが入ったことによってまたデレデレしてたら、ユウ先輩が成敗してくれるだろう。
帰りはユウ先輩、結菜ちゃんと3人で駅まで歩いた。
結菜ちゃんは毎日アルバイトがあるので、土曜日だけの参加になりそうだった。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
わたしはユウ先輩に以前から思っていた疑問を口にした。
「なーに?」
「その、パンチを出すときに、なぜ、シッ、シッ、て息を吐くんですか?」
「ああ……これね。なんでだろう? 気がついたらやってたな。多分、誰かのマネから始めたんだろうけど。そうだね。この息を吐くことによって、瞬間的に力を込めてパンチを打つことができる、みたいなことを聞いたことがあるけど。それと、この音に合わせてパンチを出すことによって、リズムが付くみたいな? あとは、パンチを出したときに息を吐くことで腹筋を固くしているので、カウンターでボディを食らってもダメージが少ないとか。そんなところかな」
「へー」
わたしもジャブを出しながら、シッ、シッ、と歯の間から息を吐いてみた。
なんか強くなったみたい。
シッ、シッ。
シッ、シッ。
道の真ん中でシャドーボクシングをやってみる。
周りを歩く学生が、びっくりした顔で見る。
ユウ先輩が呆れた顔で言った。
「おいおい。こんなところでやるなよ」
「これってかっこいいです! シッ、シッ! まずは何でも形から入らないと!」
「おい、おい。一緒にいるこっちが恥ずかしいぞ」
「ええー? そうですか? 玲ちゃんカッコいいです!」
「はあ……こいつら」
ユウ先輩は頭を抱えた。
今日はよく晴れているので、中庭のベンチで結菜ちゃんとお昼ご飯を食べていた。
「うん。わたしは相変わらずステップとジャブの練習しかやってないけど、なんとか続けているよ。ただ、他の人がスパーリングするときとかグローブを付けるのを手伝ってあげたり、ホワイトボードにラウンド数を書いたりするのが大変なんだけど。まあ、大変って言ってもたいしたことないし。とにかく、ユウ先輩がほんとに凄いよ。未だにユウ先輩のスパーリング見ると鳥肌立つくらい」
「ステップ? ジャブ? なーに? それ?」
結菜ちゃんは箸を止めて小首をかしげる。
結菜ちゃんは自分でお弁当を作ってくる。それが見るからに美味しそうなお弁当なのだ。毎回見る度に、感心してしまう。わたしなんて、コンビニで買ったおにぎりなのに。
「ああ、あのね。ステップってボクシング特有の足捌きというか、足の運びというか。ジャブはパンチの種類のことなの」
「ふーん。私も一度見てみたいな。玲ちゃんがやっているところ」
「うん。来て来て。わたしなんてまだ全然ボクシングの練習はしてないけど、ユウ先輩がとにかくすごい格好いいから」
「実は、今日バイト無いんだ。見に行っていい?」
「うん! もちろん」
「やったー!」
結菜ちゃんが嬉しそうに笑う。まだ知り合ってからそんなに時間は経っていないけれど、ほんと、結菜ちゃんは素直で可愛い子だ。おまけに頭も良いんだよね。バイトも何とかっていう有名な進学塾の講師をしている。
今ではLINEで取り留めの無いことをいつまでも話している。わたしにとってはそれが掛け替えのない時間になっていた。
授業が終わると、待ち合わせをして結菜ちゃんとボクシング場に行った。
また女の子が見学に来たというので、修斗先輩は大喜び。
