永遠の伴侶(改定前)

白藤桜空

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後宮に咲く華たち

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　夜。
　美琳メイリンは淑蘭シュンランと別れてすぐに自室に戻った。普段通り、身支度を整えて待つために。
　部屋の外から侍女の声が聞こえることはないのに――――

　薄明りの下。
　青い花が花弁を広げ、身を震わせて待っている。
　薄化粧の顔、キツく臭う香こう、纏まとわりつく声。
　常とは違う体温が、僕を寝床に誘い込む。
　本当は振り解きたい。けれどそれは出来ない。
　僕が王僕である以上、もう逃げられないのだから。

　いつもと同じ手順。
　寝巻きを脱がせ、軽く肩を抱きながら口づけしようと顔を寄せる。すると目の前で彼女が目を閉じる。期待に満ちたその面持ちに、手酷い裏切りをまざまざと見せつけられた気がした。
　僕はその唇に触れずに頭を下げ、たわわに実っている乳房ちぶさを手で包む。すると肉の波に沈み、初めて味わう重みを感じた。
　気づいた彼女が瞼まぶたを開けて、気恥ずかしそうに小さく吐息を漏らし頬を染める。
　胸を柔やわく揉んでいくと、少しずつ彼女の声が出始める。それを見ている内に自身の陰茎にも熱が集まり始めた。
　彼女もそれを察したのだろう。
　恐る恐ると……けれど大胆に触れてくる。
　緊張しているせいか、柔らかい手が震えている。火照った体にはそれすら刺激になり、ますます怒張が膨らむ。
　脂汗が滴って彼女の白い肌に落ちた。
　陰部を丁寧に解し、準備が整ったと思われる頃合いにぐっと肉棒を押し当てる。
　すると彼女の眉がわずかに顰ひそめられる。僕は咄嗟とっさに腰を引いた。が、彼女が潤んだ瞳で僕を引き留める。
　その目に捕らわれた僕は、もう止まれなかった。

　段々と速度を上げて打ちつける。彼女も初めてなりにそれが分かったのだろう。
　懸命に動きを合わせようと体をくねらせ、僕の首に抱きついてくる。
　その拍子に体が前傾し、芯も深く突き刺してしまう。次の瞬間、快感が弾け飛ぶ。白濁が迸ほとばしり、彼女の秘部を駆け巡った。
　――――荒く肩で息をし、彼女の谷間に倒れこむ。
　ゆっくりと呼吸を整えていると、じわじわと嫌悪感が滲む。

「……王の種子をこの身に頂けるなんて、光栄の至りでございます」
　猫が甘えるような声に文生ウェンシェンの意識が揺り戻される。
　がば、と上体を起こすと、急いで彼女から離れる。
「た、大儀であった」
　と言って、そそくさと寝間着を拾って羽織る。
「え……もう行かれるのですか？」
　彼女の縋すがる手に体が強張る。文生はぎこちなく顔を向けると、絞り出すように話す。
「たしか其方そちは……「淑蘭シュンランでございます」
　毅然と名乗る淑蘭。されど彼女の顔には抑えきれない悲痛な叫びが窺うかがえた。
　刹那、強烈な罪悪感に襲われる。

　文生は彼女の名をつい先刻まで忘れていた。いや、覚えようとしていなかった。
　淑蘭は世間一般には美女の部類に入る。程よい背丈に豊満な体格。丸く可愛らしい瞳は見る者を魅了する。
　豊かな教養に清廉な立ち振る舞いは、貴女きじょの鏡と言われている。
　身分も卿けいであり、丞相じょうしょうの仁顺レンシュンの孫娘なのだ。后きさきとして申し分ない。
　王宮の中でも男女問わず憧れの的である彼女の名を知らぬ者はほとんどいないだろう。
　――――だからこそ、体を繋げたくなかった。

　僕の苦々しい気持ちを察したのだろう。
　彼女は一度顔を伏せる。そして面おもてを上げると、柔和な微笑みを浮かべる。
「私わたくし、沐浴をして参ります。王も御体を冷やされぬようになさってくださいませ。御風邪を召されてはなりませんもの、御早く御眠りくださいまし」
　そう言うや否や、彼女は床とこから出ようとした。が、よろめき体勢を崩してしまう。
　僕は慌てて彼女の体を支え、間一髪のところで転げ落ちるのを防ぐ。
　床にへたり込んでしまった彼女を、僕は手を添えながら立たせてやろうとした。
　そこでふと気づく。
　どうやら体が震えているせいで、僕に体重を預けていないと立っていられないようだ。淑蘭は頬だけでなく耳まで真っ赤に染めて言う。
「あ、ありがとうございます。このような失態、お恥ずかしい限りでございます」
　淑蘭は松明の明かりに晒された胸元を素早く隠した。
　彼女の手から零れ出そうな乳房ちぶさを見て僕の顔も火照る。
「……気にするな。其方そち……淑蘭も、体を労いたわるが良い」
　軽く羽織っていた寝間着を掛けてやると、部屋付きの侍女を呼んで彼女の世話を頼む。
　そして淑蘭に背中を向けて立ち去る。今度こそ振り返らずに。

「……本当に行ってしまわれたのね」
　淑蘭シュンランは一枚だけ残された黄色の衣ころもをぎゅっと握る。
　そこからかすかに文生ウェンシェンの香りが立ち昇る。
　傍にいた侍女が彼女の肩にそっと手を添えた。
「そう、分かっていたの、分かっていたわ」
　一筋、雫が零れる。
「でももう貴女だけとは思わないでいただきたいわ」
　数か月振りに一人の夜を味わっているはずの彼女に向けて、淑蘭は吐き捨てるように言う。
「何度契りを結んでも御子が出来ない后きさきより、一度でも体を重ねて御子を孕んだ方が正室になれるんですよ？身分が高ければ尚のこと有利なのです。それが後宮というものでしてよ」
　淑蘭は勝ち誇ったように言ってのける。だが彼女の涙が止まることはない。
「たとえ、御心がなくても、正室になれるの…………」
　彼女は彼の着物を掻かき抱くと、声を押し殺して泣き続けた。

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