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刀折れ矢尽きる
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剛と決別した美琳はその後、どこへ行くともなく彷徨っていた。
――どうすれば修を倒せるのか。どうすれば文生と共に過ごせるのか。どうして自分たちは共に過ごせないのか。
美琳はひたすらに思考の海に沈んでいた。
ただ愛しているだけなのに。ただ貴方と一緒にいたいだけなのに。何故こうも上手くいかないの?
陽が昇り、月が昇り、また陽が昇っても答えは出ない。
幾日も、幾日も、考えて、考えて、着物がボロボロになっても歩き続ける。するとふと、見覚えのある景色が目の前に広がっていた。
「ここ、は……」
気付けば美琳は森の中にいた。
人の手の入っていない鬱蒼とした木々。底まで見える程澄み切った泉。そして泉の傍には、苔生した祠。
ここがどこなのか悟った瞬間、美琳はよろめき、つまずきながら祠に歩み寄る。と、
「やあ。久し振りだね」
「‼」
突然後ろから聞こえてきた声。美琳はすかさず振り返る。するとそこには、人の形をした光が立っていた。
「あ、あなたは……」
美琳は何かを言おうとした。が、声が震えてしまって言葉を続けられない。その様子に光は肩を竦める。
「おや。忘れてしまったのかい?」
「ッ!」
光が悲し気に点滅するので、美琳は慌てて首を横に振る。
「いいえ、いいえ、忘れてなんていないわ!」
美琳は光の頬に手を伸ばす。
「あなたのことを忘れる訳ないじゃない! だってあなたは私のッ……!」
そこで美琳は言葉に詰まる。
文生と出会う前。森には動物と、自分と、そして光だけがいた。
誰の邪魔もなく、ただ穏やかに過ごす日々。自由気ままに過ごし、森中を駆け回った。光とは言葉が無くとも通じ合い、何時だって一緒にいた。
でもそれは、何故?
私とあなたは、何?
「どうしたんだい? 美琳」
ハッと美琳は意識を取り戻す。そして光に心配をかけまいと笑顔を浮かべようとしたら、つと、涙が零れた。
美琳は頬を伝う冷たい感触に驚き、光の頬から手を離して自分の目元を拭う。
「あ、あれ? なんでだろ。ごめんね、すぐ止めるから」
しかし拭っても拭っても涙は溢れ続け、美琳は戸惑いを隠せない。
すると光が美琳を抱き寄せる。
「大丈夫。大丈夫だよ。■は君の味方だよ」
美琳は瞳を揺らしながら光を抱き返す。すると光の体は温かった。その温かさに包まれた美琳はもう、堪えることなど出来る訳も無かった。
「うッ……うわあぁぁぁ」
美琳は顔をぐしゃぐしゃにして泣く。
光は子供のように号泣する彼女の背中を優しく叩いてやり、彼女が落ち着くのを静かに待った。
――――十分程経った頃だろうか。
美琳はすべてを流し切ったように、晴れやかな顔をする。
それを見た光は満足気に頷き、柔らかい声で問う。
「それで? 君はなんで……いや、何を求めてやって来たの?」
その言葉に美琳は目を見張る。そして恐る恐る呟く。
「……私は」
ごくり、と美琳は唾を呑み込む。
「私は、〝文生〟が欲しい。文生以外は何もいらないの。ただあの人とずっと一緒に過ごしていたいだけなの。……だから壊して。私から文生を――文生の心を奪ったすべてのものをめちゃくちゃにして!」
美琳はまっすぐに光を見つめ、その視線を受けた光は、にこり、と微笑んだ。のっぺらぼうなはずの、その顔で。
「分かった。君の望む通りにしよう」
――どうすれば修を倒せるのか。どうすれば文生と共に過ごせるのか。どうして自分たちは共に過ごせないのか。
美琳はひたすらに思考の海に沈んでいた。
ただ愛しているだけなのに。ただ貴方と一緒にいたいだけなのに。何故こうも上手くいかないの?
陽が昇り、月が昇り、また陽が昇っても答えは出ない。
幾日も、幾日も、考えて、考えて、着物がボロボロになっても歩き続ける。するとふと、見覚えのある景色が目の前に広がっていた。
「ここ、は……」
気付けば美琳は森の中にいた。
人の手の入っていない鬱蒼とした木々。底まで見える程澄み切った泉。そして泉の傍には、苔生した祠。
ここがどこなのか悟った瞬間、美琳はよろめき、つまずきながら祠に歩み寄る。と、
「やあ。久し振りだね」
「‼」
突然後ろから聞こえてきた声。美琳はすかさず振り返る。するとそこには、人の形をした光が立っていた。
「あ、あなたは……」
美琳は何かを言おうとした。が、声が震えてしまって言葉を続けられない。その様子に光は肩を竦める。
「おや。忘れてしまったのかい?」
「ッ!」
光が悲し気に点滅するので、美琳は慌てて首を横に振る。
「いいえ、いいえ、忘れてなんていないわ!」
美琳は光の頬に手を伸ばす。
「あなたのことを忘れる訳ないじゃない! だってあなたは私のッ……!」
そこで美琳は言葉に詰まる。
文生と出会う前。森には動物と、自分と、そして光だけがいた。
誰の邪魔もなく、ただ穏やかに過ごす日々。自由気ままに過ごし、森中を駆け回った。光とは言葉が無くとも通じ合い、何時だって一緒にいた。
でもそれは、何故?
私とあなたは、何?
「どうしたんだい? 美琳」
ハッと美琳は意識を取り戻す。そして光に心配をかけまいと笑顔を浮かべようとしたら、つと、涙が零れた。
美琳は頬を伝う冷たい感触に驚き、光の頬から手を離して自分の目元を拭う。
「あ、あれ? なんでだろ。ごめんね、すぐ止めるから」
しかし拭っても拭っても涙は溢れ続け、美琳は戸惑いを隠せない。
すると光が美琳を抱き寄せる。
「大丈夫。大丈夫だよ。■は君の味方だよ」
美琳は瞳を揺らしながら光を抱き返す。すると光の体は温かった。その温かさに包まれた美琳はもう、堪えることなど出来る訳も無かった。
「うッ……うわあぁぁぁ」
美琳は顔をぐしゃぐしゃにして泣く。
光は子供のように号泣する彼女の背中を優しく叩いてやり、彼女が落ち着くのを静かに待った。
――――十分程経った頃だろうか。
美琳はすべてを流し切ったように、晴れやかな顔をする。
それを見た光は満足気に頷き、柔らかい声で問う。
「それで? 君はなんで……いや、何を求めてやって来たの?」
その言葉に美琳は目を見張る。そして恐る恐る呟く。
「……私は」
ごくり、と美琳は唾を呑み込む。
「私は、〝文生〟が欲しい。文生以外は何もいらないの。ただあの人とずっと一緒に過ごしていたいだけなの。……だから壊して。私から文生を――文生の心を奪ったすべてのものをめちゃくちゃにして!」
美琳はまっすぐに光を見つめ、その視線を受けた光は、にこり、と微笑んだ。のっぺらぼうなはずの、その顔で。
「分かった。君の望む通りにしよう」
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