折りたたみ椅子を広げ、すぐにどこかに行って戻ってくると自動販売機で買ったらしいペットボトルのお茶を結菜ちゃんに渡す。
あれ? わたしの時となんか待遇が違うような。
「ねえ、玲ちゃん。ユウ先輩ってあの人のこと?」
結菜ちゃんが小声でわたしに訊く。
「うん。そうだよ」
「ホントだ。背が高くてすっごい格好いい。モデルさんみたいだね。それでボクシングも強いんでしょう?」
「うんうん」
バンテージを巻き終えると、ユウ先輩はいつものストレッチを始める。
「あれ? 玲ちゃん、その手に巻くの、可愛い! 黒猫ちゃんだあ」
わたしは自分の右の拳に巻いたバンテージを、結菜ちゃんに見せた。
「ああ、これ? なんかいつの間にか縫い付けられていたみたい」
「あははは。よくわからないけど!」
「だよねえ。わたしもよくわかんない!」
ふたりできゃっきゃっと笑う。
「……あの、それと修斗さんって言う人はどの人?」
「ああ、さっきお茶をくれた人」
「あ、そうなんだ。私、ちょっとお礼を言っておきたいな」
「うん、わかった。修斗先輩!」
「はい!?」
わたしが呼ぶと、なぜか修斗先輩は直立不動で手を上げる。
「結菜ちゃんがお話があるって言ってます」
「はい!」
修斗先輩がすっ飛んでくる。
結菜ちゃんは恥ずかしそうに、下を向く。
「……あの、私……私も履修登録の手引きを玲ちゃんに見せて貰って、参考にさせていただきました。すごく丁寧に説明が書かれてあって、本当に役に立ちました。ひとこと、お礼が言いたくて……」
結菜ちゃんのほっぺが少しだけ赤くなる。
「え……。まぢですか!? あんなもの、いくらでも書きますです! いつでも言いつけてください!」
ユウ先輩がそんなやり取りをするふたりを見て笑っている。
「なーに、あれ? 修斗の奴、妙に鯱張って」
「ですねえ。あんな修斗先輩、初めて見ますね」
他の先輩たちも笑っている。
いつまでも修斗先輩が号令を掛けないので、痺れを切らしたユウ先輩が大声を上げる。
「おい! 修斗! 練習を始めるぞ!」
「はい!」
なぜかまた直立不動で手を上げた。こっちに歩いてくる修斗先輩の顔は目尻が下がってこれ以上無いほどしまりのない顔だ。
「まったく! デレデレとして」
ユウ先輩は呆れ顔だ。
練習が始まると、わたしは修斗先輩にマンツーマンの指導を受けた。
修斗先輩の前で、練習をしてきたジャブを打ってみろと言われる。
「まだまだ、力が入りすぎ。ジャブは力を入れすぎると、早く打てないよ。ファイティングポーズをしている時から両拳は、軽く握る程度にしておく。それで、力を入れずに素早くジャブを打つ。その際に、拳は当たる瞬間に固く握るイメージ。それと、手の甲の部分を上に向ける」
言われたとおり、左のジャブを出す。
「ジャブを出した後は、そのまんまの軌跡でガードに戻すんだ。打った後に腕が下がっている。打った後も、真っ直ぐに素早く戻して! それと、ステップインとジャブがシンクロするように意識をして」
「はい!」
わたしは何度もジャブを出す。
「ほら! 今度は右の拳のガードが下がっている。右のガードも絶対に下げちゃダメだ。ジャブを打った瞬間に右が下がっていたらそこを狙われるぞ」
「はい!」
同時に色々なことを気をつけなくちゃならないので難しい。ひとつのことに集中してうまくやろうとすると、他のことが疎かになってしまう。
でも、なんだか今日の修斗先輩はやけに指導に熱が入っている。さっきまでの締まりの無い顔から一変してやたらに厳しい顔だ。
というか、その厳しい顔って、作ってる?
