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猫の額にあるものを鼠が窺う
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数日後。政務室。
文生は文机に座って黙々と手を動かし、いつもと同じように木簡の上に流麗な文字を認めていた。すると部屋に官吏が飛び込んでくる。
「王! 王の仰る通りでございました!」
本来ならば不作法な言動。されど文生はそれを咎めない。勢いよく立ち上がると、彼を近くに呼び寄せる。
「それは真か」
「はい! 王の仰る通り、あの水道には毒が含まれていることが分かりました! 試しにその水道の水を鼠や猫に与えた続けたところ、いずれも変死した者たちと同じ症状が現れました! こちらが調書になります!」
そう言って彼は文生に数枚の木簡を差し出す。
「やはりそうか……」
木簡を受け取った文生は顎に手を当て、しばしの間考え込む。そしてふと、官吏の存在を忘れていたことに気付き、口を開く。
「此度の働き、大儀であった」
パッと顔を明るくした官吏は、拱手し頭を下げる。
「恐悦至極でございます」
「其方は他の官吏にも伝え、急ぎ対応するように触れ回れ。ああ、市民にもその水道を使わないように知らせろ」
「承知致しました」
言うや否やその官吏は、嬉々として政務室を去っていくのであった。
官吏が去った後も文生はそのまま木簡を睨みつけ、調査結果を精査していた。が、不意に一つの可能性が頭に浮かんだ。
「この水道の上流は……剛か?」
「はい。その通りでございます」
「‼」
突如背後から声が聞こえ、文生は懐に忍ばせてあった短剣を手に取り振り向く。しかし声の主を見てすぐに得物を仕舞う。
「浩源か。その歳になっても足音一つ立てないのは感心するが……。我の後ろを取るのは感心せんな」
と、文生が言うと、浩源は目尻の皺を深くし、頭を垂れる。
「申し訳ございません。何分、急ぎ御知らせせねばと思ったものですから」
「ふむ。それだけの価値がある情報であろうな?」
「もちろんでございます」
そう言って浩源は顔を上げると、険しい眼差しで語り始める。
「王の御推察通り、今回の毒物混入事件と三年前の鉄鉱石流出事件。その両方共、美琳さ……美琳と剛によるもので間違いなさそうです」
「何か掴んだのか?」
「はい。私が剛の宮殿に潜入し調査したところ、美琳とよく似た特徴の少女の噂が宮殿で飛び交っていました。また半年前に鳳王が死んだのは剛から送り込まれた化け物女のせい、という話も聞こえてきました」
「確かに、まさか彼の王が暗殺された上に鳳が剛の属国になると思わなかったからな。あやつの力が理由なら頷ける。だがそれがあやつが黒幕である証拠にはならぬであろう」
「ええ。ですので一連の事件の証拠も調べてきました」
その言葉に文生は身を乗り出す。浩源は力強く首肯し、続ける。
「調べていたら永祥殿と美琳の議事録が見つかりました。そこで此度の件について話し合われていたことが判明しました」
「もちろん転写してきたんだろうな?」
「はい。それがこちらに」
浩源は懐から一枚の木簡を取り出すと、文生に差し出す。文生はそれを読んで深く頷く。
「時期的に見ても確実だな。後はどう償わせるかだが……」
ふっと文生が険しい顔になり、考え込む。
「忍び込んで証拠を得たことが知れればこちらの立場が不利だ。かと言ってこのまま毒を垂れ流しにされては被害が増えるばかり。だがずっとそこを使うのを止めさせる訳にもいかぬな……」
「ではどうなさるおつもりで?」
「うむ……」
数瞬、文生は考え込み、そして小さく呟く。
「民を、動かしてみるか」
文生は文机に座って黙々と手を動かし、いつもと同じように木簡の上に流麗な文字を認めていた。すると部屋に官吏が飛び込んでくる。
「王! 王の仰る通りでございました!」
本来ならば不作法な言動。されど文生はそれを咎めない。勢いよく立ち上がると、彼を近くに呼び寄せる。
「それは真か」
「はい! 王の仰る通り、あの水道には毒が含まれていることが分かりました! 試しにその水道の水を鼠や猫に与えた続けたところ、いずれも変死した者たちと同じ症状が現れました! こちらが調書になります!」
そう言って彼は文生に数枚の木簡を差し出す。
「やはりそうか……」
木簡を受け取った文生は顎に手を当て、しばしの間考え込む。そしてふと、官吏の存在を忘れていたことに気付き、口を開く。
「此度の働き、大儀であった」
パッと顔を明るくした官吏は、拱手し頭を下げる。
「恐悦至極でございます」
「其方は他の官吏にも伝え、急ぎ対応するように触れ回れ。ああ、市民にもその水道を使わないように知らせろ」
「承知致しました」
言うや否やその官吏は、嬉々として政務室を去っていくのであった。
官吏が去った後も文生はそのまま木簡を睨みつけ、調査結果を精査していた。が、不意に一つの可能性が頭に浮かんだ。
「この水道の上流は……剛か?」
「はい。その通りでございます」
「‼」
突如背後から声が聞こえ、文生は懐に忍ばせてあった短剣を手に取り振り向く。しかし声の主を見てすぐに得物を仕舞う。
「浩源か。その歳になっても足音一つ立てないのは感心するが……。我の後ろを取るのは感心せんな」
と、文生が言うと、浩源は目尻の皺を深くし、頭を垂れる。
「申し訳ございません。何分、急ぎ御知らせせねばと思ったものですから」
「ふむ。それだけの価値がある情報であろうな?」
「もちろんでございます」
そう言って浩源は顔を上げると、険しい眼差しで語り始める。
「王の御推察通り、今回の毒物混入事件と三年前の鉄鉱石流出事件。その両方共、美琳さ……美琳と剛によるもので間違いなさそうです」
「何か掴んだのか?」
「はい。私が剛の宮殿に潜入し調査したところ、美琳とよく似た特徴の少女の噂が宮殿で飛び交っていました。また半年前に鳳王が死んだのは剛から送り込まれた化け物女のせい、という話も聞こえてきました」
「確かに、まさか彼の王が暗殺された上に鳳が剛の属国になると思わなかったからな。あやつの力が理由なら頷ける。だがそれがあやつが黒幕である証拠にはならぬであろう」
「ええ。ですので一連の事件の証拠も調べてきました」
その言葉に文生は身を乗り出す。浩源は力強く首肯し、続ける。
「調べていたら永祥殿と美琳の議事録が見つかりました。そこで此度の件について話し合われていたことが判明しました」
「もちろん転写してきたんだろうな?」
「はい。それがこちらに」
浩源は懐から一枚の木簡を取り出すと、文生に差し出す。文生はそれを読んで深く頷く。
「時期的に見ても確実だな。後はどう償わせるかだが……」
ふっと文生が険しい顔になり、考え込む。
「忍び込んで証拠を得たことが知れればこちらの立場が不利だ。かと言ってこのまま毒を垂れ流しにされては被害が増えるばかり。だがずっとそこを使うのを止めさせる訳にもいかぬな……」
「ではどうなさるおつもりで?」
「うむ……」
数瞬、文生は考え込み、そして小さく呟く。
「民を、動かしてみるか」
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