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3 取り残されたんじゃない。

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「雪ちゃん。私、帰ることになったの」 
 
 この世界にきてから、私が聖女になってからどれくらい経ったのか、わからない。 
 聖女の生活は忙しすぎて、あと、リキのことを考えたくなくて、清さんとも会わなくなっていた。 
 久々に会った清さんは最初の印象と全く違って、しっかりしていた。毎日泣いていた頃とは全然違った。 
 
「雪ちゃんは、これでいいの?」 
「これでって?聖女のこと?いいよ。今、私は本当に幸せ。だって、みんなの聖女様になれたんだよ。やっと物語の主人公になれた」 
「雪ちゃん」 
「清さんにはわからない。私はずっと脇役だった。目立たなくて、どうでもいい存在で。だけど、今は違う!」 
「雪ちゃん」 
 
 私はなぜかそう叫んでいて、清さんは悲しそうに笑った。 
 なんで、そんな風に私を見るの? 
  
 結局面談はそれだけで、彼女が日本に戻る日がやってきた。 
 
「今日帰るね。えっと、ご両親に何か伝えたほうがいい?」 
 
 最後の面談、彼女はそう聞いてきた。 
 
「ううん。何も伝えなくていい。だって、言っても信じないから」 
  
 別の世界で元気にしてるなんて伝えても、あの普通の両親が信じるわけがない。 
 きっと、私がいなくて、負担がへったくらいしか思っていないし。 
 
「そう。それじゃあ」 
 
 清さんはそれだけいって、あっけなく帰ってしまった。 
  
 そして取り残される私。 
 ううん。取り残されたわけじゃない。 
 私は聖女として選ばれ、ここに残ったの。 
 置いて行かれたわけじゃない。 
 日本に帰って何があるの? 
 また普通の生活に戻るだけ。 
 それの何がいいの? 
 
 
「聖女様」 
「リキ」 
 
 
 どれくらい久しぶりか、わからない。 
 私はリキに会った。 
 筋肉だるまのリキ、目つきの悪い。 
 
「聖女様?」 
 
 私はほろほろと泣き出してしまった。 
 胸が痛くて、涙がとまらない。 
 
「どうしたのですか?聖女様」 
 
 リキは驚いた顔をしていて、申し訳なくなったけど、私も自分自身がわからない。ケイに守られるようにして、聖女の間に戻された。 
 
「聖女様、あのリキが何かしましたか?」 
  
 ケイが心配そうに聞いてきた。 
 これは私が心配というより、リキのことが心配そうだった。 
 リキとケイは友達なのかな。 
 
「何も。目にゴミでも入ったかもしれない。それだけ」 
 
 リキを見たら胸が痛くて、涙が出てくるなんて言えない。 
 言ったら処罰されるかもしれない。 
 そんなのリキに申し訳ない。 
 単に胸が痛いだけなんだから。 
 
 リキに会いたい。でもまた泣いてしまうのがいや。 
 なので、私は彼がいそうな場所を避けて過ごした。 
 いそうな場所なんて、私が、いや、清さんが住んでいた付近とかだけど。 
 
「聖女様。リキが面談を申し出てますが」 
「断って」 
「聖女様。会っていただけませんか?彼は隣国に出かけます。聖女の祈りで彼を護ってやってください。これは彼の友人としてのお願いです」 
 
 リキが隣国? 
 なんで? 
 
「わかったわ」 
 
 隣国の噂は、とても嫌な話しか聞いたことがない。 
 聖女って、相談役というが愚痴聞き役なんで、いろいろな話を聞かされる。 
 隣国はとても好戦的な国で、開戦の機会を待っているとか。そんな国にいったら命の危険があるんじゃないの? 
 リキって普通の騎士だよね。 
 なんでそんなところに行かなきゃなんないの? 
 
「ケイ。リキと二人きりにしてもらえる?」 
「聖女様」 
「大丈夫。何もあるわけないでしょ。リキってあなたの友達なんでしょ。大丈夫だから」 
「今回だけですよ」 
 
 ケイにしては本当に珍しく、茶目っ気たっぷりにそう言って、リキとの二人きりの面談を許してもらった。 
 
 
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