永遠の伴侶

白藤桜空

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猫の額にあるものを鼠が窺う

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 日が暮れ始めた都城とじょうの空に、太鼓の音が鳴り響く。それを合図に人々は仕事を切り上げ出す。
 庶人は田畑から都城へ戻り、商人も店仕舞いをし、工房の窯からは火が消える。
 都城の門には大勢の人が集まり、押し合いし合いで自宅へと帰っていく。
 その人混みの中、品物を片付けていた中年女性が、店の前を通り過ぎようとしていた白髪混じりの男を呼び止める。
「あんた聞いたかい? あの話」
 話しかけられた男は肩に掛けていたくわを下ろすと、杖を突くようにして彼女の話に耳を傾ける。
「ああ、南の地区の流行り病のことか? 災難だよなぁ」
「そうそう。それなんだけどさ、実は流行り病じゃないらしいんだよ」
「どういうことだ?」
「なんでもガンがあそこら辺の水道に毒を流してる、ってことらしいよ」
「ンな馬鹿な。どうせ作り話だろう」
「見廻り兵が話してたんだよ? 信憑性しんぴょうせいは高いでしょうが」
 そう言って彼女は誇らしげに鼻を膨らませ、その様子に男は呆れる。
「なんだってお前さんが得意げなんだ。お前さんが調べた訳でもあるまいし」
「それくらい気にするんじゃないよ。みみっちい男だねぇ」
「みみッ……」
 男は女性の言葉に一瞬固まった。が、すぐに咳払いをして話題を変える。
「そういや東の畑で起きた大火事。どうやら放火だったらしいぞ」
「ええ⁈ そんな罰当たりなことする奴はどこのどいつだい?」
「いやさ、それがどうも余所者よそもんらしいんだわ。火付けして走り去っていく姿を見た奴が出てきたらしくてよ、そいつらの服がここらじゃ見かけないもんだったらしいんだわ。つッても、見かけた奴も慌てて火消しに加わったせいで、はっきりとは見られなかったらしいが」
「え、もしかして……」
 女性は目を丸くする。
「それも剛の奴らかい?」
「は? はは! ンなまさか」
「でもこんな同時に重なるだなんて……」
 と、二人が話していると、突如怒号が門の外から飛んでくる。
「怪我人が出た! 道を開けろ!」
「!」
 二人は咄嗟とっさに道の脇に避ける。するとそのそばを、怪我人を背負った兵たちが慌ただしく駆けていく。
 彼らの去っていった方向を見ながら女性が零す。
「一体何が……?」
 すると後ろからふくよかな女性がやってきて二人に話しかける。
「なんか町の外で行商の馬車が襲われたらしいよ」
「なんだって?」
「それは本当か?」
 ふくよかな女性の言葉に二人は驚きを隠せない。
「私もびっくりしたんだけど……。その場にいた奴が言うには、犯人は剛の奴らだったみたいで……」
 彼女の言葉に二人は顔を見合わせる。それに気付かずにふくよかな女性は言葉を続ける。
「幸い怪我は軽かったみたいだけど、怖かっただろうねぇ。それにその犯人、捕まえ損ねたらしいんだよ。物騒だねぇ」
 一人何度も頷く女性。が、ふと話を聞いているはずの二人の様子がおかしいことに気付く。
「おや、あんたたち揃ってどうしたんだい?」
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