「鮎坂。今、ハンカチかフェイスタオルを持っているか?」
「えっと……あると思います」
修斗先輩に言われて、わたしは自分のリュックが置いてある棚に行く。
結菜ちゃんが小さくガッツポーズをして、「がんばれ」と声を掛けてくれる。わたしは大きく頷いて応えた。
修斗先輩の所に戻ると結菜ちゃんの方を見ながら、また修斗先輩の顔がデレッと締まりが無くなっている。
「修斗先輩! タオルを持ってきました!」
わたしはわざと大きな声を出す。
「お? ああ、はい。じゃあ、たたんだままのそのタオルを自分の顎と手で挟んでみて」
途端に厳しい顔に変えた修斗先輩。わたしは言われた通りにする。
「そう。そのままジャブだけのシャドーボクシングを続けてみろ。いいか? 絶対にこのタオルを落とさないように挟んでいろ。そうやって、常に右の拳で顎をガードする癖を付けるんだ」
「はい!」
顎と右の拳でハンドタオルを挟んでジャブを打つ。何度も何度も。
でも、ジャブを打つことに意識を取られると、右の拳が離れてしまってタオルが下に落ちてしまう。バランスを崩さないように気をつけてステップを踏むと、また右の拳が離れる。
単純なようで意外と難しい。
これを全く意識しないで自然と出来るようにならなければ。
「タオルを落とさないようと意識しすぎて身体に力が入っている。ジャブがスムーズに出ていない」
「はい!」
修斗先輩の指導は、3ラウンド続いた。
インターバルに入ると、結菜ちゃんの所に行って、お尻は痛くないかだの、喉は渇かないかだのと、デレッとしまりの無い顔で訊いている。
ユウ先輩がわたしの所へ来て呟く。
「あいつ。またしまりのない顔をしてるな」
わたしも同意して何度も頷く。
その後、修斗先輩はユウ先輩ご指名でスパーリングを3ラウンドやらされ、ボコボコにされた。
でも、スパーが終わると同時に、再び修斗先輩の顔のニヤけが始まった。
「玲ちゃんお疲れさま!」
全ての練習が終わって、結菜ちゃんの所に行く。
「はああ。もうヘロヘロだよ」
「すごい頑張ってたよね。私、玲ちゃんの頑張る姿を見て感動しちゃった」
「えええー? ユウ先輩、凄かったでしょ?」
「うんうん。格好良かった。でも、玲ちゃんが1番格好良かったよ」
「そんなあ。わたしなんか」
「お、玲。ファン1号がいるんか?」
ユウ先輩が横に並んでわたしの頭をぽんと叩きながら、棚から自分のシャンプーセットを取り出している。
結菜ちゃんはそんなわたしたちを交互に見ながら、真剣な表情で大きく息を吸う。
「あの……私! 私も同好会に入りたいです!」
突然、結菜ちゃんから衝撃の言葉が飛び出した。
「ええええええー!?」
その言葉に驚いたわたしたちは、同時に大きな声を上げてしまう。
「なになになになに! どした?」
すかさず修斗先輩が走り寄る。
「結菜ちゃんが! 同好会に入りたいって言ってます!」
「まぢか!?」
「あ、でももちろん、マネージャーですよ。私も何かみなさんのお役に立ちたいと思いました」
結菜ちゃんがマネージャーでボクシング同好会に入る!
なにそれ。めっちゃ嬉しい!
修斗先輩は、感極まったように放心状態だ。
「うっしゃああああ! 再び新入生獲得だ!」
放心状態から我に返ったのか、突然修斗先輩が雄叫びを上げる。その喜びようったら、こっちが恥ずかしくて見てられないくらい。
でも、結菜ちゃんが入ったことによってまたデレデレしてたら、ユウ先輩が成敗してくれるだろう。
帰りはユウ先輩、結菜ちゃんと3人で駅まで歩いた。
結菜ちゃんは毎日アルバイトがあるので、土曜日だけの参加になりそうだった。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
わたしはユウ先輩に以前から思っていた疑問を口にした。
「なーに?」
「その、パンチを出すときに、なぜ、シッ、シッ、て息を吐くんですか?」
「ああ……これね。なんでだろう? 気がついたらやってたな。多分、誰かのマネから始めたんだろうけど。そうだね。この息を吐くことによって、瞬間的に力を込めてパンチを打つことができる、みたいなことを聞いたことがあるけど。それと、この音に合わせてパンチを出すことによって、リズムが付くみたいな? あとは、パンチを出したときに息を吐くことで腹筋を固くしているので、カウンターでボディを食らってもダメージが少ないとか。そんなところかな」
「へー」
わたしもジャブを出しながら、シッ、シッ、と歯の間から息を吐いてみた。
なんか強くなったみたい。
シッ、シッ。
シッ、シッ。
道の真ん中でシャドーボクシングをやってみる。
周りを歩く学生が、びっくりした顔で見る。
ユウ先輩が呆れた顔で言った。
「おいおい。こんなところでやるなよ」
「これってかっこいいです! シッ、シッ! まずは何でも形から入らないと!」
「おい、おい。一緒にいるこっちが恥ずかしいぞ」
「ええー? そうですか? 玲ちゃんカッコいいです!」
「はあ……こいつら」
ユウ先輩は頭を抱えた。
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